夜が長いこの世界で

柿沼 ぜんざい

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-第24夜- 白銀の殺戮者

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 結局、教会は今回の依頼を受けた。それもその筈だ。依頼をしてきた女性は国選議員の秘書。しかもその議員は人狼根絶派の筆頭に立つ存在らしい。断る理由が無い訳だ。

 それに聖導教会は表向きは宗教的な一面がある私営慈善組織としている為、国からの経済的支援等、一切の援助を受けていない。

 だから恐らく、教会の狙いは今回の議員暗殺を防ぎ、かつ予告状を出した人狼共の完全殲滅。それによって得られる多大なる報酬みかえりってとこだろう。

 議員を無事に守り切れたら、そりゃメルエム王国政府としても有り難い話だ。教会への見る目も少しは変わり、資金援助も検討されるだろう。仮に経済的支援等が見直されなかったとしても、教会が政治家を人狼の脅威から守ったという事実は変わらない。この事実はこの国の教会だけでは無く、全世界へ散在する聖職者プリースト達の評価や地位向上へ繋がり、教会としてもこれは悪くない話であるということだ。

「んで、なんで俺まで一緒なんだ?赤ずきん」

「知るか。私が知りたいくらいだ。議員の護衛くらい私一人でも十分だというのに……」

「まぁまぁ、そう言わないでください先輩」

 私達の後ろをひょっこりと着いてくる彼女がなだめてくる。無論、今回もレーネには荷物持ちになって貰っている。

「しかしあれだな。場所が比較的近くて良かったな。王都内の御屋敷だもんな」

「場所が近いに越したことはないが分からない事がある。何故、議員はパーティーを中止しない。他にも政界の人や各界の要人らが集まるのだろう?他の者達への危険を顧みずにパーティーを開く事に何の意味がある?」
 
「それは確かに俺も思ったな。まぁ恐らくはアルヴァロア議員なりの一つの意思表示だろ」

「意思表示?」

 私は聞き返す。

「あぁ。人狼からの殺害予告にも屈しないという“根絶派リーダー”としてのな。今回の議員護衛任務に当たり、彼の事を調べられる範囲で色々と調べてみたんだ。個人的にな。すると彼はなかなかの負けず嫌いで、非常にプライドの高い自信家ということが分かった」

 彼があまりにも当たり前のことを平然と言うので「政治家なんて皆、そんなものでしょ」と言ってしまった。これに対しイアンは「かもな」とだけ返した。

 そうこう話しているうちに目の前に議員の立派な邸宅が姿を表した。

「おいおいマジかよ……王都にこんな豪邸があったなんて……聞いてないぞ?」

「あそこの口から水を出している白い獅子ライオンさんみたいのなんですかね~?私、小便小僧の白い石像しか見たことないですよ!!!」

 レーネが屋敷前の大広場にある噴水を指しながらはしゃいでいる。

 こいつ、実家は国内有数の大富豪で両親らは共に同じ職場で働く財閥の社長と副社長と聞いたが……。
 そんな、こいつでもやはり議員の邸宅はとても立派だと思うようだ。

「お前の家にはこのタイプの噴水は無いのか?」

 横で無邪気な子供みたいにはしゃぐ彼女に尋ねると「あ、はいっ!うちは小便小僧か裸体の貴婦人の石像なので」と答えた。私はただ「そうか」とだけ一言を彼女に送る。

 そろそろ敷地内に上がらせてもらおうと正門へと3人で向かうとそこには大勢の見張りが居た。殆どの者は警務局の警務員だったが、中には議員専属の護衛部隊などが入外管理を徹底的に施しているようだ。

「凄い見張りですね」

「当然だ。わざわざご丁寧に向こうから殺害予告を出しているんだ。見張りもちゃんとしっかり徹底するさ。この様子じゃ、屋敷内なかの方も凄いんだろうな……」

 そう2人が話していると、こちらの存在に気付いたのか門の向こうから若い男性の護衛?とおぼしき2人組がやってきてこちらに声を掛けてきた。

「これはこれは聖導教会の面々ではありませんか。我が最大支援者の邸宅へ何の御用で?」

「貴方達がいなくても僕らがちゃーんと議員とそのお友達のお命御守りしちゃうから平気だもんね~んだ、ふーんだ!!あっかんべーだ!!!」

 一人は喋り方にいちいち虫唾が走る美男の男。もう一人は如何にも精神年齢が低そうな喋り方をするショタ系の男子だった。うん、ショタだから。

「やはりそうか」

 悟りを開いたかの様な物言いでイアンが言った。

「何がだよ」

 美男風の男がそう言葉を返す。対するイアンは「やはりお前らがいたかって意味だよ。まぁ、そうだよな、最大の支援者であるアルヴァロア議員の命が狙われたんだ。当然、あんたらもアルヴァロ邸ここにいるよなぁ。王都政府公認、人狼殲滅機関“白銀シルバー”……」とどこか挑戦的な物言いだ。

 
 会話の途中だが、ここで念の為に、私が彼らについて簡単に紹介をしておこうと思う。

 人狼殲滅機関“白銀”……教会の次に活動規模が大きい、対 人狼の専門組織プロフェッショナルだ。

 その名を聞けば奴らでも事を構えることを躊躇するぐらいの対 人狼に特化した組織だ。風の噂では『白銀の殺戮者』とか言われているとか言われてないとか……。

「おいおい何故、お前達が驚く。驚いたのは“白銀こちら”の方だ。まさかアルヴァロア議員支援者聖導教会お前らにも依頼をしていたなんて……まぁ、あの人ならやりそうって言えばやりそうな感じはするがな……にしても何故、聖導教会なんだ?多重契約をするなら他にももっとあったろうに……」

 (全く、こっちが黙って聞いていれば酷い言われようだな)
 
「確かに先輩の言う通りですね~!一応、にも護衛依頼をしたそうなんですけど、門前払いって感じだったみたいで」

「まぁ、そうだろうな。あのが他人の警護なんてしてくれる訳が無い。『この世界の闇夜が長いのは忌まわしき人狼共のせい』なんて説を本気で信じている連中だもんな」

 我々をそっちのけで話している2人に痺れを切らしたのかイアンが口を挟んだ。

「大変盛り上がってる所、申し訳ないがそろそろそこを通してもらえないか?我々も任務があるのでね」

「あぁ、悪かった。あまりにも影が薄かったもので貴様らの存在を忘れていたよ。なぁキュクロ」

「ですね先輩」

 低次元の嫌味を無視して私達はそこを潜り抜けようとした。するとキュクロという後輩に「先輩」と呼ばれていた男が左腕を横に突き出し「待て」と言ってきた。

「……まだ何か?」

 私が彼に尋ねると「所持品検査がまだだ」とだけ言った。


 無事、所持品検査を終えた私達は門を通らせてもらった。

「他の聖職者やつらもあんな感じに所持品をチェックされたんだろうか?」

 特に誰かに訊いた訳でも無い私の言葉にイアンが反応をしてくれた。

「さぁな。でも、あいつら普通の※ カラスじゃなかったぞ?あの制服、本部直属の精鋭部隊。の機動隊員のものだ」

 ※ 白銀シルバーに所属している者達は皆、長めの黒いコートにパンツ、革靴orブーツを履いていることから、通称“黎鳥カラス”と呼ばれている。
 その由来は黒に身を包んだ彼らの異様な集団をたまたま目撃した洗濯物を干していた貴婦人が彼らの群れを指さして、そう呼んだことからと言われている。

「やはり、第一か……彼らも議員だけはなんとしても護ろうとしているという訳か……」

「みたいですね、」

 私の言葉にレーネが続いた。

 目の前まで行くと、サイドの使用人がその大きな扉を開けてくれた。

 開かれた扉の先には、色鮮やかで、かつ、とても煌びやかな景色が飛び込んできた。その輝きの向こうから議員本人が直々に出迎えてくれたのだ。

「ようこそ教会の皆様、お待ちしておりましたよ」

 彼はそう言うなり、私達の顔を見て、不敵な笑みを浮かべた。
 



 


 
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