力の欠片のペンダント

河原由虎

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第26話 サヨナラの時

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『課題のクリアおめでとう、第三王子シオン。我が弟よ』

 天からの声が愛しそうにそう告げると、シオンは立ち上がり、声の降ってくる空を見上げました。華奈もシオンに続いて、そのとなりに立ちます。

「課題クリア? でも期限はまだ……!」

 シオンは驚いた顔をして光の先を見つめました。

 シオンが手に持つ新しいペンダントは光り輝き、そこにたくさんの力が集まっていることがわかります。

 まだ少し先のはずだった、シオンとの別れ。それが今なのだと理解した華奈は、嬉しいことだけどショックの方が大きく、着ているシャツの裾を握りしめます。

『シオン、貴方はその少女のおかげで、期限をまたずしてこの課題で得るべきこと、学ぶべきことを全てクリアできたのです』
「私のおかげ……?」
 
 力を勝手に使ってしまい、迷惑しかかけていないと思っていた華奈は、まぶしい光の方に細めた目を向けて、声の主へと問いかけました。

『そうです。この課題は、自分以外の者を想う心を学び、また想われることによって、我らの力へと変換されることを学ぶためのもの。そして、その仕組みを魂に刻み込むためにあります』

 そんなのは聞いていないぞ、とぼやくシオンをよそに、声は続けます。

『シオンはあなたのおかげで、無事それを行うことができたのです。姉として、こちらの世界の者として、お礼を申し上げます。
 本当に……ありがとうございます……』
「こ……こちらこそ!」

 声の主の姿は見えないけれど、お辞儀をされているような気がして、華奈は思わず頭を下げました。

『さぁ、シオン。貴方の力はそのペンダントからもあふれるくらいに増え続けているから……早く扉を開いて帰ってらっしゃい……』

 華奈が再び空を見上げると、光輝く扉が中空に現れました。シオンも一緒にそれを見上げています。

 覚悟はしていたけれど、華奈の心はキュゥっと苦しくなってきました。

「華奈……コレをお前に────」

 そう言ってシオンが華奈に差し出したのは、最初に華奈が拾ったシオンのペンダント。

「え……いいの……?」

 ヒビの入ってしまったそのペンダントには、微かに残る虹色の欠片が見え隠れしていました。もうシオンとつながっていないとはいえ、大事な物なのではと心配する華奈は言いました。するとシオンは寂しそうだけれど、優しい笑顔で答えます。

「俺には新しいのが送られてきたから……大丈夫」

 そう言って新しいペンダントを胸に下げて見せました。華奈はためらうようにヒビの入ったペンダントを受け取り、それを見つめて言います。

「……元の世界に戻るのね……」
「……あぁ……」

 ほんの少しずつだけど、良いことをして戻ってきていた力、シオンと共に過ごした時間……。
 たった数日のことだったけれど、楽しかった記憶が華奈の中に沢山あります。

「戻っても……頑張ってね!」

 さみしいし、悲しいけれど、シオンが目指すものに近づくことができる。それを喜ぼう。
 華奈は目に涙をためながら、シオンを見つめました。

「……あぁ……」

 華奈と同じくらいの身長になったシオンは、再び華奈をふわりと抱きしめます。

「約束してた俺の本当の姿、見せてやるから。覚えておいてくれよな」

 そう言って離れると、シオンの姿が光りはじめ、あまりの眩しさに華奈は目をつぶりました。
 光がおさまり目を開くと、華奈の前には長く美しい角と白銀に輝く翼を持つ生き物がいました。力の欠片のペンダントを下げて。
 そのたてがみは美しい金色で、目は燃えるように赤いルビー宝石のようで……

「……有翼のユニコーン……?」

 本の中の世界でしか見たことのない、美しい姿がそこにありました。

「キレイ……これが本当の姿なのね、シオン…………」

 思わず手をのばすと、シオンはうれしそうにすり寄り、首を垂れてきます。華奈はそのたてがみを、優しく愛しそうになでました。

 そうしているうちにも首飾りの光は増し、呼応するように扉も強い光を放ち始め……
 シオンはピクリと耳を動かすと、名残惜しそうに首をあげ、華奈の目を見つめてから両翼をゆっくりと広げました。

『じゃあ……な……!』

 そう華奈に語りかけると、シオンは勢いよく羽ばたき飛び立ちます。すると扉が開き、中から青みを帯びた一筋の光が差してきました。

 シオンは華奈の方をしばらくじっと見てから扉の方へ首をやり、光の中へと消えていきました。

 しばらくすると、光りの扉も空から差してきていた光も、全てがすぅっと消えて、周りの時がゆっくりと動き始めました。

 空気が動き、ざわめきがもどっても、華奈は扉のあった空の方を見上げていました。シオンにわたされたペンダントを握りしめたまま────

「……元気で……シオン…………」

 悲鳴が聞こえて、ようやく視線を下ろした華奈が辺りを見ると、

「お……お嬢ちゃん……⁉︎ 大丈夫かい……?」

 トラックの運転手がやってきて、心配そうに言いました。

「はい……何とか間に合いました!」

 華奈が笑顔で答えると、運転手は「……そうか……よかった」と胸を撫で下ろしました。

 悲鳴をあげて駆け寄ってきた男の子の母親に、ベンチで寝ていることを教え、華奈は急いでその場を離れました。

 助けようと道路に飛び出したことは事実だけど、何か説明を求められてもちゃんと答えれないと思ったから。

 そして、シオンがいたという事実を否定するようなことを言いたくはなかったから――

 後から聞いたうわさによると、悲鳴を聞き近くにいた人達が集まってきたり、トラックの後ろに来た車がクラクションを鳴らしたりして、その時はかなりの騒ぎとなったようでした。

 しかし、トラックがブレーキをふんだタイヤ痕が残るのみで、怪我人もいなく、壊れた物もないことから、その出来事はすぐに忘れられていきました。まるで、全員が同時に見た、白昼夢だったかのように言われながら……
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