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02. してやったり
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谷の入り口には、警備の術師が常にいる。
たとえ天変地異のせいだとしても、ここで人間が死ねば……。
それから先、里の者たちがどういう扱いを受けることになるのか、容易に想像ができる。
外で生まれた俺が今まで生きてこれたのは、この里の者たちのおかげだ……。たとえ術師の管理の元であろうとも――。
だから……自分がどうなろうとも、そのような事態だけは避けなければ――!
屋敷の敷地から出た瞬間、崖上の森から鳥たちが一斉に飛び立っていった。
「鳥たちが――!」
栄明が立ち止まり、空を仰ぎ見てつぶやいた。
「大地が動くと叫んでいる――。
相変わらずすごいな、黒炎の先見の力は――」
「――栄明の方がすごいだろう。鳥と会話が出来ることも、先代から引き継いだ鬼たちの力の封印のことも」
俺は心の底からの言葉を伝える。
鬼が力を持つ理由は、種族所以のものだ。だが栄明は違う。
素質があるからとはいえ、人間がそこまでの術を使えるようになるには相当の修行が必要だったはずだ――。
「――それが私の、生まれ持っての使命だからな」
そう言って、不適な顔をチラリと俺に見せてくる。
まただ……この自分に酔っているかのような表情――。
言っては何だが、栄明のこういう所には、吐き気にも似たモノを常々感じていた。
これさえなければもっと――と思いながら進む先を見た時、地面が波打つかのように揺れはじめる。
「く――なんて揺れだ!」
「立っていることすらできない――――!」
俺たちは二人してその場に座り込んだ。
詰め所はひとまず無事なようだが、里の家屋は無事だろうか――⁉︎
今いる場所からでは確認ができない……長たちを信じよう。
そう思い、自分の視た光景を回避するため、詰め所の上方にある崖を仰ぎ見た。すると――
岩壁には大きなヒビが入り、詰め所の向こうにある山が崩れてきている様子が目に入る。
「――栄明、中の者たちを早く避難させ――」
そこまで言った時、全身が凍るような感覚に襲われて、考えるよりも先に体が動いた。
「ぐっ――」
俺は栄明を押し飛ばし、飛んできた落石を頭に受けた。
「黒炎!」
地面に倒れ伏した俺に駆け寄ろうとする栄明。
「――俺のことはいい! 知っているだろう、人よりは丈夫にできているって――」
伏してハッキリと大地の力を感じた。
まだくる――
「皆を連れて里の中央へ……長たちと共に避難するんだ!」
栄明は、少し迷うような素振りを見せるが、すぐさま動いた。
そう、それでいい――。
ここで“お前も一緒に避難すれば良い”などと言われたら、アルコトを口で説明しなくてはならなくなる――
「う……」
俺は何とか体を起こしてその場に立ち上がった。そしてヒビの入った岩壁を見据えて両手をかざす。
パラパラと小石が降ってきていて、割れ目も先程より広がっている……俺の力でどれだけ保つか――
栄明たちが逃げ切るまででいい……!
岩壁よ、その場に留まれ――‼︎
舞い来る雪が、俺に触れる前に解けて蒸気と化する。
「顕現しろ、俺の力よ――」
己の体から迸る力の波。
人と鬼との間の子が背負う“力”という業――
俺の力は黒い炎となって、崩れ落ちてくる岩壁を支えた。
俺たちをこの里に閉じ込め、管理する人間たちに恨みがないと言えば嘘になる。
だが外で生まれた俺はこの里が無ければ――ここに来なければ、とうに死んでいたかもしれない。
自分の中に在るのは“今”という現実。
仲間を守りたいという気持ち。
「俺が視たのはこの先の光景だ――」
顔だけを動かし、ずっと後方にある反対側の岩壁を確認する。
するとそちらにも大きなヒビが入っていくのが確認できた。
「大丈夫か黒炎!」
栄明が詰め所にいた人間たちを連れてやってきた。
「お前――⁉︎」
瞬時に、俺へと施した封印が解けていないことを確認した栄明は、それ以上は何も言わずに驚愕の顔で俺を見た。
他の者はそのことに気づかず、口々に「さすが栄明様」「鬼の力を解放させて岩崩れを防がせたのですね」などというようなことを言っている。
「――早く行け!」
栄明の表情を見て“してやったり”と、ちょっと思いながら俺は告げた。
「安全な場所は、長たちの向かったあそこしかない!」
「……お前は――」
「後ろの岩壁が崩れるのと同時に落とさないと皆助からん! なぁに……運が良ければ助かるだろう――」
俺が視たのは、四方から同時に割れ落ちてくる岩壁。そして、それらがぶつかり合い運良く潰れずに残った社。
その光景を現実にするんだ――!
「――行け、栄明!」
時間にしたらほんの数秒だったろう。栄明はじっと俺を見つめた後、声を絞り出すようにして言った。
「感謝する……黒炎――。
皆、いくぞ!」
栄明たちが走り去ると再び地面が揺れ、唸るような地響きが近づいてくる。
「さぁて、俺に運はあるのか無いのか――」
どっちだ?
後方の崖が崩れるのを確認した俺は、支えていた力を解き――迫り来る土砂に巻き込まれた。
たとえ天変地異のせいだとしても、ここで人間が死ねば……。
それから先、里の者たちがどういう扱いを受けることになるのか、容易に想像ができる。
外で生まれた俺が今まで生きてこれたのは、この里の者たちのおかげだ……。たとえ術師の管理の元であろうとも――。
だから……自分がどうなろうとも、そのような事態だけは避けなければ――!
屋敷の敷地から出た瞬間、崖上の森から鳥たちが一斉に飛び立っていった。
「鳥たちが――!」
栄明が立ち止まり、空を仰ぎ見てつぶやいた。
「大地が動くと叫んでいる――。
相変わらずすごいな、黒炎の先見の力は――」
「――栄明の方がすごいだろう。鳥と会話が出来ることも、先代から引き継いだ鬼たちの力の封印のことも」
俺は心の底からの言葉を伝える。
鬼が力を持つ理由は、種族所以のものだ。だが栄明は違う。
素質があるからとはいえ、人間がそこまでの術を使えるようになるには相当の修行が必要だったはずだ――。
「――それが私の、生まれ持っての使命だからな」
そう言って、不適な顔をチラリと俺に見せてくる。
まただ……この自分に酔っているかのような表情――。
言っては何だが、栄明のこういう所には、吐き気にも似たモノを常々感じていた。
これさえなければもっと――と思いながら進む先を見た時、地面が波打つかのように揺れはじめる。
「く――なんて揺れだ!」
「立っていることすらできない――――!」
俺たちは二人してその場に座り込んだ。
詰め所はひとまず無事なようだが、里の家屋は無事だろうか――⁉︎
今いる場所からでは確認ができない……長たちを信じよう。
そう思い、自分の視た光景を回避するため、詰め所の上方にある崖を仰ぎ見た。すると――
岩壁には大きなヒビが入り、詰め所の向こうにある山が崩れてきている様子が目に入る。
「――栄明、中の者たちを早く避難させ――」
そこまで言った時、全身が凍るような感覚に襲われて、考えるよりも先に体が動いた。
「ぐっ――」
俺は栄明を押し飛ばし、飛んできた落石を頭に受けた。
「黒炎!」
地面に倒れ伏した俺に駆け寄ろうとする栄明。
「――俺のことはいい! 知っているだろう、人よりは丈夫にできているって――」
伏してハッキリと大地の力を感じた。
まだくる――
「皆を連れて里の中央へ……長たちと共に避難するんだ!」
栄明は、少し迷うような素振りを見せるが、すぐさま動いた。
そう、それでいい――。
ここで“お前も一緒に避難すれば良い”などと言われたら、アルコトを口で説明しなくてはならなくなる――
「う……」
俺は何とか体を起こしてその場に立ち上がった。そしてヒビの入った岩壁を見据えて両手をかざす。
パラパラと小石が降ってきていて、割れ目も先程より広がっている……俺の力でどれだけ保つか――
栄明たちが逃げ切るまででいい……!
岩壁よ、その場に留まれ――‼︎
舞い来る雪が、俺に触れる前に解けて蒸気と化する。
「顕現しろ、俺の力よ――」
己の体から迸る力の波。
人と鬼との間の子が背負う“力”という業――
俺の力は黒い炎となって、崩れ落ちてくる岩壁を支えた。
俺たちをこの里に閉じ込め、管理する人間たちに恨みがないと言えば嘘になる。
だが外で生まれた俺はこの里が無ければ――ここに来なければ、とうに死んでいたかもしれない。
自分の中に在るのは“今”という現実。
仲間を守りたいという気持ち。
「俺が視たのはこの先の光景だ――」
顔だけを動かし、ずっと後方にある反対側の岩壁を確認する。
するとそちらにも大きなヒビが入っていくのが確認できた。
「大丈夫か黒炎!」
栄明が詰め所にいた人間たちを連れてやってきた。
「お前――⁉︎」
瞬時に、俺へと施した封印が解けていないことを確認した栄明は、それ以上は何も言わずに驚愕の顔で俺を見た。
他の者はそのことに気づかず、口々に「さすが栄明様」「鬼の力を解放させて岩崩れを防がせたのですね」などというようなことを言っている。
「――早く行け!」
栄明の表情を見て“してやったり”と、ちょっと思いながら俺は告げた。
「安全な場所は、長たちの向かったあそこしかない!」
「……お前は――」
「後ろの岩壁が崩れるのと同時に落とさないと皆助からん! なぁに……運が良ければ助かるだろう――」
俺が視たのは、四方から同時に割れ落ちてくる岩壁。そして、それらがぶつかり合い運良く潰れずに残った社。
その光景を現実にするんだ――!
「――行け、栄明!」
時間にしたらほんの数秒だったろう。栄明はじっと俺を見つめた後、声を絞り出すようにして言った。
「感謝する……黒炎――。
皆、いくぞ!」
栄明たちが走り去ると再び地面が揺れ、唸るような地響きが近づいてくる。
「さぁて、俺に運はあるのか無いのか――」
どっちだ?
後方の崖が崩れるのを確認した俺は、支えていた力を解き――迫り来る土砂に巻き込まれた。
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