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03. 雪の舞う日に
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「次の長はお前だ。黒炎」
里の長に、そう突然言われたのは昨年。二十になったばかりの雪の舞う日だった。
「何言ってんだよ爺さん。白髪こそ増えてきたけど、まだ寿命はきてないだろう?」
薪を斧で割っている最中、突然やってきた長。その戯言へ、俺は手を止めずに答えた。
「寿命はなぁ、確かにそうなんじゃが。わしももう歳だし。
昔ほどの力が出せるわけではないからなぁ」
「ちょっ――!」
俺は長の言葉にあわてて、斧を持ったまま辺りを見回した。
「術師の気配はない。安心せぇ」
薪割り用の切り株の一つに、片足を立ててどかっと腰掛け、右手で頬杖をつきながら長は言った。
だいたい……じじ臭い口調で喋ってるけど、その挙動には衰えなんて見えもしないじゃないか――。
この寒い中、袴も履かずにいるものだから、代々長へと受け継がれてきた黒豹のパンツが否応なしに目に入る。
そこから伸びる足も、肩までたくしあげられている袖の下から覗いている腕の筋肉も、細身ではあるけれど、最盛期とどう違うのかと聞きたいくらいだ。
「だからって……なんで俺なんだよ――。
俺よりも長に相応しい奴はいるだろう。
皆を一番上手く纏めれるのは律鬼だし、交渉事は燕鬼の方が上手い」
自分より十は歳上の兄貴分や、それに続く友の名をあげ、俺は長に問うた。
「一番の理由を挙げるなら、お前が一番広くを視ているから、だよ」
「……そりゃそうだろう……。俺は三の歳までこの里の外で育ったんだから――」
僅かだけど、記憶にある外の世界。良いことも悪いこともあったけれど、それを知ると知らないとでは、感覚の違いは大きいだろう――。
ここに連れてこられるまで、俺は自分のことを何も知らなかった。黒鬼であるということも、それが人と鬼の間に生まれた者を指すということも――。
俺以外の者は皆……長も、この里の生まれだ。
それぞれ思うところはあるようだが、力の暴走で周りの者を殺さぬよう、様々な物を破壊しないよう、この里の外に出ない事を受け入れ、生きてきている。
「そうかもしれないな……」
長はどこか、意味ありげな苦笑を浮かべて続けた。
「ついでに術師の弟子とも仲が良い」
「――そう見えているなら……俺の試みは成功してるってことだ――」
「くっくっく……そうか――」
何が面白いのか。長は本当に楽しそうに、笑いながら言った。
「死にそうなガキに散々、ここで生きるための豆知識だとか言って色々講釈垂れてくれた“奴”がいたからな」
そう。そして術師とは仲良くしておけ、とも――
「俺は……それに従ってみてるだけだ――」
言って、俺は再び薪割りを続けた。
「……なるほどな……だが――」
長は何かを言いかけたのに「いや……この話はまた今度だな」と言って、その先の話はついぞしなかった。
あの時、長は何を言いかけていたのだろう――
そう考えた時、頭の痛みに気づいて意識がハッキリとしてきた。
寒い……。ここは……?
思い出したぞ、俺は……崩れてきた岩の下敷きになった……のか――――?
恐る恐る目を開くと、どうやら土や砂はそこまでじゃなさそうだ……。
ただ視界は暗く、自分がどういう状況にあるのかもわからない。
とりあえず怪我した箇所くらい把握しておこうと、身体に力を入れてみると――
ガラガラと、何かが音を立てて崩れ落ちていった。
どういうことだ、痛みを感じるのは頭にだけ――?
里の長に、そう突然言われたのは昨年。二十になったばかりの雪の舞う日だった。
「何言ってんだよ爺さん。白髪こそ増えてきたけど、まだ寿命はきてないだろう?」
薪を斧で割っている最中、突然やってきた長。その戯言へ、俺は手を止めずに答えた。
「寿命はなぁ、確かにそうなんじゃが。わしももう歳だし。
昔ほどの力が出せるわけではないからなぁ」
「ちょっ――!」
俺は長の言葉にあわてて、斧を持ったまま辺りを見回した。
「術師の気配はない。安心せぇ」
薪割り用の切り株の一つに、片足を立ててどかっと腰掛け、右手で頬杖をつきながら長は言った。
だいたい……じじ臭い口調で喋ってるけど、その挙動には衰えなんて見えもしないじゃないか――。
この寒い中、袴も履かずにいるものだから、代々長へと受け継がれてきた黒豹のパンツが否応なしに目に入る。
そこから伸びる足も、肩までたくしあげられている袖の下から覗いている腕の筋肉も、細身ではあるけれど、最盛期とどう違うのかと聞きたいくらいだ。
「だからって……なんで俺なんだよ――。
俺よりも長に相応しい奴はいるだろう。
皆を一番上手く纏めれるのは律鬼だし、交渉事は燕鬼の方が上手い」
自分より十は歳上の兄貴分や、それに続く友の名をあげ、俺は長に問うた。
「一番の理由を挙げるなら、お前が一番広くを視ているから、だよ」
「……そりゃそうだろう……。俺は三の歳までこの里の外で育ったんだから――」
僅かだけど、記憶にある外の世界。良いことも悪いこともあったけれど、それを知ると知らないとでは、感覚の違いは大きいだろう――。
ここに連れてこられるまで、俺は自分のことを何も知らなかった。黒鬼であるということも、それが人と鬼の間に生まれた者を指すということも――。
俺以外の者は皆……長も、この里の生まれだ。
それぞれ思うところはあるようだが、力の暴走で周りの者を殺さぬよう、様々な物を破壊しないよう、この里の外に出ない事を受け入れ、生きてきている。
「そうかもしれないな……」
長はどこか、意味ありげな苦笑を浮かべて続けた。
「ついでに術師の弟子とも仲が良い」
「――そう見えているなら……俺の試みは成功してるってことだ――」
「くっくっく……そうか――」
何が面白いのか。長は本当に楽しそうに、笑いながら言った。
「死にそうなガキに散々、ここで生きるための豆知識だとか言って色々講釈垂れてくれた“奴”がいたからな」
そう。そして術師とは仲良くしておけ、とも――
「俺は……それに従ってみてるだけだ――」
言って、俺は再び薪割りを続けた。
「……なるほどな……だが――」
長は何かを言いかけたのに「いや……この話はまた今度だな」と言って、その先の話はついぞしなかった。
あの時、長は何を言いかけていたのだろう――
そう考えた時、頭の痛みに気づいて意識がハッキリとしてきた。
寒い……。ここは……?
思い出したぞ、俺は……崩れてきた岩の下敷きになった……のか――――?
恐る恐る目を開くと、どうやら土や砂はそこまでじゃなさそうだ……。
ただ視界は暗く、自分がどういう状況にあるのかもわからない。
とりあえず怪我した箇所くらい把握しておこうと、身体に力を入れてみると――
ガラガラと、何かが音を立てて崩れ落ちていった。
どういうことだ、痛みを感じるのは頭にだけ――?
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2021/05/29 公開
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