【鬼シリーズ:第五弾】黒鬼のパンツ

河原由虎

文字の大きさ
3 / 7

03. 雪の舞う日に

しおりを挟む
「次の長はお前だ。黒炎」

 里の長に、そう突然言われたのは昨年。二十になったばかりの雪の舞う日だった。

「何言ってんだよ爺さん。白髪こそ増えてきたけど、まだ寿命はきてないだろう?」

 薪を斧で割っている最中、突然やってきた長。その戯言へ、俺は手を止めずに答えた。

「寿命はなぁ、確かにそうなんじゃが。わしももう歳だし。
 昔ほどの力が出せるわけではないからなぁ」

「ちょっ――!」

 俺は長の言葉にあわてて、斧を持ったまま辺りを見回した。

「術師の気配はない。安心せぇ」

 薪割り用の切り株の一つに、片足を立ててどかっと腰掛け、右手で頬杖をつきながら長は言った。

 だいたい……じじ臭い口調で喋ってるけど、その挙動には衰えなんて見えもしないじゃないか――。

 この寒い中、袴も履かずにいるものだから、代々長へと受け継がれてきた黒豹のパンツが否応なしに目に入る。
 そこから伸びる足も、肩までたくしあげられている袖の下から覗いている腕の筋肉も、細身ではあるけれど、最盛期とどう違うのかと聞きたいくらいだ。

「だからって……なんで俺なんだよ――。
 俺よりも長に相応しい奴はいるだろう。
 皆を一番上手く纏めれるのは律鬼りつきだし、交渉事は燕鬼の方が上手い」

 自分より十は歳上の兄貴分や、それに続く友の名をあげ、俺は長に問うた。

「一番の理由を挙げるなら、お前が一番広くを視ているから、だよ」
「……そりゃそうだろう……。俺は三の歳までこの里の外で育ったんだから――」

 僅かだけど、記憶にある外の世界。良いことも悪いこともあったけれど、それを知ると知らないとでは、感覚の違いは大きいだろう――。

 ここに連れてこられるまで、俺は自分のことを何も知らなかった。黒鬼であるということも、それが人と鬼の間に生まれた者を指すということも――。

 俺以外の者は皆……長も、この里の生まれだ。
 それぞれ思うところはあるようだが、力の暴走で周りの者を殺さぬよう、様々な物を破壊しないよう、この里の外に出ない事を受け入れ、生きてきている。

「そうかもしれないな……」

 長はどこか、意味ありげな苦笑を浮かべて続けた。

「ついでに術師の弟子とも仲が良い」
「――そう見えているなら……俺の試みは成功してるってことだ――」
「くっくっく……そうか――」

 何が面白いのか。長は本当に楽しそうに、笑いながら言った。

「死にそうなガキに散々、ここで生きるための豆知識だとか言って色々講釈垂れてくれた“あんた”がいたからな」

 そう。そして術師とは仲良くしておけ、とも――

「俺は……それに従ってみてるだけだ――」

 言って、俺は再び薪割りを続けた。

「……なるほどな……だが――」

 長は何かを言いかけたのに「いや……この話はまた今度だな」と言って、その先の話はついぞしなかった。


 あの時、長は何を言いかけていたのだろう――

 そう考えた時、頭の痛みに気づいて意識がハッキリとしてきた。

 寒い……。ここは……?
 思い出したぞ、俺は……崩れてきた岩の下敷きになった……のか――――?

 恐る恐る目を開くと、どうやら土や砂はそこまでじゃなさそうだ……。
 ただ視界は暗く、自分がどういう状況にあるのかもわからない。

 とりあえず怪我した箇所くらい把握しておこうと、身体に力を入れてみると――

 ガラガラと、何かが音を立てて崩れ落ちていった。

 どういうことだ、痛みを感じるのは頭にだけ――?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜

桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。 上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。 「私も……私も交配したい」 太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

「お前みたいな卑しい闇属性の魔女など側室でもごめんだ」と言われましたが、私も殿下に嫁ぐ気はありません!

野生のイエネコ
恋愛
闇の精霊の加護を受けている私は、闇属性を差別する国で迫害されていた。いつか私を受け入れてくれる人を探そうと夢に見ていたデビュタントの舞踏会で、闇属性を差別する王太子に罵倒されて心が折れてしまう。  私が国を出奔すると、闇精霊の森という場所に住まう、不思議な男性と出会った。なぜかその男性が私の事情を聞くと、国に与えられた闇精霊の加護が消滅して、国は大混乱に。  そんな中、闇精霊の森での生活は穏やかに進んでいく。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

春に狂(くる)う

転生新語
恋愛
 先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。  小説家になろう、カクヨムに投稿しています。  小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/  カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761

6年分の遠回り~いまなら好きって言えるかも~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
私の身体を揺らす彼を、下から見ていた。 まさかあの彼と、こんな関係になるなんて思いもしない。 今日は同期飲み会だった。 後輩のミスで行けたのは本当に最後。 飲み足りないという私に彼は付き合ってくれた。 彼とは入社当時、部署は違ったが同じ仕事に携わっていた。 きっとあの頃のわたしは、彼が好きだったんだと思う。 けれど仕事で負けたくないなんて私のちっぽけなプライドのせいで、その一線は越えられなかった。 でも、あれから変わった私なら……。 ****** 2021/05/29 公開 ****** 表紙 いもこは妹pixivID:11163077

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...