【鬼シリーズ:第一弾】鬼のパンツ

河原由虎

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改稿版

第3話 珍しいパンツ(たぶんパンツ違う)

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 草原でもない、大小さまざまな石が転がっているわけでもない野原は、自分にとって障害物も何もない平坦な道を走るも同じ。力ある者が優遇される鬼社会で『頭でっかちの二本角』と揶揄されていようとも、自身は一本角の奴らの体力に劣りはしないと自負している。

 が──どうにも息が上がる気がする。何故だ……⁉︎

 身体の違和感について、原因を考える余裕もなく走っていくと、袖のない黒いシャツに、俺の一張羅と同じような丈で、くすんだ青色のパンツを穿いている若い女が叫んだ。

「早く! こっちへ!」

 深緑の地に、何やら黒い模様の入った頭巾をかぶり、そこからのぞく黒髪は、肩の上で綺麗に切り揃えられている。よく見ると“獲物を狙う猫”のような可愛らしい赤い目をした美人で……。
 目があった瞬間自分の中に、何と言ったら良いのかわからない感情が湧き起こる。

「女なのに……そんなパンツ穿いて。珍しいな」

 森の入り口で立ち止まって思わずそうこぼした。すると、女のカッと赤くなる顔と、その赤い瞳から目が離せなくなる。

「……変なこと言ってないで早く!」

 俺は、キロリと睨んできた女に左手を取られ、ものすごい力で森の中へと引っ張りこまれた。

 この力──‼︎

「あんたも鬼か⁉︎」

 バランスを崩した俺は、背の低い茂みに手も顔も突っ込むが、すぐさま立ち上がり女の方を見る。

 すると、それまで自分が立っていた場所に、風を切るような音と共に光る何かが落ちた。

「何だ、今の光は……⁉︎」

 光が消えたそこは、草も土も焦げて黒くなっている。

「詳しい話は後! 貴方二本角なのに体力ありそうね? とにかくついてらっしゃい!」

 女はそういうと、振り向きもせずに獣道を駆けていく。

 行手を阻む大きな岩や倒れる大木はジャンプし飛び越え、木々の枝を折らぬよう器用に避けて行く様は、少し粗いが美しく。息が上がり気味とはいえ、自分もギリギリで着いて行けるようなスピードに、敬意を感じた。

 しばらく森の中を行くと、自然の中の濃い空気が心地良く、息が整い身体の違和感は消えていく。

 あまり使われていなさそうな古い小屋へと到着すると、女は迷うことなく中へと入った。中には小屋と同じく古そうなテーブルに、椅子が四脚。それと、腰掛けることぐらいはできそうな大きさで、新しそうな木の箱が部屋の隅に一つ。

 女の後に続いて小屋に入り、扉を閉めた直後、俺は言った。

「木々を折らぬようにしていたのは追跡を避けるため、か? なかなかだが、ジャンプの際の力加減が甘いな。あんな足跡を残してしまっては、追跡者がいたらすぐにバレるぞ」

 一箇所、苔生す大岩が飛び越えきれなかったようで、女の足跡がくっきりと残っていた。
 気づいた俺は大岩を飛び越えるついでに、その真上にあった大きな枯れ枝を落として足跡ごと苔を削ってみたが。ごかませているかどうか……。

「…………イイのよ。どうせここには長い時間留まらないから……」

 女はムッとした顔をして壁にもたれ、呼吸を整えながらそう言った。

「そうか……。じゃぁその短い時間で、聞いてもいいか?」
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