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第二部 第一章 新たなる目標

57・神住窟(カミノイワヤ)

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「ちょっと待て。そういっぺんに話されても神様のワシでも理解できん。一人ずつ順番に話すがよい」

 神住窟《カミノイワヤ》と名のつく神様の住む洞窟へ羽根ペンを使った転移魔法で移動して早々、天使たちと私の報告と、一緒に付いて来たランドルフとエリオットの洞窟の感想やらなんやらとで、静かだった洞窟内がたちまち喧騒に包まれました。
 エリオットは「やっぱりここか!」と、以前潜った洞窟だと確信したようです。

「あっ、いつぞやの泥棒!」

 神様の隣に居た、天使が叫びました。
 久しぶりに会いましたが、私が初めてラフィーに連れられて来た時にここで遭遇したのもこの天使で、その名は、……第一天使ミシェール。

「やべっ」

 エリオットが何かを思い出したかのように、私の後ろに隠れます。
 エリオットはかつて、ある洞窟に潜って羽根ペンを盗んだ犯人でした。
 その洞窟とは、ここ――神住窟《カミノイワヤ》に違いありません。
 私はここで、天使からその羽根ペンを貰ったのですから。
 そんなエリオットがよく私に付いてきたと言うものですが、盗みを働いた事を忘れていたのでしょうか。

「もう時効だろう? 俺は殺されたし! というかアンデッドにされてんだから許してくれよ!」
「ジダルジータ様、盗人があのように申していますが、どのような処分を……」

 神ジダルジータがちらりと私の後ろに隠れて頭だけを出しているエリオットを見ましたが、興味もなさそうに――

「よいよい。あれはサオリの時間切れの蘇生魔法で発注を受けたワシが再構築して棺桶に詰めてサオリの元に送ったのじゃ。やつはその命を懸けて羽根ペンをサオリの元に届けたようなものじゃ。……許す」

 エリオットは蘇生したタイミングが遅すぎてその場ではどうにもならず、神様が後から商品としてお店に納品してくれたのでした。
 食料品として……賞味期限付きで。
 元勇者のローランドもそうでした。

「おい、ちょっと俺の扱いが酷くねえか!? 俺はもしかして死ななくても良かったんじゃねえの? 羽根ペンは元々サオリに譲るつもりだったなら俺を魔物に襲わせる事もなかったじゃねえか! おいそこの白い天使! おまえが魔物を使役して俺に送ったんだろう!? 結果的に殺されたじゃねえか、どうしてくれんだよ!」

 エリオットが天使ミシェールに指を突き付けて怒鳴り散らします。――私の後ろから……。
 けれどもその天使の反応は――

「禁則事項です」

 たったの一言で済まされました。

「く、くそう……なんか納得いかねえ」
「まあまあ、アンデッドとはいえ生き返っただけいいじゃないか。前向きに行こう」

 ランドルフが慰めますが、エリオットはまだ納得出来ないといった顔をしています。

「いいですか、そこの盗人。あなたがここで盗みを働いたという罪は消えません。ジダルジータ様が許すとおっしゃられたからいいようなものの、本来ならあらためてここでその罪を償わせてもいいのですよ? 身の程をわきまえなさい」
「ち、ち、ち、ちくしょう!」

 ミシェールの言葉に少し涙目になりながら、エリオットは悔しそうにしていますが、どうやら納得するしかないようです。
 しかし蘇生魔法を掛けるのが遅いと、それは発注扱いで神様が後から再構築して棺桶に詰めて送っていたという事実は私も初耳でした。
 それならば蘇生魔法を掛けたものの、アランが目覚めないのはどういった事なのでしょう。
 思えば死んですぐの人に蘇生魔法を掛けたのはアランが初めてなのです。

 アランは今、サーラの回復魔法によって胸の傷は治っていますが、いまだ蘇生は叶わずに眠った……いえ、死んだままです。
 その事を神様に訊こうとしましたが、神様の方から先に口を開いて違う事を私に訊いてきました。

「おぬし、先ほど元の世界に戻ったと言っておったが、それは真か?」
「あ、……はい。体はこちらの世界にあったようなので、意識だけ飛ばされたみたいで、……あれは夢だったのではないかと疑っている所です」

 私の言葉を聞いて、神様はいやいやと首を横に振りました。

「いや、おぬしは元の世界に帰ったのじゃ。世界改変のスイッチを押した者として特別な状況下におり、ワシの狙い通りのチカラの働きかけがあったに違いあるまい。じゃが……」

 神様は続けてとんでもない事を言いました。
 私が聞かなければよかったと、後悔するほどの事を。

「おぬし、今その体の中に、もう一人住まわせておるな? そいつの存在がこの世界に引き留めたのじゃ。もったいない事をしたのう。ワシが以前デートしておったのは地球という星を統べる女神だったのじゃ。いつか逆転移させる程のパワーが満ちた時、おぬしを元の世界に戻せるよう計らってもらっておいたというのに。ワシは勇者候補をこの世界に転生させる仕事はしておるが、違う星に転移させるような力は持っておらぬからな」

 えっ……そ、そんな事。

「そんな事、聞いてない!」

 確かに最初にここを訪れた時に神様はデートで不在でしたけれど、まさか私を元の世界に戻すための算段を既にしてくれていたとは思ってもいませんでした。
 それも地球の女神様に会っていた? どこで? 神様が地球まで行けたとしたら私を送る事も出来そうじゃないですか? どういう事ですか!
 それに、……それに私が魔王を討伐するという事が最初から神様によって決められていたかのようではないですか。
 もしそうだとしたら、天使の事もエリオットが迷い込んで来た事も、あれもこれもすべて、神様の掌の上で踊らされていたという事だったのでしょうか。
 
「何か色々と疑っているようじゃが、おぬしがこの世界に転移して来た事は本当にただの事故で、ワシは関与しておらんぞ? たぶん」

 この神様、信用できません。
 私はもう人間不信……いえ、神様不信に陥っていました。
 この人の……いえ、この神様の言う事はもう何も信じられません。

 私の中のフォレスが眠っていたからいいようなものの、こんな話を聞かれた日には彼女がどれだけ悩み苦しむか、想像に難くありません。
 私だって、フォレスのせいで元の世界に戻れなかったなんて……そんな事……。
 
「地球の女神に会えるくらいなら、サオリを地球に戻す事くらい出来ないのでしょうか? 神様」

 ああ、ランドルフが私の言いたかった事を言ってくれています。
 本当に私の事を想ってくれている人なのだと、あらためて感じます。

「人間、いつ発言を許しましたか? そもそもあなたは何故ここに居るのですか。招かれざる者よ、いますぐ――」
「よいよい、ワシが許す。これらの者どもは皆サオリと同じ客じゃ。同様に接するがよい」
「失礼いたしました。ジダルジータ様」

 頭の固そうなミシェールの発言に、神様がとりなします。
 こういう所だけを見ると、良い神様のように見えますが、私への説明不足など色々な事を考えるとやっぱりそうは思えません。

「他の星の神に会うのに行く必要はないし、移動する事も出来ん。そのかわり、ある精神世界での会合が可能での。そこで地球の女神と二人きりで会っておったのじゃ。こういうのをデートと言うのじゃろ? ただその会合場所での時間の流れがちと特殊での。そこでの数日がこちらでの数年だったりする」

 神様が直接、私を元の世界に戻せない理由も、神様のデートの帰りが遅い理由も分かりました。
 けれどもまだ聞きたい事はたくさんあります。
 ありますが、……とりあえず私の事は置いておいて――

「アランが、蘇生魔法を掛けても蘇りません。これはどういう事ですか!?」

 すぐに解決しなければならない問題でした。
 現実世界の光景を見た瞬間に、忘れてしまっていた自分が恥ずかしいです。
 私を信じて命を絶ったアランとの約束を、無理でしたで済ませていいはずがありませんでした。

「それはのう、実はな――」

 私はいつもこの洞窟で、衝撃の事実を突き付けられてばかりです。

 
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