58 / 107
第二部 第一章 新たなる目標
58・意気消沈
しおりを挟む
十日間、寝込みました。
神様の洞窟から帰って来てからというもの、何もする気になれず、ベッドで塞ぎ込んで寝ているだけの毎日を過ごしてしまいました。
実際、体調も不振で疲労感や倦怠感などもあり、食欲も湧きません。
そして何よりも、絶望感が心のすべてを支配して、気力も体力も奪って行くのです。
あの神様は……悪魔でした。
私が勇者になって魔王を討伐するであろう事も、お見通しだったのです。
すべてはあの神様の青写真のままに、いいように弄ばれていたのです。
魔王アランはこれまでの魔王たちと違い、イレギュラーとして誕生しました。
元転生者の桁違いな魔力を持った魔王は、勇者が千人集まったとしても討伐出来ない存在であり、この世界の破滅は免れないものだったのです。
そこで私に、白羽の矢が立てられました。
同じ地球の生まれで、しかも同じ国の出身の私なら、魔王を言いくるめるか油断させるかして、何とか出来るのではとあの神様は計算したのです。
それを容易にするためのものが、この世界では神様を除いたら私しか使えないという『蘇生魔法』だったのではないかと、今はそう思えます。
自分が死んで目的を達成した後、生き返ればいいという裏ワザ的な発想は私ではなく、アランのものでしたけれど。
魔王を倒すのに必要な聖剣エクスカリバーは私の手元にありましたが、それを持つための魔力は私にはありません。
ところがそれも、森の妖精フォレスと出会う事と、合体という手段を使う事によって、私にも魔力が備わるようになりました。
フォレスは魔王アランとも繋がりのある人物でしたので、これも神様の思惑通りに事が運んだという事でしょう。
後は魔王アランと接触させ、天使から『魔王一年ルール』を私に伝えさせて様子を見ていたのでしょうけれども、私が中々魔王討伐に乗りださなかったので、あの神様はやきもきしていたに違いありません。
世界が破滅すると知れば、私が魔王を討伐すると思ったのは、人の心を知らない神様のあさはかさだったのでしょう。
もしくは人の心を多少は知っていたがために、魔王アランも協力すると考えたのかも知れません。
あの神様が知らなかったのは、たとえ世界が滅んだとしても絶対に自分の手で人殺しはしたくないという、私の意志でしょうか。
魔王アランが滅ぼされる事になるきっかけは、突然にやってきました。
彼のきまぐれだったとも言えますが、元勇者のローランドが二十万の魔族を率いて進軍して来たために、アランのパーティーと私のパーティーが合同でそれに当たったのが最初のきっかけです。
魔族軍側に付いたローランドには、怪しい点がいくつかありました。
まずアンデッドになったとはいえ、何故ローランドは二十万もの魔族の大軍を率いる立場になり得たのか。
“元”とは言え、勇者という立場だった彼は、敵対していた魔族とどこで繋がりが出来たのか。
私たちの前に現れた時には、二十万の魔族軍を吸収して巨大な化物に成り果てた元勇者のローランドですが、最後の戦いの時に傍に居た一体の魔族の存在が確認されています。
何故その魔族だけがローランドに吸収されなかったのか。
答えは一つしかありません。
その魔族こそが、勇者ローランドを魔族の大軍を率いる立場へと導いたのです。
そしてそれが、神様の手の内の者ではないとは言い切れません。
第一天使ミシェールのように、魔物を使役する能力を持つ天使だって居るのですから。
ローランドが私に恨みを持つようになったのは、私が彼をアンデッドとして蘇生させてしまったせいなのですが、それは国王からの指示によるもので、私は仕方なしにやった事でもあります。
けれども勇者蘇生までに繋がるその一連の出来事は、第三の思惑が働いたものではなかったのかと私は思います。
『蘇生魔法』を持つ私へと繋がるように仕向けられた、作為を感じるのです。
結果、私は迎え撃つ形で化物と化したローランドを討伐する事になり、元勇者のローランドは消滅しました。
その直後、アランの思いつきにより突然、『魔王一年ルール』の解決策を提案されました。
アランが私に討たれてやると言うのです。
私は断りましたが、私の中のフォレスが表に出てきてこれを完遂してしまったのです。
結果的に、私の体を使ったフォレスの意志で、魔王討伐は達成されたのですが、私はそれによって元の世界に戻れるかも知れないという可能性は教えられていませんでした。
神様は確かに、私が元の世界に戻れるように地球の女神に取り計らってくれていたのかも知れないのですが――
これも少し腑に落ちません。
何故なら私が元の世界に戻るには、魔王を討ったあの段階でフォレスと分離していなければならなかったのです。
そして勇者専用の聖剣、エクスカリバーを持つためには、フォレスと合体している事が条件だったため、フォレスも最初から神様の操る駒の一つだったと考えるのが妥当です。
すべてを神様から聞いたわけではありません。
これらの考えは私の妄想と言ってもいいくらいのものですけれど、間違っているとも思えません。
普通なら現実世界の光景を見せられて、神様の言う何もかもを信じてしまいそうですが、あの神様は胡散臭いと思ってしまった私だからこその想像です。
地球の女神と会っていたのだって本当は私の事はついでで、デートがメインだったのではないかと疑っている程です。
私が元の世界に戻れなかった理由。
これについてはハッキリと答えが分かっています。
神様に私を元の世界に戻す意思が無かったのです。
だから魔王討伐の瞬間、私とフォレスが分離すれば戻れるかも知れないという可能性を教えてくれなかったのです。
それは何故か。
アランが蘇らない理由にも繋がっていました。
魔王アランが討伐されて、世界のルールが改変された瞬間、――あの神様は知っていたのです。――次の魔王が誕生して、新たな『魔王一年ルール』が適用される事を。
神様はまだこの私を、利用するつもりだったのです。
新たな魔王討伐のための駒として。
アランさえも私の枷として、道具にしたのです。
そして……。
あの洞窟で神様が最後に、私に言いました。
「新しい魔王に、こやつの魂は持って行かれた」
――と。
神様の洞窟から帰って来てからというもの、何もする気になれず、ベッドで塞ぎ込んで寝ているだけの毎日を過ごしてしまいました。
実際、体調も不振で疲労感や倦怠感などもあり、食欲も湧きません。
そして何よりも、絶望感が心のすべてを支配して、気力も体力も奪って行くのです。
あの神様は……悪魔でした。
私が勇者になって魔王を討伐するであろう事も、お見通しだったのです。
すべてはあの神様の青写真のままに、いいように弄ばれていたのです。
魔王アランはこれまでの魔王たちと違い、イレギュラーとして誕生しました。
元転生者の桁違いな魔力を持った魔王は、勇者が千人集まったとしても討伐出来ない存在であり、この世界の破滅は免れないものだったのです。
そこで私に、白羽の矢が立てられました。
同じ地球の生まれで、しかも同じ国の出身の私なら、魔王を言いくるめるか油断させるかして、何とか出来るのではとあの神様は計算したのです。
それを容易にするためのものが、この世界では神様を除いたら私しか使えないという『蘇生魔法』だったのではないかと、今はそう思えます。
自分が死んで目的を達成した後、生き返ればいいという裏ワザ的な発想は私ではなく、アランのものでしたけれど。
魔王を倒すのに必要な聖剣エクスカリバーは私の手元にありましたが、それを持つための魔力は私にはありません。
ところがそれも、森の妖精フォレスと出会う事と、合体という手段を使う事によって、私にも魔力が備わるようになりました。
フォレスは魔王アランとも繋がりのある人物でしたので、これも神様の思惑通りに事が運んだという事でしょう。
後は魔王アランと接触させ、天使から『魔王一年ルール』を私に伝えさせて様子を見ていたのでしょうけれども、私が中々魔王討伐に乗りださなかったので、あの神様はやきもきしていたに違いありません。
世界が破滅すると知れば、私が魔王を討伐すると思ったのは、人の心を知らない神様のあさはかさだったのでしょう。
もしくは人の心を多少は知っていたがために、魔王アランも協力すると考えたのかも知れません。
あの神様が知らなかったのは、たとえ世界が滅んだとしても絶対に自分の手で人殺しはしたくないという、私の意志でしょうか。
魔王アランが滅ぼされる事になるきっかけは、突然にやってきました。
彼のきまぐれだったとも言えますが、元勇者のローランドが二十万の魔族を率いて進軍して来たために、アランのパーティーと私のパーティーが合同でそれに当たったのが最初のきっかけです。
魔族軍側に付いたローランドには、怪しい点がいくつかありました。
まずアンデッドになったとはいえ、何故ローランドは二十万もの魔族の大軍を率いる立場になり得たのか。
“元”とは言え、勇者という立場だった彼は、敵対していた魔族とどこで繋がりが出来たのか。
私たちの前に現れた時には、二十万の魔族軍を吸収して巨大な化物に成り果てた元勇者のローランドですが、最後の戦いの時に傍に居た一体の魔族の存在が確認されています。
何故その魔族だけがローランドに吸収されなかったのか。
答えは一つしかありません。
その魔族こそが、勇者ローランドを魔族の大軍を率いる立場へと導いたのです。
そしてそれが、神様の手の内の者ではないとは言い切れません。
第一天使ミシェールのように、魔物を使役する能力を持つ天使だって居るのですから。
ローランドが私に恨みを持つようになったのは、私が彼をアンデッドとして蘇生させてしまったせいなのですが、それは国王からの指示によるもので、私は仕方なしにやった事でもあります。
けれども勇者蘇生までに繋がるその一連の出来事は、第三の思惑が働いたものではなかったのかと私は思います。
『蘇生魔法』を持つ私へと繋がるように仕向けられた、作為を感じるのです。
結果、私は迎え撃つ形で化物と化したローランドを討伐する事になり、元勇者のローランドは消滅しました。
その直後、アランの思いつきにより突然、『魔王一年ルール』の解決策を提案されました。
アランが私に討たれてやると言うのです。
私は断りましたが、私の中のフォレスが表に出てきてこれを完遂してしまったのです。
結果的に、私の体を使ったフォレスの意志で、魔王討伐は達成されたのですが、私はそれによって元の世界に戻れるかも知れないという可能性は教えられていませんでした。
神様は確かに、私が元の世界に戻れるように地球の女神に取り計らってくれていたのかも知れないのですが――
これも少し腑に落ちません。
何故なら私が元の世界に戻るには、魔王を討ったあの段階でフォレスと分離していなければならなかったのです。
そして勇者専用の聖剣、エクスカリバーを持つためには、フォレスと合体している事が条件だったため、フォレスも最初から神様の操る駒の一つだったと考えるのが妥当です。
すべてを神様から聞いたわけではありません。
これらの考えは私の妄想と言ってもいいくらいのものですけれど、間違っているとも思えません。
普通なら現実世界の光景を見せられて、神様の言う何もかもを信じてしまいそうですが、あの神様は胡散臭いと思ってしまった私だからこその想像です。
地球の女神と会っていたのだって本当は私の事はついでで、デートがメインだったのではないかと疑っている程です。
私が元の世界に戻れなかった理由。
これについてはハッキリと答えが分かっています。
神様に私を元の世界に戻す意思が無かったのです。
だから魔王討伐の瞬間、私とフォレスが分離すれば戻れるかも知れないという可能性を教えてくれなかったのです。
それは何故か。
アランが蘇らない理由にも繋がっていました。
魔王アランが討伐されて、世界のルールが改変された瞬間、――あの神様は知っていたのです。――次の魔王が誕生して、新たな『魔王一年ルール』が適用される事を。
神様はまだこの私を、利用するつもりだったのです。
新たな魔王討伐のための駒として。
アランさえも私の枷として、道具にしたのです。
そして……。
あの洞窟で神様が最後に、私に言いました。
「新しい魔王に、こやつの魂は持って行かれた」
――と。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
93
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる