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第二部 第一章 新たなる目標
61・魔王討伐旅行
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ひとつ、問題がありました。
私の中に居るフォレスが目覚めないのです。
心の奥に引きこもったまま、出てきてくれません。
その存在は感じるのですが、固い殻に閉じこもって何もかもを遮断してしまっているようなイメージだけが伝わって来ます。
いくらあなたに責任はないのよと話しかけても、反応がないのです。
この状態で試しに聖剣エクスカリバーを持とうとしたら、案の定持てませんでした。
フォレスの能力が使えないようになっていました。
それだけ深い所に潜ってしまったという事なのでしょう。
「どうしましょう」
このまま魔王討伐に向かおうにも、勇者になれない私では何の意味もありません。
魔王を倒すためには必ず『勇者』が必要なのであって、『天使』や『大魔法使い』では駄目なのです。
アランの次に魔力の高いサーラは一度魔王になりかけたという経験があって、今は人間というカテゴリーでは無くなっているそうです。
魔族ではないものの、『人間|(仮)』になってしまっていると聞きました。
天使よりも高い魔力を持っていて、聖剣を持つ事は出来るサーラですが、『人間|(仮)』が『勇者』になる事はないようです。
魔力の高い『人間』が聖剣を持って初めて『勇者』になり、魔王の『絶対防御』を破る事が出来ます。
だからアランは『魔王』である自身では自決する事が出来なくて、私にトドメを刺させたのです。
「旅行がてら、のんびり魔族領に向かえばいいんじゃね? その間にきっと妖精も目覚めるだろうよ」
エリオットが呑気に言いますが、フォレスがいつ目覚めるのかは誰にも分かりません。
「魔王は魔族領の魔王城に居るって事なんだろ? ここからだと馬車でゆっくり行けば一年近く掛かる。それだけ時間があれば何とかなりそうじゃないか?」
「そうでふね。気分転換に旅行もいいのではないでひゅか? ここで腐っていても仕方ないでちょ? サオリ」
エリオットの提案に、トマトジュースで酔っぱらったカーマイルが賛同しています。
天使が何故トマトジュースで酔っぱらうのかは、いまだに謎です。
新たな魔王は魔王城で誕生したという情報は神様から聞いています。
それにしても、旅行だなんて。……塞ぎがちな私を気遣ってくれているのでしょうか。
「でも魔王討伐は魔王が誕生してから一年以内というのがルールなのでしょう? そんなにのんびり移動してていいの?」
「急いでもゆっくり行っても、妖精が目覚めなかったら結局は終わりだ。どうせなら最後の旅路は楽しく行こうぜ」
「もしかしてエリオットも同行するつもりなの?」
「え? 駄目だった?」
魔王討伐のパーティーは、私とサーラと、四人の天使で組むつもりでした。
このメンバーなら余程油断をしない限り、どのような敵と戦っても負ける気がしません。
魔王に関しては、フォレスが目覚めるのが前提なのですけれど。
「やっぱりエリオットは来なくてもいいわ。お店番をする人が居なくなっちゃうもの」
「まじかよ!? 俺は仲間外れかよ!」
「だってランドルフだって行かないのに、なんでエリオットを連れて行かなきゃならないのよ。女だけのメンバーの方が気が楽だし」
サーラが一人入るだけで、そのパーティーは世界最強になります。
そこへ四人もの天使が一緒に居るとなれば、もう宇宙最強ではないでしょうか。
なので今更エリオットが入る余地など無いのです。
たとえアンデッド化して、不死身であろうとも。
「つまんねえな、留守番かよ! 仲間外れかよ! いじめ反対!」
などと叫びながら、エリオットはお店に向かいました。
きっとお店番をしてくれるのでしょう。
「ラフィー、お姉ちゃんと旅行する?」
リビングのソファに座って、足をバタバタさせているラフィーに訊きました。
「りょこー? よくわかんないけど、するー」
ああ、すべての所作が可愛いとか、なんて罪な子なのでしょう。
ぎゅっと抱きしめたい、という衝動に駆られます。
いえ、実際に抱きしめようと、ラフィーの元へ足が向いていました。
「私は別に旅行とかいいので、後で迎えに来て下さい」
「え?」
カーマイルが横から突然、一緒に行かないと言い出しました。
「駄目よ、カーマイル。魔王討伐なのよ? パーティーは一緒に居るべきよ」
「面倒くさいです。後からでも合流すればいいじゃないですか。一度行った場所なら何度でも転移出来るのですから、討伐する直前で私が必要でしたら迎えに来ればいいのです」
さっきは旅行もいいだろうと言っていたカーマイルでしたが、よく見ると酔いは醒めているようなので、もしかしたら自分で発言した事も忘れているのかも知れません。
ラフィーを後ろから抱きしめながら、カーマイルを睨みました。
「ジーッ」
「ふん」
私はおもむろにノートと羽根ペンを取り出し、空いたページに天使フォウの名前を書きました。アランの所の二人の天使のうちの一人です。
この羽根ペンで天使の名前を書くと、その天使を召喚する事が出来るという、勇者のための機能です。
天使を呼ぶためには、その天使に割り振られた番号も記入しなければならないのですが。――確か。
「確か、フォウは……第四天使……と」
ノートに書いた文字が、ペリペリと剥がれるようにして一文字ずつ消えて行き、すべての文字が消え去るのと引き換えに発生した眩い光が、天使フォウを吐き出しました。
ラフィーと同じ青い髪に青い瞳、顔立ちも似てはいますけれどフォウはどちらかというと、とても知的な印象を受けます。
「サオリ様。いよいよ討伐に向かわれるのですね。お待ちしておりました」
「こんにちは、フォウ。討伐にはもちろん行くのだけど、その前にやって欲しい事があるの」
「はい。何なりとお申し付けください」
「お店にあるトマトジュースを全部、あなたのその袖口のポケットにしまって欲しいの。魔王討伐に持って行くわ」
「ちょっ……」
それを聞いたカーマイルが絶句しています。
フォウの袖口ポケットは、何でも入る魔法のアイテムボックスなのです。
「ひ、卑怯じゃないですか! それは脅しですか!? 私にトマトジュース無しで暮らせと言うのですか!?」
「一緒に来てくれたら毎日飲めるわよ? カーマイル。どうする?」
「ぐぬぬ……」
とても下らない手を使ってしまいましたが、カーマイルも一緒に来て欲しかったのです。
皆で長い時間を過ごし一緒に行動する事で、気持ちが一つになるのではと考えました。
その上で魔王討伐という偉業を、成し遂げたかったのです。
サーラが居るから、天使が四人も居るから、……だから魔王討伐なんて簡単だ、などと思ってはいけません。
イレギュラーで討伐不可能な魔王アランが誕生したように、何が起きるか分からないのです。
万全の態勢で挑まなければならないと思うのです。
「行けばいいのでしょう? 行けば? どうせつまらない旅になると思いますけど、行くならさっさとして下さい」
「ありがとう、カーマイル。皆仲良く行きましょうね」
「ふんっ」
宣言通り、お店のウォークインにあるトマトジュースを全部、フォウのポケットにしまってもらってから、アランの屋敷で待機しているサーラと天使ニナを呼びに行く事にしました。
「ニナとサーラはすぐに出れる?」
「準備は整っております。いつでも出発は可能でございます」
「では、迎えに行くわよ」
ノートにあらかじめ書いてある『転移魔法』の簡略文字列のあるページに、目的地を記入しました。
ここに来てようやく、私も前向きに進もうと思えるようになれました。
もし楽しく旅行が出来たなら、私のその気持ちを感じ取ったフォレスが安心して出て来てくれるかもしれませんから。
スパン! と空気と空間、そして時間という概念さえも切り裂く音を置き去りにして、私とフォウはアランの屋敷へと転移しました。
私の中に居るフォレスが目覚めないのです。
心の奥に引きこもったまま、出てきてくれません。
その存在は感じるのですが、固い殻に閉じこもって何もかもを遮断してしまっているようなイメージだけが伝わって来ます。
いくらあなたに責任はないのよと話しかけても、反応がないのです。
この状態で試しに聖剣エクスカリバーを持とうとしたら、案の定持てませんでした。
フォレスの能力が使えないようになっていました。
それだけ深い所に潜ってしまったという事なのでしょう。
「どうしましょう」
このまま魔王討伐に向かおうにも、勇者になれない私では何の意味もありません。
魔王を倒すためには必ず『勇者』が必要なのであって、『天使』や『大魔法使い』では駄目なのです。
アランの次に魔力の高いサーラは一度魔王になりかけたという経験があって、今は人間というカテゴリーでは無くなっているそうです。
魔族ではないものの、『人間|(仮)』になってしまっていると聞きました。
天使よりも高い魔力を持っていて、聖剣を持つ事は出来るサーラですが、『人間|(仮)』が『勇者』になる事はないようです。
魔力の高い『人間』が聖剣を持って初めて『勇者』になり、魔王の『絶対防御』を破る事が出来ます。
だからアランは『魔王』である自身では自決する事が出来なくて、私にトドメを刺させたのです。
「旅行がてら、のんびり魔族領に向かえばいいんじゃね? その間にきっと妖精も目覚めるだろうよ」
エリオットが呑気に言いますが、フォレスがいつ目覚めるのかは誰にも分かりません。
「魔王は魔族領の魔王城に居るって事なんだろ? ここからだと馬車でゆっくり行けば一年近く掛かる。それだけ時間があれば何とかなりそうじゃないか?」
「そうでふね。気分転換に旅行もいいのではないでひゅか? ここで腐っていても仕方ないでちょ? サオリ」
エリオットの提案に、トマトジュースで酔っぱらったカーマイルが賛同しています。
天使が何故トマトジュースで酔っぱらうのかは、いまだに謎です。
新たな魔王は魔王城で誕生したという情報は神様から聞いています。
それにしても、旅行だなんて。……塞ぎがちな私を気遣ってくれているのでしょうか。
「でも魔王討伐は魔王が誕生してから一年以内というのがルールなのでしょう? そんなにのんびり移動してていいの?」
「急いでもゆっくり行っても、妖精が目覚めなかったら結局は終わりだ。どうせなら最後の旅路は楽しく行こうぜ」
「もしかしてエリオットも同行するつもりなの?」
「え? 駄目だった?」
魔王討伐のパーティーは、私とサーラと、四人の天使で組むつもりでした。
このメンバーなら余程油断をしない限り、どのような敵と戦っても負ける気がしません。
魔王に関しては、フォレスが目覚めるのが前提なのですけれど。
「やっぱりエリオットは来なくてもいいわ。お店番をする人が居なくなっちゃうもの」
「まじかよ!? 俺は仲間外れかよ!」
「だってランドルフだって行かないのに、なんでエリオットを連れて行かなきゃならないのよ。女だけのメンバーの方が気が楽だし」
サーラが一人入るだけで、そのパーティーは世界最強になります。
そこへ四人もの天使が一緒に居るとなれば、もう宇宙最強ではないでしょうか。
なので今更エリオットが入る余地など無いのです。
たとえアンデッド化して、不死身であろうとも。
「つまんねえな、留守番かよ! 仲間外れかよ! いじめ反対!」
などと叫びながら、エリオットはお店に向かいました。
きっとお店番をしてくれるのでしょう。
「ラフィー、お姉ちゃんと旅行する?」
リビングのソファに座って、足をバタバタさせているラフィーに訊きました。
「りょこー? よくわかんないけど、するー」
ああ、すべての所作が可愛いとか、なんて罪な子なのでしょう。
ぎゅっと抱きしめたい、という衝動に駆られます。
いえ、実際に抱きしめようと、ラフィーの元へ足が向いていました。
「私は別に旅行とかいいので、後で迎えに来て下さい」
「え?」
カーマイルが横から突然、一緒に行かないと言い出しました。
「駄目よ、カーマイル。魔王討伐なのよ? パーティーは一緒に居るべきよ」
「面倒くさいです。後からでも合流すればいいじゃないですか。一度行った場所なら何度でも転移出来るのですから、討伐する直前で私が必要でしたら迎えに来ればいいのです」
さっきは旅行もいいだろうと言っていたカーマイルでしたが、よく見ると酔いは醒めているようなので、もしかしたら自分で発言した事も忘れているのかも知れません。
ラフィーを後ろから抱きしめながら、カーマイルを睨みました。
「ジーッ」
「ふん」
私はおもむろにノートと羽根ペンを取り出し、空いたページに天使フォウの名前を書きました。アランの所の二人の天使のうちの一人です。
この羽根ペンで天使の名前を書くと、その天使を召喚する事が出来るという、勇者のための機能です。
天使を呼ぶためには、その天使に割り振られた番号も記入しなければならないのですが。――確か。
「確か、フォウは……第四天使……と」
ノートに書いた文字が、ペリペリと剥がれるようにして一文字ずつ消えて行き、すべての文字が消え去るのと引き換えに発生した眩い光が、天使フォウを吐き出しました。
ラフィーと同じ青い髪に青い瞳、顔立ちも似てはいますけれどフォウはどちらかというと、とても知的な印象を受けます。
「サオリ様。いよいよ討伐に向かわれるのですね。お待ちしておりました」
「こんにちは、フォウ。討伐にはもちろん行くのだけど、その前にやって欲しい事があるの」
「はい。何なりとお申し付けください」
「お店にあるトマトジュースを全部、あなたのその袖口のポケットにしまって欲しいの。魔王討伐に持って行くわ」
「ちょっ……」
それを聞いたカーマイルが絶句しています。
フォウの袖口ポケットは、何でも入る魔法のアイテムボックスなのです。
「ひ、卑怯じゃないですか! それは脅しですか!? 私にトマトジュース無しで暮らせと言うのですか!?」
「一緒に来てくれたら毎日飲めるわよ? カーマイル。どうする?」
「ぐぬぬ……」
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皆で長い時間を過ごし一緒に行動する事で、気持ちが一つになるのではと考えました。
その上で魔王討伐という偉業を、成し遂げたかったのです。
サーラが居るから、天使が四人も居るから、……だから魔王討伐なんて簡単だ、などと思ってはいけません。
イレギュラーで討伐不可能な魔王アランが誕生したように、何が起きるか分からないのです。
万全の態勢で挑まなければならないと思うのです。
「行けばいいのでしょう? 行けば? どうせつまらない旅になると思いますけど、行くならさっさとして下さい」
「ありがとう、カーマイル。皆仲良く行きましょうね」
「ふんっ」
宣言通り、お店のウォークインにあるトマトジュースを全部、フォウのポケットにしまってもらってから、アランの屋敷で待機しているサーラと天使ニナを呼びに行く事にしました。
「ニナとサーラはすぐに出れる?」
「準備は整っております。いつでも出発は可能でございます」
「では、迎えに行くわよ」
ノートにあらかじめ書いてある『転移魔法』の簡略文字列のあるページに、目的地を記入しました。
ここに来てようやく、私も前向きに進もうと思えるようになれました。
もし楽しく旅行が出来たなら、私のその気持ちを感じ取ったフォレスが安心して出て来てくれるかもしれませんから。
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