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第二部 第二章 追跡者
73・嘘発見器
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「さっきから何をしているのですか、サオリは」
「ふふっ、凄いアプリを見つけちゃったのよ」
まるっきり信じてしまうのもどうかと思いますけど、とりあえずこれで嘘か本当かの見分けはつきそうです。
「神様が作ったものだし、天使たちも信用出来るんじゃない? ではこの結果を信じる事にして、カルミナさんはエメドーラとはグルでは無かったという前提で話を進めましょう」
「よく分かりませんが、カルミナがエメドーラと仲間で無かった場合、サオリが狙われたのは偶然だったという事になりますけど、もしかすると条件が合う対象が訪れた場合にのみ、発動するものだったのではないでしょうか」
「わたくしも同じように思います。ある条件を持った者が現れた時に、エメドーラにスイッチが入るようになっていたのかもしれません。スイッチが入った瞬間、エメドーラは暗殺者に変わるのです。そして、その兆候はありました。……彼女が奇怪な発作を起こした時です」
あれですか……確かにあの突然の発作はとてもおかしな感じがしました。
あの発作を起こした時が、スイッチが入った瞬間だったのでしょうか。
「ではその条件とは、何?」
「発作を起こした時、エメドーラはラフィーの瞳をじっと見ていたではないですか、答えは明白です」
「ずばり、天使が条件だったと言う事ね?」
天使を条件として罠を仕掛けるような者など、限定されるではないですか。
「いいですか、サオリ? まとめますよ。……まずこの街で魔族の反応があった。偶然訪れた宿屋の女主人は何者かが操る人形だった。そいつは闇魔法を使って罠を仕掛けていた。闇の魔法を得意とする種族は魔族です。そして発動の条件は『天使』。これだけでもう分かると思いますけど、天使に恨みを持つ魔族なんてあいつくらいしか居ないじゃないですか」
やはり、それは――
「ジーク!?」
あのジークとかいう魔族は、私たちに狙いを定めている?
「ここが王族や貴族を相手にする宿屋というのは本当だったのでしょう。では何故ここに罠を仕掛けたのか。天使が発動条件なのだとしたら、何故天使が来ると分かっていたのか。そこはどうなの? フォウ」
「ジークはあの魔族領でサオリ様とわたくしたちを見ています。あのような場所に天使と共に居るサオリ様が普通の人間であるとは考えないでしょう。恐らく勇者だと思われたのではないでしょうか。魔王が復活した後のタイミングならなおさらです。そして、わたくしやサーラやニナの顔も知っていて、何度か戦い、最後には敗れています。恨みが無いとも言えません」
そうでした。私は魔族領でジークと会っていたのです。
天使と一緒の私をターゲットにしたとしても不思議ではありません。
「勇者と言えば、立場的には王族とは言わないまでも、それに近いものになります。人々からの扱いも特別です。もしかしたらこういった身分の高い者向けの宿屋のあちこちで、罠を仕掛けているのかもしれません。ジークの用意周到さやしつこさは、わたくしたちもよく知っている所です」
フォウはさらに続けて、怖い事を言い始めました。
「この宿屋がいつから経営していたのかは分かりませんが、あのエメドーラも元は人間だった可能性があります。ジークの手によって操り人形にされた者を、過去に見ていますから。その時に操られていた人間は、腹の中に武器を埋め込まれ、自らの手でそれをえぐり出して使用して、アランを暗殺しようとしました」
えええ……そんなやつに私は狙われているのですか?
既に生きた心地がしないです。
「でも魔族領で会ってから、そんなに日にちも経っていないじゃない。そこまで行動が早いの? ジークというやつは」
「相手がジークなら不思議ではありません。既にわたくしたちを付けて回っていると考えていた方がいいと思います。決して油断はしないで下さい、サオリ様」
そんな……おちおちぐっすりと眠れもしないではないですか。
「そうだ、あの泥棒にも話を聞かないとね。フォウ、出してもらえる?」
「かしこまりました」
フォウの袖口からニュルニュルと、カルミナのペンダントを盗もうとした泥棒の男が取り出されました。
気絶したまま、ゴロンと床に転がされます。
「その男を覚醒させて」
近くに居たラフィーが男の上半身を起こして――頭を勢いよく、ゴン! と殴りました。
え!? 私の知っている覚醒方法と違う! 私がよくドラマとかで見て知っているのは、相手の背中に膝を当ててエイッとやると目を覚ますというアレでした。
「う~ん」
雑に見えたラフィーのやり方でも、結果としてはちゃんと覚醒されたようなので、良しとしましょう。
スマホの『嘘』アイコンをタップして、男に向けました。
「寝起きの所悪いけど、さっそく質問させてね。あなたの名前は?」
「誰だてめえ」
ゴン! と、ラフィーのゲンコツが男の頭を鳴らしました。その仕草がとても可愛くて、暴力的な事をしているというのに、心が癒されてしまいます。
「いってえ! 何しやが――」
ゴン! またしても男の頭が揺らされます。――殴るラフィーが本当に可愛らしくて……尋問を忘れて抱きしめたくなります。
「わかった、わかったから殴るな! 俺の名前はデニムだ!」
――『NO』
「あら、嘘を言っていますね」
「なんでわかんだ――」
ゴン! ラフィーのゲンコツに、一瞬だけ白目をむいて気絶しかけましたが、ペチン! と今度は平手打ちを左頬に打たれて、目をパチクリさせて目覚めました。
「何をまどろっこしい事をしているのですか、サオリは。私がお手本を見せますから、よく見ていて下さい」
カーマイルがずいと前に出て、いきなり男の左耳を根元から、魔力を籠めた手刀で切り落としました。
え!? ――き、き、き、切り落とした!?
「うぎゃあああああ!」
男の目の前に、その左耳が転がっています。
「ちょっと! カーマイル、やりすぎ!」
「第二天使、いやサーラの方がいいですね。回復を」
「なの?」
「は、はい」
カーマイルはニナではなくサーラに回復を頼むと――
「えいっ」というサーラの掛け声と共に大魔導師の杖の先端が赤く輝き、あっという間に男の耳を再生させてしまいました。
「第二天使よりもサーラの方が回復レベルが上ですからね。見ての通りただの回復ではなく、再生されます」
新たに再生――つまり、切り落とされた耳がくっ付いたのではなく、新しく生えたのです。
「な、な、な、なんだこりゃ! 耳が……たった今切り落とされたのに、耳がある! 痛みも消えた!」
確かに耳はありますが、その周りと耳を抑えていた男の手は、血まみれになっています。
カーマイルは床に転がる左耳をつまんで拾い、男の目の前に差し出すと――
「あなたが本当の事を話すまで、これを繰り返します。体の各部位を一か所ずつです。切り落とした部位は床に並べて行くので、標本が出来上がるまで是非耐えてみて下さい。次は左腕にしましょうか」
「ひっ! ひぃぃぃぃぃぃ!」
「では、左腕を――」
「ごめんなさい! 何でも話します! 何でも話しますから! 勘弁してください!」
男は涙と鼻水で顔面をグシャグシャにしながら、カーマイルに土下座してひたすら謝っています。
――この世界にも、土下座ってあるのですね。
「何を言っているのですか、馬鹿ですか? これからが良い所なのではないですか。一緒に頑張って標本を完成させましょう」
「もうやめでぐだざいぃぃぃ!」
「一番最後に首を刎ねます。頭が再生された時に、果たしてその脳ミソは本当のあなたなのでしょうか。落とされた首からの目線で確かめて下さい」
「ちょっと、カーマイル! 趣味が悪いわよ!」
「ふん」
男は土下座をした体勢のまま、失禁をしていました。
アルコールが混ざっているのか、異臭が広がったため、ラフィーに水魔法で男ごと洗浄してもらいます。
私もこれ以上、残酷なシーンは見たくもありません。
カルミナも涙目になって、固まってしまっています。
もしかしたら自分がこうなっていたのではと、思っているのかも知れませんね。
「じゃあ、あらためて、あなたの名前は?」
「は、はい! 自分はデイルという者であります!」
言葉使いも変わったずぶ濡れの男は、デイルと名乗りました。
――『YES』
「本当の事を話してくれたわね。では、あなたは何故彼女のペンダントを盗もうとしたの?」
「それは、あの女が高価そうなペンダントを首からぶら下げている所を、たまたま見たからです!」
「どこで見たの?」
「あの女は毎日酒場に居るので、そこでです!」
「毎日? 酒場?」
カルミナが説明をしてくれました。
「私、その酒場で歌い手をやっているのです。それが仕事なもので」
「歌手だったのですね、カルミナさんは」
ここまでの会話全てに『YES』の表示が出ていますので、デイルもカルミナも嘘はついていないようです。
「ちなみにこのペンダントの価値は知っているの?」
デイルの前に、私の持つペンダントをぶら下げて見せました。
「全然分からないです! 見た目が高価そうって思っただけです!」
「誰かに頼まれたわけでもなくて?」
「はい! 盗みをやる時はいつも一人です! 依頼も受けた事はありません!」
これらも、『YES』 ――盗みの常習犯なのですね。
この後も魔族の事や、この街の事などいくつか質問をしましたが、特にこれと言った情報は得られませんでした。
この男は、魔族とは関係が無かったようです。
「裏にジークが居る事はもう予想が付いたので、この男から得る情報は無いのではないですか? サオリ」
「そうかも知れないわね。なら、もういいかな」
「では、殺します」
「「ちょっと待ったぁ!」」
思わず私とデイルとで、ハモってしまったではないですか。
しかもカーマイルの左手は既に、魔力が籠められて発光してますし、殺す気満々ではないですか!
「なんでそうなるのよ!? 別に殺さなくてもいいでしょう?」
「サオリがもういいって言うから、そういう事なのではないのですか? 私たちに一時的にとはいえ面倒を掛けたこの男は万死に値します」
「そんな調子でいたらこの先どれだけ死人の山が出来ると思ってるのよ! 駄目よ簡単に殺しちゃ!」
「ふん」
これが天使の感覚というものなのでしょうか。
死生観がまるっきりズレています。
「あ、あの……カーマイル様」
サーラがカーマイルに話しかけるのを、初めて見ました。
「あの……あの……いくら、わたしでも……この杖でも……首を、落としてしまったら……回復、出来ま……せん」
「あら、そうでしたか。まあどっちでも良かったのですけれどね」
カーマイルはどこまでも、カーマイルなのでした。
さて、この男の事はもういいでしょう。
「あなたにも事情はあるのかも知れないけど、もう盗みは止めなさい。こんな目に遭うのはもうこりごりでしょう?」
「は、はい! 姉さん! 姉さんに救われた命、一生大事にします!」
私たちはデイルを解放しました。
転がるようにして――実際転んでいましたが――この家から出て行くデイルを見送った後、私はカルミナに視線を移しました。
「おまたせしました。カルミナさん。……ペンダントの話を、しましょうか」
「ふふっ、凄いアプリを見つけちゃったのよ」
まるっきり信じてしまうのもどうかと思いますけど、とりあえずこれで嘘か本当かの見分けはつきそうです。
「神様が作ったものだし、天使たちも信用出来るんじゃない? ではこの結果を信じる事にして、カルミナさんはエメドーラとはグルでは無かったという前提で話を進めましょう」
「よく分かりませんが、カルミナがエメドーラと仲間で無かった場合、サオリが狙われたのは偶然だったという事になりますけど、もしかすると条件が合う対象が訪れた場合にのみ、発動するものだったのではないでしょうか」
「わたくしも同じように思います。ある条件を持った者が現れた時に、エメドーラにスイッチが入るようになっていたのかもしれません。スイッチが入った瞬間、エメドーラは暗殺者に変わるのです。そして、その兆候はありました。……彼女が奇怪な発作を起こした時です」
あれですか……確かにあの突然の発作はとてもおかしな感じがしました。
あの発作を起こした時が、スイッチが入った瞬間だったのでしょうか。
「ではその条件とは、何?」
「発作を起こした時、エメドーラはラフィーの瞳をじっと見ていたではないですか、答えは明白です」
「ずばり、天使が条件だったと言う事ね?」
天使を条件として罠を仕掛けるような者など、限定されるではないですか。
「いいですか、サオリ? まとめますよ。……まずこの街で魔族の反応があった。偶然訪れた宿屋の女主人は何者かが操る人形だった。そいつは闇魔法を使って罠を仕掛けていた。闇の魔法を得意とする種族は魔族です。そして発動の条件は『天使』。これだけでもう分かると思いますけど、天使に恨みを持つ魔族なんてあいつくらいしか居ないじゃないですか」
やはり、それは――
「ジーク!?」
あのジークとかいう魔族は、私たちに狙いを定めている?
「ここが王族や貴族を相手にする宿屋というのは本当だったのでしょう。では何故ここに罠を仕掛けたのか。天使が発動条件なのだとしたら、何故天使が来ると分かっていたのか。そこはどうなの? フォウ」
「ジークはあの魔族領でサオリ様とわたくしたちを見ています。あのような場所に天使と共に居るサオリ様が普通の人間であるとは考えないでしょう。恐らく勇者だと思われたのではないでしょうか。魔王が復活した後のタイミングならなおさらです。そして、わたくしやサーラやニナの顔も知っていて、何度か戦い、最後には敗れています。恨みが無いとも言えません」
そうでした。私は魔族領でジークと会っていたのです。
天使と一緒の私をターゲットにしたとしても不思議ではありません。
「勇者と言えば、立場的には王族とは言わないまでも、それに近いものになります。人々からの扱いも特別です。もしかしたらこういった身分の高い者向けの宿屋のあちこちで、罠を仕掛けているのかもしれません。ジークの用意周到さやしつこさは、わたくしたちもよく知っている所です」
フォウはさらに続けて、怖い事を言い始めました。
「この宿屋がいつから経営していたのかは分かりませんが、あのエメドーラも元は人間だった可能性があります。ジークの手によって操り人形にされた者を、過去に見ていますから。その時に操られていた人間は、腹の中に武器を埋め込まれ、自らの手でそれをえぐり出して使用して、アランを暗殺しようとしました」
えええ……そんなやつに私は狙われているのですか?
既に生きた心地がしないです。
「でも魔族領で会ってから、そんなに日にちも経っていないじゃない。そこまで行動が早いの? ジークというやつは」
「相手がジークなら不思議ではありません。既にわたくしたちを付けて回っていると考えていた方がいいと思います。決して油断はしないで下さい、サオリ様」
そんな……おちおちぐっすりと眠れもしないではないですか。
「そうだ、あの泥棒にも話を聞かないとね。フォウ、出してもらえる?」
「かしこまりました」
フォウの袖口からニュルニュルと、カルミナのペンダントを盗もうとした泥棒の男が取り出されました。
気絶したまま、ゴロンと床に転がされます。
「その男を覚醒させて」
近くに居たラフィーが男の上半身を起こして――頭を勢いよく、ゴン! と殴りました。
え!? 私の知っている覚醒方法と違う! 私がよくドラマとかで見て知っているのは、相手の背中に膝を当ててエイッとやると目を覚ますというアレでした。
「う~ん」
雑に見えたラフィーのやり方でも、結果としてはちゃんと覚醒されたようなので、良しとしましょう。
スマホの『嘘』アイコンをタップして、男に向けました。
「寝起きの所悪いけど、さっそく質問させてね。あなたの名前は?」
「誰だてめえ」
ゴン! と、ラフィーのゲンコツが男の頭を鳴らしました。その仕草がとても可愛くて、暴力的な事をしているというのに、心が癒されてしまいます。
「いってえ! 何しやが――」
ゴン! またしても男の頭が揺らされます。――殴るラフィーが本当に可愛らしくて……尋問を忘れて抱きしめたくなります。
「わかった、わかったから殴るな! 俺の名前はデニムだ!」
――『NO』
「あら、嘘を言っていますね」
「なんでわかんだ――」
ゴン! ラフィーのゲンコツに、一瞬だけ白目をむいて気絶しかけましたが、ペチン! と今度は平手打ちを左頬に打たれて、目をパチクリさせて目覚めました。
「何をまどろっこしい事をしているのですか、サオリは。私がお手本を見せますから、よく見ていて下さい」
カーマイルがずいと前に出て、いきなり男の左耳を根元から、魔力を籠めた手刀で切り落としました。
え!? ――き、き、き、切り落とした!?
「うぎゃあああああ!」
男の目の前に、その左耳が転がっています。
「ちょっと! カーマイル、やりすぎ!」
「第二天使、いやサーラの方がいいですね。回復を」
「なの?」
「は、はい」
カーマイルはニナではなくサーラに回復を頼むと――
「えいっ」というサーラの掛け声と共に大魔導師の杖の先端が赤く輝き、あっという間に男の耳を再生させてしまいました。
「第二天使よりもサーラの方が回復レベルが上ですからね。見ての通りただの回復ではなく、再生されます」
新たに再生――つまり、切り落とされた耳がくっ付いたのではなく、新しく生えたのです。
「な、な、な、なんだこりゃ! 耳が……たった今切り落とされたのに、耳がある! 痛みも消えた!」
確かに耳はありますが、その周りと耳を抑えていた男の手は、血まみれになっています。
カーマイルは床に転がる左耳をつまんで拾い、男の目の前に差し出すと――
「あなたが本当の事を話すまで、これを繰り返します。体の各部位を一か所ずつです。切り落とした部位は床に並べて行くので、標本が出来上がるまで是非耐えてみて下さい。次は左腕にしましょうか」
「ひっ! ひぃぃぃぃぃぃ!」
「では、左腕を――」
「ごめんなさい! 何でも話します! 何でも話しますから! 勘弁してください!」
男は涙と鼻水で顔面をグシャグシャにしながら、カーマイルに土下座してひたすら謝っています。
――この世界にも、土下座ってあるのですね。
「何を言っているのですか、馬鹿ですか? これからが良い所なのではないですか。一緒に頑張って標本を完成させましょう」
「もうやめでぐだざいぃぃぃ!」
「一番最後に首を刎ねます。頭が再生された時に、果たしてその脳ミソは本当のあなたなのでしょうか。落とされた首からの目線で確かめて下さい」
「ちょっと、カーマイル! 趣味が悪いわよ!」
「ふん」
男は土下座をした体勢のまま、失禁をしていました。
アルコールが混ざっているのか、異臭が広がったため、ラフィーに水魔法で男ごと洗浄してもらいます。
私もこれ以上、残酷なシーンは見たくもありません。
カルミナも涙目になって、固まってしまっています。
もしかしたら自分がこうなっていたのではと、思っているのかも知れませんね。
「じゃあ、あらためて、あなたの名前は?」
「は、はい! 自分はデイルという者であります!」
言葉使いも変わったずぶ濡れの男は、デイルと名乗りました。
――『YES』
「本当の事を話してくれたわね。では、あなたは何故彼女のペンダントを盗もうとしたの?」
「それは、あの女が高価そうなペンダントを首からぶら下げている所を、たまたま見たからです!」
「どこで見たの?」
「あの女は毎日酒場に居るので、そこでです!」
「毎日? 酒場?」
カルミナが説明をしてくれました。
「私、その酒場で歌い手をやっているのです。それが仕事なもので」
「歌手だったのですね、カルミナさんは」
ここまでの会話全てに『YES』の表示が出ていますので、デイルもカルミナも嘘はついていないようです。
「ちなみにこのペンダントの価値は知っているの?」
デイルの前に、私の持つペンダントをぶら下げて見せました。
「全然分からないです! 見た目が高価そうって思っただけです!」
「誰かに頼まれたわけでもなくて?」
「はい! 盗みをやる時はいつも一人です! 依頼も受けた事はありません!」
これらも、『YES』 ――盗みの常習犯なのですね。
この後も魔族の事や、この街の事などいくつか質問をしましたが、特にこれと言った情報は得られませんでした。
この男は、魔族とは関係が無かったようです。
「裏にジークが居る事はもう予想が付いたので、この男から得る情報は無いのではないですか? サオリ」
「そうかも知れないわね。なら、もういいかな」
「では、殺します」
「「ちょっと待ったぁ!」」
思わず私とデイルとで、ハモってしまったではないですか。
しかもカーマイルの左手は既に、魔力が籠められて発光してますし、殺す気満々ではないですか!
「なんでそうなるのよ!? 別に殺さなくてもいいでしょう?」
「サオリがもういいって言うから、そういう事なのではないのですか? 私たちに一時的にとはいえ面倒を掛けたこの男は万死に値します」
「そんな調子でいたらこの先どれだけ死人の山が出来ると思ってるのよ! 駄目よ簡単に殺しちゃ!」
「ふん」
これが天使の感覚というものなのでしょうか。
死生観がまるっきりズレています。
「あ、あの……カーマイル様」
サーラがカーマイルに話しかけるのを、初めて見ました。
「あの……あの……いくら、わたしでも……この杖でも……首を、落としてしまったら……回復、出来ま……せん」
「あら、そうでしたか。まあどっちでも良かったのですけれどね」
カーマイルはどこまでも、カーマイルなのでした。
さて、この男の事はもういいでしょう。
「あなたにも事情はあるのかも知れないけど、もう盗みは止めなさい。こんな目に遭うのはもうこりごりでしょう?」
「は、はい! 姉さん! 姉さんに救われた命、一生大事にします!」
私たちはデイルを解放しました。
転がるようにして――実際転んでいましたが――この家から出て行くデイルを見送った後、私はカルミナに視線を移しました。
「おまたせしました。カルミナさん。……ペンダントの話を、しましょうか」
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