異世界コンビニ☆ワンオペレーション

山下香織

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第二部 第三章 対決

82・突然ですが、別行動になりました

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「魔王がまだ目覚めていない事が前提ですが、先にジークを叩きます」

 カーマイルの決断は早く、今のうちにジークだけでも倒しておこうと言うのです。
 確かに魔王が目覚めてからでは遅い気がしますが、果たして上手く行くのでしょうか。

「私とサーラと第四天使だけで魔王城に向かいます。第二天使と第三天使はサオリに付いていて下さい」
「あなたたちだけで大丈夫なの?」

 カーマイルは口にこそ出しませんでしたが、表情で「馬鹿ですか?」と伝えてきました。
 もはや私とカーマイルとの間に、言葉はいらないようです。『馬鹿ですか』限定ですが。

「魔王の討伐ではないので足手まといのサオリは必要ありません。ただ一人にしておくわけにも行かないので、天使を二人置いて行きます。エリーシアには手を出しません。下手な刺激を与えて魔王を目覚めさせても馬鹿らしいので」
 
 急な話で私も迷いましたがエリーシアには手を出さないと約束をしてくれたので、私もそれならばと納得をしてカーマイルたちを送り出す事に決めました。

「本当に、エリーシアだけは守ってね」
「守るとは言っていません。手は出さないと言ったのです。ジークとの戦闘でエリーシアに飛び火したとしても、それは不可抗力であって私の知る所ではありません。その結果、魔王を目覚めさせる事になったとしても、それはそれで仕方のない事です」
「そんな……さっき下手な刺激を与えて目覚めさせたくないって言ってたくせに……」

 カーマイルにとっては、魔王よりもジーク討伐の方に重きを置いているような気がします。
 エリーシアが魔王だという仮説を立てた事によって、少し魔王を舐めて掛かっているのではないでしょうか。
 見た目が金髪巻き髪の少女だとしても、魔王として目覚めた途端、どのような強敵になるやも知れないのに。

 けれどもこちらから攻めて出るには、今しかないとも分かっています。
 ジークを攻略して魔王が目覚める前にエリーシアを確保出来れば、まだ彼女を救える道が残っているのかも知れないのです。

「今から、行くの?」
「当然です。魔王はいつ目覚めるのか分からないのですから。サオリはこのまま旅を続けてください」
「旅をするのはいいけど、私が何処にいるのか分からなくならない?」
「大丈夫です。サーラ、サオリにマーキングを」

 そういえばサーラのマーキングは、対象の居る場所に転移する事が出来るのでした。
 
「惜しい事に、ジークに付けたマーキングは見破られて外されてしまったので、やつの元に直接転移は出来ないようですが、まぁ何とかなるでしょう」
「で、では……失礼します。……サオリ様」

 サーラがおっかなびっくりな態度で、大魔導師の杖を軽く振り、私にマーキングの魔法を掛けました。
 
 まだこれが本当に正しい決断なのか、私には分からないのですが、カーマイルの判断を信じる事にしました。
 いずれにしろ、私に出来る事は何も無いのですから。

「じゃあ、気を付けて行って来てね。無茶はしないでね」
「サオリはせいぜい、妖精が早く目覚めるように声掛けでもしてて下さい」
「う、うん」
「では、さっさと行きます」

 どうやって魔王城を探すのかとか、ジークの攻略はどうするのかとか、色々と聞けないまま慌ただしく、別行動が決まってしまいました。

 サーラが杖を構えました。

「行ってまいり……ます。サオリ、様」
「必ず戻ります。サオリ様」
「ふん」

 パシン! と、空間を切り裂いて三人は消えました。
 前回と同じ、魔王城跡地に飛んだのでしょう。
 
「みんな、……死なないでね」 

 これで本当に良かったのか、私には分かりません。
 ジークの元に向かった三人の中で、回復魔法が使えるのはサーラだけです。
 ニナが狙われたように、サーラがまず攻撃される事も予想されます。

 もしサーラがニナの時みたいに負傷してしまったら……たちまち大ピンチになるに違いありません。
 ただ、結界を展開出来る者が二人居るので、そこは上手くカバーしてくれる事を祈るばかりです。
 でも――

「サーラの結界でも、たった一発で壊されていたよね……」

 信じられないような光景を目の当たりにしているので、どうしても不安が募ります。
 考えれば考える程、上手く行かないような気になってくるのです。

「こーな?」
「なの」

 私の元に残った、お気楽天使が二人。不思議そうに私を見つめています。
 その十字に光る瞳を見ればまるで、「あの三人が信じられないの?」と、問われているようです。

「そうね。ここは彼女たちを信じて待ちましょう」

 私たちは、フォウが置いていってくれた馬車に乗りこみました。
 彼女たちの魔族領での移動手段は、どうなるのでしょう。
 聞いてはいませんが、もしかしたらまだ違う馬車が、ポケットにあるのかも知れませんね。

 御者台にはニナが座りました。

「とりあえず、次の街を目指しましょうか」

 払拭出来ない不安を胸に残したまま、私たちは旅の続きを再開したのです。



 ◇  ◇  ◇



 最初に野営した河原に戻ってしまっていたので、私たちはジークと邂逅した場所まで転移しました。
 そこから再出発をして、さらに二日程馬車を走らせると、ようやく街が見えて来ました。
 二日の間は馬車の中で寝泊まりをしましたが、特に不自由もなく、意外と快適に眠れました。
 馬車にはサーラのお婆様の防護魔法も掛かっていますし、何かあればすぐに二人の天使が気付いてくれるだろうと楽観して、安心して寝てました。

「まだちょっと距離があるけど、夕方までには着きそうね」

 遠目に見える街は、それほど大きくもなさそうです。
 
「小さな街でも、何か食べられるお店くらいあるでしょ」
 
 フォウが居ないため、ここ数日の食事はもっぱら天使たちの狩りによるもので、毎日まいにち、肉、肉、肉……でした。
 緑のものも食べたい所なのですが、そこら辺りに生えている野菜に見えなくもないものたちを見ても、ちょっと食べてみようという勇気は出ませんでした。

 少しだけ休むつもりで馬車を停めていたのですが、ラフィーとニナが二人して勝手に、どこかへ行こうとしたので慌てて止めました。

「どこへ行くの? 二人とも。おトイレ?」
「ん? あっち」
「なの」

 ラフィーが指差すその先には、ついさっきまで馬車で走っていた森があります。
 森を抜けた所で街が見えたので、小休止したのです。

「森へ行ってどうするの?」
「ん? ごあん」
「なの」
「なんでよ? もうちょっとしたら街に着くんだから我慢しなさいよ。……ていうか、さっき食べたじゃないの!」

 どうしてこの子たちは、こうも食欲があるのでしょう。
 ほんの二時間程前に森の中で休憩した時に、二人はおやつと称してその場で狩った鳥を四羽程、丸焼きでペロリと食べていたのです。
 食いしん坊のこの二人は、他の天使とはまた違う種類の天使なのかと、思ってしまう程です。

「ごあん?」
「なの?」
「そうよ、街に行けば食事も出来るわよ。そろそろ焼いたお肉も飽きたでしょう? たまには違うものも食べましょうよ」

 お肉に飽きたのは何を隠そう私なのですが、フォウに調味料をもらうのを忘れたため、ただ焼いただけのお肉を毎日食べていたのです。
 最初こそ、焼いただけでも美味しかったのですが、数日間毎日焼肉だとさすがに飽きてきました。
 ニナとラフィーは日替わりで違った動物を狩ってくるのですが、それでも一日三食が焼肉だと体が受け付けなくなってきます。

 正直、もう見るのも嫌になっていました。
 私の体重が増えていたら、絶対にこの二人のせいです。
 
「じゃあ行くわよ。はい、馬車に乗って」

 ニナが大人しく御者台に乗ったのを確認してから、私とラフィーは幌の中へ入りました。
 馬車は街へ向けて軽快に走り出し、その凄まじい加速ともの凄い速度は、ニナの空腹の度合いを示しているかのようでした。

「ちょっとニナ! さっき食べたばかりなのに、何でそんなに急ぐのよ!」
「なの?」

 御者台のニナに向かって叫んだ私の声は、届いているのか、いないのか――
 ニナはお構いなしに速度を上げ続け、恐らくこれまでの最高速度の記録を更新して、あっという間に街へと着いてしまいました。



 ◇  ◇  ◇



「ふぁ~っ、食べた食べた。美味しかったねぇ。ニナもラフィーも満足した?」
「おいしーなの!」
「こーな!」

 街に入るなり私たちは、すぐに食堂付きの宿屋を見つけ、そこの食事にありついたのでした。
 お肉は見るのも嫌だったので、野菜スープや野菜の炒めもの、生野菜のサラダに野菜のお漬物みたいなものまで、肉以外の料理を沢山頼んでみました。
 最後に果物のデザートも頂きました。

 恐ろしい事に、二人の天使はここに来ても、肉料理をメインに頼んで食べていました。

「よく食べられるわね。お肉飽きないの?」
「あきないなの」
「こーなの」

 ラフィーがニナの言葉に釣られて、『なの』とか言っちゃっています。
 なんて可愛いのでしょう……。

「今日の宿もここでいいわよね。じゃあちょっとお会計してくるから、フォウ――」

 そこまで言って、愕然としました。
 何て事でしょう……お金はすべて、フォウのポケットの中だったのです。
 前払い制が多いこの世界で、ここはたまたま後払いだったらしく、お金の事をすっかり忘れていました。

「やだ、どうしよう。……あなたたちお金なんて持ってないわよね?」
「ないなの」
「ん?」

 この二人が、お金を持っているはずもありませんでした。
 ラフィーに至っては、お金の概念さえも分かっていなささそうです。

 食事を終えて、挙動不審になっている私の様子に気付いたのか、宿屋ここの主人らしき男性がカウンターの向こうでギロリと睨んでいます。
 もしかして疑っているのでしょうか。
 しかし、本当にお金を持っていないので、無銭飲食を疑われても、お察しの通りですとしか言えないのですが。

 どうする!? 私!!

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