異世界コンビニ☆ワンオペレーション

山下香織

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第二部 第三章 対決

83・黄金の騎士

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 どうする!? どうすれば!? どうしたら!? どうしましょう! 
 プチパニックな私は、一瞬だけ転移して逃げようかと思ってしまいましたが、それはちょっと人としてやってはいけない事のような気がします。
 では、どうすればいいのか……そうだ! 正直にお話ししてから、お店コンビニに転移してお金を取ってくればいいのではないでしょうか。
 考えてみたら簡単な事でした。
 では、さっそく交渉してみましょう。

 私たち三人は、宿屋の主人と思しき男性の元へ行き、カウンター越しに交渉を始めました。

「このお店の方……ですよね?」
「ああ、俺がマスターだ」
「あの、実は私たち、ちょっとお金の持ち合わせが無くて……これから取りに行くので少しだけ待っていただけませんか?」

 私は両手を胸の前に組んで、お願いをするポーズで真摯に訴えました。
 宿屋のマスターは『やっぱりな』と言いたそうな、納得した顔をしていました。
 やはり先程までの私の挙動不審な態度が、そう思わせていたみたいです。

「金を取りに戻るのは構わないが、代りにこの二人の子供は置いて行きな」
「え!?」
「今日中に戻らなきゃ、この二人は然るべき所に売り飛ばす。ちなみにさっきの食事代は銀貨五枚だ」
「え!?」
「ほら、さっさと行け。そうだその鞄も置いていけ、どうせたいした物も入ってないだろうけどな」
「え!?」

 マスターはショルダーバッグをひったくるようにして私から取り上げると、私の両肩を掴んで後ろを向かせ、背中をドンと叩きました。
 私は前のめりになりながら、転ばないように何とか踏ん張りました。

「今日中だぞ。きっちり銀貨五枚、持ってこい」

 そう言うとマスターは二人の天使を抱えて、カウンター裏にあった扉の奥へと消えて行きました。
 天使たちは大人しくぶら下がっていました。
 私が何も命令しないので、様子を見てくれているのでしょう。
 暴れられても困るので、それは助かるのですが――

「ええええ!?」

 ちょっと、これは……あっという間の出来事で、またしても私の頭はパニックになってしまいました。
 
「あっ、鞄がないと転移できない……ちょっとすいませーん! 鞄は返してくださーい!」

 鞄の中にノートと羽根ペンが入っているのです。
 それが無ければ転移も他の魔法も、何も使えません。

 扉を叩いても中からの反応は無く、開けようとしても鍵を掛けられたのか、開きませんでした。
 すると厨房の方から一人の女性が現れて――

「あっちで聞かせてもらったよ、お金を持ってなかったんだって? ここのマスターは本気であの子供を売っちまうと思うから、早くお金を取ってきた方がいいよ」
「そんな……」
「あたしはここの厨房で働いてるけど、あいつはお金に関してはうるさいってよく知ってるんだ。食事だけで銀貨五枚分も食べる客なんて珍しいから、最初から疑われてたんだと思うよ。諦めてお金を用意してきな」
「は……はい」

 そのまま追い出されるようにして外に出てしまってから、私は途方に暮れました。

「ちょっと、何でこうなるのよ」

 見知らぬ街でたった一人。魔力も無い私にどうしろと言うのでしょうか。
 転移が出来なければ、お金を取りに戻る事も出来ないですし、たった今、この身を守る術も何もないのです。
 今思えば、馬鹿正直に宿屋のマスターに相談したりせずに、テーブルに居た時にこっそりと転移して、お金を取ってくれば良かったと後悔しました。

 茫然と立ち尽くして、両手をワンピースのポケットに突っ込んだ瞬間、右手に何かが触れました。

「あっ、スマホ」

 何も無かったはずの私に、たった一つの希望が残されていました。
 このスマホのアプリで、何か解決策が見つかるかも知れません。

 とにかく何か、使えるアプリを探さなくては――
 画面に表示されたアイコンたちを、順に見て行きます。

「『魔』は意味ないし、『獣』も使い所じゃないし、『健作くん』で何を検索したらいいのか分からないし……」

 『神』は使えるかも知れないと、押してみました。
 神様と連絡が取れるツールなのです。

「『ツー・ツー・ツー』……って何で繋がらないのよ! 本当使えないわねあの神様」

 あと、使えそうなアプリは……。

「『鎧』? こんなアイコンありましたっけ? 鎧とか出てくれたら、それ売ってお金に出来るかも!」

 『鎧』アイコンを押してみました。
 ――ポチっと。

 その瞬間、スマホの画面から、黄金の輝きが光の束となってほとばしり――
 ガシャン! ガシャン! と、次々と黄金のプレートが、私の体に装着されて行きました。
 足のつま先から頭のてっぺんまで、あっという間に私は、黄金の全身鎧プレートアーマーの姿に変身してしまいました。
 しかし――

「なんで光から生成されたくせに、私の体に合っていないのよ! 胸の部分がスカスカじゃないの! ほんと何なの? 神様の嫌がらせ?」

 女性用のプレートアーマーらしく、やたらと胸の部分が強調されているのですが、どうにも私のサイズにフィットしていないのが癪に障ります。

「ちょっとこれ、どうやって脱ぐのよ……このままじゃ売れないじゃないの」

 鎧姿でジタバタしていると、後ろから誰かに声を掛けられました。

「騎士様! こんな所で何を!? 早く合流して下さい!」
「へ?」

 腰の部分に小物入れがあったので、そこにスマホを仕舞ってから、声のする方に向くと、あご髭を生やした男性が手を振っています。
 私が反応しないのを見て、その男性が走って来て私の鎧に包まれた手を取りました。

「早くしてください! みなさん集まっています。馬はどうされたのですか?」
「う、馬? えっと今は休ませているの」
「そうでしたか!」

 確かに騎士と言えば騎乗する馬もセットなのかも知れませんが、私にはサーラから預かった馬車馬しか居ません。
 そういえば、馬車も宿屋の裏手に停めたままでした。
 あれはサーラのお婆様の形見とも言えるものなので、食事のお代として取り上げられなくて良かった――いえ、天使も相当割に合いませんけど!

 私の手をグイグイと引っ張り、小走りでどこかへ連れて行こうとしています。
 どうしたものかと考えているうちに、目的地に着いたようです。

 やって来た場所はこの街の玄関口となる門の所で、そこには二十人程の武装した集団が待ち構えていました。

「何事?」
「おーい、騎士様が迷っておられたから、連れてきたぞ!」

 私を集団でボコボコするような感じでも無かったので、とりあえず訊いてみました。

「これは何の集まりなの?」
「おや? 騎士様もギルドの募集で来たんじゃなかったので?」
「募集?」
「はい、たった今この街にオークの集団が向かっているのですよ。緊急クエストです。それを迎撃するための集まりです」

 オークが街を襲いに来るって事ですか!? 私が鎧姿なので迎撃部隊の一員と思われたのでしょうか。

「あの、ちなみにそれって……報酬は出るの?」
「もちろんですよ、騎士様。活躍すればそれだけ報酬も増えますよ」

 これはもう、やるしかないでしょう。
 幸いこちらから出向かなくても、向こうからやって来てくれるのですから、願ったり叶ったりです。
 鎧の性能は分かりませんが、神様の特別製だと考えれば、そこら辺の鎧よりも高性能に違いありません。

「私も参加します。ここに居ればいいのですね?」
「はい、ありがとうございます。騎士様。もうじきオークのやつらが現れると思います」

 そうと決まれば、後は武器ですね。
 鎧があるのですから当然武器もあるだろうと、スマホを取り出して探してみると――

「武器らしきアイコンが見当たらないんですけど……」

 『武』というアイコンがあっても良さそうなものですが、それも無ければ似たようなものもありません。
 何か武器が無ければ、戦いようが無いではないですか。

「どうしよう」

 そうこうしているうちに、「来たぞ! 大軍だ!」という声が聞こえてきました。

「もう来たの!? 武器がまだ無いんだけど、どうすればいいのよ」

 ちらりと門の方に視線を向けると、オークらしき魔物が数十体、門に向かって押し寄せて来ていました。
 体長二メートル程の肥満した体型で、なかなかの巨体です。
 豚のような顔をしているのに二足歩行をしていて、獣の皮で作ったような服まで身に付けています。
 その手には巨大な棍棒を持ち、武器まで扱える人型の魔物でした。

「いったい何匹居るの!? ちょっと怖いんですけど!」

 一匹のオークが棍棒を一振りしただけで、こちら側の人間が二、三人纏めて吹っ飛んでいました。
 見る間に二十人も居た武装した人間が、ことごとく薙ぎ倒されて行きました。

 やばい、と思った私はすぐにスマホの画面から、『獣』のアイコンを押しました。
 黒い塊りが飛び出すと、すぐにそれはスリムな犬の姿になって、私の足元でお座りしています。

「ロデム! えっと、何か大きくて強そうなものに変身してあいつらを退治して!」

 とても抽象的な命令でしたがロデムは中々優秀らしく、その姿を体長五メートル程の、真っ黒な石の巨人に変えました。

「ゴーレムってやつかしら? それでいいわ! やっつけて!」

 ロデム・ゴーレムはその巨体をオークに向けて、砂塵を巻き上げながら飛び出して行きました。
 巨体ながらも俊敏な動作です。

 オークの集団に突撃すると、二メートルはあるオークを数匹、弾き飛ばしました。
 
「行ける! 強いじゃないのロデム、これなら行けるわ!」

 ちぎっては投げ、ちぎっては投げを繰り返し、猪突猛進のオークを事もなげにあしらっているロデムはとても頼りになりました。
 けれども、オークも残り五匹、という所で――

 ロデムはパッと、忽然と姿を消してしまったのです。

「ああっ! なんで一分しか持たないのよ! 馬鹿神様ばかみさまの役立たず!」

 二十人も居た武装集団はすべて地に倒れ、涎を垂らした興奮状態のオークたちに囲まれて睨まれ、たった一人で立ち尽くす私は――
 
「あっ……」

 ――恐怖のあまりちょっとだけ、本当にちょっとだけ、……漏らしてしまいました。
 
   
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