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第二部 第三章 対決
84・そして、伝説へ
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ちょっと漏らしただけです。滲ませただけなのです。全漏れ垂れ流しじゃありません!
私はいったい、誰に言い訳をしているのでしょうか。
それ所ではありませんでした。
五匹のオークに囲まれて、絶対絶命なのです。
あの神様はこのスマホは壊れないと言っていましたが、一応小物入れに仕舞います。
『獣』は一分待てばまた使えますが、その間にオークにもみくちゃにされて、どこかへやってしまわないとも限らないからです。
そして、私の予想通り、オークは纏めて襲って来ました。
「きゃあぁぁ!」
ドコン! ガン! バキン! と、手当たり次第に殴られ、蹴られ、棍棒で打たれ、私はなすすべもなくその場にしゃがみ込んでしまいました。
ですが、いくら打たれようと殴られようと、ちっとも痛くはありませんでした。
「さ、さすが神様ブランド。い、一流品というわけですね」
決して余裕があるわけではありませんが、どうやらこの鎧を着ている限り、私に危害は及ばないようです。
そろそろ一分経ちましたが、スマホを取り出して操作する事は難しそうです。
結界を張っているのとは違い、相手の物理攻撃は必ず私の体にヒットしているのですから。
「どうしよう……武器が欲しいな……」
いつまでも止まないオークの攻撃に、少し嫌気がさして来ました。
「ああ、もう! うるさい!」
私の顔面を狙ってオークの拳が飛んで来た所を、軽く右手で払い除けました。
「グギャゥゥ!」
オークが悲鳴を上げ、私の胴回りくらいもある太いその腕が、ポッキリと折れているのが確認出来ました。
「おや?」
私は試しにすっくと立ち上がり、右手側に居たオークに対して、サッカーボールキックをお見舞いしました。
「えいっ!」ペチン! と、その瞬間、蹴られたオークは、ピューンと百メートルは吹っ飛んで行きました。
「おやおや?」
これはもしかして、もしかしますよ。
更に左手側に居たオークに、「うりゃっ」と、右ストレートを繰り出しました。
格闘の『か』の字も知らない私のそれは、ただのへなちょこパンチです。
「グッゲーッ」
オークが気持ちの悪い悲鳴を、口から吐き出しました。
ちょうどオークの腹の部分に当たった私のパンチは、一瞬だけ停滞した時間を生み、遅れて来た衝撃がオークの巨体を、遥か遠くへと弾き飛ばしました。
「おやおやおや?」
これはもしかするとただの鎧ではなく、所謂SF小説に出て来るようなパワードスーツとかいうやつではないでしょうか。
つまり、私はこれを装着していれば、強化人間としてパワーアップするのです。
「ふふふ……残りは二匹ですか。掛かって来なさい」
左手を前に突き出して、揃えた指先をクイクイさせて挑発してみました。
腕を折られたオークは既に戦意を喪失しているので、残りは二匹です。
一匹の馬鹿そうなオークは、突進してこようとする素振りを見せていましたが、左側に居たもう一匹のオークが脇目も振らずに一目散に逃げ出したのを見て、慌てて右に倣えをして逃げて行きました。
「勝った……」
「うおおーっ! 騎士様ー!」
遠くで見ていたらしい、あご髭の男性が駆け寄って来ました。
「素晴らしい戦いでした! たった一人であの大軍を退けてしまうとは!」
「あ、ありがとうございます」
周りを見渡せば、二十人の武装集団はすべて倒れていて、生きているのか死んでいるのかも分かりません。
剣を携えた人たちが数人、その倒れている者たちを一人ひとり見て回っていますが、お医者さんなのでしょうか。
私のノートと羽根ペンさえあれば、回復してあげる事も出来たのですが……。
「この街の自警団が調べていますが、オークにやられた者たちから、死者は出ていないようです」
「そうですか。……なら良かった」
「それよりも是非ギルドへお立ち寄り下さい。おっと申し遅れましたが私、ギルド職員のタイネンと申します。ささ、報酬がお待ちですよ、行きましょう」
報酬と聞いて、今の私が断る理由がありません。
早くお金を手にして宿屋に戻らないと、二人の天使が売られてしまうのです。
今も監禁されているであろう天使たちが、酷い目にあっていなければいいのですが……。
しかしよくよく考えてみたら、あの天使たちの価値がわずか銀貨五枚……五千円とは。……知らないとは言え、天使の能力を考えるととんでもない金額設定だと思いました。
あのエリオットでさえ、三億円の値段が付いていたのですから。
「ギルドは遠いのですか?」
「いいえ、歩いてほんの一時間程です」
遠いじゃないですか! 小さな街だと思ってましたが、意外と奥行がありそうです。
私はスマホを取り出して『獣』のアイコンを押しました。
「ロデム、変身! 二人乗り出来る大きさになって!」
たちまち先日と同じようなバイク型に変形したロデムに私は跨り、「後ろに乗ってください」と、タイネンに指示しました。
「こ、これは!? 騎士様の馬ですな! 黒々として逞しい!」
「いや、馬じゃないけど……犬だけど」
タンデムシートにタイネンを乗せ、ギルドの場所を聞くとすぐに加速して飛び出しました。
一分しか時間が無いのです。
徒歩一時間の距離を、ロデム・バイクできっかり一分で走破して、無事ギルドに着きました。
「いや、はや……いささか目が回りましたぞ……」
時間制限で消えたロデムから落ちて、尻餅をついたタイネンはヨロヨロになっていました。
かなりの速度で街を駆け抜けましたが、私はバイクに向いているのか、速いスピードに恐怖心が湧かないのか――しかも先日、事故を起こして死に掛けたばかりだというのに――何ともありませんでした。
ちなみに、ジェットコースターは大好きです。
「さあ、報酬を貰いに行きましょう」
嬉々として、この街の冒険者ギルドの支部に乗り込みました。
ちなみにギルド職員を名乗っていたタイネンは、ここの支部長でした。
「では報酬の金貨二十枚です。お受け取りください。お疲れ様でした」
「あらっ、こんなに?」
ギルドの受付のお姉さんが、カウンター窓口に金貨を並べました。
金貨二十枚と言えば、銀貨二千枚分、つまり二百万円です。
「他の冒険者たちは残念ながらリタイアでしたからな、報酬は騎士様が総取りという事になります」
「そうなんだ、ありがとう」
「しかし騎士様は相当なお強さでしたが、さぞや名のあるお方なのではないでしょうか。その鎧姿も実に凛々しく美しい」
タイネンがあまりにも持ち上げてくるものだから、私も少しだけ気持ちが良くなってしまって、思わずポロリと言ってしまいました。
「いやあ、それ程でもないですよ~。たまに勇者をやってるだけのコンビニ店員です~」
「なんと! これはこれは、勇者様で在られましたか! それは失礼いたしました!」
タイネンが大声を出すものですから、ギルド内がざわつきました。
あれ? 私今、勇者って言いましたっけ? ……言いましたね。
「しかしながら、先ほどの戦いでは聖剣をお使いになられていないご様子でしたが、いかがなされましたか?」
「え? 聖剣? ああえっと、エクスカリバーは月に一度の定期メンテナンスに出してるのよ。うん。だから今日はちょっと素手で、うん」
実際に聖剣を所有している私でしたが、現物はフォウのポケットの中です。
今ここに在ったとしても、フォレスの目覚めていない状態では持つ事も出来ませんけれど。
「そうでしたか! いやはや素手でもお強いのですから、オークごときには聖剣など必要ありませんでしたな!」
「そうなんですよ~。えへへ」
そろそろ宿屋へ戻らないと。……日が暮れてしまいます。
お腹を空かせた天使たちが、私の帰りを健気に待っているはずなのです。
「では、私はこれで」
「あの、失礼ですが勇者様のお名前を……」
そういえば私はずっと鎧姿で顔も見せていませんでしたし、名前も名乗ってはいませんでした。
聖剣も持たずに勇者だと自称している私を、よく信じてくれたものだと感心しました。
私は腰の小物入れからスマホを取り出すと、『鎧』のアイコンを押しました。
時間制限がないのか、いつまでも鎧姿が解除されないので、もう一度押せばいいのではと思いついたのです。
それは正解でした。
スマホから黄金の光が複数の束となって飛び出し、私の装着している黄金のプレートを一枚ずつ剥がして行きます。
すべてのプレートがスマホに吸収されると、私は元の青いワンピースの姿に戻りました。
お店の無限発注システムで取り寄せた、お気に入りのワンピースです。
「私は、サオリよ。王都に来る事があったら、近くのコンビニにも寄ってちょうだいね。ポーションの品揃えが豊富なの」
「はっ、サオリ様。……御芳名、この胸に刻ませていただきます」
プレートアーマーを解除した私を見て、タイネンがやや驚いた表情をしていますが、どうしたのでしょう。
その視線が私の胸の辺りに向かっているような気がするのも、気のせいでしょうか。
恐らく鎧騎士の正体が美しい女性だったので、驚いただけなのでしょうけれども、それは仕方がありませんね。
ギルドの建物を出る時には、ギルド職員が大勢見送りに出て来ました。
既視感を感じましたが、これも気のせいでしょう。
「勇者様はこれからどちらへ?」
「私は今、魔族の怖いやつと交戦中なの。それが済んだら魔王攻略に乗り出すわ」
「下らぬ質問をしてしまいました。お許しください。勇者様のお勤め誠にお疲れ様でございます。どうかこの街を救って下さったように、この世界の平和もお守り下さるよう、心よりお願い申し上げます」
やたらと畏まられてしまいましたけど、勇者と漏らしてしまった私がいけないですね。
ロデムを召喚して、跨りました。
陽も落ちてきて、暮れも迫っています。――急がなければ。
「じゃあ、行きます」
ギルド職員たちに一般冒険者も大勢混ざって、「勇者様に栄光あれ!」と、何度も繰り返し叫んでいます。
私は恥ずかしくて後ろも見れずに、手を軽く振って応えるだけに留め、すぐにロデム・バイクを最大加速で発進させました。
「ニナ、ラフィー、無事で居てね……今帰るから!」
数年後、この街の中心に――
街を救った英雄として、黒い馬に跨った、やたらと胸が強調された全身鎧に身を包んだグラマラスな女勇者の銅像が建てられる事になるのですが、この時の私には知る由もない事でした。
私はいったい、誰に言い訳をしているのでしょうか。
それ所ではありませんでした。
五匹のオークに囲まれて、絶対絶命なのです。
あの神様はこのスマホは壊れないと言っていましたが、一応小物入れに仕舞います。
『獣』は一分待てばまた使えますが、その間にオークにもみくちゃにされて、どこかへやってしまわないとも限らないからです。
そして、私の予想通り、オークは纏めて襲って来ました。
「きゃあぁぁ!」
ドコン! ガン! バキン! と、手当たり次第に殴られ、蹴られ、棍棒で打たれ、私はなすすべもなくその場にしゃがみ込んでしまいました。
ですが、いくら打たれようと殴られようと、ちっとも痛くはありませんでした。
「さ、さすが神様ブランド。い、一流品というわけですね」
決して余裕があるわけではありませんが、どうやらこの鎧を着ている限り、私に危害は及ばないようです。
そろそろ一分経ちましたが、スマホを取り出して操作する事は難しそうです。
結界を張っているのとは違い、相手の物理攻撃は必ず私の体にヒットしているのですから。
「どうしよう……武器が欲しいな……」
いつまでも止まないオークの攻撃に、少し嫌気がさして来ました。
「ああ、もう! うるさい!」
私の顔面を狙ってオークの拳が飛んで来た所を、軽く右手で払い除けました。
「グギャゥゥ!」
オークが悲鳴を上げ、私の胴回りくらいもある太いその腕が、ポッキリと折れているのが確認出来ました。
「おや?」
私は試しにすっくと立ち上がり、右手側に居たオークに対して、サッカーボールキックをお見舞いしました。
「えいっ!」ペチン! と、その瞬間、蹴られたオークは、ピューンと百メートルは吹っ飛んで行きました。
「おやおや?」
これはもしかして、もしかしますよ。
更に左手側に居たオークに、「うりゃっ」と、右ストレートを繰り出しました。
格闘の『か』の字も知らない私のそれは、ただのへなちょこパンチです。
「グッゲーッ」
オークが気持ちの悪い悲鳴を、口から吐き出しました。
ちょうどオークの腹の部分に当たった私のパンチは、一瞬だけ停滞した時間を生み、遅れて来た衝撃がオークの巨体を、遥か遠くへと弾き飛ばしました。
「おやおやおや?」
これはもしかするとただの鎧ではなく、所謂SF小説に出て来るようなパワードスーツとかいうやつではないでしょうか。
つまり、私はこれを装着していれば、強化人間としてパワーアップするのです。
「ふふふ……残りは二匹ですか。掛かって来なさい」
左手を前に突き出して、揃えた指先をクイクイさせて挑発してみました。
腕を折られたオークは既に戦意を喪失しているので、残りは二匹です。
一匹の馬鹿そうなオークは、突進してこようとする素振りを見せていましたが、左側に居たもう一匹のオークが脇目も振らずに一目散に逃げ出したのを見て、慌てて右に倣えをして逃げて行きました。
「勝った……」
「うおおーっ! 騎士様ー!」
遠くで見ていたらしい、あご髭の男性が駆け寄って来ました。
「素晴らしい戦いでした! たった一人であの大軍を退けてしまうとは!」
「あ、ありがとうございます」
周りを見渡せば、二十人の武装集団はすべて倒れていて、生きているのか死んでいるのかも分かりません。
剣を携えた人たちが数人、その倒れている者たちを一人ひとり見て回っていますが、お医者さんなのでしょうか。
私のノートと羽根ペンさえあれば、回復してあげる事も出来たのですが……。
「この街の自警団が調べていますが、オークにやられた者たちから、死者は出ていないようです」
「そうですか。……なら良かった」
「それよりも是非ギルドへお立ち寄り下さい。おっと申し遅れましたが私、ギルド職員のタイネンと申します。ささ、報酬がお待ちですよ、行きましょう」
報酬と聞いて、今の私が断る理由がありません。
早くお金を手にして宿屋に戻らないと、二人の天使が売られてしまうのです。
今も監禁されているであろう天使たちが、酷い目にあっていなければいいのですが……。
しかしよくよく考えてみたら、あの天使たちの価値がわずか銀貨五枚……五千円とは。……知らないとは言え、天使の能力を考えるととんでもない金額設定だと思いました。
あのエリオットでさえ、三億円の値段が付いていたのですから。
「ギルドは遠いのですか?」
「いいえ、歩いてほんの一時間程です」
遠いじゃないですか! 小さな街だと思ってましたが、意外と奥行がありそうです。
私はスマホを取り出して『獣』のアイコンを押しました。
「ロデム、変身! 二人乗り出来る大きさになって!」
たちまち先日と同じようなバイク型に変形したロデムに私は跨り、「後ろに乗ってください」と、タイネンに指示しました。
「こ、これは!? 騎士様の馬ですな! 黒々として逞しい!」
「いや、馬じゃないけど……犬だけど」
タンデムシートにタイネンを乗せ、ギルドの場所を聞くとすぐに加速して飛び出しました。
一分しか時間が無いのです。
徒歩一時間の距離を、ロデム・バイクできっかり一分で走破して、無事ギルドに着きました。
「いや、はや……いささか目が回りましたぞ……」
時間制限で消えたロデムから落ちて、尻餅をついたタイネンはヨロヨロになっていました。
かなりの速度で街を駆け抜けましたが、私はバイクに向いているのか、速いスピードに恐怖心が湧かないのか――しかも先日、事故を起こして死に掛けたばかりだというのに――何ともありませんでした。
ちなみに、ジェットコースターは大好きです。
「さあ、報酬を貰いに行きましょう」
嬉々として、この街の冒険者ギルドの支部に乗り込みました。
ちなみにギルド職員を名乗っていたタイネンは、ここの支部長でした。
「では報酬の金貨二十枚です。お受け取りください。お疲れ様でした」
「あらっ、こんなに?」
ギルドの受付のお姉さんが、カウンター窓口に金貨を並べました。
金貨二十枚と言えば、銀貨二千枚分、つまり二百万円です。
「他の冒険者たちは残念ながらリタイアでしたからな、報酬は騎士様が総取りという事になります」
「そうなんだ、ありがとう」
「しかし騎士様は相当なお強さでしたが、さぞや名のあるお方なのではないでしょうか。その鎧姿も実に凛々しく美しい」
タイネンがあまりにも持ち上げてくるものだから、私も少しだけ気持ちが良くなってしまって、思わずポロリと言ってしまいました。
「いやあ、それ程でもないですよ~。たまに勇者をやってるだけのコンビニ店員です~」
「なんと! これはこれは、勇者様で在られましたか! それは失礼いたしました!」
タイネンが大声を出すものですから、ギルド内がざわつきました。
あれ? 私今、勇者って言いましたっけ? ……言いましたね。
「しかしながら、先ほどの戦いでは聖剣をお使いになられていないご様子でしたが、いかがなされましたか?」
「え? 聖剣? ああえっと、エクスカリバーは月に一度の定期メンテナンスに出してるのよ。うん。だから今日はちょっと素手で、うん」
実際に聖剣を所有している私でしたが、現物はフォウのポケットの中です。
今ここに在ったとしても、フォレスの目覚めていない状態では持つ事も出来ませんけれど。
「そうでしたか! いやはや素手でもお強いのですから、オークごときには聖剣など必要ありませんでしたな!」
「そうなんですよ~。えへへ」
そろそろ宿屋へ戻らないと。……日が暮れてしまいます。
お腹を空かせた天使たちが、私の帰りを健気に待っているはずなのです。
「では、私はこれで」
「あの、失礼ですが勇者様のお名前を……」
そういえば私はずっと鎧姿で顔も見せていませんでしたし、名前も名乗ってはいませんでした。
聖剣も持たずに勇者だと自称している私を、よく信じてくれたものだと感心しました。
私は腰の小物入れからスマホを取り出すと、『鎧』のアイコンを押しました。
時間制限がないのか、いつまでも鎧姿が解除されないので、もう一度押せばいいのではと思いついたのです。
それは正解でした。
スマホから黄金の光が複数の束となって飛び出し、私の装着している黄金のプレートを一枚ずつ剥がして行きます。
すべてのプレートがスマホに吸収されると、私は元の青いワンピースの姿に戻りました。
お店の無限発注システムで取り寄せた、お気に入りのワンピースです。
「私は、サオリよ。王都に来る事があったら、近くのコンビニにも寄ってちょうだいね。ポーションの品揃えが豊富なの」
「はっ、サオリ様。……御芳名、この胸に刻ませていただきます」
プレートアーマーを解除した私を見て、タイネンがやや驚いた表情をしていますが、どうしたのでしょう。
その視線が私の胸の辺りに向かっているような気がするのも、気のせいでしょうか。
恐らく鎧騎士の正体が美しい女性だったので、驚いただけなのでしょうけれども、それは仕方がありませんね。
ギルドの建物を出る時には、ギルド職員が大勢見送りに出て来ました。
既視感を感じましたが、これも気のせいでしょう。
「勇者様はこれからどちらへ?」
「私は今、魔族の怖いやつと交戦中なの。それが済んだら魔王攻略に乗り出すわ」
「下らぬ質問をしてしまいました。お許しください。勇者様のお勤め誠にお疲れ様でございます。どうかこの街を救って下さったように、この世界の平和もお守り下さるよう、心よりお願い申し上げます」
やたらと畏まられてしまいましたけど、勇者と漏らしてしまった私がいけないですね。
ロデムを召喚して、跨りました。
陽も落ちてきて、暮れも迫っています。――急がなければ。
「じゃあ、行きます」
ギルド職員たちに一般冒険者も大勢混ざって、「勇者様に栄光あれ!」と、何度も繰り返し叫んでいます。
私は恥ずかしくて後ろも見れずに、手を軽く振って応えるだけに留め、すぐにロデム・バイクを最大加速で発進させました。
「ニナ、ラフィー、無事で居てね……今帰るから!」
数年後、この街の中心に――
街を救った英雄として、黒い馬に跨った、やたらと胸が強調された全身鎧に身を包んだグラマラスな女勇者の銅像が建てられる事になるのですが、この時の私には知る由もない事でした。
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