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第二部 第三章 対決
86・もう滅茶苦茶です
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馬車で辿り着いた場所は、私がさっきまで居た冒険者ギルド支部でした。
「また戻って来ちゃったじゃない」
自警団が数人掛かりで馬車から降ろした人たちを次々と、ギルドの建物内に連行して行きます。
「お前も来るんだよ。これから取り調べがある」
「まるで犯罪者扱いね」
「それを調べるためのものだ」
私が鎧の騎士だと信じてくれなかったこの人は、自警団の中でも上の立場なのでしょうか。
自警団のメンバーに、色々と指示を出していました。
「おい、ギルド長を呼んできてくれ。人数が多いから部屋を確保してもらう」
「はっ」
「さあ来るんだ」
仕方がないので付き合う事にしましたが、それも時間の問題――ギルド支部長のタイネンが現れるまででした。
「これは勇者様! 何事ですか!?」
「タイネンさん、さっきぶりです」
「ダフネ君、これはどういう事かね?」
「はっ、えっ? ゆ、勇者!?」
ダフネと呼ばれた自警団の人は、私をあらためてマジマジと見つめて来ました。
「こちらはあのオークの大軍を退けてくれた勇者サオリ様だ。何か失礼な事はしていないだろうね?」
「えええっ!? 本当にあの騎士様が、この貧……このお方だったので!?」
「だからさっきも言ったでしょう? あの時の鎧の騎士は私だって」
ダフネは私の胸の辺りを見ながら、「いや、しかし」と呟いています。
殴ってもいいでしょうか。
「勇者様は私の部屋にお通しするように。ダフネ君も同席するのだ」
「はっ!」
どうやら何とかなりそうな雰囲気になって来ました。
私と天使たちはそのまま、ギルド長の部屋へと案内されました。
「勇者様、どのような経緯でこのような事に?」
「実は、かくかくしかじかでこんな事になってしまいました」
「なるほど、これこれうまうまでそんな事に」
謎翻訳機能が上手い具合に言葉遊びを訳してくれていますが、私は一応すべての出来事の詳細を伝えました。
ギルド長の部屋の中、専用の椅子に座るタイネンは、苦渋の表情を浮かべています。
デスクを挟んで向かいのソファに私たちは座り、ダフネはその横で直立不動の姿勢で身動き一つしません。
「勇者様の危惧された子供の売買につきましては……表向きには禁止されております」
「表向き……という事は裏では実際に行われていると?」
「確認は出来ておりませんが、そのような組織が存在するという噂は耳に入っております」
「そう……なんだ」
あの宿屋のマスターが言っていた事は、嘘でも無かったという事なのですね。
そうなるとあのマスターは、売買するルートなり伝手なり、何かしら知っている可能性があります。
「タイネンさん。宿屋のマスターの取り調べに、私も同席させてもらえませんか?」
「勇者様が? それは構いませんが。……あの男が裏組織について何か情報を持っているとお考えになられたのですな」
「私が余計な首を突っ込む事では無いと思われるかも知れませんが、協力出来る事もあると思うのです」
「いえいえ、是非ご同席下さい。勇者様のご協力が仰げるのでしたら、こちらこそ願ったり叶ったりでございます」
ギルドマスターは話の分かる人でした。
もし本当に裏の組織が存在していて、宿屋の男と繋がりがあるのだとしたら、その時こそ勇者の出番なのではないでしょうか。
……まだ勇者になれてはいませんけれども。
「では、さっそく。ダフネ君、あの男を呼んで来てくれたまえ」
「はっ!」
すぐに宿屋のマスターが、後ろ手に縛られた状態で連れて来られました。
「だから俺は被害者なんだって言ってるだろう!?」
「すべては話を聞かせてもらってからだ」
私と目が合ったマスターは目をまんまるにしました。
「なんでお前がこんな所で呑気に座ってやがるんだよ!」
「黙れ! このお方をどなたと心得る! 恐れ多くも世界の命運をその双肩に担っていらっしゃる、勇者様で在らせられるぞ! 頭が高い! 控えおろう!」
「ちょっと止めて! 水戸黄門じゃないんだから!」
ギルド長のお墨付きで私を勇者だと認めたのか、ダフネの態度が打って変って私を全肯定するものになっていました。
「勇者だとぉ!?」
「宿屋の……まずはお前の名前から聞こうか」
タイネンがギルド長の貫禄を見せています。
「くっ……俺は、ガルドナだ」
「ではガルドナよ、正直に答えよ。お前は子供を売ると言っていたそうだな」
「だからそこに居るやつが金を払わねえから、借金のカタにガキを預かっただけじゃねえか」
「その借金が払われなかった場合、お前はどうするつもりだったのだ? 子供を売っていたのか?」
「嫌だなぁ、そんな事……本当にするわけがないじゃありませんかぁ」
急に敬語を使いだしたガルドナですが、その言葉は――
「嘘を言っていますね」
私はスマホの画面を見ていました。
そこにははっきりと、『NO』と出ています。
タイネンが質問を開始した時から、『嘘』のアイコンをタップして嘘発見器を起動していたのです。
「勇者様、それは?」
「えっと、これは勇者専用の特別アイテムで、相手の嘘が分かるのよ」
なんて説明をしたらいいのか分からなかったので、適当に言ってしまいました。……信じてくれたでしょうか。
「なんと! 流石勇者様でございます! そのような特別なものまで所持していらっしゃるとは。つくづく我々とは格が違うものだと実感いたしました」
何だかよく分かりませんが、信じてくれたようです。
「ではガルドナよ、あらためて訊くが、子供を売るとしたら何処に売るつもりだったのだ? そのアテはあるのだろう? 正直に答えよ」
ガルドナは額から汗を流し、険しい表情になっていました。
「だ、だから……そんなものは知らねえ」
――『NO』
「まだ嘘を言っていますね」
「何なんだよ! そんなもので嘘が分かるわけねえだろ!」
「貴様! 勇者様のおっしゃっている事がでたらめだとでも言うつもりか!?」
ダフネもすっかり私の味方です。
「ふむ。どうしたものか」
タイネンがあご髭に手を当てて思案したその時――パシン! と、私の目の前の空間が切り裂かれて、別行動をしていたサーラたちが転移して来ました。
「何事だ!?」
「あっ、私のパーティーの者です! すみません驚かせちゃって」
突然の事に私も驚いたのですが、いったいどうしたのでしょう。
「あなたたち、何があったの? 無事だった?」
「ただの定期連絡ですよ。こっちはサーラのマーキングでサオリの行動は見えていましたけどね。随分とお気楽な旅をしているようですね」
サーラもカーマイルもフォウも、全員無事のようです。
「良かった。みんな無事で」
「ジークとは一戦しましたよ。……その報告は後でするとして、こいつですか? 拷問すればいいのは」
サーラのマーキングで覗いていたらしく、こっちの事情は分かっているみたいです。
ジークと戦ったと聞かされてそれも気になる所ですが、カーマイルの拷問と言う言葉とさっそく何かをやらかそうとしている態度に、私は慌てて止めに入りました。
「ちょっと! 拷問は止めてよ。あなたがやると見ているこっちがおかしくなりそうだから本当に止めて!」
「まだ甘っちょろい事を言うのですか、サオリは。こんなやつは死ぬ直前まで追い込んでやらないと喋りませんよ」
ダフネが興味津々な様子で割って入って来ました。
「勇者様のお連れの方がおっしゃる拷問とは、どんなものなのでしょう?」
カーマイルがそれに答えてしまいました。
「こうやるのですよ」
「止めて! カーマイル!」
あの時の再現――まるっきり同じ光景が、私の目の前で繰り広げられました。
左手を振り下ろすカーマイル。
ダフネとタイネンの驚愕の表情。
無反応な天使たち。
目を背けるサーラ。
ガルドナの悲鳴と――
床に転がる、左腕。
「また戻って来ちゃったじゃない」
自警団が数人掛かりで馬車から降ろした人たちを次々と、ギルドの建物内に連行して行きます。
「お前も来るんだよ。これから取り調べがある」
「まるで犯罪者扱いね」
「それを調べるためのものだ」
私が鎧の騎士だと信じてくれなかったこの人は、自警団の中でも上の立場なのでしょうか。
自警団のメンバーに、色々と指示を出していました。
「おい、ギルド長を呼んできてくれ。人数が多いから部屋を確保してもらう」
「はっ」
「さあ来るんだ」
仕方がないので付き合う事にしましたが、それも時間の問題――ギルド支部長のタイネンが現れるまででした。
「これは勇者様! 何事ですか!?」
「タイネンさん、さっきぶりです」
「ダフネ君、これはどういう事かね?」
「はっ、えっ? ゆ、勇者!?」
ダフネと呼ばれた自警団の人は、私をあらためてマジマジと見つめて来ました。
「こちらはあのオークの大軍を退けてくれた勇者サオリ様だ。何か失礼な事はしていないだろうね?」
「えええっ!? 本当にあの騎士様が、この貧……このお方だったので!?」
「だからさっきも言ったでしょう? あの時の鎧の騎士は私だって」
ダフネは私の胸の辺りを見ながら、「いや、しかし」と呟いています。
殴ってもいいでしょうか。
「勇者様は私の部屋にお通しするように。ダフネ君も同席するのだ」
「はっ!」
どうやら何とかなりそうな雰囲気になって来ました。
私と天使たちはそのまま、ギルド長の部屋へと案内されました。
「勇者様、どのような経緯でこのような事に?」
「実は、かくかくしかじかでこんな事になってしまいました」
「なるほど、これこれうまうまでそんな事に」
謎翻訳機能が上手い具合に言葉遊びを訳してくれていますが、私は一応すべての出来事の詳細を伝えました。
ギルド長の部屋の中、専用の椅子に座るタイネンは、苦渋の表情を浮かべています。
デスクを挟んで向かいのソファに私たちは座り、ダフネはその横で直立不動の姿勢で身動き一つしません。
「勇者様の危惧された子供の売買につきましては……表向きには禁止されております」
「表向き……という事は裏では実際に行われていると?」
「確認は出来ておりませんが、そのような組織が存在するという噂は耳に入っております」
「そう……なんだ」
あの宿屋のマスターが言っていた事は、嘘でも無かったという事なのですね。
そうなるとあのマスターは、売買するルートなり伝手なり、何かしら知っている可能性があります。
「タイネンさん。宿屋のマスターの取り調べに、私も同席させてもらえませんか?」
「勇者様が? それは構いませんが。……あの男が裏組織について何か情報を持っているとお考えになられたのですな」
「私が余計な首を突っ込む事では無いと思われるかも知れませんが、協力出来る事もあると思うのです」
「いえいえ、是非ご同席下さい。勇者様のご協力が仰げるのでしたら、こちらこそ願ったり叶ったりでございます」
ギルドマスターは話の分かる人でした。
もし本当に裏の組織が存在していて、宿屋の男と繋がりがあるのだとしたら、その時こそ勇者の出番なのではないでしょうか。
……まだ勇者になれてはいませんけれども。
「では、さっそく。ダフネ君、あの男を呼んで来てくれたまえ」
「はっ!」
すぐに宿屋のマスターが、後ろ手に縛られた状態で連れて来られました。
「だから俺は被害者なんだって言ってるだろう!?」
「すべては話を聞かせてもらってからだ」
私と目が合ったマスターは目をまんまるにしました。
「なんでお前がこんな所で呑気に座ってやがるんだよ!」
「黙れ! このお方をどなたと心得る! 恐れ多くも世界の命運をその双肩に担っていらっしゃる、勇者様で在らせられるぞ! 頭が高い! 控えおろう!」
「ちょっと止めて! 水戸黄門じゃないんだから!」
ギルド長のお墨付きで私を勇者だと認めたのか、ダフネの態度が打って変って私を全肯定するものになっていました。
「勇者だとぉ!?」
「宿屋の……まずはお前の名前から聞こうか」
タイネンがギルド長の貫禄を見せています。
「くっ……俺は、ガルドナだ」
「ではガルドナよ、正直に答えよ。お前は子供を売ると言っていたそうだな」
「だからそこに居るやつが金を払わねえから、借金のカタにガキを預かっただけじゃねえか」
「その借金が払われなかった場合、お前はどうするつもりだったのだ? 子供を売っていたのか?」
「嫌だなぁ、そんな事……本当にするわけがないじゃありませんかぁ」
急に敬語を使いだしたガルドナですが、その言葉は――
「嘘を言っていますね」
私はスマホの画面を見ていました。
そこにははっきりと、『NO』と出ています。
タイネンが質問を開始した時から、『嘘』のアイコンをタップして嘘発見器を起動していたのです。
「勇者様、それは?」
「えっと、これは勇者専用の特別アイテムで、相手の嘘が分かるのよ」
なんて説明をしたらいいのか分からなかったので、適当に言ってしまいました。……信じてくれたでしょうか。
「なんと! 流石勇者様でございます! そのような特別なものまで所持していらっしゃるとは。つくづく我々とは格が違うものだと実感いたしました」
何だかよく分かりませんが、信じてくれたようです。
「ではガルドナよ、あらためて訊くが、子供を売るとしたら何処に売るつもりだったのだ? そのアテはあるのだろう? 正直に答えよ」
ガルドナは額から汗を流し、険しい表情になっていました。
「だ、だから……そんなものは知らねえ」
――『NO』
「まだ嘘を言っていますね」
「何なんだよ! そんなもので嘘が分かるわけねえだろ!」
「貴様! 勇者様のおっしゃっている事がでたらめだとでも言うつもりか!?」
ダフネもすっかり私の味方です。
「ふむ。どうしたものか」
タイネンがあご髭に手を当てて思案したその時――パシン! と、私の目の前の空間が切り裂かれて、別行動をしていたサーラたちが転移して来ました。
「何事だ!?」
「あっ、私のパーティーの者です! すみません驚かせちゃって」
突然の事に私も驚いたのですが、いったいどうしたのでしょう。
「あなたたち、何があったの? 無事だった?」
「ただの定期連絡ですよ。こっちはサーラのマーキングでサオリの行動は見えていましたけどね。随分とお気楽な旅をしているようですね」
サーラもカーマイルもフォウも、全員無事のようです。
「良かった。みんな無事で」
「ジークとは一戦しましたよ。……その報告は後でするとして、こいつですか? 拷問すればいいのは」
サーラのマーキングで覗いていたらしく、こっちの事情は分かっているみたいです。
ジークと戦ったと聞かされてそれも気になる所ですが、カーマイルの拷問と言う言葉とさっそく何かをやらかそうとしている態度に、私は慌てて止めに入りました。
「ちょっと! 拷問は止めてよ。あなたがやると見ているこっちがおかしくなりそうだから本当に止めて!」
「まだ甘っちょろい事を言うのですか、サオリは。こんなやつは死ぬ直前まで追い込んでやらないと喋りませんよ」
ダフネが興味津々な様子で割って入って来ました。
「勇者様のお連れの方がおっしゃる拷問とは、どんなものなのでしょう?」
カーマイルがそれに答えてしまいました。
「こうやるのですよ」
「止めて! カーマイル!」
あの時の再現――まるっきり同じ光景が、私の目の前で繰り広げられました。
左手を振り下ろすカーマイル。
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無反応な天使たち。
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