異世界コンビニ☆ワンオペレーション

山下香織

文字の大きさ
90 / 107
第二部 第四章 終わる世界

90・あれから三ヶ月

しおりを挟む
「無理って……どういう事?」
「言葉のままですよ。無理なものは無理なのです」

 ジークと一戦したと聞きました。それが無理というのはどうやっても敵わないという事でしょうか。

「サーラはどう思うの?」
「わ、わたしも……どうすれば、いいのか……」

 フォウは御者台で馬を操っているので、今は話を聞けませんが、とりあえず詳細が知りたいです。

「詳しく聞かせてくれないかな? カーマイル」
「あいつは、たぶん魔王より強いと思いますよ。魔王はまだ目覚めていませんけれど」
「魔王より?」
「最初から最後まで、あいつは余裕でしたよ。戦闘になったきっかけは、魔族領で魔王城を探していた私たちを見つけて、わざわざ向こうからやって来たのです」

 魔王城での戦闘では無かったという事は、エリーシアとの直接の接触は無かったのですね。

「まず、ジークは影のスキルを強化していました。それのせいでサーラの次元魔法さえも躱してしまうのです」
「影……」
「そして魔力弾という飛び道具を持っているにも関わらず、あいつは接近戦を挑んでくるのですよ。なめているとしか思えません」

 飛び道具を使わずに接近戦。――私はそこの部分に少し、引っかかりを覚えました。
 ジークという魔族はとても狡猾で、陰でコソコソと悪巧みをするイメージだったので、そこまで自らを押し出して戦うようなイメージは湧きませんでした。

「ちょっと引っかかるけど、それだけ強くなったので遊んでいたとでも? ……でも、やっぱり違う気がする」
「何が違うのですか? 参考までに聞いてあげます」

 戦ってもいない私の意見さえも聞こうとするカーマイルも意外だなと思いましたが、私は思ったままを伝えました。

「だって先日のカルミナの居た町で起きた事、……宿屋の女主人が操り人形にされていた事件の事だけど」
「それがどうかしたのですか」
「あなたたちを相手に遊べるようなやつが、わざわざ罠みたいな面倒なものを、仕掛けるような事なんてするのかしら」
「……」
「あれだって、つい最近の事よ? そこから今日までの間に更に何倍も強くなったなんて事はないんじゃないかな? だからジークは何かを狙っていたんじゃないかって思うんだけど」

 カーマイルが目を閉じて思案しています。戦闘を振り返っているのでしょうか。

「魔力弾を使っていないわけではありませんでした。ただ使用したとしても私たちに接近するためのフェイントとかでした」
「どうしても接近戦にしたかった?」
「理由なんて分かりません。ただ、普通の接近戦とは少し、違う感じはしましたね」
「どんな感じだったの?」

 少し、間を置いたカーマイルは、何かを思い出したようでした。

「そういえば……あいつは……やたらと私たちの体に触れようとしていましたね。攻防の合間に、何度か掌を向けて来ていたように思います」
「実際に触られたの?」
「いいえ、流石にそこまでこっちも油断はしていませんよ。三人居れば必ず誰かのフォローは入ります」
「触る事で何か特別な攻撃スキルが発動する……とか?」
「それをするだけで戦況が激変する程の特別な技でも開発したとかですかね。必殺技というものは絶大な効果の代償に複雑な条件が付与されるのが常識ですからね」
「フォウが光の極大魔法を撃つのに、詠唱が必要になると言うような?」
「そんな所です」

 カーマイルは御者台のフォウに声を掛けて、馬車を停めました。

「定期連絡と言いましたが、ジークの元に戻るのはこれが最後です。何度も戦って生き延びていられるような相手ではありません」
「え? ちょっと、カーマイル。さっき無理って言ってたじゃない。……それなのにもう一度行くって言うの?」
「確かめたい事が出来たのです。なるべく命を優先しますが、ヒントくらいは掴んで来ますよ」
「危ないなら止めた方がいいってば、カーマイル」

 馬車の外に出てサーラとフォウを集めると、カーマイルは一言だけ残してから、サーラに転移を指示しました。

「死んだら後は任せます」
「ちょっ! 死ぬ気で行かないでよ!」

 パシン! と、空間が切り裂かれて、あっという間に転移して行ってしまいました。
 サーラも共に戦ったカーマイルを信用しきっているのか、何も言わずに従っていました。

「もう!」

 私も、ラフィーとニナを連れて行くべきでしょうか。
 ですが、二人の天使たちはともかく、私が行っても足手まといにしかならないと思います。 
 
「きっと、大丈夫よね……」

 大丈夫ではありませんでした。
 カーマイルたち三人は、一ヶ月近く経っても戻って来なかったのです。



 ◇  ◇  ◇
 
 

 一週間が過ぎた頃、「あれ?」と思い、二週間経っても帰って来なくて「どうしたんだろう? ジークを探しているのかな?」となり、三週間が過ぎて流石に「何かあったに違いない」という結論にやっと至り、私は魔族領へと転移しました。

 ところが私の転移出来る場所は、例の巨大な湖の中心にある孤島だけで、ここからだと陸に上がるための手段がありませんでした。
 前回陸へと渡った場所は、何故か転移のセーブポイントになっては居ませんでした。
 距離的にもっと離れていないと、更新されないのかも知れません。
 他の原因としては、ノートに移動先を記載しての転移なので、詳しい住所があるわけもないこの場所の指定に『魔族領』としか書けなかった事でしょうか。

「フォウのポケットが無いと船も出せないし、何も出来ない……」

 ニナとラフィーだけなら泳いでも行けそうですが、私は実はカナヅチなので水の中に入る事さえ躊躇われました。
 以前ここからフォウの船で陸に渡った時も思いましたが、かなりの距離を行かなければならないのです。
 そして湖の中には、未確認の水中生物の泳ぐ影も確認していました。

 こんな怖い場所で生身で泳ぐなんて、私にはとても出来ませんし、そもそも泳げません。
 ショルダーバッグの中の、魔法の簡易術式が記入してあるノートが濡れてしまうのも致命的です。
 インクも使えなくなってしまうかも知れません。

 ちなみに『鎧』アイコンで黄金の鎧姿になって、パワーアップした私が泳げるか試してみた所、一メートルも泳げずにその場で湖の底まで沈みました。
 光の粒子で構成されているはずの黄金のプレートは、着ている私には感じさせませんがそれなりの重量があるようです。
 沈んだ私をニナとラフィーがすぐに引き上げてくれたのと、プレートの中には水が入って来なかったので、事なきを得ましたが……。

「まさか、皆死んだりしていないわよね……」

 いくらジークが強くても、あのメンバーで全滅は無いと私は思います。
 何かトラブルがあって、転移も出来ない状態なのだと信じる事にしました。
 
「地道に馬車を走らせて、魔族領へと行くしかないのかしら」

 特に良い解決案も思い浮かばず、少しずつ移動する事しか出来ませんでした。

 そして三ヶ月が経った頃――

「あっ!」

 馬車を停めて休憩している時に、私は幌の中で何気なくスマホを弄っていて、あるアイコンに釘付けになりました。

「『獣』! ロデムってば変身出来るじゃない!」

 すっかり忘れていたのです、ロデムの変身能力を使えば、もしかしたら船にさえなるのではないでしょうか。

「うわぁ……何で思い付かなかったんだろう。三ヶ月も経っちゃったよ……」
「こーな? 」
「なの?」

 能天気二人組の天使が気付いてくれるわけもなく、無駄に三ヶ月も過ごしてしまいました。
 収穫と言えば途中で寄った三つの町で、スタンプ三つをゲットした事だけでした。
 これによってスタンプラリーは、残り一つを残すのみとなったのです。

 私たちはすぐに魔族領に転移しました。
 ロデムを召喚して指示を出すと、見事に小型の手漕ぎボートへと変身してくれました。

「やっとこれで、向こう岸に渡れるわ」

 私はこの時、まだ忘れている事がある事に、気付いていませんでした。
 カーマイルが私の事を、散々馬鹿だ馬鹿だと言っていた意味を、思い知る事になったのです。

 三人で意気揚々とロデム・ボートに乗り込み、ちょうどが経った頃――
 時間制限で消えてしまったロデム・ボートから放り出された私たちは、溺れかけてしまったのです。
 ――正確には私だけが溺れて、パニックになったのですが……。

 二人の天使に救助されて元の孤島に這い上がり、びしょ濡れで息も絶え絶えな私は、仰向けに寝転んだまま手で顔を覆い、ひとりごちました。

「本当に、馬鹿だ……私」

 溺れた時にショルダーバッグも水没したため、中のノートも水浸しになってしまいましたが、記入してある簡易術式が滲んだりノートが破けたりはして居なかったので、ラフィーの風魔法で乾かしてもらうだけで済みました。

 そして、さらに――
 私がもっと馬鹿だったと思い知らされたのは、町でボートを購入してから魔族領に転移すれば良いと気付いてからでした。
 直接転移するのですから、仕舞ったり運んだりする必要もなく、一番簡単な方法でした。

 実際にはどこの町にもでボートは売っていなかったのと、ボートを買える程(いくらで買えるのかは知らない)の、まとまったお金は持っていなかった事に気付いてお店コンビニに戻り、エリオットとの挨拶もそこそこに、お金を手にしてから王都で探してもやっぱり売って無かったので、王宮まで行ってランドルフに紹介してもらった職人さんに造ってもらう事になったわけですが――

 一段落して落ち着いてふと我に返った時、ここまでドタバタしていた自分につくづく呆れてしまいました。
「何をやっているのでしょう……馬鹿ですか? 私」

  
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜

まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、 専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活   現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。   しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。   彼は大陸一の富を誇る名門貴族―― ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。   カイルに与えられたのは ・世界一とも言える圧倒的な財力 ・財力に比例して増大する規格外の魔力   そして何より彼を驚かせたのは――   彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。   献身的なエルフのメイド長リリア。 護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。   さらに個性豊かな巨乳メイドたち。   カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。   すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――   「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」   領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、 時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、   最強の御曹司カイルは 世界一幸せなハーレムを築いていく。 最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

最弱スライムに転生した俺、捕食スキルで無限進化していたら魔王軍すら支配してました

チー牛Y
ファンタジー
残業中に倒れた俺が次に目を覚ました時、なぜか異世界で最弱モンスターのスライムになっていた。 完全に詰んだ、戦う力もない。そう思っていた時、俺には一つだけ、とんでもないスキルがあった。 【捕食】 それは、倒した相手を取り込み、能力・スキル・力のすべてを奪うチート能力だった。 ゴブリンを食べれば腕力を獲得。 魔物を食べれば新スキルを習得。 レベルは爆速で上がり、進化は止まらない。 森の魔物を支配し、ダンジョンを制圧し、気づけば俺は魔物たちの王になっていた。 やがてその力は魔王軍すら飲み込み、世界の勢力図を塗り替えていく。 これは―― 最弱スライムから始まる、無限進化の成り上がり無双譚。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

ジャングリラ~悪魔に屠られ魔王転生。死の森を楽園に変える物語~

とんがり頭のカモノハシ
ファンタジー
「別の世界から勇者を召喚する卑怯な手口」に業を煮やした堕天使・ルシファーにより、異世界へ魔王として転生させられた大学生・左丹龍之介。 先代・魔王が勇者により討伐されて100年――。 龍之介が見たものは、人魔戦争に敗れた魔族が、辺境の森で厳しい生活を余儀なくされている姿だった。 魔族の生活向上を目指し、龍之介は元魔王軍の四天王、悪魔公のリリス、フェンリルのロキア、妖狐の緋魅狐、古代龍のアモンを次々に配下に収めていく。 バラバラだった魔族を再び一つにした龍之介は、転生前の知識と異世界の人間の暮らしを参考に、森の中へ楽園を作るべく奔走するのだが……

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...