異世界コンビニ☆ワンオペレーション

山下香織

文字の大きさ
91 / 107
第二部 第四章 終わる世界

91・穴があったら入りたい

しおりを挟む
 ボートが完成するまでに一週間程掛かるという事で、その間はお店コンビニで待機していました。
 
「俺も魔族領に行こうか?」

 エリオットが私の旅のこれまでの経過を聞いて、そう言ってくれましたが私は断りました。

「普通の人が行ったらすぐに死ぬと思うし、エリオットはお店番をお願い」
「ええ……Sランクの冒険者、しかも不死身のアンデッドに向かって普通の人かよ。まぁ天使が困っているくらいじゃ、俺が行っても無駄か」
「私なんか、普通以下だけどね」
「まだ妖精は目覚めそうにないのか? 時間は限られているのに、困った事だな」

 私の中の妖精フォレスが目を覚まさない事には、勇者となって聖剣エクスカリバーを持つ事が出来ません。
 このままでは例え魔王と対峙したとしても、どうする事も出来ないのです。
 ただ、エリーシアが魔王として目覚める前に、何とかしたい所なのですが……。

 お店の外が少し、騒がしくなりました。
 馬車がやって来て、停まったようです。

「まいどー!」

 馬車から降りたその人は、見覚えがあります。

「あら、フーゴさんではないですか。お久しぶりです」
「久しぶりっすー! お荷物お届けに上がりましたー!」

 配達人のフーゴさんが、馬車の幌から木製の手漕ぎのボートを降ろし始めました。

「やっと出来たのね」
「重いけどここに置いちゃっていいんすか?」
「はい、そのままで」
「では、ありあっしたー!」

 お店の前にボートを置いて受取証に私からサインを貰ったフーゴさんは、馬車に乗って颯爽と去って行きました。

「ボートも来たし、私も行くわね」
「おう、気を付けて」

 お店の入り口の横の壁に、腕を組んで寄り掛かっていたエリオットは奥へと引っ込み、入れ違いにバックルームから出て来たラフィーとニナが、私の傍に寄って来ます。
 二人の口元には、さっきまで食べていたコロッケのカスが付いていましたが、可愛いのでそのまま放っておきました。
 私はノートを開き、さっそくボートごと魔族領へと転移しました。



 ◇ ◇ ◇



「さあ、向こう岸に渡るわよ」

 三人乗って丁度良い大きさのボートは新品なだけあって、削りたての新鮮な木の匂いがしました。
 ボートのオールはニナが持ち、船を漕ぎ出します。
 
 湖の水中には相変わらず何かが泳ぐ影が見え隠れしていますが、これがただの魚なのか魔物なのかは分かりません。
 襲って来るような事もなさそうなので気にしないようにはしているのですが、正体が分からないものというのは恐怖を掻き立てます。

 さて、無事に湖を渡って上陸した私たちですが、ここから何処をどう探せばいいのかが分かりません。

「検索してみましょう」

 スマホの『健作くん』で色々なワードを試してみました。
 『ジーク』『サーラ』『フォウ』『カーマイル』『天使』『魔王城』『エリーシア』『魔王』

「どれにも反応してくれないじゃない」

 何を入力しても、画面は真っ黒のままでした。
 反応が無いという事は、最低でも五キロ圏内には居ないという事なので、移動する事にしました。

「じゃあ、ちょっと馬車を取ってくるから、待っててね」

 ボートごと転移してコンビニに戻り、馬車とボートを交換してまた魔族領に戻ったら――

「何やってんの私!? また孤島に転移しちゃってるじゃないの!」

 つくづく自分の馬鹿さ加減に呆れました。
 上陸してもそこが転移のポイントになっていなかったから、わざわざボートを造ってもらって湖を渡ったはずなのに、それさえもすっかり忘れていたのです。

 結局またコンビニに戻り、ボートを手にして魔族領に引き返したのですが、ここで問題が一つ発生しました。

「私一人でボートを漕ぐの?」

 ニナとラフィーは湖の向こう側です。
 ボートを漕ぐ事自体は私でも出来ると思うのですが、もし転覆でもしてしまったら泳げない私は絶体絶命なのです。

「そ、そうだ。鎧になれば……重くて船沈むかな? ……沈んだら私、浮き上がってこれないよね……」

 こうなったら、向こう岸に居るニナとラフィーに泳いで戻って――って、

「おーい! どこ行くのあなたたち!」

 二人の天使を呼ぶために叫ぼうとして遠くの対岸を見たら、何故かあの二人はフラフラと反対側へと離れて行ってしまっているではないですか。

「ちょっと! 戻って来て!」

 駄目です。米粒くらいに小さく見える二人の天使は、完全に私の事を忘れて何かに夢中になっているようです。

 どうする!? 私!! 
 
 鎧でボートに乗っても沈んだらアウトですし、ロデムはデフォが犬だから船は漕げないだろうし、そもそも一分しか持たないですし、後は……後は何か使えるものは――
 スマホの画面を睨んでいた私は、ふと気付きました。
 私にはスマホのアプリだけではなく、ノートと羽根ペンがあったのです。

 ショルダーバッグからノートを取り出し、あらかじめ記入してある魔法の数々を、ページをめくって確かめました。
 確か、あの魔法もあったはず。……あった! ありました!

「これだわ! これなら使える!」

 私はある極大魔法の簡易術式の文字列に、わざと記入していなかった残りの三文字を書き足しました。
 長い術式は毎回書くのが面倒なので、三文字だけを残したものをノートにたくさん書いてあるのです。

 ノートを中心に水色の魔法円が展開されて、それが一気に広がって行くと、湖の水面はあっという間に凍りついて固まりました。

「やったわ! これで向こうに渡れる!」

 羽根ペンによる氷の極大魔法は、湖の水をすべて氷にしてしまいました。
 私は悠々と氷の上を渡って、無事に孤島から脱出しました。

「氷の極大魔法なんて、ラフィーでも使えたわよね……」

 なんて事でしょう。
 結局はボートすら使わずに、問題は解決されてしまったではないですか。

 ロデム・ボートの時間切れで溺れたり、黄金の鎧で湖の底に沈んだり、わざわざ王都でボートを造ってもらったり、せっかく渡ったのに馬車を取りに戻るため転移してしまって元の木阿弥だったり。
 私がいかに無駄な時間を過ごしてきたのか、愚かだったのか、馬鹿だったのか……穴があったら入りたいくらいに、自分が恥ずかしくて仕方がありません。

「ニナ! ラフィー! 何処!?」

 二人の姿が見えません。何処まで行ってしまったのでしょう。
 こんな所で一人にされても困ります。スマホの画面から『鎧』のアイコンを選んでタップしました。

 スマホから発生した光の粒子が私を包み込み、足元から順に黄金のプレートが装着されて行きます。
 黄金の全身鎧フルプレートが頭まで来て完成した所で、スマホを腰の小物入れに仕舞いました。

「これなら少しは安心ね」

 顔の部分のシールドを押し上げて、顔だけを出して呟きました。

「ほんと何処に行っちゃったのよ。あの二人」

 この辺りは大小の岩が転がるのみで何も無く、見通しが良い場所なので、二人が居るとしたらこの先の少し丘になっている所の先でしょう。
 緩いスローブになっている丘を登り切り、向こう側を見渡すと――

「な、なんなの……これは?」

 ――地獄のような光景が広がっていました。

  
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜

まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、 専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活   現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。   しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。   彼は大陸一の富を誇る名門貴族―― ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。   カイルに与えられたのは ・世界一とも言える圧倒的な財力 ・財力に比例して増大する規格外の魔力   そして何より彼を驚かせたのは――   彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。   献身的なエルフのメイド長リリア。 護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。   さらに個性豊かな巨乳メイドたち。   カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。   すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――   「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」   領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、 時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、   最強の御曹司カイルは 世界一幸せなハーレムを築いていく。 最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

最弱スライムに転生した俺、捕食スキルで無限進化していたら魔王軍すら支配してました

チー牛Y
ファンタジー
残業中に倒れた俺が次に目を覚ました時、なぜか異世界で最弱モンスターのスライムになっていた。 完全に詰んだ、戦う力もない。そう思っていた時、俺には一つだけ、とんでもないスキルがあった。 【捕食】 それは、倒した相手を取り込み、能力・スキル・力のすべてを奪うチート能力だった。 ゴブリンを食べれば腕力を獲得。 魔物を食べれば新スキルを習得。 レベルは爆速で上がり、進化は止まらない。 森の魔物を支配し、ダンジョンを制圧し、気づけば俺は魔物たちの王になっていた。 やがてその力は魔王軍すら飲み込み、世界の勢力図を塗り替えていく。 これは―― 最弱スライムから始まる、無限進化の成り上がり無双譚。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

ジャングリラ~悪魔に屠られ魔王転生。死の森を楽園に変える物語~

とんがり頭のカモノハシ
ファンタジー
「別の世界から勇者を召喚する卑怯な手口」に業を煮やした堕天使・ルシファーにより、異世界へ魔王として転生させられた大学生・左丹龍之介。 先代・魔王が勇者により討伐されて100年――。 龍之介が見たものは、人魔戦争に敗れた魔族が、辺境の森で厳しい生活を余儀なくされている姿だった。 魔族の生活向上を目指し、龍之介は元魔王軍の四天王、悪魔公のリリス、フェンリルのロキア、妖狐の緋魅狐、古代龍のアモンを次々に配下に収めていく。 バラバラだった魔族を再び一つにした龍之介は、転生前の知識と異世界の人間の暮らしを参考に、森の中へ楽園を作るべく奔走するのだが……

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...