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第二部 第四章 終わる世界
94・光の昇天
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サーラたちが戻って来ないのは転移が出来ない状況、つまりその魔法が使えるサーラがやられてしまったか、もしくは囚われたかだと私は考えました。
広大な魔族領を当ても無く探し回るより、魔王城の様子を確かめに行った方が、何か分かるかも知れません。
「本当は魔王城って魔王様がその魔力で建てるんだけど、今回のお城はジークが建てたらしい」
「そうなんだ? そこに皆が揃っている可能性が高いわね」
孤島の周りの湖はまだ凍ったままです。
私たちはその上を歩いて渡りました。
「あの森を抜けなければならないの?」
「そうなんだけど、アタシが居てもきっと魔族は襲い掛かって来ると思う」
「天使が居る限り、それは避けられないのね」
天使を見たら本能的に襲うのが魔族の習性のようなので、いっそ天使たちを何処かへ転移させておいて私とデビだけで森を抜けようかとも思いましたが、いざという時に私の魔法はすぐに発動出来ないので、それは少し危険だろうという事で却下しました。
「森を抜ける以外に道は無いの? 魔族は森に居るのよね?」
「うーん。……遠回りで行けるのかも知れないけど、アタシは森を抜ける道しか知らない」
デビが森の方角へ指を差した時、その森の上の方で何かが動きました。
「何?」
森ではなくその遥か先の方で、もくもくと煙が上がっていました。
「火事? デビ、あれは何なのか分かる?」
「ああ、あれは不定期でたまにある……」
煙の中から何かが飛び出しました。
それは強い光を発しながら、灰色の煙の尾を引いて真っ直ぐに上昇して行きます。
ここからだとかなり距離は離れていそうですが、ゴゴゴという重低音の響きも伝わってきます。
「アタシたちは光の昇天って呼んでる」
「光の昇天? これって……まさか」
私の過去の記憶の映像と一致するそれは、元の世界のテレビで見たアレそのものでした。
「ロケットじゃないの!?」
なんでこの世界にロケットが?
まさか巨大な魔物がロケット噴射して、空を飛んでるとかじゃないですよね?
私は呆けた顔でしばらく光の昇天を見つめていましたが、ハッと我に返ります。
「ちょ、ちょ、ちょっとここで待っててもらえる?」
ノートと羽根ペンを取り出し、すぐに神様の住む洞窟へと転移しました。
洞窟には第一天使ミシェールだけが居ました。
「ミシェール! 神様は何処?」
「禁則事項です」
「やっぱり話にならない……」
スマホを取り出し、『神』をタップします。
画面は真っ黒なままで、何も反応しません。
「こっちも出ないか……ねぇミシェール、魔族領の奥でロケットが上がってるの、あれ何?」
「禁則事項です」
「……だよね」
本当に神様とこの第一天使は、いつもあてになりません。
私はとんぼ返りに魔族領へと戻りました。
またしても孤島からでしたが、凍った湖の上で足を滑らせながら、駆け足でデビたちの元へと戻ります。
「ニナとラフィーはアレの事知らない?」
光の昇天はすでに空の彼方に消えて、その名残の煙が風に流されて、拡散していきます。
「わかんない」
「しらないなの」
やっぱり駄目です。誰も答えられる人が居ません。
神様を捕まえて聞くしかないようです。
「ああ、もやもやする……デビは光の昇天の正体を聞いた事ない?」
「アタシがあれを見たのはこれが二回目。誰もあれが何なのか、知らない」
あれがロケットだったのだとしたら、誰が何のために打ち上げているというのでしょうか。
そもそも何故この世界に、あんなものが?
とても気になります。――めちゃくちゃ気になりますけれども、それは後回しにするしかなさそうです。
「とりあえず森を抜けましょうか。ちょっと良い事思いついたし」
ロケットの事はひとまず諦めて、私たちはそのまま森の入り口まで進みました。
途中の魔族の死骸は、二人の天使の土魔法で穴を掘って埋めてもらいました。
――どうか安らかに眠って下さい。
「じゃあ行くわよ」
ノートと羽根ペンを再び取り出して、氷の極大魔法を森に向けて放ちました。
巨大な湖をすべて凍らせてしまう神様の魔法の力を再確認した私は、ここでも行けると踏んだのです。
私の思惑通りに神様の魔法はその力を見せつけ、森の木々のことごとくを氷の彫像と化しました。
「これでこの中に居る魔族も凍って動けないでしょ?」
「えっ、……それって死んでない?」
「氷が溶けたら生き返るんじゃないの? そうよね? ラフィー、ニナ」
同じ氷の魔法が使える、二人の天使にも聞いてみました。
「しらない」
「なの」
「……」
もう凍らせてしまいましたし、仕方ないですね。
「きっと大丈夫よ。さぁ行くわよ」
◇ ◇ ◇
森を抜けるのに、丸一日掛かりました。
森の中で野営はしたくありませんでしたしその準備も無かったので、デビも一緒にコンビニ裏の自宅へと転移して、一泊してから出直す事にしたのです。
お店に居たエリオットは魔族のデビを見て最初は驚いていましたが、「あ、俺もアンデッドで魔族みたいなもんか」と、笑っていた所を横からニナに「アンデッドは魔物なの」と、サラリと言われてすぐに落ち込んでいました。
さらにはデビが天使を怖がって私から離れないので、寝る時も私はラフィーを抱っこする事も出来ずに、デビと一緒に寝ました。
この短期間で魔族の子がよく、私に懐いたものです。
光の天使がただひたすらに怖い、というだけなのかも知れませんが。
デビが森の名称を知っていたので今度は孤島ではなく、森から再出発出来ました。
そんなこんなで丸一日を掛けて森を抜けると、そこは見渡す限りが岩場の、荒れた大地が現れました。
「こんな所を通るの? 足場がこれじゃ馬車を持ってきても走れないわね」
「だってアタシらは飛べるから、普通ならわざわざ歩いて行かないよ。……でも翼が片方無くなっちゃってもう飛べないけど」
片翼になってしまったのは天使たちが暴れたせいです。
「ごめんなさい、デビ。……本当なら回復魔法で羽も生えるはずなんだけど、どうやら魔族には完全には効いてくれないみたいなの」
「いいよ、こっちから光の天使に向かっていった結果だし。それよりも光の回復魔法で怪我は治ったし、それだけでも凄い事だよ」
前向きなデビは許すも許さないも無いといった様子で、気にしていないようでした。
「回復魔法なんだから、怪我が治るのは当然でしょ? こっちのニナも回復魔法が使えるのよ」
そういえば、ニナの回復魔法はデビに試していませんでした。
ただ私の羽根ペンによる回復魔法は神様のそれなので、ニナだとどうしてもそれよりも劣ってしまうと思われます。
確かニナの回復だと自分の体だけが再生可能で、それ以外は回復止まりだったと聞いた気もします。
サーラのように誰にでも回復再生が出来るのは、神様の力を使った私を除いて、この世界では彼女だけなのではないでしょうか。
デビは恐怖におののきました。
「た、たのむから光の天使の回復魔法はアタシにやらないで」
「どうして?」
「サオリの魔法がアタシに効いたのは謎だけど、たぶん光の天使がやったら、アタシ、死ぬ」
デビはニナから離れるように私の背中に隠れて、本当に怖がっていました。
「そういうものなの?」
「うん。魔族にそんな事したら地獄の苦しみしかない。怖い」
光と闇の関係なのでしょうか。
この世界、とくに魔法関連に疎い私にはよく分かりませんが、なんとなく属性の相性があるのだろうという事は、デビの言葉で理解出来ました。
「さて、この岩場を進まなければならないのね。……空が飛べる魔法があればいいのに」
でこぼこな地面は岩が尖っていたりするので、へたに転ぶ事も出来ないくらいに危険な状態です。
森に再び転移した時から、私は既に黄金の鎧の姿になっています。
これでちょっとやそっとでは怪我もしないのでしょうけれど、岩場の移動に時間が掛かるのは必至です。
進行方向に向けて上りになっているので、ここも氷の魔法で凍らせてというわけにも行きませんでした。
氷の上り坂を、滑らずに歩ける術がありません。
「もう、この手しかないわね」
私はスマホを取り出して、あるアイコンをタップしました。
――ポチっと。
広大な魔族領を当ても無く探し回るより、魔王城の様子を確かめに行った方が、何か分かるかも知れません。
「本当は魔王城って魔王様がその魔力で建てるんだけど、今回のお城はジークが建てたらしい」
「そうなんだ? そこに皆が揃っている可能性が高いわね」
孤島の周りの湖はまだ凍ったままです。
私たちはその上を歩いて渡りました。
「あの森を抜けなければならないの?」
「そうなんだけど、アタシが居てもきっと魔族は襲い掛かって来ると思う」
「天使が居る限り、それは避けられないのね」
天使を見たら本能的に襲うのが魔族の習性のようなので、いっそ天使たちを何処かへ転移させておいて私とデビだけで森を抜けようかとも思いましたが、いざという時に私の魔法はすぐに発動出来ないので、それは少し危険だろうという事で却下しました。
「森を抜ける以外に道は無いの? 魔族は森に居るのよね?」
「うーん。……遠回りで行けるのかも知れないけど、アタシは森を抜ける道しか知らない」
デビが森の方角へ指を差した時、その森の上の方で何かが動きました。
「何?」
森ではなくその遥か先の方で、もくもくと煙が上がっていました。
「火事? デビ、あれは何なのか分かる?」
「ああ、あれは不定期でたまにある……」
煙の中から何かが飛び出しました。
それは強い光を発しながら、灰色の煙の尾を引いて真っ直ぐに上昇して行きます。
ここからだとかなり距離は離れていそうですが、ゴゴゴという重低音の響きも伝わってきます。
「アタシたちは光の昇天って呼んでる」
「光の昇天? これって……まさか」
私の過去の記憶の映像と一致するそれは、元の世界のテレビで見たアレそのものでした。
「ロケットじゃないの!?」
なんでこの世界にロケットが?
まさか巨大な魔物がロケット噴射して、空を飛んでるとかじゃないですよね?
私は呆けた顔でしばらく光の昇天を見つめていましたが、ハッと我に返ります。
「ちょ、ちょ、ちょっとここで待っててもらえる?」
ノートと羽根ペンを取り出し、すぐに神様の住む洞窟へと転移しました。
洞窟には第一天使ミシェールだけが居ました。
「ミシェール! 神様は何処?」
「禁則事項です」
「やっぱり話にならない……」
スマホを取り出し、『神』をタップします。
画面は真っ黒なままで、何も反応しません。
「こっちも出ないか……ねぇミシェール、魔族領の奥でロケットが上がってるの、あれ何?」
「禁則事項です」
「……だよね」
本当に神様とこの第一天使は、いつもあてになりません。
私はとんぼ返りに魔族領へと戻りました。
またしても孤島からでしたが、凍った湖の上で足を滑らせながら、駆け足でデビたちの元へと戻ります。
「ニナとラフィーはアレの事知らない?」
光の昇天はすでに空の彼方に消えて、その名残の煙が風に流されて、拡散していきます。
「わかんない」
「しらないなの」
やっぱり駄目です。誰も答えられる人が居ません。
神様を捕まえて聞くしかないようです。
「ああ、もやもやする……デビは光の昇天の正体を聞いた事ない?」
「アタシがあれを見たのはこれが二回目。誰もあれが何なのか、知らない」
あれがロケットだったのだとしたら、誰が何のために打ち上げているというのでしょうか。
そもそも何故この世界に、あんなものが?
とても気になります。――めちゃくちゃ気になりますけれども、それは後回しにするしかなさそうです。
「とりあえず森を抜けましょうか。ちょっと良い事思いついたし」
ロケットの事はひとまず諦めて、私たちはそのまま森の入り口まで進みました。
途中の魔族の死骸は、二人の天使の土魔法で穴を掘って埋めてもらいました。
――どうか安らかに眠って下さい。
「じゃあ行くわよ」
ノートと羽根ペンを再び取り出して、氷の極大魔法を森に向けて放ちました。
巨大な湖をすべて凍らせてしまう神様の魔法の力を再確認した私は、ここでも行けると踏んだのです。
私の思惑通りに神様の魔法はその力を見せつけ、森の木々のことごとくを氷の彫像と化しました。
「これでこの中に居る魔族も凍って動けないでしょ?」
「えっ、……それって死んでない?」
「氷が溶けたら生き返るんじゃないの? そうよね? ラフィー、ニナ」
同じ氷の魔法が使える、二人の天使にも聞いてみました。
「しらない」
「なの」
「……」
もう凍らせてしまいましたし、仕方ないですね。
「きっと大丈夫よ。さぁ行くわよ」
◇ ◇ ◇
森を抜けるのに、丸一日掛かりました。
森の中で野営はしたくありませんでしたしその準備も無かったので、デビも一緒にコンビニ裏の自宅へと転移して、一泊してから出直す事にしたのです。
お店に居たエリオットは魔族のデビを見て最初は驚いていましたが、「あ、俺もアンデッドで魔族みたいなもんか」と、笑っていた所を横からニナに「アンデッドは魔物なの」と、サラリと言われてすぐに落ち込んでいました。
さらにはデビが天使を怖がって私から離れないので、寝る時も私はラフィーを抱っこする事も出来ずに、デビと一緒に寝ました。
この短期間で魔族の子がよく、私に懐いたものです。
光の天使がただひたすらに怖い、というだけなのかも知れませんが。
デビが森の名称を知っていたので今度は孤島ではなく、森から再出発出来ました。
そんなこんなで丸一日を掛けて森を抜けると、そこは見渡す限りが岩場の、荒れた大地が現れました。
「こんな所を通るの? 足場がこれじゃ馬車を持ってきても走れないわね」
「だってアタシらは飛べるから、普通ならわざわざ歩いて行かないよ。……でも翼が片方無くなっちゃってもう飛べないけど」
片翼になってしまったのは天使たちが暴れたせいです。
「ごめんなさい、デビ。……本当なら回復魔法で羽も生えるはずなんだけど、どうやら魔族には完全には効いてくれないみたいなの」
「いいよ、こっちから光の天使に向かっていった結果だし。それよりも光の回復魔法で怪我は治ったし、それだけでも凄い事だよ」
前向きなデビは許すも許さないも無いといった様子で、気にしていないようでした。
「回復魔法なんだから、怪我が治るのは当然でしょ? こっちのニナも回復魔法が使えるのよ」
そういえば、ニナの回復魔法はデビに試していませんでした。
ただ私の羽根ペンによる回復魔法は神様のそれなので、ニナだとどうしてもそれよりも劣ってしまうと思われます。
確かニナの回復だと自分の体だけが再生可能で、それ以外は回復止まりだったと聞いた気もします。
サーラのように誰にでも回復再生が出来るのは、神様の力を使った私を除いて、この世界では彼女だけなのではないでしょうか。
デビは恐怖におののきました。
「た、たのむから光の天使の回復魔法はアタシにやらないで」
「どうして?」
「サオリの魔法がアタシに効いたのは謎だけど、たぶん光の天使がやったら、アタシ、死ぬ」
デビはニナから離れるように私の背中に隠れて、本当に怖がっていました。
「そういうものなの?」
「うん。魔族にそんな事したら地獄の苦しみしかない。怖い」
光と闇の関係なのでしょうか。
この世界、とくに魔法関連に疎い私にはよく分かりませんが、なんとなく属性の相性があるのだろうという事は、デビの言葉で理解出来ました。
「さて、この岩場を進まなければならないのね。……空が飛べる魔法があればいいのに」
でこぼこな地面は岩が尖っていたりするので、へたに転ぶ事も出来ないくらいに危険な状態です。
森に再び転移した時から、私は既に黄金の鎧の姿になっています。
これでちょっとやそっとでは怪我もしないのでしょうけれど、岩場の移動に時間が掛かるのは必至です。
進行方向に向けて上りになっているので、ここも氷の魔法で凍らせてというわけにも行きませんでした。
氷の上り坂を、滑らずに歩ける術がありません。
「もう、この手しかないわね」
私はスマホを取り出して、あるアイコンをタップしました。
――ポチっと。
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