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第二部 第四章 終わる世界
100・フォレスの置き土産
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突然、夜の山頂へと放り出されました。
ジークが滅んだ事によって、魔王城が消滅したのです。
私を拘束していたジークの黒髪も無くなり、玉座に座っていたエリーシアも、十字架に縛られていた天使たちも、城の床が消えた山の地面に直接横たわっています。
周囲を警戒しましたが、他の魔族の気配もありません。
あの魔王城には、ジーク以外の魔族は居なかったのでしょうか。
「よっぽど魔王を独り占めしたかったのね。……そしてあわよくば自分が魔王になれたらと……」
デビのおかげで、ジークは滅びました。
サーラや天使たちの意識はまだ戻らず、エリーシアも眠ったままです。
何とか、――何とか生き残りました。……けれども私の中に居たはずのフォレスは、もう存在しないのです。
「フォレスのためにも、アランは取り戻さないとね……」
何も無い山頂の、夜の星空の下で、デビの泣き声だけが聞こえています。
「デビ、本当に助かったわ。……ありがとう。あなたが居なければ、みんな死んでいたわ」
「うわーん! アタシ、誰かを殺した事なんて、無かったのにぃ! うわーん!」
魔族だからと言って、誰も彼もが悪者という事はないのです。
魔王というこの世の災厄が魔族から生まれやすいという事と、人間と敵対しているという事で、ほとんどが私たちの偏見なのではないでしょうか。
他の魔族をよくは知りませんが、少なくともここに居る魔族は、……デビは――
ここに居る誰よりも、純粋な存在に見えました。
「無表情に殺戮を行う天使が、悪魔に見えるくらいだもの、デビの方がよっぽど天使だわ。……羽もあるし」
デビは私の元に寄って来て、上目使いで懇願して来ました。
「サオリ、サオリ! どうか魔王様を復活させて! アタシ、アタシね……ひっく」
「う、うん。……アタシが、なに?」
「アタシ、ジークが魔王様になったら、とても嫌な事が起きると思ったの。……だから、だから、どうか魔王アラン様の方を復活させて!」
「……」
デビがジークを攻撃したのは、どうやらアランとジークを天秤に掛けた結果のようです。
しかし――
デビに何と言えばいいのでしょう。
アランはもう、魔王としては復活はしないのです。
アランを甦らせる条件は、魔王を倒す事。
この場合、エリーシアの中の魔王因子を破壊する事になるでしょう。
それによってアランの魂が戻って蘇っても、魔王が復活するという事は無く、そして次の魔王は数十年か百年の単位の時間を掛けなければ、生まれる事は無いのです。
「とりあえず、みんなを回復させてから、帰りましょう」
転がっていたショルダーバッグからノートを取り出し、回復魔法のページを開きます。
カーマイル以外の者には、特に外傷は見当たりません。
魔法を展開すると、エリーシアを除いた他のみんなは目を覚ましました。
「あわわわわ……」
一人、また一人と、目を覚ます天使たちを見て、デビが恐れおののいています。
「ひ、ひ、ひ、光の天使が、……四人も!」
カーマイルがジークから受けた傷も、既に全快しています。
「どうやら上手くやったみたいですね、サオリ。こればかりは褒めてあげましょう」
「ここに居るデビのおかげよ。魔族の子なんだけど、私の味方になってくれたの」
カーマイルに一瞥されて涙ぐむデビは、私の背中に隠れてしまいました。
「申し訳ありません、サオリ様。まさかジークがエナジードレインを使うとは」
不甲斐ないと自分を責めるフォウの話では、どうやらみんなジークのエナジードレインで魔力を吸われ、動けなくされていたようです。
目覚めてもまだふら付いているのは、魔力が回復していないからなのでしょう。
「わた、わた、わたしも、油断してしまい……ました」
「サーラもお疲れ様。本当に生きていてくれて良かった。大魔導師の杖はどうしたの?」
「それはわたくしが、死守いたしました」
フォウはそう言うと、袖口のポケットから大魔導師の杖を取り出して、サーラに渡します。
「ルル! 生きてた!」
一日に一度だけしゃべれる大魔導師の杖――ルルが、生命を謳歌します。……杖ですけど。
「で、どういう状況ですか? サオリ」
カーマイルの質問に、私は――
「とりあえず、帰りましょう」
そう言って、サーラに転移を頼みました。
「す、す、す、すみません……ま、魔力が……」
「あっ、……ごめんなさい」
――ノートを開き、羽根ペンを使って転移しました。
◇ ◇ ◇
「フォレスが死んだのですか。……それでサオリはもう勇者にはなれないと――いや、おかしいですね」
コンビニ裏の自宅へと戻った私は、あらかた説明を終えました。
フォレスと合体していない私は、勇者にはなれないと言うと、カーマイルが首をかしげました。
「だって、サオリからは魔力が感じられますよ。それはいったいどういう事なのですか?」
「え!?」
他の天使たちも、うんうんと頷いています。
私から魔力が!?
スマホを取り出して、『魔』のアイコンをタップし、フォウに渡しました。
「これを私に向けてみて」
「かしこまりました」
その結果――
「魔力が、……『55556』って出てる!」
「それはもしかして、吸い取ったジークの魔力が、そのままサオリに残ったのではないですか?」
「私にも魔力を蓄える器官なんてあったの!?」
「確か、前にジークと対面した時に計った数値は『56000』だったはずです。数値的にも合うじゃないですか。それにずっと妖精と合体していた事で、サオリにも魔力を保持出来る土壌が出来上がっていたのではないでしょうか。もしくは妖精が居なくなった事でそうなったかですね」
フォレスの置き土産。――なんと私に、魔力が宿っていました。
しかも五万超えです。
ジークの元の魔力値が『56000』だった事から、差し引いた『444』の魔力だけが残り、死にきれずに動いていたというのでしょうか。
「これでサオリに聖剣が持てる事が分かりましたけど、どうするのです? サオリは」
カーマイルは何故か、当たり前の事を訊いてきます。
「どうするって、……エリーシアの中の魔王因子を壊さないと、アランは復活しないわ」
「エリーシアは死んで、その後で蘇生魔法ですか」
私は最初からそのつもりでしたけれど、あらためて訊かれた事で、何だか、……違和感を覚えました。
「……」
「何を考えているのです? サオリはもうやるべき事は決まっているのでしょう?」
「そうなんだけど、……うん、そうなんだけど……」
モヤモヤしたものが、胸中を渦巻いています。
「これってさ、結局同じループに戻るだけよね?」
「どういう事ですか?」
「いや、つまり、今回魔王因子を潰しても、結局はまた数十年から百年したら魔王は誕生するのでしょう?」
「それがこの世界のルールですから」
それです、私の引っ掛かる所は。
この世界のルール。そして魔王が誕生したら一年以内に倒さなければ世界が滅ぶという『魔王一年ルール』。
「そのルールってやつは、いったい誰が決めたの?」
「それは、……はて?」
カーマイルは答えられませんでした。
「フォウは誰だと思う?」
「わたくしは、やはり、神ジダルジータ様しかおられないと、そう思いますが」
「だよね? だって人類とか創造しちゃうくらいだものね? だったらその神様がこのルールを書き換えたり出来ないのかな」
こんな下らないルールはいっそ書き換えて、魔王も勇者も必要のない世界にしたら、悲劇も生まれないのではないでしょうか。
もしそれが可能ならば――
「よし、神様に訊いてみる」
スマホの画面にあるアイコン、『神』をタップしました。
出なければ、直接洞窟に行って訊くまでです。
『なんじゃ?』
「あっ、出た」
私の予想を裏切って、すぐに神様と繋がりました。
私は先ほどの見解を、神様に伝えました。
『嫌じゃ。そんな事をしたらワシが暇になってしまうじゃろ。馬鹿な事を言っておらんでさっさと魔王を討伐するのじゃ。褒美はロケットじゃぞ、乗りたいじゃろ?』
神様はそれだけを言うと、一方的に通信を切ってしまいました。
私の頭は混乱しました。――神様は『嫌だ』と言っていました。……つまり、ルールの書き換えは可能なのです。
けれどもあの神様は、暇になるからやらないと言うのです。
「何それ!?」
私が一番最初に、コンビニごとこの世界に転移させられた時に感じた事が、蘇ってきました。
その時の私は、お店のインフラや都合のいい結界や、謎の翻訳機能を知って、こう思っていたのです。
『誰かに弄ばれている。誰かの、ゲームにされている』
――と。
ジークが滅んだ事によって、魔王城が消滅したのです。
私を拘束していたジークの黒髪も無くなり、玉座に座っていたエリーシアも、十字架に縛られていた天使たちも、城の床が消えた山の地面に直接横たわっています。
周囲を警戒しましたが、他の魔族の気配もありません。
あの魔王城には、ジーク以外の魔族は居なかったのでしょうか。
「よっぽど魔王を独り占めしたかったのね。……そしてあわよくば自分が魔王になれたらと……」
デビのおかげで、ジークは滅びました。
サーラや天使たちの意識はまだ戻らず、エリーシアも眠ったままです。
何とか、――何とか生き残りました。……けれども私の中に居たはずのフォレスは、もう存在しないのです。
「フォレスのためにも、アランは取り戻さないとね……」
何も無い山頂の、夜の星空の下で、デビの泣き声だけが聞こえています。
「デビ、本当に助かったわ。……ありがとう。あなたが居なければ、みんな死んでいたわ」
「うわーん! アタシ、誰かを殺した事なんて、無かったのにぃ! うわーん!」
魔族だからと言って、誰も彼もが悪者という事はないのです。
魔王というこの世の災厄が魔族から生まれやすいという事と、人間と敵対しているという事で、ほとんどが私たちの偏見なのではないでしょうか。
他の魔族をよくは知りませんが、少なくともここに居る魔族は、……デビは――
ここに居る誰よりも、純粋な存在に見えました。
「無表情に殺戮を行う天使が、悪魔に見えるくらいだもの、デビの方がよっぽど天使だわ。……羽もあるし」
デビは私の元に寄って来て、上目使いで懇願して来ました。
「サオリ、サオリ! どうか魔王様を復活させて! アタシ、アタシね……ひっく」
「う、うん。……アタシが、なに?」
「アタシ、ジークが魔王様になったら、とても嫌な事が起きると思ったの。……だから、だから、どうか魔王アラン様の方を復活させて!」
「……」
デビがジークを攻撃したのは、どうやらアランとジークを天秤に掛けた結果のようです。
しかし――
デビに何と言えばいいのでしょう。
アランはもう、魔王としては復活はしないのです。
アランを甦らせる条件は、魔王を倒す事。
この場合、エリーシアの中の魔王因子を破壊する事になるでしょう。
それによってアランの魂が戻って蘇っても、魔王が復活するという事は無く、そして次の魔王は数十年か百年の単位の時間を掛けなければ、生まれる事は無いのです。
「とりあえず、みんなを回復させてから、帰りましょう」
転がっていたショルダーバッグからノートを取り出し、回復魔法のページを開きます。
カーマイル以外の者には、特に外傷は見当たりません。
魔法を展開すると、エリーシアを除いた他のみんなは目を覚ましました。
「あわわわわ……」
一人、また一人と、目を覚ます天使たちを見て、デビが恐れおののいています。
「ひ、ひ、ひ、光の天使が、……四人も!」
カーマイルがジークから受けた傷も、既に全快しています。
「どうやら上手くやったみたいですね、サオリ。こればかりは褒めてあげましょう」
「ここに居るデビのおかげよ。魔族の子なんだけど、私の味方になってくれたの」
カーマイルに一瞥されて涙ぐむデビは、私の背中に隠れてしまいました。
「申し訳ありません、サオリ様。まさかジークがエナジードレインを使うとは」
不甲斐ないと自分を責めるフォウの話では、どうやらみんなジークのエナジードレインで魔力を吸われ、動けなくされていたようです。
目覚めてもまだふら付いているのは、魔力が回復していないからなのでしょう。
「わた、わた、わたしも、油断してしまい……ました」
「サーラもお疲れ様。本当に生きていてくれて良かった。大魔導師の杖はどうしたの?」
「それはわたくしが、死守いたしました」
フォウはそう言うと、袖口のポケットから大魔導師の杖を取り出して、サーラに渡します。
「ルル! 生きてた!」
一日に一度だけしゃべれる大魔導師の杖――ルルが、生命を謳歌します。……杖ですけど。
「で、どういう状況ですか? サオリ」
カーマイルの質問に、私は――
「とりあえず、帰りましょう」
そう言って、サーラに転移を頼みました。
「す、す、す、すみません……ま、魔力が……」
「あっ、……ごめんなさい」
――ノートを開き、羽根ペンを使って転移しました。
◇ ◇ ◇
「フォレスが死んだのですか。……それでサオリはもう勇者にはなれないと――いや、おかしいですね」
コンビニ裏の自宅へと戻った私は、あらかた説明を終えました。
フォレスと合体していない私は、勇者にはなれないと言うと、カーマイルが首をかしげました。
「だって、サオリからは魔力が感じられますよ。それはいったいどういう事なのですか?」
「え!?」
他の天使たちも、うんうんと頷いています。
私から魔力が!?
スマホを取り出して、『魔』のアイコンをタップし、フォウに渡しました。
「これを私に向けてみて」
「かしこまりました」
その結果――
「魔力が、……『55556』って出てる!」
「それはもしかして、吸い取ったジークの魔力が、そのままサオリに残ったのではないですか?」
「私にも魔力を蓄える器官なんてあったの!?」
「確か、前にジークと対面した時に計った数値は『56000』だったはずです。数値的にも合うじゃないですか。それにずっと妖精と合体していた事で、サオリにも魔力を保持出来る土壌が出来上がっていたのではないでしょうか。もしくは妖精が居なくなった事でそうなったかですね」
フォレスの置き土産。――なんと私に、魔力が宿っていました。
しかも五万超えです。
ジークの元の魔力値が『56000』だった事から、差し引いた『444』の魔力だけが残り、死にきれずに動いていたというのでしょうか。
「これでサオリに聖剣が持てる事が分かりましたけど、どうするのです? サオリは」
カーマイルは何故か、当たり前の事を訊いてきます。
「どうするって、……エリーシアの中の魔王因子を壊さないと、アランは復活しないわ」
「エリーシアは死んで、その後で蘇生魔法ですか」
私は最初からそのつもりでしたけれど、あらためて訊かれた事で、何だか、……違和感を覚えました。
「……」
「何を考えているのです? サオリはもうやるべき事は決まっているのでしょう?」
「そうなんだけど、……うん、そうなんだけど……」
モヤモヤしたものが、胸中を渦巻いています。
「これってさ、結局同じループに戻るだけよね?」
「どういう事ですか?」
「いや、つまり、今回魔王因子を潰しても、結局はまた数十年から百年したら魔王は誕生するのでしょう?」
「それがこの世界のルールですから」
それです、私の引っ掛かる所は。
この世界のルール。そして魔王が誕生したら一年以内に倒さなければ世界が滅ぶという『魔王一年ルール』。
「そのルールってやつは、いったい誰が決めたの?」
「それは、……はて?」
カーマイルは答えられませんでした。
「フォウは誰だと思う?」
「わたくしは、やはり、神ジダルジータ様しかおられないと、そう思いますが」
「だよね? だって人類とか創造しちゃうくらいだものね? だったらその神様がこのルールを書き換えたり出来ないのかな」
こんな下らないルールはいっそ書き換えて、魔王も勇者も必要のない世界にしたら、悲劇も生まれないのではないでしょうか。
もしそれが可能ならば――
「よし、神様に訊いてみる」
スマホの画面にあるアイコン、『神』をタップしました。
出なければ、直接洞窟に行って訊くまでです。
『なんじゃ?』
「あっ、出た」
私の予想を裏切って、すぐに神様と繋がりました。
私は先ほどの見解を、神様に伝えました。
『嫌じゃ。そんな事をしたらワシが暇になってしまうじゃろ。馬鹿な事を言っておらんでさっさと魔王を討伐するのじゃ。褒美はロケットじゃぞ、乗りたいじゃろ?』
神様はそれだけを言うと、一方的に通信を切ってしまいました。
私の頭は混乱しました。――神様は『嫌だ』と言っていました。……つまり、ルールの書き換えは可能なのです。
けれどもあの神様は、暇になるからやらないと言うのです。
「何それ!?」
私が一番最初に、コンビニごとこの世界に転移させられた時に感じた事が、蘇ってきました。
その時の私は、お店のインフラや都合のいい結界や、謎の翻訳機能を知って、こう思っていたのです。
『誰かに弄ばれている。誰かの、ゲームにされている』
――と。
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