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第二部 第四章 終わる世界

101・Oversee the design of a new game

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 私の目の前に、そびえ立つものがあります。
 直径十メートル、全高六十メートルにも及ぶ、側面にシャトルが搭載されたロケットです。
 
 魔族領のさらにずっと先にある、領域に、私は来ていました。

 何故かって? ――もちろんこれに乗って、宇宙に飛び立つためにです。

「じゃあ、ちょっと行ってくるわね」

 スマホの通信先は、コンビ二に居るカーマイルです。
 更なる改造を施されたスマホは、今では誰とでも通信可能になっていました。

 私は軽く左手を振り、無詠唱のでシャトルの搭乗ハッチまで飛翔すると、コックピットへと乗り込みました。
 
『エネルギー充填じゅうてん百二十パーセント』

 機械的な音声が流れ、ロケット部分の魔力量が充分な事を知らせてくれます。

「準備はOKね。ただちに発射シークエンスを実行」

『発射シークエンスを実行します。噴射十分前』

「たった十分? はや!」

 十分後、私はかつて見た『光の昇天』となって、宇宙そらへと飛び立ちました。



 ◇  ◇  ◇



「魔王因子の移植ってどうやるの?」

 私の質問に答えられるのは、それを実行した事のあるサーラだけです。

「わた、わた、わたしがやったのは……口と口を……その、……合わせて……」
「キスすればいいの?」
「えと、えと、……そうです。……後は、充分な魔力があれば、……それに引き寄せられて、紫の石が、……勝手に」

 どうやら魔王因子は、強い魔力に引き寄せられて、移動するようです。
 私の体に宿った『55556』もの魔力に、運命を感じます。
    
「じゃあ、移植するわよ」

 コンビニ裏の自宅、客室のベッドで眠るエリーシアの口に、私の口を合わせました。

 私はエリーシアを殺して魔王因子を破壊するという選択肢は取りませんでした。
 替わりに行ったのは、魔王因子を自分に取り込んで、自分が魔王となる事です。
 これで、命の恩人とも言えるデビとの約束を、果たす事が出来ます。

 魔王因子が私の体になじむのに、それほど時間は掛かりませんでした。
 魔王固有のスキル『絶対防御』の他、いくつかのスキルも手に入れました。
 
 この時点で私は、アランを甦らせるには、まだ違う方法があると踏んでいたのです。
 その方法は二つあって、一つは平和的解決、もう一つは――

「魔王様ぁ!」

 魔王のオーラを感じ取ったデビが、感極まって涙を流しながら、床にひれ伏していました。

「おいで、デビ」

 恐る恐る近づいてきたデビを優しく抱きしめると、頭を撫でてあげます。

「魔王アランじゃなくてごめんね。これしか魔王を復活させる手が無かったの」
「魔王さまぁ……魔王さまぁ」

 泣きじゃくるデビを抱きしめたまま、私はフォウに顔を向けて言いました。

「フォウ、を出してちょうだい」



 ◇  ◇  ◇



 神様は何故、こんな陰湿な洞窟に住んでいるのでしょう。
 私は目の前に居る当の本人に、訊いてみました。

「何故かって? ここに居る限り安全じゃからの。それ以外には無い」
「神様は何処に居たって無敵じゃないの?」
「そこは一応、ルールというものがあってじゃな。実はワシを殺せる者がこの世でたった一人だけ居るのじゃよ」

 神様は無敵ではありませんでした。――そして、そのたった一人の者が何なのか、まさか教えてくれるとは思いませんでした。

「知りたいか? まぁ知られて困る事も無いからの。だって不可能じゃし」
「神様を殺す事が可能なのに、それは不可能ってどういう事?」
「そうじゃ、不可能じゃ。実はの、この世でワシを殺せるのは魔王のみなのじゃ」
「魔王?」

 神様は、これは自分で作ったルールなのだと前置きをした後で、教えてくれました。

「この洞窟には魔王は入れないようになっておるのじゃ。魔王に対してこの洞窟の入り口は開かん。そして更に、もし洞窟の外で魔王に出くわしても、ワシの魔力を越える魔王でなければワシを殺す事は出来ん。ただあのアランだけは規格外で、この洞窟にも入って来たし、ワシの魔力を遥かに凌駕しておった」

「神様の魔力より上……」

「そうじゃ、そして更に、この世でワシより高い魔力の魔王は誕生せんように設定されておる。だからアランのようにイレギュラーが発生した時はちと焦ったが、そこは魔王の敵は勇者と設定してあるおかげで、ワシには危害が及ばんようになっておるという仕組みじゃ」

「なんでわざわざそんな設定を作ったの? 神様だけは無敵にしておけば、心配する必要もないのに」

「そこはほれ、何でも無双してしまうだけのゲームはつまらんじゃろ? ちっとくらい身の危険の可能性がある方が楽しめるというものじゃ。ただ本当に危険が及ぶのは勘弁なので、そうはならない仕組みになっておるというだけじゃ」

 すべてはゲーム感覚。この神様にとっては世界など、おもちゃに過ぎなかったのです。
 私はこの時、再度神様を説得しに来ていたのです。
 魔王と勇者のルールを改変してもらおうと。
 この世界に魔王の存在が必要無くなった時、アランも自然と復活するだろうと考えていたのです。

 けれども神様の話を聞いているうちに、悟りました。
 ――こいつは駄目だ、考え直す気はさらさらない、と。

「もし、アランみたいな神様よりも高い魔力の魔王が、この部屋に直接転移して来たら、どうするの?」

「それはもう無い。アランは本当に特別だったのじゃ。転移魔法は一度行った場所にしか発動出来んし。それにな、ワシを殺すためには実は聖剣がなくてはならないのじゃ。どうじゃ驚いたじゃろ? 魔王が聖剣を持つ事などありえない話じゃからな。フォッフォッフォッ」

「でも神様がもし死んだら、この世界はどうなるの?」
「ワシに寿命は無い。仮に殺されたとしたら、殺した者が成り代わるじゃろう。よって世界が無くなるという事はない」
「それが聞けて、よかった」

「ん? 何か言ったか? ところで長々と無駄話をしてしもうたが、おぬしの目的はアレじゃろ? 世界の改変とやらの事じゃろう? ワシにはお見通しじゃ。その件は先日も言った通り無理じゃ。ワシの趣味みたいなもんじゃからの。転生者から勇者を育てたり魔王に挑ませたり、これが結構楽しくての。おぬしも早くアランを救って役目を終えるがよい。ロケットが待っておるぞ」

 私は神様の話を途中から無視してスマホを取り出すと、『魔』のアイコンをタップしました。
 スマホは神様に向いています。表示された魔力値は――
 
 『55555』

「これってもう、運命よね……」

 私はフォレスによって魔力持ちにはなりましたが、まだ魔法というものを理解していないので、使う事は出来ません。
 けれども、その『55556』という高い魔力のおかげか、いくつかのスキルが発現しました。
 そのうちの一つが、『マジックボックス』――無限アイテム収納です。

 私は軽く左手を振ると、聖剣――エクスカリバーを出現させ、手にしました。
 そして、今まで隠蔽スキルで隠していた魔王の能力を、解放します。

「おや? なんじゃ? その技は。……しかもおぬし、先程までとは違うオーラを出しておるぞ」
「神様、……色々とお世話になりました。これからは、私は私の道を行くわ」
「どういう事じゃ!?」
「ゲームの駒は、止めるって事よ!」
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