宮廷画家は悪役令嬢

鉛野謐木

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悪役令嬢学園編

悪役令嬢は衝撃的な出会いをする

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「宇平……学園が近づいてくらぁ……オラもうダメだ」


「お嬢様、そんな言葉遣いどこで覚えて来たのですか。あとウヘイってどなたですか」


乙女ゲーム開始の合図である入学式前の校門が近づくにつれて私の気力は削がれていった。
対してハンナのツッコミは馬車の中まで絶好調で、私が何か変なことを言えば1秒2秒でツッコミを入れられた。そのおかげで道中暇をすることはなかったのだが、ハンナとのやり取りのせいで時間が短く感じられ、気がついたら校門まであと10数メートル。
しかも、ハンナがついて来てくれるのは校門の前までで、学園の中には1人で行かねばならないため、余計に気力が削がれていく。


「お嬢様、着きましたよ」


ハンナは馬車が着くや否や馬車から降り、私が飛び降りる前に馬車に階段を立てかけた。


「周りの方々の目がございますのでここでは優雅に階段を使って・・・・・・・・・降りてくださいませ。優雅に階段を使って降りてくださいませ」


ハンナが半目でこちらを見てきた。そんなに優雅に階段を使って欲しいか。二回言われんでもそうするよ。明日から。


「とうっ!」


「そうくると思っていました!」


私が馬車から飛び降りようとするのと同時にハンナが馬車に飛び乗り、私の手を取り、私をエスコートする形で私を馬車から降ろした。


「ハンナは忍者か何かかな?!」


「誰のせいだと思っているのですか!」


八年間の引きこもり生活の中、私は好き放題にやらかしていた。それの引き金となったのが、エルヴェラール7歳馬車飛び降り事件だった。
当時、お母様が湖に連れていってくれると言った時に乗った馬車から降りるときに、馬車に階段がまだつけられていなかったため、待つのが面倒だった私は馬車から飛び降りたのだ。
それ以来、馬車から飛び降り、着地する時にキメポーズをすることにハマってしまい、私は馬車に乗るたびにそれをやるので、見かねたお母様とハンナがエルヴェラール奇行防止隊を結成し、日々対策を練っていたらしい。
その成果が出せたからか、ハンナはとても満足そうな顔をしていた。


「いいですかお嬢様、学園では」


「穴を掘らない。石を積まない。良い木があっても拾わないでしょ!言われなくても分かっておりましてよん!オホホホ」


「噴水に飛び込まないが抜けております。あとその変なお嬢様言葉と笑い方も止めること。それでは行ってらっしゃいませ」


「ヒィン」


私は一度深呼吸をしてから覚悟を決めて校門をくぐった。

さあ、乙女ゲームの始まりだ。

乙女ゲームのオープニングイベントはここ、校門で起こる。
オープニングイベントはヒロインのフローラが校門をくぐってすぐにエルヴェラールと出会い、難癖をつけられるところから始まる。
そこに王子様御一行が現れ、第三王子でエルヴェラールの婚約者のレオンがエルヴェラールを回収。取り巻きその一とその二のウィルムアルム双子がフローラに怪我はないかとか大丈夫とか声をかける。
ちなみにヴォルグ様はレオンの背後で終始無言。一応王子の護衛役だからね。
そこに騒ぎを聞きつけた生徒会長のクロードお兄様が現れ、騒ぎの元凶であるエルヴェラールを叱る。
叱られたエルヴェラールが顔を真っ赤にして、「覚えてらっしゃい!」と行って逃げさると、レオンが「さあ、僕たちも行こうか」と言ってオープニングが終わる。

私は今、校門をくぐった。
それは、つまり……


「きゃっ!」


「グヘッ」


私は後ろから強い衝撃を受け、地面とキスをしかけた。危ねぇ。
私が立ち上がろうとすると白くて綺麗で華奢な手が差し伸べられた。


「すみません! あの、急いでいて、私としたことがうっかり……お怪我はありませんか?」


薄いピンク色のふわふわしたハーフアップの髪に人形のように大きくて形の良いピンク色の瞳。


「の、ノープロノープロブレムよ。私のことはお気になさらず!」


私は、校門をくぐって10秒、ヒロインフローラ=ブランと衝撃的な出会いを果たしてしまったのであった。
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