宮廷画家は悪役令嬢

鉛野謐木

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悪役令嬢学園編

悪役令嬢は再会する

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「お急ぎのご様子ですし私は失礼いたしますわ!」


私は急いで立ち上がると逃げるようにその場を立ち去ろうとして、壁にぶつかった。


「大丈夫かい? インヴィディア嬢」


私がぶつかった壁は白い制服を着ていて金髪で金の瞳をしている爽やかイケメンだった。
誰だコイツ。


「ええ、まあ。ああ、先程はぶつかってしまい申し訳ございませんでした。では私はこれで」


どこかで見た気もするがどこで見たのかは思い出せないので知らない人ということにしておこう。知らない人にはついて行ったらダメだからね、関わらないようにしよう。面倒ごとの匂いしかしないし。


「ねぇウィルム、久しぶりに会ったのに随分とそっけない気がするのは気のせい?」


「殿下と会ったのはあの茶会が最初で最後ですからね。引きこもり令嬢が殿下を覚えているはずがありませんよ。見るからに頭の弱そうな顔をしていますし」


何だコイツ。失礼だな。ああ、そうか金髪が殿下と呼ばれていたということは、


「お久しぶりです、ヴォルグ。お変わりありませんか?」


私は金髪の後ろに立っていた黒髪赤目のイケメンに声をかけた。


「ああ。変わりはない。エルこそ元気だったか? 手紙を出しても返事が全く来なかったから少し心配した」


やはり、金髪の後ろにいたのはヴォルグ様だった。口調も少し大人びて少年から青年になったという感じがして、少年時代の高い声も可愛らしかったが、今の低く落ち着いた声もまたかっこいい。
そういえばヴォルグ様が手紙を出してくれていたなんて聞いていない。これはお父様案件だな。


「私は元気に楽しく絵を描いて過ごしていましたよ。手紙はおそらく私の手に届く前にお父様がどこかにやってしまったのでしょう……よろしければ今度、会っていない間のお話でもしませんか?」


「エルさえ良ければこの後新しくできた喫茶店にでも」


「行きます!」


もちろん即答した。
こんなに急に予定が入るとは思わなかったが久しぶりにヴォルグ様とお話できる機会ができるとは、入学式様様だ。
うん? 入学式? あ、そうだ。私は入学式前の、乙女ゲームのオープニングイベントでヒロインと衝撃的な出会いを果たしたのだった。
確かこの後はエルヴェラールを回収しにレオン殿下が来て、おまけにウィルムアルムが付いて来てレオン殿下の後ろにヴォルグ様が控えるフォーメーションが組まれて、それぞれがヒロインに対して声をかけるイベントが発生する。ヴォルグ様は三点リーダーのみのセリフだけど。


「ねぇ、2人とも僕のこと忘れてない?」


何だコイツ。あ、レオン殿下か。両サイドのおまけはウィルムアルムね、多分。


「特に話すこともありませんでしたので。それでは私はこれで」


「待って」


レオン殿下が急に私の手を掴んだのをウィルムが反射的にはたき落とした。地味に痛い。


「殿下、婚約者でもないご令嬢の手を急に掴むのは失礼です」


「急に叩いてくるあなたも十分失礼だと思いますけどね!」


私が恨みがましくウィルムを睨むと置いてけぼりをくらっていたフローラが割って入った。


「あの! 元はと言えば私がその方にぶつかってしまったことが原因ですし、その、申し訳ありませんでした!」


ホワイ?確かに私にフローラが突っ込んで来て転んで、立ち上がったらレオン殿下が目の前にいてぶつかったが、私が殿下とぶつかってからはフローラは蚊帳の外にいなかっただろうか。フローラが謝る要素ゼロではなかろうか。
というか攻略対象たちよ、なぜ私に構う。ヒロインに構ってくれたまえよ。私は君たちに関わると命の危険があるのじゃ。


「お前たち、そこで何をしている。入学式がそろそろ始まるというのに騒ぎを聞きつけて来てみればあきれたものだ」


一字一句間違うことなく台詞を完璧に言って現れたのは、最後のメイン攻略対象、生徒会長クロード、私の兄だった。


「お兄様! これはとても良いところに! ちょうど足止めを食らって会場までいけなかったのです」


「……そうか。お前たちもくだらない諍いはやめて早く第一体育館にくるように」


お兄様が私を罵倒しない、だと? ここではエルヴェラールを叱責、罵倒してエルヴェラールが退散するはずなのだが。
他の攻略対象たちもオープニングイベントと違う動きをしていたし。
私がレオン殿下と婚約しなかったからオープニングイベントの内容が変わったのだろうか。
これから彼らに関わりつもりはないし割とどうでもいいけど。
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