宮廷画家は悪役令嬢

鉛野謐木

文字の大きさ
28 / 39
悪役令嬢学園編

悪役令嬢はタローを哀れに思う

しおりを挟む
私たちはお兄様の後ろについて入学式の会場である第一体育館へ向かった。
道中何回かレオン殿下が私のエスコートを申し出たが全てお断りした。王子よ、そういうのはヒロインにしてやってくれ。
第一体育館に着くと新入生は家の爵位順でその中では当着順に整列させられているようだった。
私は公爵令嬢なので最前列でレオン殿下の隣だった。なんか嫌だ。
新入生代表挨拶はレオン殿下かと思いきやアルムでとても短くて聴きやすい内容で助かった。
しかし、締めの学園長の話が長く、私は何度か夢の国へ旅立ちそうになってしまった。


「……でありますから皆、精進するように!  それから明日の試験に向けて今日はしっかりと復習すること! 以上」


待ってくれ校長。私、試験があるなんて聞いてない。
学園長の話は明日、試験があるという爆弾を投下して締めくくられた。
この8年間は絵を描いていただけで勉強など全くしていなかった。
もしかして、この後ヴォルグ様と喫茶店に行っている場合ではないのではなかろうか。


「それでは新入生の皆さん、学舎の案内をしますのでついてきてくださいね」


入学式が終わってからは強制参加の学舎案内があり、学園の先輩が案内役として先導してくれた。
まず最初に歴代学園長像がある場所に連れていかれた。
学園長像のブロンズは4体あり、先輩は一体ずつ紹介してくれた。
一体目の像は少し丸みのある顔で肩幅が広く遠くを見つめているようなパンチパーマのどこかで見かけたような気がした。


「こちらは初代学園長のゲッタン様です」


「ゲタじゃん」


そうだ、ゲタだ。石膏像課題でよく出されるゲタ。確か、ローマ皇帝でカラカラ帝の弟だった気がする。カラカラ帝は名前の響きやら強面めのイケメンだったため結構好きだった。市民のために大浴場も作ってくれたいい人だしね。
それなのに弟のゲタは丸くてむすっとした顔をした像。無機質に見える石膏像ではなくブロンズだと案外可愛いかもしれない。顎が饅頭みたいで。


「こちらが2代目のモーリー様です」


「……モリエール」


時代も人種も全く違うじゃないか。これは乙女ゲーム製作陣が石膏像からそれらしそうな見た目の人物を選んで並べているだけな気がしてきた。
モリエールは俳優で作家の人だ。
フワッフワのロングヘアが特徴的だが、後頭部は帽子をかぶっているのかハゲているのかは分からないが、毛がない。


「そしてこちらが3代目のブルルタス様です」


「And you, Brutus?」


ブルータス、お前もか。
カエサルじゃなくてブルータスとはなかなかセンスが良いと思う。


「最後に4代目のタロー様です」


「最後の最後でやる気無くしたね?!」


「どうかしましたかインヴィディア嬢」


「あ、いえ。なんでもありません」


名前がタローなのに像はジョルジョだった。ジョルジョは眉間にシワを寄せた若い顔のイケメンというよりは美人さんというような顔立ちをしている。
他の石膏像たちは名前を少しいじられた程度に抑えられていたが、タローは原型を全くとどめていない。
かわいそうにジョルジョ、いや、タロー。せめてジョルジョーンとかジョージとかにしてあげればよかったのに。

ちなみに像はまだ無いが、現学園長の名前はラオゴン先生という。
天然パーマにもじゃもじゃの髭が特徴的で服の上からもゴリマッチョだと分かる体型で強面気味の顔立ち。
現学園長もどこかで見かけたような気がする。
あれはラオコ……これ以上はやめておこう。


「これで学舎案内は終わりになります。もっと見て行っても構いませんし帰っても構いません。明日は遅刻しないようにしましょうね」


学舎案内は、学園長像の後は学生寮、中庭、食堂、各教室を周り、学園長像の前で解散となった。


「エル」


ヴォルグ様が行こうか、と声をかけてくれたのだが私は試験のことが心配で、遊んでいる暇はないかもしれないということを話した。


「俺でよかったら教えようか?」


「本当ですか!」


やっぱり言ってみるもんだね。
私はヴォルグ様に昔話がてら勉強を教えてもらうことになったため、私は一旦家にノートと教本を取りに戻ることになった。
ヴォルグ様は喫茶店の近くの噴水広場で待っていると言ったので私は急いで家に戻った。
私の家はインヴィディア領と王都に一つずつある。もっと詳しく言えば別荘やら何やらで他にもたくさんあるらしいが私は行ったことがない。
社交シーズンは王都の家、それ以外はインヴィディア領の家に住む。
インヴィディア領は王都のすぐ隣にあるため、王都の家とインヴィディア領の家は馬車で30分くらいしか離れていない。
王都に家、いらない気がする。
今は学園に入るために王都の家に滞在している。学園から王都の家までは徒歩10分なのだが、学園は全寮制のため、残念ながら明日からは寮生活だ。
まあ、いざとなればすぐに帰れる距離だしホームシックにはならなそう。
家に着くなり私は勉強道具をカバンに詰め、走って家を出た。
お父様とハンナが話しているのを途中で見かけたため、行ってきますを言うとお父様が鬼の形相をした。
私の娘は渡さんと聞こえたのは気のせいだろうか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームの悪役令嬢、ですか

碧井 汐桜香
ファンタジー
王子様って、本当に平民のヒロインに惚れるのだろうか?

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

婚約破棄?王子様の婚約者は私ではなく檻の中にいますよ?

荷居人(にいと)
恋愛
「貴様とは婚約破棄だ!」 そうかっこつけ王子に言われたのは私でした。しかし、そう言われるのは想定済み……というより、前世の記憶で知ってましたのですでに婚約者は代えてあります。 「殿下、お言葉ですが、貴方の婚約者は私の妹であって私ではありませんよ?」 「妹……?何を言うかと思えば貴様にいるのは兄ひとりだろう!」 「いいえ?実は父が養女にした妹がいるのです。今は檻の中ですから殿下が知らないのも無理はありません」 「は?」 さあ、初めての感動のご対面の日です。婚約破棄するなら勝手にどうぞ?妹は今日のために頑張ってきましたからね、気持ちが変わるかもしれませんし。 荷居人の婚約破棄シリーズ第八弾!今回もギャグ寄りです。個性な作品を目指して今回も完結向けて頑張ります! 第七弾まで完結済み(番外編は生涯連載中)!荷居人タグで検索!どれも繋がりのない短編集となります。 表紙に特に意味はありません。お疲れの方、猫で癒されてねというだけです。

悪役令嬢、休職致します

碧井 汐桜香
ファンタジー
そのキツい目つきと高飛車な言動から悪役令嬢として中傷されるサーシャ・ツンドール公爵令嬢。王太子殿下の婚約者候補として、他の婚約者候補の妨害をするように父に言われて、実行しているのも一因だろう。 しかし、ある日突然身体が動かなくなり、母のいる領地で療養することに。 作中、主人公が精神を病む描写があります。ご注意ください。 作品内に登場する医療行為や病気、治療などは創作です。作者は医療従事者ではありません。実際の症状や治療に関する判断は、必ず医師など専門家にご相談ください。

【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい

三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。 そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。

悪役令嬢のビフォーアフター

すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。 腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ! とりあえずダイエットしなきゃ! そんな中、 あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・ そんな私に新たに出会いが!! 婚約者さん何気に嫉妬してない?

悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。 「…私、間違ってませんわね」 曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話 …だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている… 5/13 ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます 5/22 修正完了しました。明日から通常更新に戻ります 9/21 完結しました また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

処理中です...