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悪役令嬢学園編
悪役令嬢は志す
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予約の設定ミスで遅れました。申し訳ありません。
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噴水広場に行くとヴォルグ様が本を読みながら待っていた。
「お待たせしました」
「いや、別に。待つのは慣れている」
今来たところだと言わないあたりがヴォルグ様らしい。
「それは良かったです。さっそくお店に行きましょう!」
私が気合を入れるためにガッツポーズをとるとヴォルグ様がかわいそうなものを見るような目をした気がしたのだがきっと気のせいだろう。
「ここだ」
「これはお店で待ち合わせでもよかったのでは」
ヴォルグ様が言っていた新しくできたという喫茶店は噴水広場に面している通りの入り口にあり、テラス席からは噴水広場の様子が楽しめるようになっていた。
「……噴水の前で待ち合わせがしてみたかった」
「なるほど」
噴水広場の噴水の前で待ち合わせをすることが最近若者の間で流行っているらしい。
ヴォルグ様も流行りに乗りたかったのね。
私たちは店に入るとテラスの近くのテーブル席に通された。
なにやら隣のテーブル席にどこかで見かけたような顔ぶれが座っていたが、見なかったことにしよう。
「一応教本は持ってきたのですが、お恥ずかしながら魔導教本以外は初めて開くんです」
私が勉強道具をカバンから出すと隣のテーブルからぞろぞろと人が移動してきた。
「や、やあ! インヴィディア嬢! 奇遇だね。僕らも勉強会をしているんだ! よかったら一緒に」
「お断りします」
「なんで?!」
「もともとヴォルグ様に教えていただく予定でしたし、勉強会って人数が多くなると面倒なので嫌です」
私はレオン殿下とウィルムアルム双子を軽くあしらうとノートを開いた。
「いいのか? その、殿下が……」
ヴォルグ様がレオン殿下に哀れみの目を向けながら気遣うようにこちらの様子を伺い始めた。
「いいんです。ヴォルグ様が先約ですし、本当に人数が多い勉強会って好きではないのです」
特に同級生攻略対象オールスターなんてごめんだ。命がいくらあっても足りない。
レオン殿下御一行は頼むから私ではなくヒロインちゃんを追いかけてくれ。
「エルがいいなら、まあ……あ、まず注文」
そうだ。私は喫茶店に来ていたのだ。何も頼まず居座る迷惑客になるところだった。危ない危ない。
私はヴォルグ様からメニューを受け取ると何を頼もうか悩み始めた。
「ここはイチゴタルトが美味しいと評判だ。ほら、エルは確かイチゴタルトが好きだったと思うんだが」
待って、それどこ情報だ。
確かに私は苺のお菓子が好きだがここ数年誰かに苺が好きだと言った覚えはない。
「あ、間違ってたらすまない。何せ八年前の茶会だったからな。好みも変わっているだろうし」
なるほど。八年前のお茶会か。
確かにあの時、私は苺のタルトレットを食べていた。
ヴォルグ様はなかなかの観察眼を持っているようだ。
「いえいえ! 今でも好きですよ。それを覚えていてこのお店を紹介してくれるなんて嬉しいです」
私はイチゴタルトと紅茶を頼んだ。紅茶は紅茶としか書かれていなかったため、何の茶葉なのかはわからなかった。
ちなみにヴォルグ様はアーモンドクッキーと紅茶を注文していた。
「ところでテストのことなのですが」
「ああ、別にそこまで難しいものは出ないだろうし、ただのクラス分け用だから」
クラス分け用か。それなら別にそこまで気負う必要は無い……とは言い切れない。
乙女ゲームではお兄様以外は全員クラスメイトだった。
つまり、このテストの結果によって今後の学園生活が左右されることになる。
確かゲームではクラスは上から順にA、B、C、Dで登場人物は全員Aクラスだった。
しかし、ヴォルグ様の話によると、この世界ではAクラスの上にSクラスが存在しているという。
Sクラスは超優秀もしくは何かしら秀でた能力を持っている人が入れるクラスで、授業は他のクラスにお邪魔するか、与えられた研究室で何かしらをするらしい。
私は家に泥を塗らずに攻略対象と別クラスを目指すためにはAクラス以上を目指すしかない。
「正直に言って難しいかもしれませんがSクラス、目指してみたいです」
「エストワ先輩もSクラスだったしエルも大丈夫だと思う」
はい? エストワ先輩ってエストワお兄様? 嘘だろ。あの珍獣、相当優秀なのか。
「エストワお兄様が? 全くそんな感じはしませんけど」
Sクラスは希望制なようで、魔術が優秀であることに加え、もう一つ何か優秀であれば入ることができるらしい。
この制度はすでに自分の進路を決めている生徒が進路にあわせた技術を学ぶために作られたようだ。
ちなみにお兄様は学園で習う全科目以外に論文と魔術分野で優秀な成績を残してSクラスになったという。
私の進路? このまま何もしなければたぶんお嫁さん。
「エストワ先輩だけじゃなくて今の宰相様と宮廷画家様がSクラス出身だっていうのが有名だと思うんだけど」
「宮廷画家?」
「王家専属の画家のことだ。エルの家でいうエルザ=ミュラー氏かな」
私のお母様をお嫁さんの見本とすると、毎日の茶会による接待、招待客の選別、手紙の返事、夜会、お父様とデー……領地の視察などなど。とても忙しそうな上に社交関係の仕事ばかりだ。
この世界にも本当に宮廷画家なんて職業があったのか。エルザ生活はお菓子を食べて絵を描くだけの生活でたまにクレームがきて描きなおすこともあったが楽しかった。
仕事はお兄様が断らないせいで絶えず入り、給料と言う名のお小遣いも絶えず入ってきて、数年は食うに困らないくらいの貯金もできた。
ここまで実入りが良く楽しい職業なんてそうそう見つからないだろう。
「私、宮廷画家を目指します!」
私はつい、勢いに任せて宣言してしまった。
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噴水広場に行くとヴォルグ様が本を読みながら待っていた。
「お待たせしました」
「いや、別に。待つのは慣れている」
今来たところだと言わないあたりがヴォルグ様らしい。
「それは良かったです。さっそくお店に行きましょう!」
私が気合を入れるためにガッツポーズをとるとヴォルグ様がかわいそうなものを見るような目をした気がしたのだがきっと気のせいだろう。
「ここだ」
「これはお店で待ち合わせでもよかったのでは」
ヴォルグ様が言っていた新しくできたという喫茶店は噴水広場に面している通りの入り口にあり、テラス席からは噴水広場の様子が楽しめるようになっていた。
「……噴水の前で待ち合わせがしてみたかった」
「なるほど」
噴水広場の噴水の前で待ち合わせをすることが最近若者の間で流行っているらしい。
ヴォルグ様も流行りに乗りたかったのね。
私たちは店に入るとテラスの近くのテーブル席に通された。
なにやら隣のテーブル席にどこかで見かけたような顔ぶれが座っていたが、見なかったことにしよう。
「一応教本は持ってきたのですが、お恥ずかしながら魔導教本以外は初めて開くんです」
私が勉強道具をカバンから出すと隣のテーブルからぞろぞろと人が移動してきた。
「や、やあ! インヴィディア嬢! 奇遇だね。僕らも勉強会をしているんだ! よかったら一緒に」
「お断りします」
「なんで?!」
「もともとヴォルグ様に教えていただく予定でしたし、勉強会って人数が多くなると面倒なので嫌です」
私はレオン殿下とウィルムアルム双子を軽くあしらうとノートを開いた。
「いいのか? その、殿下が……」
ヴォルグ様がレオン殿下に哀れみの目を向けながら気遣うようにこちらの様子を伺い始めた。
「いいんです。ヴォルグ様が先約ですし、本当に人数が多い勉強会って好きではないのです」
特に同級生攻略対象オールスターなんてごめんだ。命がいくらあっても足りない。
レオン殿下御一行は頼むから私ではなくヒロインちゃんを追いかけてくれ。
「エルがいいなら、まあ……あ、まず注文」
そうだ。私は喫茶店に来ていたのだ。何も頼まず居座る迷惑客になるところだった。危ない危ない。
私はヴォルグ様からメニューを受け取ると何を頼もうか悩み始めた。
「ここはイチゴタルトが美味しいと評判だ。ほら、エルは確かイチゴタルトが好きだったと思うんだが」
待って、それどこ情報だ。
確かに私は苺のお菓子が好きだがここ数年誰かに苺が好きだと言った覚えはない。
「あ、間違ってたらすまない。何せ八年前の茶会だったからな。好みも変わっているだろうし」
なるほど。八年前のお茶会か。
確かにあの時、私は苺のタルトレットを食べていた。
ヴォルグ様はなかなかの観察眼を持っているようだ。
「いえいえ! 今でも好きですよ。それを覚えていてこのお店を紹介してくれるなんて嬉しいです」
私はイチゴタルトと紅茶を頼んだ。紅茶は紅茶としか書かれていなかったため、何の茶葉なのかはわからなかった。
ちなみにヴォルグ様はアーモンドクッキーと紅茶を注文していた。
「ところでテストのことなのですが」
「ああ、別にそこまで難しいものは出ないだろうし、ただのクラス分け用だから」
クラス分け用か。それなら別にそこまで気負う必要は無い……とは言い切れない。
乙女ゲームではお兄様以外は全員クラスメイトだった。
つまり、このテストの結果によって今後の学園生活が左右されることになる。
確かゲームではクラスは上から順にA、B、C、Dで登場人物は全員Aクラスだった。
しかし、ヴォルグ様の話によると、この世界ではAクラスの上にSクラスが存在しているという。
Sクラスは超優秀もしくは何かしら秀でた能力を持っている人が入れるクラスで、授業は他のクラスにお邪魔するか、与えられた研究室で何かしらをするらしい。
私は家に泥を塗らずに攻略対象と別クラスを目指すためにはAクラス以上を目指すしかない。
「正直に言って難しいかもしれませんがSクラス、目指してみたいです」
「エストワ先輩もSクラスだったしエルも大丈夫だと思う」
はい? エストワ先輩ってエストワお兄様? 嘘だろ。あの珍獣、相当優秀なのか。
「エストワお兄様が? 全くそんな感じはしませんけど」
Sクラスは希望制なようで、魔術が優秀であることに加え、もう一つ何か優秀であれば入ることができるらしい。
この制度はすでに自分の進路を決めている生徒が進路にあわせた技術を学ぶために作られたようだ。
ちなみにお兄様は学園で習う全科目以外に論文と魔術分野で優秀な成績を残してSクラスになったという。
私の進路? このまま何もしなければたぶんお嫁さん。
「エストワ先輩だけじゃなくて今の宰相様と宮廷画家様がSクラス出身だっていうのが有名だと思うんだけど」
「宮廷画家?」
「王家専属の画家のことだ。エルの家でいうエルザ=ミュラー氏かな」
私のお母様をお嫁さんの見本とすると、毎日の茶会による接待、招待客の選別、手紙の返事、夜会、お父様とデー……領地の視察などなど。とても忙しそうな上に社交関係の仕事ばかりだ。
この世界にも本当に宮廷画家なんて職業があったのか。エルザ生活はお菓子を食べて絵を描くだけの生活でたまにクレームがきて描きなおすこともあったが楽しかった。
仕事はお兄様が断らないせいで絶えず入り、給料と言う名のお小遣いも絶えず入ってきて、数年は食うに困らないくらいの貯金もできた。
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