婚活ラビリンス

りん

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第1章

まさかの再会

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その日の夜、短大時代の友達、真紀を麻布のバーに呼び出し早速愚痴を吐き出した。

「もうね、本当最悪だった。これが最後の希望だって、自分史上最高にめっちゃ気合入れて行ったのに、ダミーって!お金目当てじゃ結婚できないって説教までされるしさ」

「でも顔はかっこよかったんでしょ?」

「それはもうっ。背も高いし、何より年収8000万だよ?」

「しかし、あの川村にそんなビッグな友達がいたとはね。あの頃合コンセッティングしてもらえば良かった」

「本当、あぁ見えてあいつ、いいとこ出てたの忘れてたよ」

「いいとこ勤めてたのにねー。会計士になるって言って仕事辞めて、死に物狂いで勉強するかと思えば世界1周旅行に行ってくるだもんね」

「本当だよ、むしろフラれたのは私だっての」

はぁーと大きなため息をつく私に、真紀が肩を叩いて励ましてくれる。

「まぁ、いい機会だったんじゃない?まず現実でさ、そんな良い男と話すことないでしょ?」

「……まぁね」

あいつの姿を思い出し、悔しいけどそれは認めざるを得なかった。
二人で話していると、ふと前で飲んでいた二人組の仕事帰りらしきサラリーマンと目が合って笑いかけられる。それに適当に笑い返し、友人にこそっと言う。


「ここにいる男達がイモに見える位」

「ははは」

「でもさすがに腹立ってね、最後英語で言ってやったの。私でもこれ位話せるんだぞって。そしたら英語通じなかったみたいで、ぽかんとしてんの。社長って言ったって所詮こんなもんなんだよ」

「……あんた馬鹿じゃないの、あんたが話せるっつったて、所詮駅前留学でしょ?教室通い始めて何ヶ月目よ」

「そんなことないもん、発音上手だってジョージは褒めてくれるし」

「誰よジョージって」

「私が通ってる教室の先生。イギリス系アメリカ人でイケメンなんだけど、いつも笑いながら上手上手って褒めてくれるもん」

「それ営業目的でおだてられてるだけじゃないの。ねぇ、今日の相手外資系コンサルティング会社って言ってたよね。社員なんて半分以上外国人なんじゃないの?英語できない訳がないと思うんだけど」

「でも通じてなかったよ?」

そう言うと、携帯で奴の会社を検索したのか求人の募集要項を見せつけられた。

「ほら見てよ。面接条件、TOEIC850点以上だって。英語が通じてなくてぽかんとしてた訳じゃなくて、あんたの発音の悪さにびっくりしてただけじゃないの?それもきっとドヤ顔で言ったんだろうから、相手も尚更びっくりするよね」

「そ、そんなことない」

「やだー、恥ずかしー。なんでそこで習いたての英語出しちゃう?」

「だ、だってあの人、私が見た目ばっか気にして中身空っぽ、みたいな感じで言うから私でもこれ位できるんだぞって思わせたかったんだもん!」

「よし、そのこれ位を留学経験のある私が直々に査定してあげよう。レッツ、スピーク、イングリッシュ!」

そう言ってからかうように、私の顔の前にマイクのように手を出す。

「もう、やめてー」

その手を振り払うと、私はグラスを片手に意気込んだ。

「そんな奴のことはいいのっ、もう2度と会うこともないだろうし!こんなことでね、へこたれてる暇ないんだから、次!次行かないと!」

そう言って、薄ピンク色のシャンパンを飲み干した。

お洒落なお店は大好きだけど、今日はそんなしっとり飲むような気分じゃない。
二軒目は、気兼ねなく酔っ払えるように近くの大衆居酒屋に行くことに。
そこで更に酒のペースは増した。ハイボールのグラスを片手に饒舌に喋る。


「いやいや、もうね私も20代後半になって現実見えてきたって。そういう奴は遊び相手にはなっても結婚相手にはしてくれないってこと。まずエリートはFラン短大卒田舎の農家出身の私なんか目じゃないの。だからこの前年収700万、年齢も40まで可って条件下げてきたし」

「下げてそれね、言っとくけどそれでも日本男子の平均年収の二倍近いからね」

「だって貧乏は嫌。不幸だから」

「それを不幸だって決めつけるあんたの方が不幸だよ」

「そんなことない。現に私は不幸だったもの」

そう言って、木製のテーブルの上に突っ伏す。グラスに入ったお酒を睨み付けながら続けた。

「だから女の幸せって絶対男で決まると思っちゃう。あいつのせいでお母さん泣いてばかりだったから」

「考えが極端すぎるんだよ、女の幸せって別に結婚だけじゃないでしょ?趣味とか仕事に見出したって良いじゃない」

「そりゃあね、真紀ちゃんは大きな会社入ってバリバリ働いてるからそんなことが言えるのっ」

完全に愚痴モードに入った私に真紀ちゃんが大きなため息をついたのが聞こえた。
それでも、やっぱり今日のことが悔しくてどうしても口に出さずにはいられない。

「今日はね頭の中でチャペルの音が鳴ったのゴーン、ゴーンって。もう、運命の人なんだって思ったのにー、バカー」

そう言ってテーブルに突っ伏したまま、顔を横に振る。

明日も普通に仕事だっていうのに、帰りは終電近くになっていた。真紀ちゃんには、「もう、あんたの愚痴には付き合ってられないよ」ってお小言を言われてしまった。

真紀ちゃんは、日付の変わった電車のホームであーあと嘆いていたけど、派遣社員の私は気軽なもの。
明日のスケジュール帳を見て、フェイシャルエステが入っていたことに思わず胸を弾ませちゃう位。

よしっ、明日はいつも通り定時に即行帰ろう。

翌朝、いつものように出社時刻ギリギリに登場。

お茶くみ、コピー取り、その他の雑用を適当にこなし、そわそわしながら終業時刻を待つ。

デスクに座りながらオフィスの時計を睨み付け、ようやく定時17時までのカウントダウンに入った。もういつでも更衣室へスタートダッシュできる体勢に入っている。

それなのに、運悪く、上司の中川さんに声をかけられてしまった。


「桜井さん、ちょっと今いいかな」

「はい、なんですか?」

良くねぇよ、と心の中で毒づきながら笑顔で応える。

「実は折り入って頼みたい事があってね」

「私にできることであれば」

いやいや、残業になるような面倒ごとだけは御免だと、どう理由を付けて退社しようか考え始めた。

「あのね、今度六本木に店舗進出するじゃない?それでコンサル会社さんに手伝ってもらうことになったんだけど」

「へぇー」

コンサルという言葉に人一倍敏感になっている私。思わず笑顔が引きつってしまう。
しかし、派遣の私にはそんな話全く関係ナッシング。まるで他人ごとのように適当に聞いた。

「そこでね、あちらさんから、うちから一人バディを組んで欲しいって言われててね。それを桜井さんにお願いできないかなって。まぁ橋渡し役みたいな感じで、どうかな?」

ひぇー、めんどくさどー。絶対定時に上がれなくなるじゃん。しかもそれ派遣の私がやることじゃなくない?

「いえ、私にそんな重要な役目は……。勤まるかどうか不安です」

眉をひそめながら、困ったように言う。中川さんは優しいから無理強いはしないはず。

「そっか困ったな。それがさ、相手の方からの指名なんだよね。是非、桜井さんにって。なんだか知り合いみたいだけど、榊原さんって知ってる?」

「えっ?」

「英語ができるスタッフが良いということでね。桜井さんにって。もう、英語が話せるなんて初耳だよ、なんで言ってくれなかったの」

「いや、全然話せるって程のもんじゃないんで」


……さいあく

二度と聞きたくなかった名前。

思わずあからさまに顔がひきつる。私の苦々しい表情に中川さんも少し驚いた様子。
中川さんには本当に申し訳ないが、そいつとは金輪際関わりたくない。適当に理由をつけて、丁重にお断りさせてもらい逃げるように退社する。

廊下を足早に歩き、更衣室へ向かうべくエレベーターへ。下のボタンを連打して待つ。

……最悪だ、しかもバディに私を指名?一体、何の魂胆があって?



やっと到着したエレベーター。
その扉が開いた瞬間、目の前の人物に思わず、うっと顔をしかめた。


「You again. Long time to see.」

そこには憎き奴の姿が。


「……っ!?」

「悪いね、あまり英語は得意な方じゃなくて聞き取れなかったかな?この前の返事これで合ってる?」

「い、嫌味ですか?」

「いや、この間の桜井さんの発音は感服したよ。どこで英語を習ってるの?」

「……銀座一丁目のとこの」

「そうか、うちの社員には結構ビジネス英語習っている人多くてね。そこは利用しないように言っておかなきゃ」

「本当、嫌味ですか?てか勘弁してください、一体なんの嫌がらせですか?なんでわざわざ私のこと指名したんですか?」

「嫌がらせ?ただ、顔見知りの方が良いと思っただけだよ」

「私、正直言ってあなたのこと嫌いなんですけど」

「気が合うな、俺もだ。お互い嫌い合っているもの同士仲良くやっていこう」

そう言って握手を求められるが、当然それに応じるはずもなく、ただ目の前の人物を睨み付けた。

「言っている意味が分かりません」

「早速だけど、お店案内してくれる?」

「嫌ですよ、私もう仕事終わりですから。派遣はね残業代が支払われないので、残業できないんです」

「じゃ、その残業代はこっちで支払おう」

「はぁ?」

なかなか強引な相手だけど、私も引き下がらない。

「私、婚活に人生賭けてるって言いましたよね?定時上がりが基本、私アフターファイブは忙しいんです」

「は?」

今度は相手が顔をしかめる。

私はバッグの中からスケジュール帳を出して今月の予定のページを見てもらった。

月曜日はお料理教室
火曜日は痩身、フェイシャルエステ
水曜日はまつ毛パーマ
木曜日はネイルサロン
金曜日は美容室

この通り、私の一週間はぎっしり埋まってしまっている。その他にも、英語のレッスンやヘッドスパだって行きたい。
このスケジュール帳にある意味感服したのか、唖然としている社長さん。

「……本当仕事なめくさってんな。潔過ぎて逆に関心するわ」

「えぇ仕事なんてプライベートの二の次ですから。今日はこれからエステなので失礼します。バディの件ももう丁重にお断りさせて頂いているので」

「だめだ、全部キャンセルしろ。期間中は、こっちに本腰入れろ」

「は……?ちょっと待って、あなたにそこまで決められる権利ないでしょう?」

「これからはこっちにも、うちの社員が出入りするようになる。年収1000万は下らない上物揃いだ。玉の輿狙った婚活にはもってこいだろ?」

「……っ!」


これも人心掌握術というものか。
私がその気になるポイントをよく分かってらっしゃる。

今までの嫌がりようから一転、ころりと態度を変えると、まるでちょろいもんだと鼻で笑われた。

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