婚活ラビリンス

りん

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第1章

仕事モード

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「じゃ、早速お店に行こうか」

「ちょっと待っててください、お店の鍵借りてくるので」

そう言われて、仕方なくオフィスに戻って店の鍵を借り、そいつと共に出店準備中の店へと向かうことに。

半ば強引なやり口に、流されるように従っているけど本当にこれで良かったのか。


「うちの会社の女子もなかなか気合入ってるけど、お前も相当なもんだな」

「えぇ、そこら辺の普通の女の子と一緒にしないでください。皆が10綺麗になる努力をしていたら、私はその10倍は頑張ってますから」

「へぇー」

まるで興味のない返事をされて、ムっとして更に続けた。

「じゃないとね、すぐ太って顔に肉つくし、肌荒れしやすくて吹き出物もできやすいし、大変なんですから。髪の毛だって剛毛のくせっ毛で、本当梅雨の時期とか言うこと聞かないし」

グチグチ自分のコンプレックスをスピーカーのように垂れ流しにしていると、隣で歩きながら私の方を観察するように見てきた。

「……なんですか?」

不躾な居心地の悪い視線に、思わず声が荒くなる。

「そこまで手入れしなくたって、ちょっと隙があった方がいいもんだけどな。そうそう、こういうの」

そう言って何か見つけたかのように、私の髪を耳にかき上げられる。いきなり何をされるのかとドキドキしていると、笑いながら私のこめかみ部分を指を差してこう言った。

「ニキビとかさ」

「……っ!」

そう言って悪戯っぽく笑うその人の手を振り払った。
あーもう、一瞬でもドキドキした自分の浅はかさに辟易する。

そんなことを話しながら、会社から歩いて15分程の六本木一丁目駅からほど遠くない場所にお店はあった。お店の前まで来て、何やら看板を眺めて難しい顔をしている社長様。

仕事モードに入ったようで、私はただその様子を見ていた。
お店に入ると、隅から隅までチェックが入る。


「グラスの種類これだけ?フルートないの?何で乾杯する気?」

「フルボディもないとか、これだけコストかけて良い赤仕入れてるのに何考えてんの」

「それと内観なんとかなんない?センスなさ過ぎ。この照明暗くできたりする?ターゲット層分かってないだろ、ここ新宿や渋谷じゃないんだからさ。チェーン店だからって同じことしててもしょうがないだろ」

一体誰に向かって言っているのか、独り言のようにつらつら文句を言う社長様。

「おい聞いてるのか?」

「……ず、随分好き勝手言うからびっくりしちゃって」

「なんと言われようがこっちはこれが仕事だ。成功させたかったら言うことを聞け」

言うことを聞け?は?何この超絶俺様?
耳を疑うようなセリフに思わず閉口してしまう。


「で、肝心のシェフは?スタッフはもう集められてるのか?」

「そ、そこまでは私も把握してません。そもそも、この話にほとんど関わってなかったし」

言い淀む私。そこに、ちょうど社長様の携帯が鳴った。

「……あぁ、今店にいる。なんでって、別にいいだろ。そっちはお前と環に任せてんだろうが。俺も明日はそっちに合流するから」

……話している相手って社員さん?
それも社長様と同じ位の立場で物事を言える人間らしい。

なんだろう、会話の内容的になんで社長が直接出向いてるんだって言われてるようだけど。しばらく耳をすましてその会話を聞いていると、不意に店の扉が開いた。

社長様と同じ位身長がある、これまた、くっそ高そうなスーツを着た男の人。しかも社長とはまた違うタイプのイケメン。その出で立ちから社長様の仲間ってことがすぐ分かった。今話していた人物もこの人だろう、携帯を耳に当てたまま、茶目っ気たっぷりに片手をあげてこう言った。

「来ちゃった」

「は?何してんの?」

「いやヒヤリング思いのほか早く終わっちゃってさ、今皆会社戻ってミーティングしてる」

「お前は?」

「社長の様子見に来た」

「さぼってんじゃねぇよ」

「いやいやだって、いきなりこんなショボい案件引き受けたと思ったら、社長自ら出向いちゃうし気になるじゃん?」

「ショボい?」

思わずその言葉に聞き返してしまう私。
うちの案件がショボいってどういうこと?

「あ、ごめんね、そちらの社員さん?」

「あぁ、うちとのバディ頼んでる桜井」

そう言われ改めて自己紹介する。

「はい、桜井彩奈といいます、よろしくお願いします」

「そうなんだ、俺多分こっちにはあんま関わんないけどよろしく」

笑顔でそう言われ名刺を渡される。そこには、片桐 凌眞、副社長と記されていた。
なるほど、こちら様はナンバー2であらせられましたか。年齢は社長様と変わらない位というか、二人の雰囲気はなんだか友達っぽい。きっと6畳から会社を始めたっている創立メンバーの一人なんだろう。


「あのショボいってどういうことですか?」

「あぁ、ごめんね。でも、うちは最低でも月500万、1000万の単価で動くからさ。正直こういう、エリア戦略とか店舗拡大戦略とかやんないんだよね。顧客側が費用払えないから。しかも飲食店とか専門外なのに」

「もう、お前うるさいから帰れ」

「何か思い入れがあるの?」


私も気になり社長様へ視線を向けた。

だけどその返答を遮るように、そこでまたお店の扉が開く。雨が降ってきていたようで、会社の白坂千聡ことちーちゃんがわざわざ私と社長様の分の傘を持ってきてくれたのだ。彼女は私の4つ年下の23才、今年入社したばかりの新人さん。黒髪のおかっぱ頭に、丸い眼鏡をかけている。


「あら、可愛い子きた」

「ひ……っ」

いきなり副社長に絡まれ、短く悲鳴を上げるちーちゃん。今まで関わったことのないような人種に、思わず後ずさっている。

「辞めろって、悲鳴あげられてんじゃん」

「あ、あの、傘を……」

そう言って社長様に傘を渡すと、見たことのないような笑顔でそれを受け取った。

「ありがとう、助かるよ」

「い、いえ」

そんな社長様に照れるちーちゃん。私はというとなんとも胸糞悪い。

だって、さっきまでの苦虫を潰したような顔はどうした?この腹黒め。
私は、顔をしかめて奴を睨みつけた。


「てゆうか、会社まで送ってくよ。すぐ近くに車停めてるから」

「そうだな」

「車持ってくるからちょっと待ってて」

そう言ってポケットから車のキーを取り出し、ちーちゃんから傘を借りて颯爽と雨の降る外へと出て行った。

3人になった店内。
社長様がちーちゃんの方へ向くと、あからさまに体をビクつかせた。
無理もないよね、私も本性知らなかったら未だに緊張してたと思う。

「本当は明日改めて挨拶に伺おうと思っていたんですけど、コンサルタントの榊原と言います。よろしくお願いします」

そう言って丁寧に名刺をちーちゃんに手渡す。

「はぁ、榊原慧人さん、社長……」

「ちなみに、さっきのは副社長の片桐と言います」

「はぁ、副社長……」

呆けたように同じリアクションを繰り返すちーちゃんに思わず笑いそうになってしまう。
二人の様子を見ていると、それに気づいた社長様が私にも聞いてきた。

「何?お前も欲しいの?」

「いらんわ」

そんな荒い口調の私にびっくりしたのか、メガネの奥の目をまん丸にして驚くちーちゃん。

「え?二人はお知り合いなんですか?」

「いや、全然」

と、その問いに二人揃って答える。あまりにも息が合ってしまい、心の中で舌打ちした。

「?」

頭の上で?マークを浮かべるちーちゃんをよそに、店の前で一台の黒い車が止まった。

「あ、来たっぽいな」

店を出ると、はい、期待を裏切らない黒のBMきましたー。
まぁ、都内、特にここら辺では珍しくない車種だけど。
内装金かけすぎじゃない?めちゃくちゃオプション付けてるよね。
一体いくら上乗せされてるんだろう。考え出すと恐ろしくなってくる。


そして店のすぐ前に車をつけてくれた片桐さんが、車窓を開けて顔を出した。

「どうぞー」

そう言われるも、触れることにさえ怖気づくちーちゃん。
そんな様子に榊原さんがドアを開けてくれた。

すると、いきなりちーちゃんが靴を脱ぎだしたため慌てて車の持ち主が止めに入った。

「えっ、なんで靴脱ぐの?」

榊原さんはというと、声を出さないように口元に手を当てているが完全に肩が笑っている。

「い、いや、だって車汚れちゃう……っ」

「いやいや、そんなことしたら君の足が汚れちゃうでしょ」

「でも」

「こんな車のマットより、君の足の方が大事だよ」

優しいというか少々キザというか、そんな言葉にも素直に顔を赤くしたちーちゃんは申し訳なさそうに車の中へ入って行った。

「すいません、失礼します」

「お願いします」

私も続けて車へ入る。
助手席に乗った榊原さんが、うちの会社の場所を教えるとすぐに走り出した。

しかし、この4人に共通する話題がある訳でもなくただただ無言の車内。
するとその沈黙を破るように、ちーちゃんがか細い声で尋ねた。

「あ、あの、この車、おいくら位するものなんですか?」

「うーん、都内の一人暮らし用のマンション一室買える位?でもこいつの方が良い車乗ってるよ」

……ははぁ、天下の社長様ですものね。

「はぁ……、なんだか想像つきません。きっともう私の人生でこんな車に乗ることはないと思います」

しみじみ大げさなことを言うちーちゃんに、思わず吹き出す私達。それになんで笑うのとでも言うような顔のちーちゃん。

「可愛いなぁー、家に連れて帰ってペットにしたい。千聡ちゃんって、まずうちにはいないタイプだよね。あのくっそ生意気な奥森に会わせてやりたいわ」

待って、私だって若干靴浮かせてるわ。さっきから、足プルプルしてるし空気椅子並に頑張ってるわ。

「ペットっていい加減にしろよ、お前」


会社の前でおろしてもらうと、帰り際、榊原さんから声をかけられる。

「今日話したこと、明日俺が行く前にメンバーで検討しといて。明日14時位に行くつもりでいるから」

「あ、はい、分かりました」

思わずそう返答してしまったが、私は本当にこのプロジェクトに本格的に関わっていくつもりなのだろうか……?


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