婚活ラビリンス

りん

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第1章

そして始まった恋の迷宮

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なんなんだろう、あの社長様の強引さは。私は部署内でバディなんてできる立ち位置にいないのに。

早速、ちーちゃんとオフィスに戻り、社長様の言伝をプロジェクトメンバーに伝える。


「それでなんて言ったの?」

早速、野村和明、通称クズアキが私に噛みついてきた。私はこいつが嫌いだ、そしてこいつも私が嫌いだ。
当初からそれは、お互い肌で感じていた。こいつは私の二つ年上で、そしてなんとあのちーちゃんの彼氏だって言うんだから驚きだ。


「すいません、私このプロジェクトに関わるの初めてだったのでただ聞いているだけで……」

「……ちっ、言われっぱなしかよ」

盛大な舌打ちをされ、脳内で奴の胸倉に掴みかかり顔面に唾を吐く。
そんな乱暴な私の脳みそだけど、表に出す表情はちゃんと申し訳なさそうにしている。


「こら、派遣さんに言ったってしょうがないだろ」

すかさずそんな私を中川さんが救ってくれる。中川公輔さん、40代前半の子持ちの既婚者だ。
仕事に不真面目な私にもいつも優しい課長さんで、思わずうっとり、大好きと心の中で囁いた。

「経営のプロが言うんだから、指摘されたところ予算内で再検討してみよう。とりあえず、最低限グラスは揃えようか。あと、看板の変更はまだしも内観をガラッと変えるのは今からじゃ難しいなー。シェフの要望で決めちゃったけど確かにちょっと違うよな」

「あっちは、こっちの切羽詰まった状況ちゃんとわかってんのかよ」

しかし未だにイライラしているクズアキのせいで話はなかなか進まない。

一体、こんなクズのどこが良いんだろう。

優しい課長だからって遠慮なしに、ガンガン物を言っている。
だけどそれはただの榊原さんに対する愚痴で、てんで中身がない。

昨日、少しだけど榊原さんの仕事している様子を見ているだけに、仕事ができない人間ってこういう人を言うのかと思ってしまう。

まぁ、仕事適当人間の私に人様のことをとやかく言う資格はないのだけれど。

だけど男の人の怒るような声をずっと聞いていると気分が悪くなってきた。
まるで、昔のあいつを思い出させられる。

頭の中で少し蘇える光景。いつも気分が悪くなるだけだから、思い出さないようにしているのに。
クズアキのせいで奴を彷彿とさせられてしまう。

……あ、やばい。めまいがするかも。

ふらっと足がふらついたところで、察したちーちゃんが駆け寄ってきてくれた。


「桜井さん、大丈夫ですかっ?」

「ごめんね、ちょっと気分悪くて」

そんな私に気付いた大天使様、中川課長が助け舟を出してくれた。


「桜井さん大丈夫?今日はもうこのまま帰って良いよ」

その言葉に甘えて、オフィスを後にする私。去り際、クズアキと誰かが私について話している内容が耳に入ってくる。

「あの子もうダメでしょう?基本、定時にすぐ帰っていくし、やる気ないし。上の人も次の契約は更新しないって言ってましたよ」

「今からでもバディ変えてもらったら?荷が重いんじゃない」

「いや、でも相手先の社長と知り合いだったみたいで、直々のご指名なんだよ」

「えぇっ?」

……あぁ、気分が悪い。
だから私がバディなんて無理なんだってば。

すると、心配してくれていたのか後ろからちーちゃんがついてきてくれた。

「あ、あの、野村さんの言うことは気にしないでください。桜井さんの、派遣っていう自分のプライベートも大事にできる働き方を羨ましがってるだけなので」

「あはは。あの人、人のことやる気ないって言う前に、自分だってやる気ないもんね」

「はい、だけど男はそれでも仕事頑張らなきゃいけない風潮だからって、尚更、桜井さんが羨ましいみたいで」

「……ねぇあの人と付き合って疲れない?」

「えっ、あ、はい、こんな私と付き合ってくれる人いませんから」

そう言って照れるように笑うちーちゃん。あいつでそんな顔ができるなんて、どんだけ良心の塊というか。男の見る目がないというか。


その日はエステに行けなかったかわりに、サホンのボディスクラブをすることに。1番好きなラベンダーの香りだ。

それを少し手に取り腕に伸ばして行く。
良い匂い、癒されるー。

しかしなかなか、すっきりと気分は晴れてくれないもの。はぁー、と重苦しいため息をつく。

……これから、どうしようか。
結局、あいつに巻き込まれていくしかないのかな。

だけどなんでわざわざ私を指名したの?
仕事のしやすさってそんなに大事?
しかもあんな風に強引に人のスケジュール変更してまでさ。

そして、あの副社長が言うにはうちの案件ショボいらしいじゃん。それなのになんで引き受けたのか。

……もう、訳わからん。

せっかくの良い匂いなのに、肌もスベスベなのに頭の中はこんがらがるばかり。

まさか、私のことちょっと気になってるとか……?

一瞬、そんな世迷言が過ってドキっとするけど、いやいや、私もそこまで馬鹿じゃない。

元カレのこともあったし、あの散々なお見合いだ。
金目当ての女なんて辟易するって言われた位だから、それはない。

いくら考えても答えが出る訳でもなく、もう諦めてボディマッサージに専念することに。

とりあえず、明日も奴は来るんだ。

……はー、憂鬱だ。


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