婚活ラビリンス

りん

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第1章

婚活に人生賭けてますから

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「桜井さんは、結婚後の生活についてどのように考えていますか?仕事を続けたいとか、それとも家庭に入りたいとか」

いずれ様子を見ながら、切り出そうとしていた話題を相手からふられ、19連敗を元にして用意していたセリフを言う。

「私は……その時の人生の段階に合わせて仕事ができたら、と思っています。だから、もし結婚して子どもができた時には仕事を辞めて家庭に入りたいと思っています。私の両親が共働きで、小さい頃少し寂しい思いをしたので、自分の子どもにはそんな思いをさせたくないなって」

あくまでも専業主婦希望だけど、あからさまに金銭面で相手に依存しようとすると嫌われるため、体の良い理由を付けて家庭に入りたいと告げる。

まぁこれだけの年収になれば、金銭面で心配することがないから相手の仕事なんてどうでもいいんだろうけど。
それでも高収入の人は、相手が家庭に入ったとしても夢や目標を持って生きて欲しいっていう人が多い気がする。
おそらく結婚しても自分に頼ってばかりではなく、相手にも自立心を持ってもらい対等な関係でい続けたいっていうことなんだろうけど。

正直、寄生する気満々の私には理解できない。だって自立心って必要?
私は、お金さえ与えててもらえば相手の言うことなんでも聞くし、ペット位の扱いにしてもらって全然構わないんだけど。


「榊原さんはどうお考えですか?」

「私は本人の好きなようにしてもらっていいと思っています。家庭に入ってもらってもいいし、仕事を続けてもらっても全然構いません」

「東京に住んで生活に余裕を持って暮らしたいとなると、なかなか専業主婦って難しいと思うんですけど。その辺りは、さすが寛容でらっしゃいますね」

そう言うと、え?と聞き返され、思わず具体的な数字を言ってしまう。

「だってすごいですよね、8000万って」

「あぁ、すいません、それ適当で。そもそも年収って概念がなく、利益を給料で取るか会社に残すかなんで。自分のところに入るのは大体それ位かなって」


不意に榊原さんにじっと見つめられ、ドキっとする。

「……桜井さんはさ、どうして俺に申し込んでくれたの?」

「そうですね、やっぱり将来ある程度余裕を持って暮らしたいので、安定した収入のある方ということと。あとは自分で企業した方に憧れてしまうところがあって、そこで成功された方ってやっぱり仕事ができて、自分の仕事に対してとても熱量を持って取り組んでいる方だと思うので」

「そうですか。私の会社は、今となってはここまで成長してくれましたが、当初は失敗するリスクだってもちろんありました。今でこそ成功したと言える程経営も安定させることができましたが、もし上手くいっていなくても私とお付き合いする気になりました?」

「はい、そういう野心的な、挑戦するという姿勢に惹かれますので」

「挑戦する姿勢ですか、そうですか」

……何か気に障ることを言っただろうか。微笑んでいた榊原さんの表情に一瞬翳りがさしたのを見逃さなかった。
レモネードに手を伸ばし一口飲む。少しの沈黙の後、榊原さんの方から思いもよらない人物の名前が飛び出した。


「……ところで、川村正吾という男をご存知でしょうか?」

「え……っ!?、はい……」

その人とは1年前に、1年半程付き合っていた彼氏だった。あまり良い別れ方ができなかったため、額に冷や汗が滲む。

「実はそいつとは大学時代の友人でして。元々UMJの本部でエコノミストとして働いていたんですけど、会計士の資格をとりたくて仕事を辞めた途端あなたにこっぴどくフラれたっていうから。でも、今言っていることと随分違いますよね?挑戦する姿勢に惹かれるんじゃなかったんですか?」

「そ、それは……」

「私の会社は、前勤めていた会社から5人で独立し、最初は6畳程のワンルームから始まりました。おかげさまで今となっては成功したと言える程まで成長してくれましたが、最初は資金繰りで大変な思いをしました。あなたがもしその時の私に会っていても、見向きもしなかったんでしょうね」

……もしかして、私、ハメられたってこと?
友達を振った相手に仕返ししてやろうって?

はっ、社長のくせに暇な奴。
こうなったら相手に気を遣う必要もない。
あっつい化けの皮をずる剥けにして、今までのほんわかした表情からさっと微笑みを消す。


「世の中若くてそこそこ可愛い子なんて腐る程いるんだよね。40過ぎのおじさんなら可愛がってくれる人もいるかもしれないけど、現実そんなに甘くないよ。能力のあるキャリアがある人なら尚更、最初から金目当ての相手に寄生する気満々の子に、魅力を感じる人はあまりいないんじゃない?結婚相手に自分の価値を見出そうとするとことか、本当辟易するよ」

つらつらと好き勝手言われ、私はそれをただ黙って聞いていた。

「ということなので、ここで終わりにしましょうか?」


そう言って立ち上がろうとした目の前の奴を引き留める。

「……わざわざ、私に説教するために、仕事を抜け出してくれたんですか?」

「説教というか、川村を振った奴から申し込まれてるって、その婚活会社を経営している友人に教えられてね。正直言うと、俺のプロフィールは友達に頼まれて肩書だけ貸しているダミーっていうやつでさ。まぁ、川村のこともあったし、あとは単純に婚活ってどんなものなのか面白そうだと思って」

「……面白そう?ふざけないで、こっちはお見合い一回一回本気でやってるんです。婚活に人生賭けてるんです。人をからかって楽しいですか?」

怒りで声が震えそうになるのをこらえながら反論する。

「お金重視で何がいけませんか?この殺伐とした東京で、愛だの恋だのだけで結婚できます?彼とは結婚を前提にお付き合いしていました。でも、会計士の合格率なんてたったの10%程度。仕事を辞めた後、何年か浪人するかもしれない。その間彼を支えられる程の愛情を持ち合わせていなかっただけです」

「俺でお見合い何回目なの?」

「20回目になります」

「もし仮に君が玉の輿に乗れたとすると、君には相手からお金、セレブの妻という地位の供給がある。だけど君は相手に何を与えられる?若さ?付け焼き刃のような可愛いさ?やがて老いていけばその価値もなくなるし、得意だという料理に関してもお手伝いさんで十分事足りる」

「……分かってます」

「分かってないだろ。経営者だとか一流企業に勤めているような人は、人を分析することに長けてる人が多いから、そういうのは話してて分かるものだよ。ただお金目的の、若くて可愛いさ位しか取り柄のない子は敬遠されるもんだよ。確かに君の言う通り、愛だの恋だのだけで結婚なんてできないと思う。けれど、お金だけでも結婚はできないよ」


これまでのお見合いの敗因は、金目当てという自分の結婚観にあると言い当てられ、更にむかっ腹が立つ。

「……何を言われようと、いずれ誰もが羨むような相手と結婚してみせますよ。代金払って頂かなくて結構です。払って頂くだけの時間を私は提供できなかったようなので」

「いや、いいよ、今日のために仕上げて来たんだろ?その代金だと思って、あと今回のお見合い料もこちらで持つ」

「いいえあなたに払って頂く義理はないのでっ」

少し声を荒げ、千円札二枚を乱暴にテーブルの上に叩きつけた。目の前の人物を睨み付け、捨て台詞のように言う。

「……I hope I never see you. Never show your face」


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