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第2章
波乱の予感
しおりを挟む先にそんな奥森を帰した後、こっそり自分のデスクで帰り支度に入っている桜井に声をかけた。
「桜井、ちょっと話があるんだけど」
「え?何ですか?」
そう言って時間を気にしているのか腕時計をチラ見する。
「何か用事があるのか?」
せわしそうな桜井にふと思い出した。……そうだったこいつは、時間があればエステ、美容室、ネイルサロンと予約を入れる美容オタクだった。
「うん、もう行かなきゃ。これからね、ちーちゃんと大事な用事があるから」
「大事な用事って何だよ?」
「秘密です」
茶目っ気たっぷりに、口元に人差し指を立ててそう言う。やけに上機嫌な桜井。怪しさ満点で、彼女が去った後、こっそりちーちゃんをひっつかまえて聞き出した。
ちーちゃんはいきなりそんなことを聞いてくる俺に不審がることなく、サラサラと今日のこれからの予定について教えてくれた。
「白坂さん、ありがとう。俺と今話したこと桜井さんには秘密だよ?」
「はい?よく分からないけど、分かりました」
にこっと微笑みながらそう言うと、ちーちゃんも不思議そうにしながらも、にこっと笑って了承した。
あいつは、この前のホテルの一件のことなんて忘れてしまったのだろうか。俺にあんな顔をしておきなら、未だに金に執着しているのか。本気で金から愛情が生まれるとでも思ってるのだろうか。
どうにも邪魔してやりたくなって、先に帰らせた相棒に電話した。
「……あぁ、凌眞?」
『何?今日のことでお説教?ちゃんと反省してるよ』
「それよりも、これから、ちょっと付き合って欲しいところがあるんだけど」
◇ ◇ ◇
「良い?ちーちゃん、良い女になるためにはね、振り向いてくれない男一人に固執してちゃダメなの」
「はい、勉強になります。先輩!」
それは私にも言えるセリフ。
この間は危なかった、完全に何考えてんだか分かんない社長様に完全に心奪われるところだった。
というかあれから数日は、まともに顔を合わせて話せないし、ふと気の抜けた瞬間にあの一夜のことが頭をよぎって大変だったんだけど。
まぁ数日たてば、頭も冷えて現実的に考えられるようになってくる。
あのスタイル抜群の美女を、毎日横に置いている彼にとって私はただの暇つぶしの女にしか成り得ないってこと。
元デブスとして天性の美女程恐ろしい存在はない。いくら努力して小綺麗にしたところで、彼女らを前にするとたちまち劣等感の塊であったことを強く思い知らされる。
ということで、あの夜は良い思い出になったということで、あんな深いキスをされてどれだけ熱を帯びた目で見つめられようと、私は絶対騙されない。都合良くなんて使われない。
そうだ、あの時だってお金をくれるって言うからキスしたんだから。
そう言って自分を奮い立たせるが、社長様のあの訳の分かんない行動に、突然の美女の登場。
変に勘繰りを入れて、少しも傷ついていないと言ったらウソになる。
もう、アラサーにそんな立ち止まっている暇ないのにっ。
そうだ、最初から絶対攻略不可、超高難易度のハイレベルな男ともしかしたら……、なんて一時でも錯覚してしまったのが間違いだった。
こんな最初から振り向いてくれない男、結婚なんて夢の夢のそのまた夢なんていう男にかまけている時間はない。
無駄に想い悩む時間も、下手に勘繰って一人傷つく時間も割いてなんてられない。
婚活は期限付き、リミットが迫っている私は忙しいのだ!
しかしセレブ結婚相談所の1回5000円のお見合いも、そろそろ金銭的に厳しくなってきた。
そこで今度狙いをつけたのは、セレブ限定婚活パーティーというもの。
結婚相談所に比べ一度参加すれば、たくさんの男性との出会いがあり、連絡先交換も基本任意。
参加費も5000円から、条件をクリアしていれば2000円~1500円と比較的安価。
一度登録すると、メルマガとラインで婚活パーティーの知らせがくる。
種類は様々で、例えば、年収700万以上・一流企業限定・35才以下男性 VS 32才以下の容姿端麗な女性・スタッフ推薦者限定。だとか、大体こんな風に条件がある。
だけど今日のパーティーは、月に一回行われるスペシャル企画。
私は数日前からこの日に備えて、一際美容ケアに力を入れて今日のパーティーに臨んでいた。
スペシャルだけあって、参加者の条件は華々しく、男性年収1000万以上で・経営者・一流企業・三大士業(司法書士、公認会計士、不動産鑑定士)・五大商社・医師、歯科医限定という、ハイスペックな男しか来ない、まさしくスペシャルなパーティー。
もちろん女性にも厳しい条件があり、まず年齢は28才以下で容姿端麗であることはもちろん、スタッフの写真審査をクリアしていること。客室乗務員、モデル、一流企業の秘書or受付だったら審査免除。
私は27才だから年齢的にはギリギリクリア、容姿もまずまずといったところでなんとか通過。
だけど、もう後がない。
やっぱり本当に玉の輿を狙って婚活するのは、今年、来年まで。それ以降は、こういったパーティーに参加できなくなってくるし、結婚相談所だって30才以下、28才以下と区切って検索する人が多い。
どんどん自分がふるいにかけられていく恐怖。
おちおちしてたら、セレブと出会うことさえできなくなってしまう。
しかし、そんな落ち込む暇ももったいない。
この婚活合戦で、誰もが羨む旦那様を勝ち取るんだから。
パーティーの形式は二種類あって、完全フリータイムの立食型パーティと、着席型の一人一人時間を区切って話せるタイプのものがある。
今回のパーティーは立食型のパーティーで、全員と話せる着席型に比べまず容姿がモノを言う。女性の参加者は、あらかじめ、ふるいにかけられているだけあって皆綺麗。周りのレベルが総じて高いため、なかなかシビアな市場だ。下手したら誰にも声をかけられず、ぽつんと立ちんぼをくらう羽目になる。
引き寄せる餌といってはなんだけど、ちーちゃんを連れて行くことに。
クズアキにバレないようちーちゃんを婚活パーティーに誘い、当日の仕事終わりには彼女を早々にとっ捕まえ、会場の近くにある有料のメイクルームへ連行した。
女優鏡の前に座らせると、煌々と顔を照らすライトが眩しいのか、眼鏡越しの丸っこい目をパチパチさせて瞬きをしている。
これだけの照明を当てられてるのに、白い肌にはくすみ一つ見当たらない。バサバサの長いまつ毛がもったいない。
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