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第2章
外野の恋 2
しおりを挟む……え、え、何事!?
小さなオフィスのあちこちから声がする。
廊下に出たところで、少し頭が冷えたのかこいつには珍しくバツの悪そうな顔をして振り向いてこう言った。
「……悪い、この案件から俺外して」
「当たり前だ、何やってんだよ。公私混合も甚だしい、帰って頭冷やせ」
「だって、ちーちゃんのこと悪く言うからっ」
そう言った矢先、たまたま通りがかったちーちゃんと出くわしてしまう。
絶妙なタイミングに、二人同時に口を噤んだ。
「私がどうかしました……?」
心配そうに小さな頭を傾げる彼女。
俺は片桐の背中を押して、先に帰るよう促した。
「なんでもないよ、ちょっと野村さんと言い合いになっただけだから」
「……彼、私のこと何か悪く言っていたんですか?」
ここまで感付かれていては、もう誤魔化すことは難しそう。
それに彼女にとっても、話しておいた方が良いのかもしれない。
「野村さんと付き合ってるんだよね?外野がとやかく言うのもなんだけど、彼はやめた方がいいと思う」
「どうしてですか?」
「いや、野村さんって、白坂さんの他にも女の子がいるみたいだし。それにさっき、白坂さんとは付き合ってないみたいなことを聞いちゃって。まぁそれで片桐がキレたんだけど」
「片桐さん、私なんかのために怒ってくれたんですね」
「だからさ、あんな男やめた方が良いよ」
「でも、大丈夫です。私知ってるんで、野村さんに他に付き合ってる女の子がいることも、私が遊ばれていることも」
「え?知ってて好きなの?」
「はい」
「だって野村さん優しいから、私なんかを可愛いって言ってくれるんです。それが例え嘘でも、お世辞でも嬉しいんです」
「はぁ……、ちなみに片桐のことはどう思ってるの?」
「片桐さんですか?いつも声をかけてくれるんですけど……すごくドキドキします」
顔をぽっと赤くして恥ずかしそうに話す彼女。これはやっぱり脈ありかと、期待して食いつき気味に話しを聞く。
「うんうん」
「社長さんも、奥森さんもきりっとしてるからいつも緊張しちゃいます」
……あぁ、そこ同列なんだ。
外部の会社の人間で、片桐はその中でも自分にちょっかいを出してくる面白いお兄さん位の認識なのだろうか。
てっきりちーちゃんも片桐を意識してると思い奴に釘を刺したが、全くの見当違いに、嬉しそうにジュエリーを見ていた片桐に申し訳なくなってくる。
「私がこんな風に情けないから、野村さんに振り向いてもらえないんですね」
しょぼんとあからさまに落ち込む彼女に、そんなことないよっと声をかけた」
そして未だにざわつくオフィスへ戻ると、ミーティングルームにこの騒ぎを聞きつけたのか中川さん、桜井とその他メンバーがすでに揃っていた。この上なく行きづらいがしょうがない、片桐の代わりに頭を下げる。
「……うちの片桐が失礼なことをして、大変申し訳ありませんでした」
「いや、こいつがまたなんか失礼なことを言ったんでしょう。なんとなく想像つきますよ。そうじゃなきゃ、片桐さんがそんな風に怒ったりしないだろうし」
「あの、あいつは今回の案件から外しましたので。今後ともよろしくお願いします」
「……社長さんがね、どうしてうちみたいな小さな案件に自ら出て来てくれるのか疑問に思ってたんだけど。この間桜井さんに、榊原さんが昔オッティモでバイトしてたことがあるって聞いて納得がいって。社長さんのような初心を忘れない真摯な姿勢と、若いのに大した仕事ぶりにいつも感心させらていたんです。こちらこそ最後までよろしくお願いします」
逆に深々と頭を下げられ、恐縮しながらやめてくださいと言って顔を上げてもらった。
野村もさっきの片桐のような、バツの悪そうな顔をしながら頭を下げる。
ミーティングが終わった後、珍しく仕事中にも関わらず終始上の空だった奥森が声をかけてきた。
「……あんな、副社長初めて見ました。女の子のことであんな風に本気で怒ることがあるんですね」
さっきの一件を目の当たりにして傷心中の奥森に、かける言葉が見つからない。
あんな男のどこが良いのやら。二人は先輩と後輩という関係で、会社発足仕立ての頃からの付き合いだ。
片桐にとって、一番最初の後輩だった。入ってきてばかりの頃、奥森の自己紹介を聞いた時から、あいつは俺が育てると自分から申し出て専任の教育係となったのだった。
最初は女の子だから気に入ったのかと思ったが、決してそんなことはなかった。
片桐は基本女の子には優しいのに、奥森にだけは女扱いどころか誰よりも厳しく冷徹に接していた。
それは今でも変わらない。
そんな相手を好きになるなんて、奥森はしんどいだけだろうに。
奥森は俺に取って可愛い部下の一人だ、こんな顔をいつまでもさせておく訳にはいかない。肩を落とす彼女の肩へそっと手をのせる。
「片桐なんかより、よっぽど良い男いるから」
「……社長?」
「今まで仕事中心だったから、狭い社内にしか目が向かなかったんだろう。今度良い男紹介するから、あんな奴忘れちまえ」
そうは言っても、気持ちの切り替えなんてすぐにできるものではない。それでも彼女は、はいと俺に少し切なそうに笑って見せた。
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