【完結】まずは結婚からで。〜出会って0日、夫夫はじめました〜

小門内田

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第一章

day.24

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冬悟に止められ、驚いたが、その静かな声色から、コイツが落ち着いているのが伝わってくる。

「でも…。それじゃ、冬悟が」

振り向いて、すぐに口を閉じた。
今の冬悟のその瞳には、先程はなかった、強い意志を感じる。

「…お前のおかげで、もう大丈夫だ。」

数秒間、じっと見つめ合う。
ほんの僅かな時間だったけど、今なら大丈夫だって思えた。
その言葉を信じて、ゆっくりと座る。

冬悟は顔を上げ、今まで伏せていた視線を上げ、真っ直ぐ美代子さんの目を見た。

「…お祖母様、私の話を最後まで聞いていただけませんか。」

冬悟の意志の強い眼差しを向けられた美代子さんは、ピクッと眉を顰めた。

「な、何よ?言ってごらんなさい。」

「…ありがとうございます。」

スッとお辞儀をした冬悟は、ふぅっと息を吐き、ゆっくりと話し始めた。

「…私がまだ物心がつく前に母が亡くなったため、幼少期よりずっと貴女に育ててきてもらいました。貴女の期待に応えたい一心で、ずっとその厳しい教えに従ってきたつもりです。立派な当主となる為に、遊ぶことなく勉学に励み、貴女の言う通り、友達すらも選別にかけた。許嫁は既に決められ、恋愛感情にも蓋をした。」

きっと俺の想像を絶する程、厳しく育てられたのだろう。
それでも、幼い冬悟は、美代子さんに認めてもらいたくて、ずっと必死だったのだろうことは、容易に想像できた。

「…ですが、貴女は一度たりとも私を認めてくれたことはなかった。どれだけ努力を重ねても、返ってくるのはダメ出しばかり。何が正解で、何が間違いなのかわからなくなってきた私の心は、段々と壊れていきました。」

「冬悟…。」

痛いくらいに胸が締め付けられて、机の下にある冬悟の手を、咄嗟にぎゅっと握った。
すると、一瞬ピクッと動いたが、振り払われることはなく、まるで大丈夫だとでもいうように、優しく握り返された。

その手は、とても温かかった。

「小百合さんとの結婚が差し迫っていた時、私は純也と出会いました。最初はよくわからない奴でしたが、愚かな程素直で、真っ直ぐで、そして私を、諏訪家の人間としてでもなく、社長としてでもない、ただの諏訪 冬悟として接してくれるこの人に、俺の心は動かされました。」

一体どこまでが本当で、どこまでが嘘なんだろう。

冬悟が俺のことをどう思っているのかは、全く見当がつかない。
全部が本当で、全部が嘘かもしれない。

ただ、本当であって欲しいと、願う自分がいる。

「諏訪家の次期当主になるのは、私しかいないのは、承知の上です。家のルールも当然。ですが、それらをかなぐり捨ててでも、この人と一緒になりたいのです。もし、それが叶わぬのなら、私は諏訪家を去ります。………もうこれ以上、何も奪われたくはありませんので。」

「冬悟さん…。」

「次の株主総会で、社長を交代する準備は既に整えております。今ここで勘当していただけるのなら、当主の座からも社長の座からも、私は身を引く次第です。だからどうか、今、ここで、ご決断をお願いいたします。」

机に頭がつきそうな程、深く頭を下げた冬悟を、美代子さんはとても寂しそうに見つめていた。
きっと、自分がこれほどまでに追い詰めてしまっていたことに、漸く気付いたのかもしれない。

だけど、それは少しばかり遅かった。

ふぅと小さく息を吐いて、意を決したように、美代子さんはスッと背筋を伸ばした。

「…冬悟さんのお話は、よくわかりました。純也さんとのことも、貴方が本気であることは、よくよく理解いたしました。ですが、諏訪家の当主たるもの、ルールを破ることは許されません。よって、冬悟さん、貴方を諏訪家から追放いたします。貴方がこの家の敷居をまたぐことは、2度と許しません。……話は以上よ。さっさと出ていってちょうだい。」

冬悟は俺の手をグッと引っ張り、一緒に立ち上がった。
引き戸を開けて俺を先に出した後、振り返った冬悟は、ありがとうございます、今までお世話になりましたと深く、そして長く頭を下げた。

美代子さんの表情は俺からは見えなかったが、その背中は小さく見えた。

これでよかったのかなんて、俺にはわからない。
だけど、冬悟は自らの手で、心の自由を勝ち取ったのだろう―。




2人で屋敷から出ると、辺りはすっかり暗くなっていた。
繋いでいた手はすぐに離れ、互いに歩き出す。

「冬悟、本当によかったのか?」

閑静な住宅街のため、街灯が少なく、見上げた冬悟の表情は暗くてよくわからない。

「…あぁ。この方が、俺達にとっては互いのためだ。それに、このために、俺はお前と結婚したんだからな。」

「そっか……。じゃあ、アンタの目的は、達成されたんだな。」

「…あぁ。」

お互いに少し黙った後、その沈黙を破るように、冬悟が口を開いた。

「少し歩くか。」
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