まずは結婚からで。〜純也と冬悟のほのぼの日常編〜

小門内田

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冬悟の誕生日

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今日は12月15日。
俺の最愛の夫である、冬悟の誕生日だ。
この日は、今年は平日だし、それに、冬悟は別に誕生日なんて祝わなくていいって言ってたけど、俺が無理にお願いして、休みを取ってもらったのだ。

だって、俺の大好きな冬悟が産まれた日だから。
やっぱり、一緒に祝いたいじゃん。

午前中は、最近の忙しさで疲れていたのか、まだ眠そうにしていた冬悟と一緒にごろごろし、午後はいつも冬悟がしてくれている掃除や洗濯を、今日は俺がこなしていった。

そして夕方になり、俺達は今、デートに出かけている。
ちゃんとした公認夫夫になってからは、外でくっついても、困った顔をされなくなった。
だから、今日も堂々と冬悟と腕を組みながら、並んで歩く。

「…どこに向かっているんだ?」

「ん?ちょっと離れたとこのスーパー。」

「スーパー?それなら、車で行けばよかったんじゃないのか?」

冬悟に怪訝そうな顔をされたが、それに対し、俺はニッと笑った。

「たまには、一緒に歩くのもいいだろ!散歩デートだよ!」

「…そうか。」

そう呟くと、冬悟は嬉しそうな表情を浮かべ、その顔に俺の頬も緩んでいく。

実は、俺も今まであまり誕生日なんて祝われたことがなかったため、どんなのが正解かなんてわからない。
それに、今年冬悟に祝ってもらった俺の誕生日は、盛大過ぎて、俺にはとてもじゃないが、実現できない。

だから、俺が思い付く限りで、冬悟を祝おうと思う。

それにしても、さすがは12月。
寒ぃ~!

震える体をより冬悟にくっつけ、凍える指先を擦り合わせながら、はあっと息を吹きかける。
だが、空気が白く曇っただけで、手はちっとも暖かくなりやがらねぇ。

何度も手に息を吹きかけている俺の隣から、呆れた声が聞こえてきた。

「だから、出る時に手袋をしろと言っただろう。」

「だって、こんなに寒くなるなんて、思わなかったんだよ!」

「まったく……ほら、これを着けておけ。」

呆れているものの、そんな俺の様子を見かねてか、腕を解いた冬悟は、自身が着けていた黒い革製の手袋を外し、俺に差し出した。

だけど、一瞬、その手袋を受け取ることに、躊躇する。

このままだと、冬悟が寒くなっちゃうし、どうしよう……。
あっ!
いいこと思い付いた!

「ありがと。」

あることを閃いた俺は、それの片方だけを、受け取って着ける。

「純也?」

もう片方を受け取らない俺を、不思議そうに見てくる冬悟に、恥ずかしさから、視線を逸らしつつ、今度は俺が、手袋をしていない方の手を、ん、と差し出した。

「もう片方は、冬悟が着けて。それで、着けてない方の手は……繋ご?」

ちらっと冬悟の方を見ると、一瞬驚いたような表情をしたが、すぐに、その目は甘く細められていく。

「…わかった。」

すると、冬悟は片方に手袋を着けた後、もう片方の手で、俺の手をぎゅっと包み込むように握ってくれた。
少し大きめの手袋に、冬悟の手。
これだけで、さっきまで冷たかった俺の手が、段々と温かくなっていく。

それだけでも満足だったのに、冬悟は繋いだ手を、自身の黒い厚手のコートのポケットに、そっと忍ばせてくれた。

こ、これって、完全に恋人のするヤツじゃん!

冬悟とは、手なんて何度も繋いだことがあるのに、繋ぐ度にドキドキする。
指先だけでなく、顔まで熱くなってきたが、ぱっと冬悟の方を見上げ、えへへっと笑うと、冬悟もフッと笑ってくれた。

「…たまには、お前との散歩デートも、悪くないな。」

「へへっ、だろ?」

互いに笑い合いながら、ポケットの中で、するりと指を絡ませ合う。
そのまま、暖色系のイルミネーションが灯る道を歩いていき、目的のスーパーには、あっという間に辿り着いてしまった。

もう少し、こうしてたかったな。

少し残念に思いながら、中に入ると、ポケットの中で繋いでいた手が、そっと離れていこうとする。
頭ではわかっていても、やっぱりそれが寂しくて、離れないでというように、ぎゅっと強く指を絡ませると、隣からクスッという笑い声が聞こえてきた。

「…そんなに必死にならなくても、帰りもちゃんと繋いでやる。だが、今は、荷物を持たないとだからな。」

冬悟に改めて言葉にされると、必死な自分が恥ずかしい。
だけど、それよりも、帰りもちゃんと冬悟と手を繋げるんだという、嬉しさの方が勝ってしまった。

だから、俺を見つめる、この甘くて優しい瞳をじっと見つめ返し、こくんと頷いた。

「うん!絶対だからな!」

すると、俺の手から離れた大きな手が、ふわっと俺の頭を撫でていった。

「…わかった。さて、今日は何を買うんだ?」

そう言いながら、冬悟は当たり前のように、買い物かごを手にした。

「あっ!今日は俺、かご持つから。」

「いい、大丈夫だ。お前はちゃんと、食材を確認しろ。」

「うん……ありがと。」

そんな冬悟の優しさに、ついつい甘えながらも、今度はぴったりと寄り添って、店内を周っていく。

「えっと、今日は鍋だから、白菜と豆腐と…」

その後も、肉はいっぱい入れたいよな!とか、肉だけじゃなく野菜ももっと入れろ、とか、海老も欲しいかも、とか言い合いながら、目的の物を、どんどんかごに入れていく。

「よしっ!これで大丈夫!」

買いたい物を全てかごに入れた後、何も言っていないのに、冬悟はふらっとお菓子コーナーに寄ってくれた。

「少しだけだぞ。」

冬悟の誕生日の筈なのに、気付けば、俺が甘やかされている。
だけど、冬悟のその気持ちが嬉しくて、それを素直に受け止める。

「やった!じゃあ、これとこれ買って!」

「いいぞ。ほら、かごに入れろ。」

その後、会計を済ませ、俺達は片手には荷物、もう片手はお互いの手を繋ぎ、もと来た道を歩いていく。
外は行きよりも暗く、気温も下がっている筈なのに、帰りはちっとも寒くなかった。




家に帰ると、俺はすぐに夕飯の準備をし、鍋はあっという間に完成した。
ケーキが食べられない冬悟のために、鍋パーティーと称し、出来立てのそれを机に持っていった後、ポケットに用意していたクラッカーを盛大に鳴らす。

「誕生日おめでとう、冬悟!!」

突然のパァンッという大きな破裂音と、飛び出た紙吹雪に驚いたらしい冬悟は、珍しく目を丸くした。

「………あぁ、ありがとう。ところで、このクラッカーは必要だったのか?」

「えっ?知らねぇ。鉄板かなって思って。」

「………そうか。」

「?さ、熱いうちに食おうぜ!」

どうやら、冬悟にはクラッカーは不評だったようだ。
だけど、その後は、2人でわいわいと楽しく鍋を突付き合った。




晩飯を食べ終えた後、ソファで寛いでいる冬悟に、ある物を手にして、ドキドキしながらそっと近づく。

「冬悟。」

俺の呼びかけに反応した冬悟は、どうした?と振り向いてくれる。
そんな冬悟の目の前に、小さな箱を差し出した。

「これ、誕生日プレゼント。気に入ってくれたら、いいんだけど……。」

少し前に、冬悟に誕生日プレゼントは何がいいかと尋ねたら、何もいらんと返ってきた。
確かに、冬悟は自分の欲しい物は、きっと自分で買うだろう。

だけど、俺が、冬悟に何かあげたかった。

だから、何がいいのか、何をあげたら喜んでくれるのか、めちゃくちゃ悩んだ。

選んだ物は、もしかしたら、既にいっぱい持ってるかもしれない。
でも、変な物は買ってないし、派手でもないから、大丈夫だとは思うんだけどな。

冬悟に何かをプレゼントするのは初めてで、緊張するのと同時に、不安になる。

「…俺のために、わざわざ買ってきてくれたのか?」

驚いたような表情をした冬悟は、小さく震える俺の手から、その箱を受け取った。

「開けていいか?」

不安と期待が入り混じった瞳を揺らしながら、コクッと頷く。
すると、ゆっくりと箱を開けた冬悟は、さらに驚いて目を見開いた。

「これは…ネクタイピンか。」

そして、すぐにそっと目を細めて、シルバーのそれを手に取る。

「うん。これなら、冬悟にいつもつけてもらえるかなって思って……。」

高価なブランドの物でもないそれが、冬悟に気に入ってもらえるかどうか自信がなくて、声が段々と小さくなっていき、消え入りそうになる。

冬悟の僅かな反応すらも見逃さないように、じっと見つめていると、大きな温かい手が、冷えた俺の手をふわっと包み込んできた。
そして、冬悟は俺の額に、コツッと自身の額を寄せると、至近距離で真っ直ぐに、俺の瞳を見つめた。

「ありがとう、純也。お前から何か形ある物を貰えることが、こんなにも嬉しいとはな。
これは、どんなブランドの物よりも、俺にとっては価値のあるものだ。」

「んな大げさな。」

「大げさではない。……大事にする。早速、明日からつけていこう。」

その言葉と表情に、きゅううっと胸が締め付けられ、キラキラと視界が輝いていく。

本当に嬉しそうなその眼差しが、その言葉が嘘じゃないって伝えてくれる。
だから、胸につかえていた不安はすうーっと消えてなくなり、俺も自然と笑顔になる。

「うん!嬉しい!」

えへへと笑って、ぎゅうっと冬悟に抱きつく。
すると、冬悟が突然、ふわっと俺を抱きかかえた。

「わっ!」

宙に浮いた俺の体は、そのまま冬悟と一緒にソファへと移動し、ぽすっと冬悟の膝の上に座らされてしまった。

「と、冬悟?」

いきなりどうしたんだろうと思ったが、俺を見上げた冬悟の瞳が、とても甘いことに気付き、はっと息を呑む。

「…欲張りで悪いんだが、もう1つ欲しいものが見つかった。」

「な、何?」

今度は違う意味で、胸がドキドキと高鳴っていく。

「純也、お前が欲しい。」

そう言われた途端、カーッと顔が熱くなっていく。
冬悟にそんな風に言われると、俺には、断るなんて選択肢は存在しない。
そして、冬悟が俺を求めてくれたことが、ただ純粋に嬉しい。

そっと冬悟の首に腕を回し、今度は俺からすりっと額を擦り寄せ、そのまま鼻先もちょんと合わせ、至近距離で見つめ合う。

「いいぜ。冬悟になら、いくらでも。ただし、返品不可だからな!」

「…今まで生きてきた中で、今日が1番嬉しい誕生日だ。ありがとう、純也。」

そう言って、ふわっと笑った冬悟の笑顔が、本当に嬉しそうで。
それだけで、俺の心も、温かく満たされていく。

「冬悟に喜んでもらえて、俺も嬉しい!生まれてきてくれて、ありがと、冬悟…」

そして、互いに引かれ合うように、甘い甘い口付けを交わした―。


翌日、あげたネクタイピンを本当につけて、仕事に向かう冬悟を、幸せな気持ちで送り出した。
しかし、帰ってきたコイツの両手には、これでもかってくらいに、ぱんぱんに膨れ上がった紙袋が握られていた。

「……なぁ、冬悟。それ、何?」

「あぁ、これか?誕生日プレゼントだそうだ。まだ会社にも残っていて、どうしようかと思っている。まったく、毎年処分に困るから、いらんと言っているのに。菓子のを持って帰ってきたから、純也、お前にやる。」

コイツ、一体、どれだけもらってんだ?
……そういや、冬悟がモテモテ御曹司なの、忘れてた。

「あぁ、そう……ありがと……。」

ネクタイピン如きで、ヒヨってる場合じゃなかった。

押し付けられた紙袋を手に、来年は、もっと俺の存在をアピールできるヤツをあげねぇとと、心の中で固く誓った。
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