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分かりやすすぎる黒幕
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しばし、天斗は考えた後、ポケットからスマホを取り出す。何度か画面をタップして口を開く。
「さて、洗いざらい話してもらおうか、沙織」
「えぇ!?」
天斗が耳にスマホをあてがってそう言うと、どこからか軽やかな音楽が流れてきた。最近流行りのアイドルグループの歌だ。
「なんで……分かったの?」
キイイッと建付けの悪い音を立てて扉が外から開いた。扉の裏からひょっこりと顔が覗く。肩甲骨辺りまで伸びた栗色の髪。いつもぱっちりと開いている目には疑念が渦巻き、口紅が薄く塗られた口は力なく開いていた。いつも身だしなみ等にうるさい沙織に珍しい顔だ。
「ごめんなさい、沙織さん……」
「笹葉ちゃんのせいじゃないわ!全ては人を信じることができないパパが悪いのよ」
「誰がパパだ」
俯きがちに謝る笹葉を、沙織は全力でフォローした。フォローの仕方はどうかと思うが……。
「とりあえず神楽も中に入れ。何を企んでいたのか教えてもらおうか」
「えぇ!? それはちょっと……」
「なんだ、ここまでばれたんだから観念して話せよ」
「いや、そうじゃなくて……」
沙織はずっと部屋の前でもじもじとしている。
「じゃあなんだ」
「えっと……こんな夜遅い時間にお、男の人の部屋に入るのは、どうなのかなー……って」
「神楽が考えてるような卑猥なことをす僕がするけがないだろ。笹葉もいるしな」
「ひ、卑猥なことなんて考えてないわよ!」
「じゃあ、僕の部屋に入るのにためらう必要はないだろ」
「と、当然よ!」
沙織は大股でずかずかと部屋の中に入ってきた。ただ、靴はキチンと揃えていた。いかなる時も礼儀正しさは健在だ。 沙織は笹葉の隣に座った。つまり、机をはさんだ天斗の向かい。
「まあ、簡潔に言うと同情作戦ね」
「身もふたもないな……で、昼は一緒に食べたんだな」
「えぇ、そうね。お昼はMOMOS`でナポリタンを食べたわ」
MOMOS`というのは有名なファミリーレストランの事だ。天斗も小さい頃に家族で行った思い出が何度ある。
「それは知ってる。ネコミミはどういう意味だ?」
「前に小動物好きって言ってたじゃない」
「安直すぎだ」
ちなみに、沙織が言う『前に』というのは天斗と沙織が初めて出会った、春の新入生歓迎での出来事だ。
「仕方ないじゃない。それ以外あなたが笹葉ちゃんを泊めてくれる未来が見えなかったのよ」
「この手段もその未来は見えないがな」
「なんでよ! 小動物好きじゃない!」
「小動物好きと笹葉を匿うのは同義じゃない」
「でも、ここで笹葉ちゃんを追い出すほどあなたは鬼じゃないはずよ」
「それは、まあ、な」
今まで簡潔かつ的確に返してきた天斗だったが、ここに来て言葉を濁した。
「迷子は、警察に任せるのが一番だ」
「私が毎朝、警察に迷子届けが来てないか聞いてあげるわ」
「僕が匿うことが笹葉の幸せとは限らない」
「……私は、パパに泊めてもらいたいです」
「ぐっ……」
天斗には『パパ』の件を突っ込む余裕すらなかった。これから警察に笹葉を突き出したとしても、朝からの時間の空白をどう説明すればいいのか。それも天斗の悩みの種であった。
「パパ……」
笹葉が懇願した視線を向ける。
しばらくの間、天斗は下を向いて葛藤した。客観的に、冷静に考えれば今頭の中を占めている結論は、感情論として見下されるものだ。しかし、心のうちにいるジブンが、「たまにはそういうのもいいんじゃないか」と訴えかけてきた。
たまには、感情に従ってみても、いいんじゃないだろうか。
「……一週間」
「ん?」
「一週間、だけだ。笹葉を預かるのは」
「ほんとに!?」
笹葉がキラキラと輝いた視線を天斗に送る。天斗は照れくさそうに視線を外した。
「さて、洗いざらい話してもらおうか、沙織」
「えぇ!?」
天斗が耳にスマホをあてがってそう言うと、どこからか軽やかな音楽が流れてきた。最近流行りのアイドルグループの歌だ。
「なんで……分かったの?」
キイイッと建付けの悪い音を立てて扉が外から開いた。扉の裏からひょっこりと顔が覗く。肩甲骨辺りまで伸びた栗色の髪。いつもぱっちりと開いている目には疑念が渦巻き、口紅が薄く塗られた口は力なく開いていた。いつも身だしなみ等にうるさい沙織に珍しい顔だ。
「ごめんなさい、沙織さん……」
「笹葉ちゃんのせいじゃないわ!全ては人を信じることができないパパが悪いのよ」
「誰がパパだ」
俯きがちに謝る笹葉を、沙織は全力でフォローした。フォローの仕方はどうかと思うが……。
「とりあえず神楽も中に入れ。何を企んでいたのか教えてもらおうか」
「えぇ!? それはちょっと……」
「なんだ、ここまでばれたんだから観念して話せよ」
「いや、そうじゃなくて……」
沙織はずっと部屋の前でもじもじとしている。
「じゃあなんだ」
「えっと……こんな夜遅い時間にお、男の人の部屋に入るのは、どうなのかなー……って」
「神楽が考えてるような卑猥なことをす僕がするけがないだろ。笹葉もいるしな」
「ひ、卑猥なことなんて考えてないわよ!」
「じゃあ、僕の部屋に入るのにためらう必要はないだろ」
「と、当然よ!」
沙織は大股でずかずかと部屋の中に入ってきた。ただ、靴はキチンと揃えていた。いかなる時も礼儀正しさは健在だ。 沙織は笹葉の隣に座った。つまり、机をはさんだ天斗の向かい。
「まあ、簡潔に言うと同情作戦ね」
「身もふたもないな……で、昼は一緒に食べたんだな」
「えぇ、そうね。お昼はMOMOS`でナポリタンを食べたわ」
MOMOS`というのは有名なファミリーレストランの事だ。天斗も小さい頃に家族で行った思い出が何度ある。
「それは知ってる。ネコミミはどういう意味だ?」
「前に小動物好きって言ってたじゃない」
「安直すぎだ」
ちなみに、沙織が言う『前に』というのは天斗と沙織が初めて出会った、春の新入生歓迎での出来事だ。
「仕方ないじゃない。それ以外あなたが笹葉ちゃんを泊めてくれる未来が見えなかったのよ」
「この手段もその未来は見えないがな」
「なんでよ! 小動物好きじゃない!」
「小動物好きと笹葉を匿うのは同義じゃない」
「でも、ここで笹葉ちゃんを追い出すほどあなたは鬼じゃないはずよ」
「それは、まあ、な」
今まで簡潔かつ的確に返してきた天斗だったが、ここに来て言葉を濁した。
「迷子は、警察に任せるのが一番だ」
「私が毎朝、警察に迷子届けが来てないか聞いてあげるわ」
「僕が匿うことが笹葉の幸せとは限らない」
「……私は、パパに泊めてもらいたいです」
「ぐっ……」
天斗には『パパ』の件を突っ込む余裕すらなかった。これから警察に笹葉を突き出したとしても、朝からの時間の空白をどう説明すればいいのか。それも天斗の悩みの種であった。
「パパ……」
笹葉が懇願した視線を向ける。
しばらくの間、天斗は下を向いて葛藤した。客観的に、冷静に考えれば今頭の中を占めている結論は、感情論として見下されるものだ。しかし、心のうちにいるジブンが、「たまにはそういうのもいいんじゃないか」と訴えかけてきた。
たまには、感情に従ってみても、いいんじゃないだろうか。
「……一週間」
「ん?」
「一週間、だけだ。笹葉を預かるのは」
「ほんとに!?」
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