眠れない夜に

Gardenia

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第2章

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空になったグラスを見て、真理亜はもう一杯注文しようか迷っていた。

今がちょうどよい酔い心地である。

ふわふわと心地よく、だがまだしゃんと背筋を伸ばすことができる。

多少目の周りが赤いにしても、だらしなく見えるということはないだろう。

しかし誰も居ない暗い自分の部屋を思い浮かべると、今夜はまだ帰りたくなかった。


ちょうどサブバーテンダーが前に立ったので、グラスを指で指してもう一杯と合図をする。

「同じものでいいですか?」と言われたので、
「メーカーが別のものってありますか?」と聞いてみる。

「比べてみますか?」といいながら真理亜が頷くのを観て、棚から別のボトルを出してきた。

サブバーテンダーがカウンターの向こう端に居る譲二のところにボトルを持って行き、
確認をもらってから真理亜の前に戻ってくる。

「これはイタリア産で、グラッパと言います。やはり葡萄の搾りかすで作ったお酒です」

やや丸みのある小ぶりのグラスに少し注いで真理亜にまず香りを確かめるように勧めた。

真理亜が頷くと、そのグラスにグラッパを注ぎ足す。

一口啜るように口に含むとぐっとくるグラッパの重みにむせそうになった。

頑張って飲み下すと、甘い後口とその後に舌が痺れるような辛さが残る。

先ほどのマールのまろやかさが無くシャープで濃い飲み味に、
気をつけて飲まないと危険なお酒だと真理亜は思った。


「少しお水を飲まれたほうがいいですよ」

グラッパを出す時にサブバーテンダーがお水を入れ替えてくれたグラスを
真理亜に差し出してくれた人が居た。

少し前に真理亜の隣に座った男性だ。

存在をちっとも気にして居なかったので、突然水のグラスを出されて驚いたものの、
それを態度には出さずに「有難うございます」と言いながら真理亜はグラスを受け取った。

水を一口飲んで口の中を落ち着けてから、ようやく隣の男性の顔を見る。

「あまりお酒が強くないんでしょ?無理しないほうがいいですよ」

「はい。ゆっくりといただきますから」

そう言って軽く会釈をすると真理亜は顔をその男性からカウンターの正面に向けた。


真理亜がこの Angel Eyes を気に入っているのは、女一人が飲んでいても
他のお客に煩わされないことだった。

譲二狙いの女性だけのお客も多く、真理亜のような女一人客もめずらしくない。

たまにこうやって話しかけてくる人が居ても、軽く数回言葉を交せばそれっきりになることが多く、絡まれたりすることもなかった。

特に真理亜は他の常連とも馴染むことはなく、もっぱら譲二やスタッフと話すだけだ。

今回も早々に会話を打ち切って気持ちをグラッパに向けた。

もう一口、口に含む。今度は味合わずに早々に飲み込んだ。

喉の両端が焼けるようだ。

熱いものが口に広がるが、それをやり過ごすと次にはなんとも言えない好ましい香りが長い余韻で漂っている。

真理亜は目を細めて余韻が消えるのを待った。


「何故そういう飲み方を?お酒が弱い人の飲み方じゃないなぁ」

また隣から同じ声でそう言うのが聞こえた。

「私におっしゃっているのですか?」

そう言いながら隣の男性を見ると彼はひとつ頷いた。





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