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第3章
73 エピローグ(後編)
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「今日はすごく混んでいて・・・」と真理亜が言うと、「クリスマス前の三連休だから、仕方ない」と田所が呟いた。
「Angel Eyesに行くまで気がつきませんでした」
田所は「仁科らしいな」と少し笑ってから、「デートはしないのか?」と聞いた。
「えっと・・・彼氏居ませんもの」
田所が身動ぎをしてコートが擦れる音が聞こえた。
「別れたのか?」
「はい」
「いつ頃の話だ?」
「夏の前ですよ」
「ふーん、それで今日はいつものように譲二のところか」
「まぁ、そんなところです」
真理亜が拗ねたように言うと、田所はまた少し笑った。
「本当に今日は街中が混んでるな」
しばらくしてから、「こんなじゃ何処に行っても混むから、うちでいいか?」と田所が聞いたが、真理亜にはとっさに声が出なくなり頷くしかできなかった。
田所はタクシーの運転手に行き先の変更を告げると、シートに深く座りなおした。
「今日はもうお酒を飲まれたんですね」と訊ねる真理亜に、「あぁ、会社関係の会合とかパーティとか3箇所ほどハシゴしてきたよ」とため息を吐きながら田所が答える。
「お疲れ様でした」
「仁科と約束しておいてよかったよ。用事があるからと挨拶だけで済んだ」
「よかったんですか?」
「あぁ」
ほどなくタクシーが田所の住むタワーマンションに到着した。
エントランスはクリスマス仕様で綺麗な飾りを施している。
「凄いですね」と見入っている真理亜に、田所が笑いながら「仁科のところは・・・こういうの無いだろ」と茶化した。
「今、ボロアパートにケチつけました?」
そんな軽口を応酬しながらエントランスを抜け、エレベーターに乗る。
エレベーターの中にも小さなリーズが飾ってあった。
「前回は記憶がないので、今日は新鮮です」と真理亜が言うと、田所は声を出して笑っている。
玄関の鍵を開けて真理亜を先に通しながら、「仁科、明日は何か予定があるのか?」と田所が聞いた。
「いえ、出掛ける予定はないです」
「じゃ、今夜はワインでも開けるか?」
「何でもいいですよ」
「譲二のところでは何を飲んだ?」
「軽い水割りを一杯だけ」
リビングに案内しながら、真理亜のコートを受け取る。
その田所の動作があまりにも自然で、真理亜は何の躊躇もなく脱いだコートを手渡した。
「あ、すみません。つい渡しちゃって・・・」
「おぉ、そうだった。妹が来ると世話が焼けるんだよ。つい同じようにしてしまってた」
田所も気がついて苦笑している。
話題を変えるように、「ウイスキーでいいか?」と田所が聞いた。
「はい。それでお願いします。手を洗わせていただいてもいいですか?」
「場所は覚えてるか?好きに使ってくれ」と田所がニヤリとした。
「田所さん、意地悪ですね。女性に都合の悪いことは忘れた振りをするものですよ」
「はいはい」
「『はい』は一回です」
と言いながら真理亜は洗面所に行って手を洗った。
それから田所を手伝って水割りを作り、二人で冷蔵庫を覗き込んでつまみになりそうなものを探した。
「田所さん何か召し上がりました?」
「う~~ん、それなりに?」
「挨拶だけならそれほど食べてないでしょ?」
そう聞く真理亜に田所は顔を顰めただけだった。
「インスタントラーメンが無いのに、高級料亭の缶詰があるってやっぱりタワーマンションの住人だけのことはあるわ」
と真理亜はパントリーの中を検めて呟いた。
どれを使ってもいいという田所の許しを得て、スパゲッティを茹で、おそらく一個1万円はすると思われる蟹缶を使った豪華なパスタ料理が出来上がった。
真理亜がキッチンで奮闘している間に田所はカジュアルな服装に着替えており、真理亜は一緒にダイニングテーブルで水割りを飲みながら、田所がゴツゴツした手でフォークを握り綺麗な所作でパスタを平らげていくのを見ていた。
「お腹空いてるのか?」と、田所が突然聞いた。
「え?」
「いや、じっと見てるから欲しいかと思って」と田所特有のニヤリとした表情にドキっとした真理亜だが、「いえ、お腹は空いてないですよ」と表情を変えずに返した。
「そうか」と言って田所は再びスパゲッティを器用にフォークに巻きつけたかと思うと、
そのフォークを真理亜の口元に差し出した。
「え?」
「仁科も食べてみろ」
「いいですよ」
「美味いから、口開けて」
「知ってますよ。味見したんだから」
それでも田所はフォークを真理亜の口元から動かさなかった。
もう笑ってはいない田所の目を見て、真理亜は観念して口を開けた。
ゆっくりと真理亜の口が開きぱくっとフォークを加えると、田所がゆっくりとフォークを引いた。
田所から目を外さない真理亜の耳が真っ赤になっている。
真理亜が咀嚼を始めると、田所は真理亜から目を離さずに器用にスパゲッティをフォークに巻きつけて、今度は自分で食べた。
ゆっくり口を開け、スパゲッティが口に入ると田所は口を閉じて咀嚼する。
それを何度か繰り替えすとスパゲッティを食べ終えてしまった。
しばらく真理亜を見つめていた田所が水割りのグラスを持って立ち上がった。
「これ、持ってて」とそのグラスを真理亜に手渡す。
スパゲッティのお皿をシンクに運んで真理亜の前に戻ってきた田所が、「リビングに行こう」と真理亜を誘った。
「何かお話があるんでしたよね?」と言った声が震えていたのではないかと真理亜は心配になった。
「そうだったな」と言って田所は1人がけのソファーに座る。
自然と真理亜は大きな三人がけのソファーに座ることになった。
「たいした話じゃないから寛いで聞いてくれる?」
そう言って、真理亜に持たせていた2つのグラスにそれぞれウイスキーを足すと、その1つを田所が取り上げて口に含んだ。
「君も飲んで。酒はいくらでもある」
真理亜は聞く準備ができた印に小さく頷いた。
田所の話はまず会長のことから始まった。
小さな笑えるエピソードや会社への貢献などを上手く織り交ぜながら真理亜に聞かせ、続いて社長のエピソード、同族との関係等一般の社員が知らないことを話し聞かせた。
話しながらも水割りを作り足し、ウイスキーが水の割合よりはるかに多くなって、最後は二人とも酔っ払っている段階までなってしまった。
酔った勢いでついうっかりと喋ってしまったかのように、「俺も4月から秘書課だ」と真理亜に打ち明けた。
真理亜が驚いていると、「君がぽかんと口を開けたのを今日は2回も見た」と言って笑った。
「1年間、社長秘書だ。その後はおそらく戻って部長だな」
「人事部長ですか?」
「あぁ、今のところそういう予定らしい」
「何故そんな大事な話を私に・・・?」
「何故だと思う?」
わからないという顔をする真理亜に、「まぁ、そのうちわかる時が来るだろう」と田所は答えをはぐらかした。
「今夜は飲み明かせるか?」
「はい」
「じゃ、違うウイスキーに変えよう。もう会社の話はおしまいだ」
「私、お手洗いお借りします」
気分を変える為に、田所はウイスキーを取りに行き、真理亜はバスルームに向った。
真理亜がバスルームからリビングに戻ると、リビングの照明が少し暗くなっていた。
窓辺に田所が立っている。
真理亜を振り向かずに田所が、「こっちに来て外を見てご覧?」と声をかけた。
部屋が暗い分、外がよく見えた。
駅前のイルミネーションが眼下に広がって光の帯になっている。
真理亜を窓辺に残して、田所は1人がけのソファーに戻った。
「どうして彼と別れたんだ?聞いていいか?」
突然、佐々木の話を振られた真理亜は驚いて振り返ろうとした。
「いや、そのまま。外を見ながらでいいよ」と田所が言う。
確かに田所を見ては話せそうにない。
別に話す必要はないのはわかっているが、何故か田所にはかいつまんでなら話してしまってもいいかなとも思った。
人恋しいクリスマスの時期だからなのか、それともさっき食べたパスタのせいなのか。
あるいは苦いウイスキーのせいなのか、真理亜にはわからなかったが、田所には言えそうな気がした。
「彼とは大学の同期だったんです。在学中はかなり仲良しのグループで」
「うん」
「春に久しぶりに会って・・・」
「うん」
「何となく付き合い始めたんですけど、やっぱり友達かなってことで解消したんです」
「もう会わないの?」
「そうですね。会わないってことはないんですが、今はたまにメールですかね」
「君はほんとうにそれでいいの?」
「はい、そのほうが落ち着きます」
「理由はそれだけ?」
「え?」
「別れた理由だよ」
「まぁ、主にそんなところです」
「ふーん」
それっきり田所が何も言わないので、話はそれで終わったものと真理亜は思った。
「こっちにおいで?」
そう声をかけられると素直に真理亜は田所の座っているソファーに近づいた。
田所はそんな真理亜に、「ここに来て」と田所の正面を指差す。
「座って?」と言われると、自然に足を揃えて床に座った。
「やけに素直だね。しかもなぜか正座」
田所は少し笑いながら真理亜を見下ろした。
床に座った真理亜は田所を見上げることとなる。
「これがどういう意味かわかる?」
真理亜が答えられずに首を傾けると、「仁科がそういう人間だってことだ」と田所が言った。
真理亜の顔がみるみるうちに赤くなっていく。
「僕なら君をわかってあげられる」
「しばらく前から君のことが気になってずっと様子を気にしていた。
で、もっと知りたいと思い始めたんだ」
真理亜もそれは同じだった。田所のことが気になるし、もっと知りたい。
「君も同じような気持ちを持ってる。だろ?」
真理亜が頷くと、「僕は仕事も君と一緒にしたい。そして個人的にも君が知りたい。嫌かい?」
真理亜が首を横に振ると、「君からキスしてくれる?」と田所は真理亜の目を見つめた。
どうしても逆らえない気持ちが湧いてきて、真理亜は膝をついて田所に唇を重ねた。
唇が離れると、「もう心配はいらないよ」と田所が囁いた。
ーーー完ーーー
「Angel Eyesに行くまで気がつきませんでした」
田所は「仁科らしいな」と少し笑ってから、「デートはしないのか?」と聞いた。
「えっと・・・彼氏居ませんもの」
田所が身動ぎをしてコートが擦れる音が聞こえた。
「別れたのか?」
「はい」
「いつ頃の話だ?」
「夏の前ですよ」
「ふーん、それで今日はいつものように譲二のところか」
「まぁ、そんなところです」
真理亜が拗ねたように言うと、田所はまた少し笑った。
「本当に今日は街中が混んでるな」
しばらくしてから、「こんなじゃ何処に行っても混むから、うちでいいか?」と田所が聞いたが、真理亜にはとっさに声が出なくなり頷くしかできなかった。
田所はタクシーの運転手に行き先の変更を告げると、シートに深く座りなおした。
「今日はもうお酒を飲まれたんですね」と訊ねる真理亜に、「あぁ、会社関係の会合とかパーティとか3箇所ほどハシゴしてきたよ」とため息を吐きながら田所が答える。
「お疲れ様でした」
「仁科と約束しておいてよかったよ。用事があるからと挨拶だけで済んだ」
「よかったんですか?」
「あぁ」
ほどなくタクシーが田所の住むタワーマンションに到着した。
エントランスはクリスマス仕様で綺麗な飾りを施している。
「凄いですね」と見入っている真理亜に、田所が笑いながら「仁科のところは・・・こういうの無いだろ」と茶化した。
「今、ボロアパートにケチつけました?」
そんな軽口を応酬しながらエントランスを抜け、エレベーターに乗る。
エレベーターの中にも小さなリーズが飾ってあった。
「前回は記憶がないので、今日は新鮮です」と真理亜が言うと、田所は声を出して笑っている。
玄関の鍵を開けて真理亜を先に通しながら、「仁科、明日は何か予定があるのか?」と田所が聞いた。
「いえ、出掛ける予定はないです」
「じゃ、今夜はワインでも開けるか?」
「何でもいいですよ」
「譲二のところでは何を飲んだ?」
「軽い水割りを一杯だけ」
リビングに案内しながら、真理亜のコートを受け取る。
その田所の動作があまりにも自然で、真理亜は何の躊躇もなく脱いだコートを手渡した。
「あ、すみません。つい渡しちゃって・・・」
「おぉ、そうだった。妹が来ると世話が焼けるんだよ。つい同じようにしてしまってた」
田所も気がついて苦笑している。
話題を変えるように、「ウイスキーでいいか?」と田所が聞いた。
「はい。それでお願いします。手を洗わせていただいてもいいですか?」
「場所は覚えてるか?好きに使ってくれ」と田所がニヤリとした。
「田所さん、意地悪ですね。女性に都合の悪いことは忘れた振りをするものですよ」
「はいはい」
「『はい』は一回です」
と言いながら真理亜は洗面所に行って手を洗った。
それから田所を手伝って水割りを作り、二人で冷蔵庫を覗き込んでつまみになりそうなものを探した。
「田所さん何か召し上がりました?」
「う~~ん、それなりに?」
「挨拶だけならそれほど食べてないでしょ?」
そう聞く真理亜に田所は顔を顰めただけだった。
「インスタントラーメンが無いのに、高級料亭の缶詰があるってやっぱりタワーマンションの住人だけのことはあるわ」
と真理亜はパントリーの中を検めて呟いた。
どれを使ってもいいという田所の許しを得て、スパゲッティを茹で、おそらく一個1万円はすると思われる蟹缶を使った豪華なパスタ料理が出来上がった。
真理亜がキッチンで奮闘している間に田所はカジュアルな服装に着替えており、真理亜は一緒にダイニングテーブルで水割りを飲みながら、田所がゴツゴツした手でフォークを握り綺麗な所作でパスタを平らげていくのを見ていた。
「お腹空いてるのか?」と、田所が突然聞いた。
「え?」
「いや、じっと見てるから欲しいかと思って」と田所特有のニヤリとした表情にドキっとした真理亜だが、「いえ、お腹は空いてないですよ」と表情を変えずに返した。
「そうか」と言って田所は再びスパゲッティを器用にフォークに巻きつけたかと思うと、
そのフォークを真理亜の口元に差し出した。
「え?」
「仁科も食べてみろ」
「いいですよ」
「美味いから、口開けて」
「知ってますよ。味見したんだから」
それでも田所はフォークを真理亜の口元から動かさなかった。
もう笑ってはいない田所の目を見て、真理亜は観念して口を開けた。
ゆっくりと真理亜の口が開きぱくっとフォークを加えると、田所がゆっくりとフォークを引いた。
田所から目を外さない真理亜の耳が真っ赤になっている。
真理亜が咀嚼を始めると、田所は真理亜から目を離さずに器用にスパゲッティをフォークに巻きつけて、今度は自分で食べた。
ゆっくり口を開け、スパゲッティが口に入ると田所は口を閉じて咀嚼する。
それを何度か繰り替えすとスパゲッティを食べ終えてしまった。
しばらく真理亜を見つめていた田所が水割りのグラスを持って立ち上がった。
「これ、持ってて」とそのグラスを真理亜に手渡す。
スパゲッティのお皿をシンクに運んで真理亜の前に戻ってきた田所が、「リビングに行こう」と真理亜を誘った。
「何かお話があるんでしたよね?」と言った声が震えていたのではないかと真理亜は心配になった。
「そうだったな」と言って田所は1人がけのソファーに座る。
自然と真理亜は大きな三人がけのソファーに座ることになった。
「たいした話じゃないから寛いで聞いてくれる?」
そう言って、真理亜に持たせていた2つのグラスにそれぞれウイスキーを足すと、その1つを田所が取り上げて口に含んだ。
「君も飲んで。酒はいくらでもある」
真理亜は聞く準備ができた印に小さく頷いた。
田所の話はまず会長のことから始まった。
小さな笑えるエピソードや会社への貢献などを上手く織り交ぜながら真理亜に聞かせ、続いて社長のエピソード、同族との関係等一般の社員が知らないことを話し聞かせた。
話しながらも水割りを作り足し、ウイスキーが水の割合よりはるかに多くなって、最後は二人とも酔っ払っている段階までなってしまった。
酔った勢いでついうっかりと喋ってしまったかのように、「俺も4月から秘書課だ」と真理亜に打ち明けた。
真理亜が驚いていると、「君がぽかんと口を開けたのを今日は2回も見た」と言って笑った。
「1年間、社長秘書だ。その後はおそらく戻って部長だな」
「人事部長ですか?」
「あぁ、今のところそういう予定らしい」
「何故そんな大事な話を私に・・・?」
「何故だと思う?」
わからないという顔をする真理亜に、「まぁ、そのうちわかる時が来るだろう」と田所は答えをはぐらかした。
「今夜は飲み明かせるか?」
「はい」
「じゃ、違うウイスキーに変えよう。もう会社の話はおしまいだ」
「私、お手洗いお借りします」
気分を変える為に、田所はウイスキーを取りに行き、真理亜はバスルームに向った。
真理亜がバスルームからリビングに戻ると、リビングの照明が少し暗くなっていた。
窓辺に田所が立っている。
真理亜を振り向かずに田所が、「こっちに来て外を見てご覧?」と声をかけた。
部屋が暗い分、外がよく見えた。
駅前のイルミネーションが眼下に広がって光の帯になっている。
真理亜を窓辺に残して、田所は1人がけのソファーに戻った。
「どうして彼と別れたんだ?聞いていいか?」
突然、佐々木の話を振られた真理亜は驚いて振り返ろうとした。
「いや、そのまま。外を見ながらでいいよ」と田所が言う。
確かに田所を見ては話せそうにない。
別に話す必要はないのはわかっているが、何故か田所にはかいつまんでなら話してしまってもいいかなとも思った。
人恋しいクリスマスの時期だからなのか、それともさっき食べたパスタのせいなのか。
あるいは苦いウイスキーのせいなのか、真理亜にはわからなかったが、田所には言えそうな気がした。
「彼とは大学の同期だったんです。在学中はかなり仲良しのグループで」
「うん」
「春に久しぶりに会って・・・」
「うん」
「何となく付き合い始めたんですけど、やっぱり友達かなってことで解消したんです」
「もう会わないの?」
「そうですね。会わないってことはないんですが、今はたまにメールですかね」
「君はほんとうにそれでいいの?」
「はい、そのほうが落ち着きます」
「理由はそれだけ?」
「え?」
「別れた理由だよ」
「まぁ、主にそんなところです」
「ふーん」
それっきり田所が何も言わないので、話はそれで終わったものと真理亜は思った。
「こっちにおいで?」
そう声をかけられると素直に真理亜は田所の座っているソファーに近づいた。
田所はそんな真理亜に、「ここに来て」と田所の正面を指差す。
「座って?」と言われると、自然に足を揃えて床に座った。
「やけに素直だね。しかもなぜか正座」
田所は少し笑いながら真理亜を見下ろした。
床に座った真理亜は田所を見上げることとなる。
「これがどういう意味かわかる?」
真理亜が答えられずに首を傾けると、「仁科がそういう人間だってことだ」と田所が言った。
真理亜の顔がみるみるうちに赤くなっていく。
「僕なら君をわかってあげられる」
「しばらく前から君のことが気になってずっと様子を気にしていた。
で、もっと知りたいと思い始めたんだ」
真理亜もそれは同じだった。田所のことが気になるし、もっと知りたい。
「君も同じような気持ちを持ってる。だろ?」
真理亜が頷くと、「僕は仕事も君と一緒にしたい。そして個人的にも君が知りたい。嫌かい?」
真理亜が首を横に振ると、「君からキスしてくれる?」と田所は真理亜の目を見つめた。
どうしても逆らえない気持ちが湧いてきて、真理亜は膝をついて田所に唇を重ねた。
唇が離れると、「もう心配はいらないよ」と田所が囁いた。
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