宰相補佐官令嬢、ユーミリアの訳あり婚約

雪菜

文字の大きさ
14 / 20

14 二人の休日⑤

しおりを挟む
 公爵邸のテラスで。焼き上がったクッキーを前に、ユーミリアは得意満面だった。

「はぁ~。我ながら天才っ。可愛いっ。器用っ!」

 紅茶と一緒に並ぶクッキーは、形も色も完璧な仕上がりだ。こんがりきつね色の、クマや花の形を模したクッキーが綺麗にお皿に盛り付けられている。

 分量は二人で手分けして、生地を混ぜたのはルディウス。生地を伸ばして成形したのはユーミリアだ。

 お花にジャムが乗った方はお砂糖たっぷりで、ユーミリア用。クマさんの方は甘さ控えめなルディウス用である。

「ほんと、なんでも器用にこなすよね、ユミィ」
「たいていのことは、見様見真似でこなせる自信があるわ」

 クッキーを一枚、口に入れて。

「ん~、至福~~」

 サクサクの食感とバターの香り、杏子の酸味に、幸せいっぱいな気持ちになる。

 同様に、ルディウスもクッキーを一枚口に運んだ。
 
「ディーでも食べられそう?」

 彼は甘い物はさほど好きではなく、素朴な味が好みなのだ。
 
「ああ。美味しい」

 よかった、と微笑んで、ユーミリアはもう一枚摘む。

 そうして、午後のお茶をめいっぱい楽しんで。テラスに差し込む陽が、傾き始めた頃。

 クッキーをたらふく平らげ、一息ついたところで。

 ユーミリアは、向かいで優雅に紅茶を嗜んでいる公爵様に、かくりと首を傾げる。

「ディー、私の目的に気づいているでしょ?」

 厳しく躾けられたことが窺える所作でカップをソーサーに戻したルディウスが、くすりと笑んだ。
 
「八つ当たりのクッキー作りは建前に過ぎなくて、ユミィのお目当ては俺と一日過ごすことだったって話?」

 つまるところ。本日のユーミリアの目的は、それに尽きるのである。
 
「いつ気づいたの?」
「アネモラの性質を知った時。レシピを隠して作業の開始を遅らせたり、レシピの隠し場所なんていくらでもあるだろうに、わざわざ変色までに三時間以上も掛かる特殊な花を謎解きの肝に据えた理由を考えたら、それくらいかなって」

 ルディウスがクスクスと笑い声を立てた。

「微笑ましい誘い方だな。一日一緒に過ごしたいって言ってくれればよかったのに」
「お仕事と天秤に掛けて断られた時に、腹が立つので嫌です」
「……なるほど。確かに、究極の選択ってやつだ」

 ユーミリアのふざけた答えに、ルディウスは肩を竦めた。

 一日一緒に過ごしましょ、と誘わなかったのは、こちらの方がルディウスの都合で切り上げやすいかな、と思ったからだ。
 仕事が詰まっていて午後まで付き合う余裕がなさそうなら、時間切れなので続きはまた今度で、とする予定だった。

 幸い、今日のルディウスはそこまで仕事が詰まっていなかったようだけれど。

 ユーミリアの本音を見抜いていたから、ルディウスは嫌な顔ひとつせず、気長に付き合ってくれたのだろう。

 実は、今日のユーミリアには密かな野望があった。今だに達成できておらず、達成するにはルディウスの協力が不可欠である。

 協力を仰ぐか、ここで、充実した休日になったわ、と締めくくるかを悩んだユーミリアは――。

 散々、ものすっごく迷った末に、えいやっ、と切り出した。

「ディーの推理は当たっているけど。本当は、今日はもう一つお目当てがあったの」
「もう一つ?」

 意外そうに目を瞠るルディウスに。

「……敷地内を散策する時にね、手を、繋ぎましょって。誘うのが隠れ目標だったり……」

 ぱちり、と銀灰色の双眸が瞬いた。

「……もしかして、それでヒントを三箇所に分けたとか?」
「三回も言い出す機会があれば、一度くらいは勇気が出る算段だったの……っ」

 計画した過去の己も頭を抱えるくらい、意気地なしだったのだ。

 ははっ、と吹き出したルディウスが、柔らかな笑みと共に尋ねてくる。

「まだ歩ける?」
「そんなに柔じゃないわ」
「西の庭園に湖があるだろ? 着く頃には、きっと夕陽が映って綺麗だよ。見に行くのはどう?」

 そう言って、立ち上がったルディウスが手を差し伸べてくる。

 パッと瞳を輝かせたユーミリアの返事は、決まっている。

「行くっ!」

 こうして、二人はなかなかに充実した休日を過ごせたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

私が、良いと言ってくれるので結婚します

あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。 しかし、その事を良く思わないクリスが・・。

伯爵令嬢の婚約解消理由

七宮 ゆえ
恋愛
私には、小さい頃から親に決められていた婚約者がいます。 婚約者は容姿端麗、文武両道、金枝玉葉という世のご令嬢方が黄色い悲鳴をあげること間違い無しなお方です。 そんな彼と私の関係は、婚約者としても友人としても比較的良好でありました。 しかしある日、彼から婚約を解消しようという提案を受けました。勿論私達の仲が不仲になったとか、そういう話ではありません。それにはやむを得ない事情があったのです。主に、国とか国とか国とか。 一体何があったのかというと、それは…… これは、そんな私たちの少しだけ複雑な婚約についてのお話。 *本編は8話+番外編を載せる予定です。 *小説家になろうに同時掲載しております。 *なろうの方でも、アルファポリスの方でも色んな方に続編を読みたいとのお言葉を貰ったので、続きを只今執筆しております。

【完結】大好きなあなたのために…?

月樹《つき》
恋愛
私には子供の頃から仲の良い大好きな幼馴染がいた。 2人でよく読んだ冒険のお話の中では、最後に魔物を倒し立派な騎士となった男の子と、それを支えてきた聖女の女の子が結ばれる。 『俺もこの物語の主人公みたいに立派な騎士になるから』と言って、真っ赤な顔で花畑で摘んだ花束をくれた彼。あの時から彼を信じて支えてきたのに… いつの間にか彼の隣には、お姫様のように可憐な女の子がいた…。

裏の顔ありな推しとの婚約って!?

花車莉咲
恋愛
鉱業が盛んなペレス王国、ここはその国で貴族令嬢令息が通う学園であるジュエルート学園。 その学園に通うシエンナ・カーネリアラ伯爵令嬢は前世の記憶を持っている。 この世界は乙女ゲーム【恋の宝石箱~キラキラブラブ学園生活~】の世界であり自分はその世界のモブになっていると気付くが特に何もする気はなかった。 自分はゲームで名前も出てこないモブだし推しはいるが積極的に関わりたいとは思わない。 私の前世の推し、ルイス・パライバトラ侯爵令息は王国騎士団団長を父に持つ騎士候補生かつ第二王子の側近である。 彼は、脳筋だった。 頭で考える前に体が動くタイプで正義感が強くどんな物事にも真っ直ぐな性格。 というのは表向きの話。 実は彼は‥‥。 「グレース・エメラディア!!貴女との婚約を今ここで破棄させてもらう!」 この国の第二王子、ローガン・ペレス・ダイヤモルト様がそう叫んだ。 乙女ゲームの最終局面、断罪の時間。 しかし‥‥。 「これ以上は見過ごせません、ローガン殿下」 何故かゲームと違う展開に。 そして。 「シエンナ嬢、俺と婚約しませんか?」 乙女ゲームのストーリーに何も関与してないはずなのにどんどんストーリーから離れていく現実、特に何も目立った事はしてないはずなのに推しに婚約を申し込まれる。 (そこは断罪されなかった悪役令嬢とくっつく所では?何故、私?) ※前作【悪役令息(冤罪)が婿に来た】にて名前が出てきたペレス王国で何が起きていたのかを書いたスピンオフ作品です。 ※不定期更新です。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

【書籍化】番の身代わり婚約者を辞めることにしたら、冷酷な龍神王太子の様子がおかしくなりました

降魔 鬼灯
恋愛
 コミカライズ化決定しました。 ユリアンナは王太子ルードヴィッヒの婚約者。  幼い頃は仲良しの2人だったのに、最近では全く会話がない。  月一度の砂時計で時間を計られた義務の様なお茶会もルードヴィッヒはこちらを睨みつけるだけで、なんの会話もない。    お茶会が終わったあとに義務的に届く手紙や花束。義務的に届くドレスやアクセサリー。    しまいには「ずっと番と一緒にいたい」なんて言葉も聞いてしまって。 よし分かった、もう無理、婚約破棄しよう! 誤解から婚約破棄を申し出て自制していた番を怒らせ、執着溺愛のブーメランを食らうユリアンナの運命は? 全十話。一日2回更新 完結済  コミカライズ化に伴いタイトルを『憂鬱なお茶会〜殿下、お茶会を止めて番探しをされては?え?義務?彼女は自分が殿下の番であることを知らない。溺愛まであと半年〜』から『番の身代わり婚約者を辞めることにしたら、冷酷な龍神王太子の様子がおかしくなりました』に変更しています。

そろそろ諦めてください、お父様

鳴哉
恋愛
溺愛が過ぎて、なかなか婚約者ができない令嬢の話 短いので、サクッと読んでもらえると思います。 読みやすいように、7話に分けました。 毎日1回、予約投稿します。 2025.09.21 追記 自分の中で溺愛の定義に不安が生じましたので、タグの溺愛に?つけました。

処理中です...