わたしがわたしをわすれるひ【R18】

仲村來夢

文字の大きさ
18 / 45

18

しおりを挟む
「はぁ…」

まだ5時か…。またあの時のことを夢に見て、目が覚めた。

寝る前に、今叩かれてるより昔の方がきつかった…なんて考えてたからだろうな。

辛かった時のことは何年経っても、思い返そうとすれば鮮明に思い出せる。

子供を堕ろした日付も、病院の中の様子も、あの時着ていた服も。

あの日のことをあえて思い出すことはないけど、忘れたことはない。けどたまにこうやって、忘れるなと言わんばかりに夢に出てきたりして心の奥にしまっていた記憶が一気に蘇る。

大丈夫なのに。忘れてないのに…。地元にいた頃に起こったことを思い出すとやっぱり胸が痛む。

高校生の頃の辛かった思い出の一つとして剛くんにフラれたこともあるけど、家出したこととか子供を堕ろしたことに比べたら小さくて小さくてあまりにも小さくて可愛いものだ。

剛くんのことは、ただプライドが傷付いただけの話。どうしてもフラれたことを認めたくなかったから、再会した時にそのことを聞いただけ。

だから引きずってるなんて思われるのは絶対嫌だったんだよね。

「…」

ふと、隣で寝ている蓮くんを見た。幸せそうな寝顔。…あたしのこと信用してるんだね。

高校生の頃の話をしたら蓮くんはどんな顔をするんだろうな…絶対言わないけど。

まだ寝られる時間なのに、完全に目が覚めてしまったあたしはお風呂に入って、朝ご飯を作り始めた。

普段はトーストとサラダぐらいしか食べないけど、せっかく蓮くんがいるからちゃんとしたの作るか…食材もあるし、時間もあるし。

昼からライブのリハーサルって言ってたし、しっかり食べてもらおう。

***

「おはよ…めっちゃいい匂いする」

8時ごろ、蓮くんが瞼をこすりながらリビングに入ってきた。

「おはよう、起こしちゃった?ごめんね、朝ご飯作ってた」

「ううん…何か作ってくれたの?」

料理を器に盛っているあたしの背後から蓮くんが料理を覗き込む。

「…旅館の朝ご飯みたい!めっちゃ品数あるよね?」

「えっとね鮭の塩焼きと、わかめと油揚げの味噌汁と、湯豆腐とだし巻きとサラダと…手の込んだものは作ってないよー」

「いやいや…菜々こんなの作れるんだ…。超嬉しいよ」

蓮くんがあたしを後ろから抱きしめて、頰にキスをした。

「もー、どうしたの」

蓮くんがあたしの顔を自分の方に向けさせ、唇にもキスをした。そのまま舌が絡まってきて胸に手が伸びてきて、あたしは顔を離して蓮くんの唇に手を当てて動きを止めた。

「ちょっと蓮くん…だめ」

「だめ?」

「…ご飯食べてから」

「うん、わかった。顔洗ったりしてくるね」

蓮くんがあたしをもう一度ぎゅっと抱きしめて、洗面所の方へ向かっていった。

蓮くんは、あたしが嫌とかダメとか言ったことはそれ以上絶対にしない。ちゃんと理性があるというかなんというか…

自惚れ過ぎだけど、自惚れちゃうくらい蓮くんはあたしのことが大好きって伝わってくるし、伝えてくれる。

あたしじゃなくても、他にもいい人いっぱいいるのにな。

なんだろう…蓮くんといると自信がなくなる時がある。

それなりにモテてきたし、セックスも色んな人としてきた。体目当てだとしても求められてることには変わりないしこっちだって満足してるからそれでいい。

男の子には可愛いって言われるし、自分でもそれはわかってる。体もいい体だと思う、巨乳好きにとっては。モデル向きではないけどね…

穴があれば見た目はどうでもいいっていう男もいるだろうけど、いくらどうでもよくても限界があるでしょ。

どうせなら可愛い子がいいに決まってる。女の子だってカッコいい人がいいはず。少なくともあたしはそう。だからこれからもタイプの人が現れたらセックスしてしまうと思う。っていうか、する。

蓮くんのこともセフレだと思ってたし、それなりに好きではあったけど割とどうでもいい存在だった。

本名も最近まで覚えてなかったし。今はちゃんと言えるようになった。結局蓮くんって呼んでるけど。

蓮くんと一緒に過ごす時間が増えるほど、知れば知るほど蓮くんの純粋さと愛情が眩し過ぎて消えてしまいそうになる。

なんであたしみたいな女を好きなんだろう。顔と体くらいしかいいところなくて、簡単に他の男にも体を許してしまうような最低な女を、って自分を卑下してしまう…

やめればいいだけの話だし、あたしが蓮くんのことだけを見れたらそれでいいのに。

でも、蓮くん1人じゃ満足出来なくて色んな人とセックスしてしまう。

今これだけ愛してくれていても、いつか終わりが来るんじゃないかと思ってしまう。

久志くんだってあたしのことを愛してくれていたと思うけど、子供は堕ろすことになったし、別れはあっけなかった。

「…めっちゃ美味しい…」

「ほんと?よかったぁ」

蓮くんはあたしの作った朝ごはんを美味しい美味しい、って言いながらあっという間に食べ終わってしまった。 

「ごちそうさま。菜々がこんなの作れると思わなかった…って言い方悪いよねごめん」

「いいよそんなのー、料理出来なさそう、っていうか出来ないよねって決めつけられることがほとんどだし」

いつもメイクばっちりで、髪も明るくて、露出した服装が好き。自分で言うのもなんだけどあたしの見た目はビッチっぽい。そして見た目通り。

久志くんと付き合ってる時にほぼ毎日ご飯作ってたから、同い年の他の子に比べると料理は上手いと思う。作るのも好きだし。顔と体だけと思ってたけど、一応これもあたしのいいところにはなるか。

実際蓮くんは今、ギャップにやられたのか目がハートになってるし。

「俺持ってくよ」

食器をキッチンに運ぶあたしを見て、蓮くんが立ち上がった。

「いいよそんなの」

「じゃ洗い物する」

自分が手持ち無沙汰なことを申し訳なく思ったみたいで、洗い物に水を張っているあたしの元へ来た。

「いいってば、どっちにしろ後で洗うつもりだし」

「ごめんね、全部してもらって…」

「ううん」

「…さっきの続きしてもいい?」

蓮くんがあたしの目を見つめた。

「…うん、いいよ」

蓮くん朝から元気だな…まぁ応えるあたしもあたしか。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

無表情いとこの隠れた欲望

春密まつり
恋愛
大学生で21歳の梓は、6歳年上のいとこの雪哉と一緒に暮らすことになった。 小さい頃よく遊んでくれたお兄さんは社会人になりかっこよく成長していて戸惑いがち。 緊張しながらも仲良く暮らせそうだと思った矢先、転んだ拍子にキスをしてしまう。 それから雪哉の態度が変わり――。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

密室に二人閉じ込められたら?

水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?

処理中です...