わたしがわたしをわすれるひ【R18】

仲村來夢

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「ピルは生理が来たその日から飲み始めてください。生理の予定日はいつですか?」

「あ、もう来ちゃいました…金曜日に」

「じゃ次の生理から飲み始めて下さいね。飲み忘れは絶対無いようにしてください。それでも飲み忘れた日は次の日に2錠飲んでください。2日以上飲み忘れたらその月は避妊効果はありませんから、次の次の生理が来た時に1からやり直しになります」

「はい…」

その日からすぐ飲めるわけじゃないんだー…。色々めんどくさいなぁ…けど、丁寧に説明してくれる優しい女医さんで良かった。

「何か質問ありますか?」

「あの、ピルと関係ないんですけど。生理来て4日目なんですけどいつもと違って全然出血が無くて…」

「…それは何日目からですか?」

「えっと…、2日目も3日目も全然ありませんでした。1日目にちょっとあったくらいで…」

「うーん、ちょっと検査してみましょうか」

というわけで、尿検査をさせられ待合室で待っていると診察室に再び呼ばれた。

「エコー撮りますので下着を脱いで診察台に上がって下さい」

エコー?なんで?生理と関係ある?…頭の中に?マークが出まくりながら診察台に上がった。器具が体の中に入って来るのが痛重い…

「妊娠、してますね」

「え!?」

「ここにいるのが赤ちゃんです。5週目ですね」

左頭上にあるモニターで、先生がこれが赤ちゃん、という場所を画面に矢印を出して説明した。

「え、え?生理来ましたよ?生理来てるのに妊娠するんですか?」

「えっと、説明するから診察台から降りて服を着て出てきてください」

…なに?どういうこと?なんで?さっき以上に頭の中が?だらけだ。それからものすごい不安が襲ってきた。

「生理が来たと思ったのは、着床出血ですね。妊娠しましたよっていうしるしみたいなものです」

「…」

「えーっと…17歳?高校生ですか?」

「…はい…」

あたしは消え入りそうな声で返事をした。制服で産婦人科に行くのは目立つだろうと思って私服で来たけど…まぁ高校生ですかって質問になるのが当然か。

「想像してなかったみたいだけど…まだ学生さんだし、しっかり父親の方と親御さんとも相談してくださいね。もちろんピルは処方出来ません」

「ありがとうございました…」

診察室から待合室まで戻る足取りがものすごく重かった。病院を出て家に帰るまでも。

生理が来たって思った時点で、妊娠の兆候なんて全く調べてなかった。着床出血、って何よ…

家に一旦帰って制服を着直して学校に行くつもりだったけど、そんな気持ちは一気に無くなりあたしはひとりぼっちの家で久志くんが帰ってくるまで心細くてずっと泣いていた。

…どうしよう…

***

「菜々?帰ってんの?」

仕事を終えて帰ってきた久志くんが、陽が落ちると共に暗くなってきた部屋の中にいるあたしを玄関から呼んだ。

気配はあるのに返事がないあたしを心配して、早足で部屋に入ってきた。

「どうしたん!めっちゃしんどそうやん…ていうか泣いてる?」

「…出来てた…」

「何が?」

「…赤ちゃんが、出来てた…」

「え?どういうこと?え、なんで?え?」

取り乱す久志くんに抱きつくと更に涙が出てきた。

こうこうで、こうだから生理が来たのは勘違いだった。病院で調べたから間違いない。エコー写真ももらった。

久志くんと向き合い、何度も声を詰まらせながら説明した。ゆっくりでいいよ、って最初に言われて話してたからかなり時間が経っていたと思う。あたしが話を聞いている間久志くんはずっと黙っていた。

話し終わった後もしばらく無言で、部屋にはあたしのすすり泣く声だけが響いていた。

「…ごめん」

久志くんがあたしに向かって土下座をした。

「やめて…」

土下座をしてくるっていうことは、どういうことか。久志くんが口を開く前にわかった。

「ほんまに、ほんまにごめん。…堕ろしてください」

「なんでなん…?」

産めそうにないことはもうわかってた。けど理由が聞きたかった。

「大丈夫やろって軽く考えてた。…今まで失敗したことなかったから」

失敗。久志くんにとっては今あたしが妊娠してる状況は失敗なんだ…

「車乗ってる時も、菜々が検査薬してる時も、もし妊娠してたらって考えた。俺はまだ父親になる覚悟が無い。…菜々のことも子供のことも幸せにしてあげれる自信も無くて」

「…」

「生理来たって言われて安心しきってた」

「…久志くんとは別れるから、父親にならんくていいから、1人で産むのもあかんの?」

「…ごめん。菜々とは別れたくない。たとえ別れて産んだとしても自分の知らんとこで子供が育つなんて考えれへん…」

「迷惑かけへんから…」

「無理やって!まだ子供なんやから親の力とか借りな育てられへんねん。菜々、お母さんに頼れる?助けてくれる?」

あたしは近くにあったティッシュ箱を久志くんに投げた。

痛っ…って眉をしかめながら小さく呟いた久志くんの顔にイラついて、ドライヤーとか化粧水とか、そこら中のものを全部投げつけた。久志くんはあたしを止めずにずっと黙っていた。

「あたしは子供なんやろ!?なんで子供に対して中出しなんかしてたん!?」

「ごめん。ほんまにごめん」

あたしは泣いて暴れて、力尽きて意識を失う様に眠ってしまった。

ごめん。ほんまにごめん。

久志くんは何度も小さく呟きながら、床に突っ伏しているあたしを抱きかかえて、ベッドに寝かせた。

…久志くんだけが悪いんじゃない。久志くんの言葉を鵜呑みにしたあたしだって悪いんだ。大丈夫って言われたし、今までの自分の経験上でも大丈夫だって思ってなぁなぁにしてたんだから。

わかってる。わかってるけど。

産みたい。けど産めない…

この状況になってから、なんてことをしたんだろうってやっとわかった。
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