わたしがわたしをわすれるひ【R18】

仲村來夢

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それからまた月日が流れて、あたしは1つ歳を取った。

誕生日は、剛くんが仕事の合間を縫ってお祝いしてくれた。合間を縫って、だからほんとに1、2時間とか短い時間。まぁちゃっかりセックスしたけどね。

忙しい剛くんとは違い相変わらずあたしは暇だったけど、まぁ生きていけるレベルには仕事があった。飲み会でタクシー代稼いでたし。

「またここの会社新ブランド出来るんですねぇ」

雑誌の撮影の日、休憩中の時のこと。先月号をペラペラめくりながらミサが編集さんと話していた。

ミサは最近CMも決まったらしい、今業界で一番人気のモデル。20歳になったばっかりの若くて可愛い女の子だ。しかも愛想も性格も良いから業界ウケ抜群。ミサはこれからもっと忙しくなるんだろうな…

どうやら剛くんの会社の話題みたいだった。ぼろが出てもいけないしあたしはあえてその中に入らずに、けど気になっていたので聞き耳を立てていた。

そうそう、新しいブランドの立ち上げがあるから忙しいって言ってたんだよね。仕方ないよね、忙しいのは…

「しかもここの社長って超イケメンじゃないですか?」

ミサが声を弾ませているのを聞いてぴくっと反応はしたけど、あたしは雑誌の他の号を見ながら二人の会話を聞いていないふりをした。

「いやいや、結婚してるよ」

編集さんの言葉にミサは肩を落としていた。

「えー、そうなんだぁ。残念…愛人でいいから付き合って欲しー」

「バカなこと言わないの」

「だってこないだ行った展示会で初めて見たけどめっちゃタイプだったんですぅ!ご飯セッティングして下さいよー!」

その展示会、あたしは行ってないけど色んなモデルに挨拶したんだろうな、剛くん。ミサだけじゃなくて、色んな女の子が剛くんのことカッコいいって思ったんだろうな…

けど、剛くんはあたしのだもん…。今は愛人って形になっちゃうけど…

「だめだめ。奥さんとラブラブなんだから」

「えー、なんで知ってるんですか?」

「最近2人目生まれたって聞いたよ。ラブラブじゃなきゃ2人目出来ないじゃん」

…なにそれ。聞いてない。聞いてない。どういうこと?なんで?

動揺しすぎて、机に置いていたスマホを取ろうとして手が滑って床に落としてしまった。けっこう音がしたから剛くんの話をしていた2人と、他にいた子達も一瞬静かになった。

「え、菜々ちゃん大丈夫?スマホ割れてない?」

「あ…大丈夫でした」

その場にいる皆に見えるように、拾ったスマホを掲げると皆が笑った。

もお、びっくりした!自分のが落ちたかと思った!とか、あれ絶対割れた音したよー!とか、なんかめっちゃいいガラス使ってるの?とか皆口々に言っていたけど、あたしは力無く笑うことしかできなかった。

2人目?なに?忙しいって、仕事の話だけじゃなかったの?

今すぐ聞きたくて、あたしはスマホの電話帳を剛くんのところまでスクロールして手を止めた。

…できない。

剛くんには、あたしから連絡出来ない。そう決めてるから。そんな約束破ってしまって電話したいけど、嫌われたくないから出来ない。こんなに腹が立っているのに抑えることしか出来ない。

その日は一日中上の空だった。

***

剛くんと久々に会う日。ほんとなら嬉しくてたまらないはずなのに、今日は全然嬉しくない。会いたくないぐらいむかついてるけど、会ってちゃんと話を聞きたい。剛くんが何を考えているのか。

部屋に入った時にキスをしようとした剛くんの手を振り払って、あたしは部屋に入っていきソファに座り込んだ。どうしたん?って言いながら剛くんも向かい側のソファに座った。

「剛くん嘘ばっかりやん!奥さん2人目生まれたんやろ?奥さんとはずっとしてないって、あたしとしかしてないって言ってたやん!!」

剛くんは、あー、バレたか。と言わんばかりにため息をついた。

「…誰に聞いたん?」

「そんなん誰でもいいやん。あたしとしながら奥さんともしてたんやろ?」

「してないって」

「じゃあなんで?奥さんは他の男の子供妊娠したん?」

「いや、ちゃうけど…」

「じゃあしてるやん!」

「いや…子供って生まれるまで十月十日なんやで?だいぶ前に一回した時に出来たんやって」

「剛くんがあたしと結婚するって言ってくれてからもう1年ぐらい経ってると思うんやけど。十月十日ならあたしにああ言ってからもしてるやん」

「誤差やん」

「誤差って何よ!」

剛くんがもう一度はぁ、と溜息をついた。

「…菜々ちゃんいつからそんななったん?」

「そんなって、何?」

「そんな…めんどくさい女」

「別に今まで何も言ってないやん!」

「いや言ってるよ。早く一緒に暮らしたいなとか奥さん元気?とか」

「それが何なん?言ったらあかんの?」

「そうやって俺にプレッシャー与えてくるやん。けっこう辛いねんで」

なにそれ。なにそれ。めんどくさいって。プレッシャーって。だって剛くんが迎えに行くって言ってくれたから、あたしはそれを信じて寂しい夜も一人で乗り越えてきたんだよ。

「別にあたしそんなつもりで言ったんじゃないもん!」

自然と、目に涙が滲んでしまう。あの時みたいに、泣いてるあたしにごめんって謝る剛くんは今ここにいない。剛くんは冷静に言葉を続ける。

「落ち着こ。菜々ちゃんだって別れてから蓮くんとしたやろ?」

「はぁ?なにそれ。なんで?」

「いや、なんとなく」

「なんなんそれ、失礼すぎひん!?」

「ごめん」

「すぐ別れたし連絡なんか一切取ってないもん。剛くんだってニュース見たやろ?ちゃんとしてくれて嬉しいって言ってたやん!」

「最後に一発とかしてへんの」

「してないよ!なんでそんなこと言うの??」

「…だって菜々ちゃんヤリマンやったみたいやし」

「なっ…」

「俺ら地元一緒なんやで?色々耳に入ってくるしさ」

「昔の話やん!」

「実際俺と会うようになってからも色んな男とやってたやん」

「だから今はそんなことしてないもん。蓮くんと別れてから、剛くんだけやもん」

「うん。そう言ってくれるのは嬉しいしそう思いたいねんけど俺まだ、100%菜々ちゃんが信じれへんねん。どうしてもそういう考えが浮かんでしまうねん、申し訳ないねんけど」

信じれないのはこっちだよ!自分のこと棚に上げてあたしが他の男とやってるんじゃないかってどの口が言うの?

そう言おうとしたら剛くんが再び口を開いた。

「…ごめん、もう行かなあかん。時間ないし口でしてくれへん?」

「…嫌や。絶対いや!」

「ほんまはしたいねんけどマジで時間ないねん、お願い」

…最低。
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