27 / 45
26
しおりを挟むそれからまた月日が流れて、あたしは1つ歳を取った。
誕生日は、剛くんが仕事の合間を縫ってお祝いしてくれた。合間を縫って、だからほんとに1、2時間とか短い時間。まぁちゃっかりセックスしたけどね。
忙しい剛くんとは違い相変わらずあたしは暇だったけど、まぁ生きていけるレベルには仕事があった。飲み会でタクシー代稼いでたし。
「またここの会社新ブランド出来るんですねぇ」
雑誌の撮影の日、休憩中の時のこと。先月号をペラペラめくりながらミサが編集さんと話していた。
ミサは最近CMも決まったらしい、今業界で一番人気のモデル。20歳になったばっかりの若くて可愛い女の子だ。しかも愛想も性格も良いから業界ウケ抜群。ミサはこれからもっと忙しくなるんだろうな…
どうやら剛くんの会社の話題みたいだった。ぼろが出てもいけないしあたしはあえてその中に入らずに、けど気になっていたので聞き耳を立てていた。
そうそう、新しいブランドの立ち上げがあるから忙しいって言ってたんだよね。仕方ないよね、忙しいのは…
「しかもここの社長って超イケメンじゃないですか?」
ミサが声を弾ませているのを聞いてぴくっと反応はしたけど、あたしは雑誌の他の号を見ながら二人の会話を聞いていないふりをした。
「いやいや、結婚してるよ」
編集さんの言葉にミサは肩を落としていた。
「えー、そうなんだぁ。残念…愛人でいいから付き合って欲しー」
「バカなこと言わないの」
「だってこないだ行った展示会で初めて見たけどめっちゃタイプだったんですぅ!ご飯セッティングして下さいよー!」
その展示会、あたしは行ってないけど色んなモデルに挨拶したんだろうな、剛くん。ミサだけじゃなくて、色んな女の子が剛くんのことカッコいいって思ったんだろうな…
けど、剛くんはあたしのだもん…。今は愛人って形になっちゃうけど…
「だめだめ。奥さんとラブラブなんだから」
「えー、なんで知ってるんですか?」
「最近2人目生まれたって聞いたよ。ラブラブじゃなきゃ2人目出来ないじゃん」
…なにそれ。聞いてない。聞いてない。どういうこと?なんで?
動揺しすぎて、机に置いていたスマホを取ろうとして手が滑って床に落としてしまった。けっこう音がしたから剛くんの話をしていた2人と、他にいた子達も一瞬静かになった。
「え、菜々ちゃん大丈夫?スマホ割れてない?」
「あ…大丈夫でした」
その場にいる皆に見えるように、拾ったスマホを掲げると皆が笑った。
もお、びっくりした!自分のが落ちたかと思った!とか、あれ絶対割れた音したよー!とか、なんかめっちゃいいガラス使ってるの?とか皆口々に言っていたけど、あたしは力無く笑うことしかできなかった。
2人目?なに?忙しいって、仕事の話だけじゃなかったの?
今すぐ聞きたくて、あたしはスマホの電話帳を剛くんのところまでスクロールして手を止めた。
…できない。
剛くんには、あたしから連絡出来ない。そう決めてるから。そんな約束破ってしまって電話したいけど、嫌われたくないから出来ない。こんなに腹が立っているのに抑えることしか出来ない。
その日は一日中上の空だった。
***
剛くんと久々に会う日。ほんとなら嬉しくてたまらないはずなのに、今日は全然嬉しくない。会いたくないぐらいむかついてるけど、会ってちゃんと話を聞きたい。剛くんが何を考えているのか。
部屋に入った時にキスをしようとした剛くんの手を振り払って、あたしは部屋に入っていきソファに座り込んだ。どうしたん?って言いながら剛くんも向かい側のソファに座った。
「剛くん嘘ばっかりやん!奥さん2人目生まれたんやろ?奥さんとはずっとしてないって、あたしとしかしてないって言ってたやん!!」
剛くんは、あー、バレたか。と言わんばかりにため息をついた。
「…誰に聞いたん?」
「そんなん誰でもいいやん。あたしとしながら奥さんともしてたんやろ?」
「してないって」
「じゃあなんで?奥さんは他の男の子供妊娠したん?」
「いや、ちゃうけど…」
「じゃあしてるやん!」
「いや…子供って生まれるまで十月十日なんやで?だいぶ前に一回した時に出来たんやって」
「剛くんがあたしと結婚するって言ってくれてからもう1年ぐらい経ってると思うんやけど。十月十日ならあたしにああ言ってからもしてるやん」
「誤差やん」
「誤差って何よ!」
剛くんがもう一度はぁ、と溜息をついた。
「…菜々ちゃんいつからそんななったん?」
「そんなって、何?」
「そんな…めんどくさい女」
「別に今まで何も言ってないやん!」
「いや言ってるよ。早く一緒に暮らしたいなとか奥さん元気?とか」
「それが何なん?言ったらあかんの?」
「そうやって俺にプレッシャー与えてくるやん。けっこう辛いねんで」
なにそれ。なにそれ。めんどくさいって。プレッシャーって。だって剛くんが迎えに行くって言ってくれたから、あたしはそれを信じて寂しい夜も一人で乗り越えてきたんだよ。
「別にあたしそんなつもりで言ったんじゃないもん!」
自然と、目に涙が滲んでしまう。あの時みたいに、泣いてるあたしにごめんって謝る剛くんは今ここにいない。剛くんは冷静に言葉を続ける。
「落ち着こ。菜々ちゃんだって別れてから蓮くんとしたやろ?」
「はぁ?なにそれ。なんで?」
「いや、なんとなく」
「なんなんそれ、失礼すぎひん!?」
「ごめん」
「すぐ別れたし連絡なんか一切取ってないもん。剛くんだってニュース見たやろ?ちゃんとしてくれて嬉しいって言ってたやん!」
「最後に一発とかしてへんの」
「してないよ!なんでそんなこと言うの??」
「…だって菜々ちゃんヤリマンやったみたいやし」
「なっ…」
「俺ら地元一緒なんやで?色々耳に入ってくるしさ」
「昔の話やん!」
「実際俺と会うようになってからも色んな男とやってたやん」
「だから今はそんなことしてないもん。蓮くんと別れてから、剛くんだけやもん」
「うん。そう言ってくれるのは嬉しいしそう思いたいねんけど俺まだ、100%菜々ちゃんが信じれへんねん。どうしてもそういう考えが浮かんでしまうねん、申し訳ないねんけど」
信じれないのはこっちだよ!自分のこと棚に上げてあたしが他の男とやってるんじゃないかってどの口が言うの?
そう言おうとしたら剛くんが再び口を開いた。
「…ごめん、もう行かなあかん。時間ないし口でしてくれへん?」
「…嫌や。絶対いや!」
「ほんまはしたいねんけどマジで時間ないねん、お願い」
…最低。
0
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる