わたしがわたしをわすれるひ【R18】

仲村來夢

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シャワーを浴びて部屋に戻ると、ふと机が視界に入ってきた。1万円札が置いてある。

いつの間に置いてくれてたんだろ。

あーでもあたしがベッドでぼーっとしてる時にタクシー代置いとくよ、とか聞こえてたかも。

なんか味気ないなぁ…。今までだって一人で帰らせるの心配やから、って言って渡してくれてたけど…

最初の方は次に会った時にお釣りを返そうとした。他の人にはそんなのしたことなかったけど…

余ったんやったら美味しいもんでも食べて帰り、なかなか一緒に飯食いに行ったり出来んくてごめんな。お釣りわざわざ返しに来るなんて、ちゃんとした子なんやなぁ。

そう言って頭を撫でてくれて、お釣りは受け取ってくれなかった。

今は、とりあえず渡しとけばいいや、って感じでお金が無造作に置かれてる。こんなの風俗と変わらない。いっそ置いて帰ればいいのにそんなことも出来なくて、それを財布に入れてしまう自分も情けない。

なんでこうなっちゃったの。なんであの時剛くんは離婚するなんてあたしに言ったの。期待するだけさせてだんだん冷たくなっていくのはなんでなんだろう。

その日の夜は、剛くんとセックスしたはずなのに全然物足りなくて、寂しくてオナニーをした。

「ごうくん、ごうくんっ…」

この部屋にはあたし以外誰もいないのに。剛くんはいないのに一人情けなく声を漏らしてしまう。

「ごうくんっ…あ、あっ…」

ちゅ…

胸を下から持ち上げて、自分の乳首を吸った。剛くんと初めて過ごした夜のことを思い出した…

舌を尖らせながら舐めるにつれて、乳首がどんどん硬くなってくる。気持ちいい。今日のセックスより…。

「いっ…あ…」

中で畝るバイブの音が耳に響いて、我に返った。「ほんまに変態やな」って剛くんの声が聞こえた気がして急に恥ずかしくなって、シャワーを浴びに行った。

虚しいな、ほんとに。

***

「なー、いいやん」

「あっ…もぉ…嫌やってばっ。前も言ったやん!」

「やってみなわからんって」

「痛いに決まってるもん…」

今日は時間かけてくれてると思ったらこれか…。後ろでさせてくれ、なんて。先にシャワー浴びてきてってそういうことだったんだね。

久しぶりにゆっくり愛撫されて今にもいきそうだったのに。一気に気持ちが萎えたあたしは剛くんに背を向けて寝転がった。なんか顔見るのやだ…。

剛くんがあたしのご機嫌を取るように後ろから抱きしめて、あたしの背中にキスをして耳元で囁いた。

「したことないんやろ?菜々ちゃんの初めて俺に頂戴…」

「他のことにしてよっ。お尻に入れられるなんて嫌!」

「他に何かある?っていうか、コスプレとかおもちゃとか俺が初めてじゃなかったやろ?ひとりエッチ見せるんとかも」

「…」

確かに今言われたの全部、剛くんが初めてじゃなかった。乳首のおもちゃ使われたりとかは無かったけど…

色んな人とセックスしてきたから、やったことない事なんてそれ以外無かった。それだけは絶対にやめてって言い続けて誰にも許したことなかった。

「…嫌って言ったらちゃんとやめるって、約束してくれる?」

「うん」

「ほんまに?ほんまに?」

「もー、信用してや」

今の剛くん、全く信用出来ないんだけど…

ほんとは、ほんとに嫌なんだけど…あたしは剛くんに押し切られて、初めての経験をすることになった。

「痛っっ、たぁ…っ!」

「最初だけやって…」

じわじわと穴が広がって、剛くんのモノが少しずつ入っていくのを感じる。

痛い。痛い!

「…まだ、全部入ってないの…?いた、痛たた…」

「もうちょっと。一気に行った方がいい?」

「無理、嫌や絶対むりっ」

「あーちょっと、そんな暴れたら余計痛いで。わかったから、ゆっくりするし」

ゆっくりされても痛いものは痛いよ…痛すぎて裂けそうなんだけど…

「…あー、全部入った…きつ」

剛くんが気持ちよさそうな声を漏らす。…いいよね、剛くんは。ただ突っ込むだけなんだから。こっちは穴の中に剛くんのモノがぎちぎちに入ってきて、苦しくて仕方ないのに。

「あーきっつ…やばいなこれ」

「う…うぅ、うー…」

剛くんが腰を動かし始めた。あたしの口からは呻き声しか出てこない。

普通のセックスならな…。処女を捨てたなんて10年以上前だけど痛かったことはけっこう覚えてる。動かれるうちに気持ちよくなってきたことも。

その時は血も出なくて、初めてなのに感じてるからって処女かどうか疑われたぐらいだったけど…

こっちは全然違う。動かれても気持ちよくない!!ネットとかで見る「アナルの方が気持ちよくなっちゃいました」とか「クセになります」とかいう体験談、捏造じゃないの!?

だめ。もう耐えれない。

「う…っう…やめ…」

「はぁ、はぁ…何?」

あたしの初めてを奪った征服感なのか、中とは違う締まりに興奮しているのか剛くんはいつもより息を荒げている。

「もう…嫌や…やめて…」

「待ってもういきそうやから、あとちょっと…」

「嫌!ほんまに嫌なの!気持ちよくないの!痛いだけなの!」

「ちょっとでも気持ちよくないの…」

「気持ちよくない!やめて!ほんまにやめて、もう嫌!いややぁっ」

「わかった…」

あたしの悲痛な訴えにようやく観念した剛くんがやっとモノを抜いてくれた。…今までよく我慢出来たな、って思うと泣けてくる。

剛くんが自分のモノを手でしごいて無言であたしのお尻に精液を放った。

「…中で出したかったな」

ぼそっとつぶやく声を聞いて悲しくなって、もっと泣けてきた。

「どうしたんなー、そんな痛かった?」

剛くんがあたしのお尻にティッシュを当て、軽く拭った。体がベッドに向かって崩れ落ちる。

「…いたかっ、いたかった…さいしょ、っからいっ、いったやん、いたいって…」

声を途切れさせながら話すあたしを見て剛くんがため息をついた。

「最近の菜々ちゃん、イヤイヤばっかりやな…俺のことそんなに嫌?」

耳を疑った。嫌なわけないじゃん。こんなことされてもまだ剛くんが好きなのに。剛くんが嫌なんじゃなくて、されることが嫌なだけなのに!

「なんでそんなん言うの…?好きやからこうやって会いに来てんのに…」

「なんかよーわからん。…しばらく会うんやめよっか」

「なんでそうなんの!?」

起き上がって、涙でぐしゃぐしゃの顔で剛くんを見た。

「…俺にも反省せなあかんところあるんはわかるし、ちょっとだけ俺のこと忘れて。前みたいに笑って欲しいし」

「めんどくさくなってるだけやん…」

「違うって。待ってて、お願い」

あたしは無言でベッドから降り、ソファに掛けていた服を取り着始めた。

メイク直しとか、シャワーとか、もういい。この場から早く去りたかった。

「絶対また電話するから。出てな」

剛くんの声を背に、あたしは服を着て涙を拭いながら部屋を後にした。

こんなに辛いの、やだ。時間が経って、もし本当に剛くんから連絡があったら会いに行っちゃうって、今既にわかってるのも嫌だ…

好きって言う前のあの頃に戻りたい。

そんなの叶うはずなんてないってわかってても、願ってしまう。

こんなに自分の心が弱くて脆いなんて、知らなかった。知りたくなかった…
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