わたしがわたしをわすれるひ【R18】

仲村來夢

文字の大きさ
32 / 45

31

しおりを挟む
菜々さん、いい加減にしてください。独身でちゃんとお付き合いしていた蓮さんに関してはまだしも既婚者を家に連れ込むなんて、ありえないです。しかもあの水嶋将人。

自分がどういう世界にいるのか自覚が無さすぎます。もう少し危機感を持ってください。

割と大事になっているのに全く危機感のないあたしにマネージャーは呆れかえっていた。

その後の対応や処遇については追って連絡しますので。

この言葉を最後に、さっさと帰らされたのは将くんの事務所とのやり取りとか色々忙しいからみたい。大変だな。あたしのせいだけど。

ひっそりとモデルやってるだけなのに見てる人は見てるんだなぁ。というか将くんを連れ込んだのがまずかったな。

ネットで最近のニュースとか週刊誌のデジタル版とか見てみたけど、話題は出てないみたいだ。火消し早っ。大きい事務所の力は凄いな…

一応あたしも周りとかよく見て家を出たりした方がいいのかなぁ。用心しておくことに越したことはないか。

剛くんと会うことになったりしたらホテルに行くのも気を付けないと…。

それ以前にまた会えるのかな。不安な気持ちが大きいけど、まだ待ってしまってる自分がいる。

諦めたつもりで他の男とセックスしといてしかもそのせいでこんな大事になっちゃって、もう待つ資格もないのに。…あたしってこんなに未練がましい人間だったんだ。

剛くんのことを好きになってから、自分には無いと思ってた感情をいくつも知った。

元々遊びだったくせに、不倫のくせに。今更だけど、ちゃんとした恋愛して知りたかった。…このまま、何も言わず終わっちゃうのかな。

***

「…じゃあ契約は打ち切り、ということで」

数日後事務所に再び呼び出されて、マネージャーではなく社長から直々に契約打ち切りという名のクビを言い渡された。

まぁわかっていたことだ。仕方ない。

「はい。なんか色々すみませんでした。将く…水嶋さんの事務所とかお金とか大変だったんですよね」

「…水嶋さんの事務所が菜々ちゃんの解雇を条件に、記者に払ったもみ消し料を全額持って下さることになったんだよ。菜々ちゃんには申し訳ないけど、社員や他の子達食わせて行かないといけないんで」

「…ですよね」

「…契約打ち切りしといてなんだけど、生活とか大丈夫?」

一応形だけでも情けかけてくれるんだ。まぁ、逆恨みであたしがここのこと悪いように広めたらそれこそ事務所生命に関わるもんね。

「大丈夫じゃない、かな…」

今まで行ってた飲み会なんかもモデルの肩書きがあったから行けてたわけだし。明日から一般人になるあたしはそんな場所に呼ばれることはもう無いだろう。

今まで一緒に飲み会に行ってたもいなくなるしね。あたしがモデルじゃなくなるんだから仲間でもないし友達でもないから今後の付き合いなんてないだろうから。

「えーと…一応他の事務所の紹介は出来るけど」

「これだけ素行悪かったのにあたしのこと他に紹介しちゃっていいんですか?」

「大丈夫、菜々ちゃんは可愛いから。…Hカップだっけ?色気あるし…」

ああ、そういうことか。その言葉であたしは全てを悟った。

「生活には困らないと思うよ」

「ですかねぇ」

「菜々ちゃんが注目されてた時は間違いなくあったし、それなりに話題になるかもしれないし…まぁ、考えてみてよ」

注目ね。本業のモデルで、じゃなくて炎上でしか注目されなかったけど。

「よろしくお願いします…」

社長は自分で提案しておきながら、あたしの返事の早さに驚いた。

紹介料とか貰うのかなぁ。いくらくらいで売られるんだろう。

「え、そんなにすぐ決めて大丈夫?どんな事務所かとか聞かないの?」

どんな事務所って、もう今までの会話でわかるじゃん。胸のサイズ聞いたり話題性がどうこうとか、あたしそんなに鈍感じゃないし。

「大丈夫です。心入れ替えて、ちゃんとやります」

高校卒業してからずっとここでお世話になってたから、ちょっとは恩返ししなきゃね。

一応そういう気持ちは少しあった。それ以上に、というかほぼ自暴自棄だけど。

「もう少し考えなくていいの?今すぐ返事しなくてもいいんだよ。本当に大丈夫なら連絡しちゃうけど…」

社長、自分から提案したのに面白いぐらい動揺してるじゃん。まぁ自分から希望してるならまだしも今言われてすぐ返事したからびっくりしたのかな。

「大丈夫です。すぐ連絡しちゃってください」

決心が鈍りそうだから。

…翌々日、すぐに新しい事務所に呼ばれて契約書類にサインと、パンツ1枚の姿で宣材写真を撮った。

水着とかじゃないんだ。まぁそりゃそうだよね、グラビアアイドルじゃないんだから。

挨拶回りをしたりとバタバタしている数日間であれよあれよと仕事が決まっていき、撮影日も決まった。

所属したはいいものの仕事がなかなか決まらない人だっているみたいだし、そう思うととんとん拍子に進んでいったのは良かったなぁと思う。仕事が決まるまでの間にもやもやしそうだし、嫌になるかもしれないし。

嫌になる…っていうか、今も嫌だ。自分で決めたことだけどやっぱり怖いし、不安ばっかり…。

ここ1週間ほどの慌ただしい日々の中でも、やっぱり剛くんのことが気になっていた。忙しいから忘れられるかなって思ったけど家に帰ればいつだって剛くんのことを考えて泣いていた。

剛くんの中では終わったつもりかもしれないけど、ちゃんと話をしてからさよならをしたい。

このまま、いつまで経っても待ち続けちゃいそうだからちゃんと終わらせないと。

今までのあたしを忘れる為に。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

無表情いとこの隠れた欲望

春密まつり
恋愛
大学生で21歳の梓は、6歳年上のいとこの雪哉と一緒に暮らすことになった。 小さい頃よく遊んでくれたお兄さんは社会人になりかっこよく成長していて戸惑いがち。 緊張しながらも仲良く暮らせそうだと思った矢先、転んだ拍子にキスをしてしまう。 それから雪哉の態度が変わり――。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...