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菜々さん、いい加減にしてください。独身でちゃんとお付き合いしていた蓮さんに関してはまだしも既婚者を家に連れ込むなんて、ありえないです。しかもあの水嶋将人。
自分がどういう世界にいるのか自覚が無さすぎます。もう少し危機感を持ってください。
割と大事になっているのに全く危機感のないあたしにマネージャーは呆れかえっていた。
その後の対応や処遇については追って連絡しますので。
この言葉を最後に、さっさと帰らされたのは将くんの事務所とのやり取りとか色々忙しいからみたい。大変だな。あたしのせいだけど。
ひっそりとモデルやってるだけなのに見てる人は見てるんだなぁ。というか将くんを連れ込んだのがまずかったな。
ネットで最近のニュースとか週刊誌のデジタル版とか見てみたけど、話題は出てないみたいだ。火消し早っ。大きい事務所の力は凄いな…
一応あたしも周りとかよく見て家を出たりした方がいいのかなぁ。用心しておくことに越したことはないか。
剛くんと会うことになったりしたらホテルに行くのも気を付けないと…。
それ以前にまた会えるのかな。不安な気持ちが大きいけど、まだ待ってしまってる自分がいる。
諦めたつもりで他の男とセックスしといてしかもそのせいでこんな大事になっちゃって、もう待つ資格もないのに。…あたしってこんなに未練がましい人間だったんだ。
剛くんのことを好きになってから、自分には無いと思ってた感情をいくつも知った。
元々遊びだったくせに、不倫のくせに。今更だけど、ちゃんとした恋愛して知りたかった。…このまま、何も言わず終わっちゃうのかな。
***
「…じゃあ契約は打ち切り、ということで」
数日後事務所に再び呼び出されて、マネージャーではなく社長から直々に契約打ち切りという名のクビを言い渡された。
まぁわかっていたことだ。仕方ない。
「はい。なんか色々すみませんでした。将く…水嶋さんの事務所とかお金とか大変だったんですよね」
「…水嶋さんの事務所が菜々ちゃんの解雇を条件に、記者に払ったもみ消し料を全額持って下さることになったんだよ。菜々ちゃんには申し訳ないけど、社員や他の子達食わせて行かないといけないんで」
「…ですよね」
「…契約打ち切りしといてなんだけど、生活とか大丈夫?」
一応形だけでも情けかけてくれるんだ。まぁ、逆恨みであたしがここのこと悪いように広めたらそれこそ事務所生命に関わるもんね。
「大丈夫じゃない、かな…」
今まで行ってた飲み会なんかもモデルの肩書きがあったから行けてたわけだし。明日から一般人になるあたしはそんな場所に呼ばれることはもう無いだろう。
今まで一緒に飲み会に行ってたモデル仲間もいなくなるしね。あたしがモデルじゃなくなるんだから仲間でもないし友達でもないから今後の付き合いなんてないだろうから。
「えーと…一応他の事務所の紹介は出来るけど」
「これだけ素行悪かったのにあたしのこと他に紹介しちゃっていいんですか?」
「大丈夫、菜々ちゃんは可愛いから。…Hカップだっけ?色気あるし…」
ああ、そういうことか。その言葉であたしは全てを悟った。
「生活には困らないと思うよ」
「ですかねぇ」
「菜々ちゃんが注目されてた時は間違いなくあったし、それなりに話題になるかもしれないし…まぁ、考えてみてよ」
注目ね。本業のモデルで、じゃなくて炎上でしか注目されなかったけど。
「よろしくお願いします…」
社長は自分で提案しておきながら、あたしの返事の早さに驚いた。
紹介料とか貰うのかなぁ。いくらくらいで売られるんだろう。
「え、そんなにすぐ決めて大丈夫?どんな事務所かとか聞かないの?」
どんな事務所って、もう今までの会話でわかるじゃん。胸のサイズ聞いたり話題性がどうこうとか、あたしそんなに鈍感じゃないし。
「大丈夫です。心入れ替えて、ちゃんとやります」
高校卒業してからずっとここでお世話になってたから、ちょっとは恩返ししなきゃね。
一応そういう気持ちは少しあった。それ以上に、というかほぼ自暴自棄だけど。
「もう少し考えなくていいの?今すぐ返事しなくてもいいんだよ。本当に大丈夫なら連絡しちゃうけど…」
社長、自分から提案したのに面白いぐらい動揺してるじゃん。まぁ自分から希望してるならまだしも今言われてすぐ返事したからびっくりしたのかな。
「大丈夫です。すぐ連絡しちゃってください」
決心が鈍りそうだから。
…翌々日、すぐに新しい事務所に呼ばれて契約書類にサインと、パンツ1枚の姿で宣材写真を撮った。
水着とかじゃないんだ。まぁそりゃそうだよね、グラビアアイドルじゃないんだから。
挨拶回りをしたりとバタバタしている数日間であれよあれよと仕事が決まっていき、撮影日も決まった。
所属したはいいものの仕事がなかなか決まらない人だっているみたいだし、そう思うととんとん拍子に進んでいったのは良かったなぁと思う。仕事が決まるまでの間にもやもやしそうだし、嫌になるかもしれないし。
嫌になる…っていうか、今も嫌だ。自分で決めたことだけどやっぱり怖いし、不安ばっかり…。
ここ1週間ほどの慌ただしい日々の中でも、やっぱり剛くんのことが気になっていた。忙しいから忘れられるかなって思ったけど家に帰ればいつだって剛くんのことを考えて泣いていた。
剛くんの中では終わったつもりかもしれないけど、ちゃんと話をしてからさよならをしたい。
このまま、いつまで経っても待ち続けちゃいそうだからちゃんと終わらせないと。
今までのあたしを忘れる為に。
自分がどういう世界にいるのか自覚が無さすぎます。もう少し危機感を持ってください。
割と大事になっているのに全く危機感のないあたしにマネージャーは呆れかえっていた。
その後の対応や処遇については追って連絡しますので。
この言葉を最後に、さっさと帰らされたのは将くんの事務所とのやり取りとか色々忙しいからみたい。大変だな。あたしのせいだけど。
ひっそりとモデルやってるだけなのに見てる人は見てるんだなぁ。というか将くんを連れ込んだのがまずかったな。
ネットで最近のニュースとか週刊誌のデジタル版とか見てみたけど、話題は出てないみたいだ。火消し早っ。大きい事務所の力は凄いな…
一応あたしも周りとかよく見て家を出たりした方がいいのかなぁ。用心しておくことに越したことはないか。
剛くんと会うことになったりしたらホテルに行くのも気を付けないと…。
それ以前にまた会えるのかな。不安な気持ちが大きいけど、まだ待ってしまってる自分がいる。
諦めたつもりで他の男とセックスしといてしかもそのせいでこんな大事になっちゃって、もう待つ資格もないのに。…あたしってこんなに未練がましい人間だったんだ。
剛くんのことを好きになってから、自分には無いと思ってた感情をいくつも知った。
元々遊びだったくせに、不倫のくせに。今更だけど、ちゃんとした恋愛して知りたかった。…このまま、何も言わず終わっちゃうのかな。
***
「…じゃあ契約は打ち切り、ということで」
数日後事務所に再び呼び出されて、マネージャーではなく社長から直々に契約打ち切りという名のクビを言い渡された。
まぁわかっていたことだ。仕方ない。
「はい。なんか色々すみませんでした。将く…水嶋さんの事務所とかお金とか大変だったんですよね」
「…水嶋さんの事務所が菜々ちゃんの解雇を条件に、記者に払ったもみ消し料を全額持って下さることになったんだよ。菜々ちゃんには申し訳ないけど、社員や他の子達食わせて行かないといけないんで」
「…ですよね」
「…契約打ち切りしといてなんだけど、生活とか大丈夫?」
一応形だけでも情けかけてくれるんだ。まぁ、逆恨みであたしがここのこと悪いように広めたらそれこそ事務所生命に関わるもんね。
「大丈夫じゃない、かな…」
今まで行ってた飲み会なんかもモデルの肩書きがあったから行けてたわけだし。明日から一般人になるあたしはそんな場所に呼ばれることはもう無いだろう。
今まで一緒に飲み会に行ってたモデル仲間もいなくなるしね。あたしがモデルじゃなくなるんだから仲間でもないし友達でもないから今後の付き合いなんてないだろうから。
「えーと…一応他の事務所の紹介は出来るけど」
「これだけ素行悪かったのにあたしのこと他に紹介しちゃっていいんですか?」
「大丈夫、菜々ちゃんは可愛いから。…Hカップだっけ?色気あるし…」
ああ、そういうことか。その言葉であたしは全てを悟った。
「生活には困らないと思うよ」
「ですかねぇ」
「菜々ちゃんが注目されてた時は間違いなくあったし、それなりに話題になるかもしれないし…まぁ、考えてみてよ」
注目ね。本業のモデルで、じゃなくて炎上でしか注目されなかったけど。
「よろしくお願いします…」
社長は自分で提案しておきながら、あたしの返事の早さに驚いた。
紹介料とか貰うのかなぁ。いくらくらいで売られるんだろう。
「え、そんなにすぐ決めて大丈夫?どんな事務所かとか聞かないの?」
どんな事務所って、もう今までの会話でわかるじゃん。胸のサイズ聞いたり話題性がどうこうとか、あたしそんなに鈍感じゃないし。
「大丈夫です。心入れ替えて、ちゃんとやります」
高校卒業してからずっとここでお世話になってたから、ちょっとは恩返ししなきゃね。
一応そういう気持ちは少しあった。それ以上に、というかほぼ自暴自棄だけど。
「もう少し考えなくていいの?今すぐ返事しなくてもいいんだよ。本当に大丈夫なら連絡しちゃうけど…」
社長、自分から提案したのに面白いぐらい動揺してるじゃん。まぁ自分から希望してるならまだしも今言われてすぐ返事したからびっくりしたのかな。
「大丈夫です。すぐ連絡しちゃってください」
決心が鈍りそうだから。
…翌々日、すぐに新しい事務所に呼ばれて契約書類にサインと、パンツ1枚の姿で宣材写真を撮った。
水着とかじゃないんだ。まぁそりゃそうだよね、グラビアアイドルじゃないんだから。
挨拶回りをしたりとバタバタしている数日間であれよあれよと仕事が決まっていき、撮影日も決まった。
所属したはいいものの仕事がなかなか決まらない人だっているみたいだし、そう思うととんとん拍子に進んでいったのは良かったなぁと思う。仕事が決まるまでの間にもやもやしそうだし、嫌になるかもしれないし。
嫌になる…っていうか、今も嫌だ。自分で決めたことだけどやっぱり怖いし、不安ばっかり…。
ここ1週間ほどの慌ただしい日々の中でも、やっぱり剛くんのことが気になっていた。忙しいから忘れられるかなって思ったけど家に帰ればいつだって剛くんのことを考えて泣いていた。
剛くんの中では終わったつもりかもしれないけど、ちゃんと話をしてからさよならをしたい。
このまま、いつまで経っても待ち続けちゃいそうだからちゃんと終わらせないと。
今までのあたしを忘れる為に。
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