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第一章 転生
第05話 迷いの森
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「──おい、見ろ! あの流れてる黒いの、人間じゃねーのか!」
男の声だ。近くに人がいる。まさか、向こうから現れるとは……町を探す手間が省けた。俺は体を起こし、腰まである川の中で立ち上がった。
「お、おい! 生きてるぞ! 人だ、人が流れて来た!」
声の方へ目をやると、興奮気味に騒ぎ立てる男が見えた。その傍に、連れらしき男がもう一人。二人共、余り裕福そうには見えない身なりだ。どちらも三十代くらいだろうか。片方が俺を指差しながら、しきりにもう一人へ呼びかけている。
「ああ、驚かせてすまない。別に怪しい者じゃない」
言いながら俺は苦笑いした。突然、川から流れて来た黒ずくめの男。どう考えても怪しい。もしくは変人だ。我ながら気の利かない台詞だと思う。
「お、おい坊主! 大丈夫なのか?」
とりあえず俺の身を案ずる辺り、悪い人間では無さそうだ。
だが、坊主?
俺の事か?
そう考えるに至り、俺は自分が若返っている事を思い出した。おそらく、見た目は十六~七歳くらい。同年代のつもりで話しかけたが、確かに向こうからしてみれば、俺は坊主だ。
何が危険に繋がるかわからない。とりあえず今は、転生者であることは伏せておこう。年相応に振る舞う方が良さそうだ。
「あ、すいません! 大丈夫です」
ニッコリ笑い、誤魔化す。しかし、男は当然、納得はしなかった。
「大丈夫ってお前、この上流は『迷いの森』だぞ? こんなとこで一体、何してるんだ?」
迷いの森。そんな物騒な名前の森だったのか。道理で中々出れない訳だ。
妙に納得したのと同時に、俺はどう誤魔化すかを考えた。しかし、特にいい案は出て来ない。俺は仕方なく、使い古された設定を言い訳に用いた。
「すいません。俺もわからないんです……気が付けばこの森の中にいて。それまでの事は覚えて無いんです」
記憶喪失。都合の悪い事は忘れている事にして誤魔化せる、最強の設定。そして、定番の言い訳だ。俺は説明しながら川からあがり、濡れた衣服の水を絞った。
「記憶が……そいつは大変だったな、坊主。それにしても、よく『迷いの森』から無事に出て来れたもんだ」
同情と驚きの混じり合った表情で、男は俺を労った。どうやら、信じてくれたらしい。すると、話を聞いていたもう一人が、会話に加わって来た。
「あの森には、強力な魔物がウヨウヨ棲み憑いているからなあ。生きてるだけでも大したもんだ。『三尾の悪魔』にでも遭遇してたら、間違い無く食われていたろうよ」
三尾の悪魔?
もしかして、あの三尾の狼の事だろうか。あいつ、そんなにヤバい魔物だったのか……。言われてみれば、確かに他の魔物よりも手こずった様な気がする。まあ、それも丸腰だった初日だけの話だが。
「ハハハ……そうなんですね。俺は運が良かったみたいだ」
とりあえず、話を合わせる。殆ど丸腰で倒したなんて話したら、どんな厄介事に巻き込まれるかわからない。危険は最小限に抑えた方がいい。若干、笑顔を引き吊らせながら答えると、俺を見つけた髭の男が話しかけて来た。
「坊主、記憶も無いのにこんな所で一人は危ない。とりあえず何か思い出す迄、うちの村へ来ると良い。貧しい村だが、ここよりはマシだ」
願っても無い提案だった。この世界の人間が暮らす村。探す手間が省けた。
──ようやくこの異世界で、まともな生活が始まる。そんな気がして、俺は密かに拳を握り締めた。
男の声だ。近くに人がいる。まさか、向こうから現れるとは……町を探す手間が省けた。俺は体を起こし、腰まである川の中で立ち上がった。
「お、おい! 生きてるぞ! 人だ、人が流れて来た!」
声の方へ目をやると、興奮気味に騒ぎ立てる男が見えた。その傍に、連れらしき男がもう一人。二人共、余り裕福そうには見えない身なりだ。どちらも三十代くらいだろうか。片方が俺を指差しながら、しきりにもう一人へ呼びかけている。
「ああ、驚かせてすまない。別に怪しい者じゃない」
言いながら俺は苦笑いした。突然、川から流れて来た黒ずくめの男。どう考えても怪しい。もしくは変人だ。我ながら気の利かない台詞だと思う。
「お、おい坊主! 大丈夫なのか?」
とりあえず俺の身を案ずる辺り、悪い人間では無さそうだ。
だが、坊主?
俺の事か?
そう考えるに至り、俺は自分が若返っている事を思い出した。おそらく、見た目は十六~七歳くらい。同年代のつもりで話しかけたが、確かに向こうからしてみれば、俺は坊主だ。
何が危険に繋がるかわからない。とりあえず今は、転生者であることは伏せておこう。年相応に振る舞う方が良さそうだ。
「あ、すいません! 大丈夫です」
ニッコリ笑い、誤魔化す。しかし、男は当然、納得はしなかった。
「大丈夫ってお前、この上流は『迷いの森』だぞ? こんなとこで一体、何してるんだ?」
迷いの森。そんな物騒な名前の森だったのか。道理で中々出れない訳だ。
妙に納得したのと同時に、俺はどう誤魔化すかを考えた。しかし、特にいい案は出て来ない。俺は仕方なく、使い古された設定を言い訳に用いた。
「すいません。俺もわからないんです……気が付けばこの森の中にいて。それまでの事は覚えて無いんです」
記憶喪失。都合の悪い事は忘れている事にして誤魔化せる、最強の設定。そして、定番の言い訳だ。俺は説明しながら川からあがり、濡れた衣服の水を絞った。
「記憶が……そいつは大変だったな、坊主。それにしても、よく『迷いの森』から無事に出て来れたもんだ」
同情と驚きの混じり合った表情で、男は俺を労った。どうやら、信じてくれたらしい。すると、話を聞いていたもう一人が、会話に加わって来た。
「あの森には、強力な魔物がウヨウヨ棲み憑いているからなあ。生きてるだけでも大したもんだ。『三尾の悪魔』にでも遭遇してたら、間違い無く食われていたろうよ」
三尾の悪魔?
もしかして、あの三尾の狼の事だろうか。あいつ、そんなにヤバい魔物だったのか……。言われてみれば、確かに他の魔物よりも手こずった様な気がする。まあ、それも丸腰だった初日だけの話だが。
「ハハハ……そうなんですね。俺は運が良かったみたいだ」
とりあえず、話を合わせる。殆ど丸腰で倒したなんて話したら、どんな厄介事に巻き込まれるかわからない。危険は最小限に抑えた方がいい。若干、笑顔を引き吊らせながら答えると、俺を見つけた髭の男が話しかけて来た。
「坊主、記憶も無いのにこんな所で一人は危ない。とりあえず何か思い出す迄、うちの村へ来ると良い。貧しい村だが、ここよりはマシだ」
願っても無い提案だった。この世界の人間が暮らす村。探す手間が省けた。
──ようやくこの異世界で、まともな生活が始まる。そんな気がして、俺は密かに拳を握り締めた。
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