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第一章 転生
第08話 アスカ
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「何だか、寂れた村だなぁ……」
どう取り繕っても、そうとしか見えない。村を案内するアスカに向かい、俺は意を決して話しかけた。
「……仕方ない」
短く、端的な答え。
本人も自覚はあるのだろう。特に否定もせず、憤りもせず。ただ、少し寂しそうにアスカは答えた。
碧い髪のショートヘアーに、碧い瞳。着ている物こそ地味で質素だが、そこから覗く素肌は雪の様に白い。体型こそ幼さが残る物の、紛れもない美少女。それが今、目の前で寂しそうに呟いた少女……アスカだ。
「仕方ない?」
何気なく、聞き返す。アスカは、黙ったまま小さく頷いた。
彼女は、基本的に無口だ。必要最低限しか話さない。俺は、そんな彼女の事をもっと知りたいと思った。
幾つかの一方通行な会話を終え、俺は、村外れの小屋に案内された。ビアードが用意してくれた俺の家だ。いや、家と呼ぶには少しボロい。ボロ過ぎる。小屋と言った方がいいだろう。
「……脱いで」
「え?」
思わず邪な想像をして、俺は固まる。一息して、まだ乾ききっていない、俺の服の事だと気が付いた。
「……着替え」
殆ど感情を面に出さず、アスカがボロ切れの様な衣服を差し出す。
「あ、ありがと……」
何となく気不味い空気の中、俺は着替える為に小屋へ入る。薄い木板の扉越しに、俺は服を脱ぎながら話しかけた。
「あのさ、アスカ。さっきの『仕方ない』ってどういう事?」
「…………」
返事は無い。ただの屍の様だ。……そんな、バカな冗談が頭を過る。
「はぁ……」
これは、そう簡単には話してくれそうに無い。思わず溜息が零れ、俺は訳を聞く事を諦めた。ぐっしょり濡れていた衣服を全て脱ぎ、渡された麻のズボンを履く。上半身は、もう少し汗が引いてから服を着よう。
濡れて重くなった自分の服を持ち、渡された服は肩にかけて扉を開ける。扉の前で待つアスカは目を見開き、慌てて視線を反らした。白い肌が耳まで赤くなっている。
「……着て」
目は反らしたまま、俺の肩口を指さしてアスカは言った。もしかして、男の裸を見るのは初めてか? どうやら、アスカは想像以上に純粋らしい。
「ごめん、ごめん。直ぐに着るから、これ、ちょっと持っててくれる?」
さっきまで着ていた、黒づくめの服をアスカに渡す。恐る恐る手を差し出し、受け取ろうとするアスカ。その瞬間、チラリと見えてしまったのだろう。アスカは俺の体を見て、今度はしっかり見据えながら驚いた。
「そ、それ……!!」
濡れた服を抱えたまま、口元に手を添え、もう片方の手で俺を指差す。その指と視線の先にあるのは、俺の肩。ちょうど右腕の付け根辺り。俺は、その視線に誘導される様に、自らの肩口を覗き込んだ。
「何だこれ?」
今まで気付かなかった、墨で書いた様な紋様。当然、見た事も無い。数本の線だけで描かれた、シンプルな図柄。
梵字?
絵?
何だ、これ。まるで、未完成のタトゥーみたいだ。こんな紋様が俺の体にあるなんて、今まで全く知らなかった。首を傾げる俺を他所に、アスカは驚きで絶句している。
「これ、そんなに驚く様な物なのか?」
余りのアスカの驚き様に、俺が尋ねる。すると、珍しくアスカが感情を顕にし、真剣な眼差しで問い返して来た。
「──あ、貴方……混血なの?」
どう取り繕っても、そうとしか見えない。村を案内するアスカに向かい、俺は意を決して話しかけた。
「……仕方ない」
短く、端的な答え。
本人も自覚はあるのだろう。特に否定もせず、憤りもせず。ただ、少し寂しそうにアスカは答えた。
碧い髪のショートヘアーに、碧い瞳。着ている物こそ地味で質素だが、そこから覗く素肌は雪の様に白い。体型こそ幼さが残る物の、紛れもない美少女。それが今、目の前で寂しそうに呟いた少女……アスカだ。
「仕方ない?」
何気なく、聞き返す。アスカは、黙ったまま小さく頷いた。
彼女は、基本的に無口だ。必要最低限しか話さない。俺は、そんな彼女の事をもっと知りたいと思った。
幾つかの一方通行な会話を終え、俺は、村外れの小屋に案内された。ビアードが用意してくれた俺の家だ。いや、家と呼ぶには少しボロい。ボロ過ぎる。小屋と言った方がいいだろう。
「……脱いで」
「え?」
思わず邪な想像をして、俺は固まる。一息して、まだ乾ききっていない、俺の服の事だと気が付いた。
「……着替え」
殆ど感情を面に出さず、アスカがボロ切れの様な衣服を差し出す。
「あ、ありがと……」
何となく気不味い空気の中、俺は着替える為に小屋へ入る。薄い木板の扉越しに、俺は服を脱ぎながら話しかけた。
「あのさ、アスカ。さっきの『仕方ない』ってどういう事?」
「…………」
返事は無い。ただの屍の様だ。……そんな、バカな冗談が頭を過る。
「はぁ……」
これは、そう簡単には話してくれそうに無い。思わず溜息が零れ、俺は訳を聞く事を諦めた。ぐっしょり濡れていた衣服を全て脱ぎ、渡された麻のズボンを履く。上半身は、もう少し汗が引いてから服を着よう。
濡れて重くなった自分の服を持ち、渡された服は肩にかけて扉を開ける。扉の前で待つアスカは目を見開き、慌てて視線を反らした。白い肌が耳まで赤くなっている。
「……着て」
目は反らしたまま、俺の肩口を指さしてアスカは言った。もしかして、男の裸を見るのは初めてか? どうやら、アスカは想像以上に純粋らしい。
「ごめん、ごめん。直ぐに着るから、これ、ちょっと持っててくれる?」
さっきまで着ていた、黒づくめの服をアスカに渡す。恐る恐る手を差し出し、受け取ろうとするアスカ。その瞬間、チラリと見えてしまったのだろう。アスカは俺の体を見て、今度はしっかり見据えながら驚いた。
「そ、それ……!!」
濡れた服を抱えたまま、口元に手を添え、もう片方の手で俺を指差す。その指と視線の先にあるのは、俺の肩。ちょうど右腕の付け根辺り。俺は、その視線に誘導される様に、自らの肩口を覗き込んだ。
「何だこれ?」
今まで気付かなかった、墨で書いた様な紋様。当然、見た事も無い。数本の線だけで描かれた、シンプルな図柄。
梵字?
絵?
何だ、これ。まるで、未完成のタトゥーみたいだ。こんな紋様が俺の体にあるなんて、今まで全く知らなかった。首を傾げる俺を他所に、アスカは驚きで絶句している。
「これ、そんなに驚く様な物なのか?」
余りのアスカの驚き様に、俺が尋ねる。すると、珍しくアスカが感情を顕にし、真剣な眼差しで問い返して来た。
「──あ、貴方……混血なの?」
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