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しおりを挟む「ほ、本当ですかっ?」
出し抜けにもたらされた情報に、美月は我知らず食いついた。浅く俯いた葵が、顎に指を添えて小首を傾げる。
「でも、もしそうだとすると、その子は俺達よりもちからの強い妖怪だから、人間界には行けないはずなんだけどな……」
「鳥居のこっち側じゃなくて、向こう側にいたんです。それで、なんか黒いもやもやしたものと一緒に姿が見えなくなって、それを追いかけてきて……」
嘘はついていないのだが、いざ言葉にしてみると、なんだか自分でも笑いたくなるほど荒唐無稽に聞こえた。
葵は考え込む。どうやら彼は真面目な性質らしい。
「門を隔てて、お互いの姿が見えたのかな……」
「そもそも俺らは門なんかにゃ近付かねぇから、そのへんのことはよくわかんねーな」
対する紅希は深く思索するタイプではないようだった。彼はごろりを身を横たわらせる。
美月はそんなふたりを見てから僅かに躊躇し、そうして、不思議な少女を追った明確な理由を彼らに話し始めた。ふたりには、すべてを話しておきたいという気持ちになったのだった。
「その女の子が身につけてるものが……気になったんです……」
紅希と葵の視線が、美月に集まる。美月は重ねた。
「私、ふたつ年上の幼馴染みの女の子がいるんです。その子とはすごく仲良くて、お互いの誕生日にはプレゼントを用意したりもして。……前、その子にブローチをプレゼントしたことがあるんです。桜の……ブローチ。それを……そのセーラー服の女の子がつけてて……」
「待て待て、話が見えねーぞ。それでなんで、お前がそいつを追いかけることになるんだよ。たまたま似てるだけのもんかもしれねぇだろ」
起き上がって返した紅希に、美月は首を横に振って答えた。
「その子、一年前から行方不明なんです。一年前の夏……セーラー服のまま――いなくなったんです」
紅希はくちをつぐんだ。葵が目線を逸らし、思慮深そうな声色を出す。
「……なるほど。それで美月ちゃんは、その子と幼馴染みの子のあいだになにか関係があるんじゃないかと思ったんだね」
「……はい」
眉をひそめた紅希が、目をどこにやるともなくやって、小さくひとりごつ。
「一年……か」
彼の性質に似合わず、その語気は弱々しかった。不安に胸を締めつけられ、美月は葵に視線を移す。彼の表情もまた、鎮痛であった。
言葉を探すようにしながら、葵はくちをひらく。
「……仮にその幼馴染みの子が異界に来ていたとして、異界で人間が無事に過ごすには……一年は少し難しい年月だね」
「そんな……!」
まるで、自分が死刑宣告でも受けたふうな心持ちだった。胸のあたりから胃のほうにかけてまで、冷えびえとして重いものが生じた気分すらする。
美月の態度が余程だったのか、紅希は思いの外やわらかい声を出した。慰めようとしてくれているのかもしれなかった。
「まぁ、そのセーラー服女が本当に俺らの知ってるやつだったら、あいつは人間を食うタイプじゃねーし、ひょっとするとまだ幼馴染みが生きてるって可能性もないこたぁねーだろうが……」
紅希は葵に目配せをする。葵が真摯に継いだ。
「……なんとも言えないね……。俺達も、そのセーラー服の子と親しいってほどでもないから……」
ふたりの言葉に偽りはないのだろう。嘘で安心させられるよりかは幾分マシだが、それでもやはり真実の言葉は胸に重かった。大きな期待と同じぶんだけの不安が、体を内側から圧迫する。
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