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第2部
第21話:将来
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レントゲン写真を撮った。結果次第では、退院も決まるらしい。
それなのに、苔ノ橋は浮かない表情を浮かべてしまう。
学校の問題が頭の片隅にあるのだ。
「今日は元気がないね。もしかして何か嫌なことでもあった?」
「逆に春風さんは、いつも元気ですよね。羨ましいです」
「私が何も悩みがない能天気な人間って言いたいのかな?」
「そこまでは言ってませんよ。春風さんを苦労人だと思ってますよ」
「苦労人……ふふん、まぁ~その言葉の響きは悪くないかも!!」
男子高校生に褒められて喜ぶ南海春風。
そんな彼女を本気で尊敬する苔ノ橋は胸を張って。
「男に頼らず、自分一人の力で生きる。正に、現代の女性の鏡ですよ!!」
「……苔ノ橋くん。別に……お姉さんは、彼氏がいないだけだから……そ、その現代女性の鏡と呼ばれる存在じゃないからね……。うううう……ほ、本当に……純粋な男子高校生は怖いよ……」
「謙遜するなんて……やっぱり南海さんは素晴らしい人です!! できた人間です!!」
「や、やめてぇぇぇ~。本当にそれだけは勘弁してぇぇぇぇ~。男子高校生に褒められて調子に乗る二十代後半独身女性になっちゃうからぁ~~~~~~~~~~~~!!」
褒められるのは苦手なようだ。本当はもっと褒めたいことばかりなのだが。
「と、とりあえずだ!! 苔ノ橋くん!! キミは何か悩みがあるんじゃないの?」
顔を真っ赤にして、目をグルグル回した状態で、南海春風は言う。
「僕は悩みなんて……べ、別に」
「シャラップ!! キミが何か隠しているのは知ってるんだぞ、お姉さんは」
「盗み聞きしたんですね」
「違うわ!! アホ!!」
盗み聞きじゃなかったのか。
「なら、どうして……?」
「私を誰だと思ってるんだい?」
「お喋り大好きな看護師さんだと思ってます。僕と翼のことを他の看護師さんにペチャクチャと喋って……他の看護師さんからもチョッカイを出されるんですけど」
「ええと、その件は……ええと、本当の話だけど……」
あはは、と笑みを漏らしながら。
「私はね、キミの看護師だよ。顔色で分かるんだよ。何か今日はおかしいなって」
この病院に来てから、どのくらいの月日が経ったのか。
思い出せる範囲だけでも、もう数ヶ月以上も一緒に生活しているのだ。
顔色でバレてしまうのも無理ないか。
「ほら、とりあえずお姉さんに全て任せなさい。この人生経験豊富な」
言うべきか言わないべきか。
迷ったものの苔ノ橋は相談することにした。
頼りになるか頼りにならないかは分からないけど、身近な大人は彼女しかいないから。
「実は——」
苔ノ橋は自分が置かれている状況を詳しく説明した。
と言えども、通り魔事件などのシリアスなお話は全て内緒だ。
彼が語ったのは、あくまでも学校から留年か退学かを迫られているお話だ。
南海春風は最後まで拙い話を聞き、うんうんと真剣に頷いてくれた。
「あはは……そ、それは辛いよね」
沢山の患者と共に過ごしてきた看護師さんは苦笑いを浮かべて。
「苔ノ橋くんは夢とかないの? 夢! ビックドリーム!」
「……夢ですか??」
以前にも同じ質問をされたことがあったな。
あのときは、東雲翼からだった。
将来の夢は何か、と。
その返答はまだ見つかっていない。
「……僕には夢なんてありません」
「えっ?? 本当? 苔ノ橋くんと同じ頃から、私は夢を持ってたよ!!」
「どんな夢だったんですか?」
「ええ~。恥ずかしいなぁ~」
「参考までに聞かせてくださいよ」
「白馬の王子様と結婚することだよ。その夢が叶うのを今でも待ってるけどね」
予想外すぎる夢に、苔ノ橋は固まってしまう。
ここは笑うべきところなのか、それとも真剣に受け止めるべきなのかと。
更に、その夢が叶うのを今でも待っていると言っているのだ。
「南海さん、僕は応援しますからね!!」
「何だか、今……物凄く励まされた感があるんだけど」
釈然としないのか、肩を落とす南海春風。
「それでキミにはないの? そんな夢が」
「……僕にはありません。夢を持つことなんて許されないと思いますから」
「えっ? 夢を持つことが許されない? どういうこと……?」
「僕のせいで……傷付けてしまった人がいるから……」
苦し紛れに拳を握りしめる苔ノ橋剛。
そんな彼を、はは~んと何か察したような表情で見つめてから。
「知ってるよ、お姉さん。そ~いうのって厨二病って言うんだよね?」
「……厨二病ではないんですけど……」
「まぁまぁ、少しは年寄りの意見も聞きなさい」
これは私の実体験に基づく話なんだけどね、と前置きして。
「私ね、元々自衛官だったんだよねー」
「えっ?」
「ビックリでしょ? だから力には自信があるんだぜ」
南海春風は服を捲って、肉付きのいい白い腕を見せつけた。
生憎なことに、あまり鍛えている感はない。柔らかそうだった。
「海外派遣に行ったんだ。あそこは本当に地獄だったよ」
南海春風は過去を語ってくれた。
高校卒業後、防衛大学の看護科へと進学したらしい。
大学卒業後、五年間弱働いたあと、地元であるここへ戻ってきたらしいが。
「毎日朝から晩まで銃声が鳴り響く日々。もう死ぬかと何度も思ったよ」
普通の人にしか見えない南海春風。
いつも笑顔に満ち溢れているお姉さん。
ただ、そんな彼女にも違う過去があるようだ。
「この世が地獄なんじゃないかと思ったよ。街を歩くだけで、人間の残骸を見たからね。それに瞬き一つした瞬間には、隣を歩いていた人が撃たれることだってあったよ」
高校二年生の苔ノ橋剛は、その話を聞いてもピンとこなかった。
戦場とは程遠い場所に住む男子高校生だから。
彼女の話は、ゲームやアニメの話ではないかと疑ってしまうほどだ。
「仲間を助けるべきか助けないべきか。本当に焦ったものだよ。でも、動いた瞬間、自分も殺される。そう思って……私は彼等を見殺しにしてしまったけどね」
淡々と語る南海春風。
瞳は全く揺らがない。
でも、言葉の節々に募る想いがあるように思える。
心の奥底では、煮えたぎらぬ想いがあるはずなのに。
それにも関わらず、声色を全く変えずに続けて。
「自分は衛生科の人間だから、真っ先に助けに行かなければいけないのにね」
本当に自分は最低な人間だよ。
もしもあの世があるなら、私は地獄行き決定だろうね。
そう呟いてから、南海春風は身の上の話にオチを作った。
「まぁ~その後色々あって……私は退任して現在の生活をしているわけだけど」
だけどさ、これだけは確実に言える。
南海春風の口調はそう呟いてから。
「苔ノ橋くん。キミは、誰かを傷付けたかもしれない」
それでも、と強い口調で言い切ってから。
「キミのおかげで、幸せになった人もいるんじゃないかな?」
「僕のおかげで……幸せになった人?」
「うん。少なくとも、翼ちゃんはその一人だと思うよ」
鳥城彩花を助けられなかった。
自分を助けるために、彼女が犠牲になってくれた。
そんな贖罪の気持ちで、今でも狂いそうになってしまう。
確かに——。
自分のせいで不幸にさせてしまった人もいる。
逆に——。
自分のおかげで救えた人もいるじゃないか。
「人様に偉そうに講釈垂れる人生を歩んだわけじゃないけどさ」
南海春風は強気な瞳のままに。
「正解を選ぶんじゃない。自分が選んだ道を正解にするんだよ」
自分自身に言い聞かせるように。
まるで、自分が行ってきたことを全て正当化するように。
「人生の答えなんて何もないんだよ、最初から。答えは探すものじゃない。自分が選んだ道が、正解だと認める勇気さえあればいいのさ」
自分も同じ過ちを何度も続け、何度も間違えてきた。
だからこそ、今の言葉が出てきた。それぐらい重みのあるものだ。
あ、そうだ。
そう呟き、南海春風は両手を叩いて。
「夢がないならさ、自衛官にでもなってみれば?」
「えっ? 僕がですか?」
「うん、衣食住は無料だし。ガンガン金は稼げるよ」
「ちょっと僕には……肉体系ではないですし」
「肉体系じゃなくても、実際に行けば鍛えられるんだけどねー」
「そうなんですか……? で、でも僕にはなぁー」
自衛官というのはテレビのニュースで聞いたことがある程度。
詳しいことは分からないが、大変そうというイメージしかない。
「まぁまぁ。でも気が向いたら言ってよ。妹に連絡してあげるから」
「妹?」
「うん。私の妹ね、現役の自衛官だからさ」
と、言われましても、行く気はない。
それに——。
(僕には関係ない話だな)
(だって、僕は——)
(復讐を全て終わらせたら)
(——罪を償うために死ぬんだから)
悩める男子高校生——苔ノ橋剛はリハビリを終え、病室へと戻っていた。
部屋に辿り着く前から、とあることに気が付いていた。
騒がしい声が聞こえていたのだ。
どこからだろうと思っていたが、それは自分の病室からであった。
一人部屋なのでうるさいはずがないのに。
それなのに人の喋り声が聞こえてくるのである。
あの忌々しく、汚い声が。
それでも自室へと戻るしかならず、苔ノ橋が足を踏み入れた瞬間——。
パンッ!! と、クラッカーが鳴った。
一回どころではなく、何回もである。
でも、嬉しさはない。むしろ、苛立ってしまう。
クラッカーの先端から煙がモクモクと出る中、取り巻き連中が鬱陶しい声を出した。
「お~い、豚くん。ただいま戻ってまいりましたぁ~」
「それじゃあ、始めましょうか。楽しい楽しい宴を」
「な、何しに来たんだよ? お、お前ら……」
苔ノ橋の嫌な予感は的中した。
病室にいたのは、廃進広大一味と西方リリカである。
苔ノ橋の復讐相手だ。今すぐにでも倒したい敵だ。
そんな奴等がわざわざここまで乗り込んできたのだ。
「何って?」
廃進広大は口元をニヤつかせて、苔ノ橋の質問に答えを出す。
「決まってんだろ、お前の留年祝賀パーティーだよ」
その言葉が放たれたあと、周りの奴等が勢いよく笑い出した。
悪魔みたいな笑い声。人様の不幸を楽しんでいるのだ。嘲笑っているのだ。
誰のせいで、こんな目に遭っていると思っているのだろうか。
誰のせいで、こんな苦しい目に遭っていると思っているのか。
それなのに、苔ノ橋は浮かない表情を浮かべてしまう。
学校の問題が頭の片隅にあるのだ。
「今日は元気がないね。もしかして何か嫌なことでもあった?」
「逆に春風さんは、いつも元気ですよね。羨ましいです」
「私が何も悩みがない能天気な人間って言いたいのかな?」
「そこまでは言ってませんよ。春風さんを苦労人だと思ってますよ」
「苦労人……ふふん、まぁ~その言葉の響きは悪くないかも!!」
男子高校生に褒められて喜ぶ南海春風。
そんな彼女を本気で尊敬する苔ノ橋は胸を張って。
「男に頼らず、自分一人の力で生きる。正に、現代の女性の鏡ですよ!!」
「……苔ノ橋くん。別に……お姉さんは、彼氏がいないだけだから……そ、その現代女性の鏡と呼ばれる存在じゃないからね……。うううう……ほ、本当に……純粋な男子高校生は怖いよ……」
「謙遜するなんて……やっぱり南海さんは素晴らしい人です!! できた人間です!!」
「や、やめてぇぇぇ~。本当にそれだけは勘弁してぇぇぇぇ~。男子高校生に褒められて調子に乗る二十代後半独身女性になっちゃうからぁ~~~~~~~~~~~~!!」
褒められるのは苦手なようだ。本当はもっと褒めたいことばかりなのだが。
「と、とりあえずだ!! 苔ノ橋くん!! キミは何か悩みがあるんじゃないの?」
顔を真っ赤にして、目をグルグル回した状態で、南海春風は言う。
「僕は悩みなんて……べ、別に」
「シャラップ!! キミが何か隠しているのは知ってるんだぞ、お姉さんは」
「盗み聞きしたんですね」
「違うわ!! アホ!!」
盗み聞きじゃなかったのか。
「なら、どうして……?」
「私を誰だと思ってるんだい?」
「お喋り大好きな看護師さんだと思ってます。僕と翼のことを他の看護師さんにペチャクチャと喋って……他の看護師さんからもチョッカイを出されるんですけど」
「ええと、その件は……ええと、本当の話だけど……」
あはは、と笑みを漏らしながら。
「私はね、キミの看護師だよ。顔色で分かるんだよ。何か今日はおかしいなって」
この病院に来てから、どのくらいの月日が経ったのか。
思い出せる範囲だけでも、もう数ヶ月以上も一緒に生活しているのだ。
顔色でバレてしまうのも無理ないか。
「ほら、とりあえずお姉さんに全て任せなさい。この人生経験豊富な」
言うべきか言わないべきか。
迷ったものの苔ノ橋は相談することにした。
頼りになるか頼りにならないかは分からないけど、身近な大人は彼女しかいないから。
「実は——」
苔ノ橋は自分が置かれている状況を詳しく説明した。
と言えども、通り魔事件などのシリアスなお話は全て内緒だ。
彼が語ったのは、あくまでも学校から留年か退学かを迫られているお話だ。
南海春風は最後まで拙い話を聞き、うんうんと真剣に頷いてくれた。
「あはは……そ、それは辛いよね」
沢山の患者と共に過ごしてきた看護師さんは苦笑いを浮かべて。
「苔ノ橋くんは夢とかないの? 夢! ビックドリーム!」
「……夢ですか??」
以前にも同じ質問をされたことがあったな。
あのときは、東雲翼からだった。
将来の夢は何か、と。
その返答はまだ見つかっていない。
「……僕には夢なんてありません」
「えっ?? 本当? 苔ノ橋くんと同じ頃から、私は夢を持ってたよ!!」
「どんな夢だったんですか?」
「ええ~。恥ずかしいなぁ~」
「参考までに聞かせてくださいよ」
「白馬の王子様と結婚することだよ。その夢が叶うのを今でも待ってるけどね」
予想外すぎる夢に、苔ノ橋は固まってしまう。
ここは笑うべきところなのか、それとも真剣に受け止めるべきなのかと。
更に、その夢が叶うのを今でも待っていると言っているのだ。
「南海さん、僕は応援しますからね!!」
「何だか、今……物凄く励まされた感があるんだけど」
釈然としないのか、肩を落とす南海春風。
「それでキミにはないの? そんな夢が」
「……僕にはありません。夢を持つことなんて許されないと思いますから」
「えっ? 夢を持つことが許されない? どういうこと……?」
「僕のせいで……傷付けてしまった人がいるから……」
苦し紛れに拳を握りしめる苔ノ橋剛。
そんな彼を、はは~んと何か察したような表情で見つめてから。
「知ってるよ、お姉さん。そ~いうのって厨二病って言うんだよね?」
「……厨二病ではないんですけど……」
「まぁまぁ、少しは年寄りの意見も聞きなさい」
これは私の実体験に基づく話なんだけどね、と前置きして。
「私ね、元々自衛官だったんだよねー」
「えっ?」
「ビックリでしょ? だから力には自信があるんだぜ」
南海春風は服を捲って、肉付きのいい白い腕を見せつけた。
生憎なことに、あまり鍛えている感はない。柔らかそうだった。
「海外派遣に行ったんだ。あそこは本当に地獄だったよ」
南海春風は過去を語ってくれた。
高校卒業後、防衛大学の看護科へと進学したらしい。
大学卒業後、五年間弱働いたあと、地元であるここへ戻ってきたらしいが。
「毎日朝から晩まで銃声が鳴り響く日々。もう死ぬかと何度も思ったよ」
普通の人にしか見えない南海春風。
いつも笑顔に満ち溢れているお姉さん。
ただ、そんな彼女にも違う過去があるようだ。
「この世が地獄なんじゃないかと思ったよ。街を歩くだけで、人間の残骸を見たからね。それに瞬き一つした瞬間には、隣を歩いていた人が撃たれることだってあったよ」
高校二年生の苔ノ橋剛は、その話を聞いてもピンとこなかった。
戦場とは程遠い場所に住む男子高校生だから。
彼女の話は、ゲームやアニメの話ではないかと疑ってしまうほどだ。
「仲間を助けるべきか助けないべきか。本当に焦ったものだよ。でも、動いた瞬間、自分も殺される。そう思って……私は彼等を見殺しにしてしまったけどね」
淡々と語る南海春風。
瞳は全く揺らがない。
でも、言葉の節々に募る想いがあるように思える。
心の奥底では、煮えたぎらぬ想いがあるはずなのに。
それにも関わらず、声色を全く変えずに続けて。
「自分は衛生科の人間だから、真っ先に助けに行かなければいけないのにね」
本当に自分は最低な人間だよ。
もしもあの世があるなら、私は地獄行き決定だろうね。
そう呟いてから、南海春風は身の上の話にオチを作った。
「まぁ~その後色々あって……私は退任して現在の生活をしているわけだけど」
だけどさ、これだけは確実に言える。
南海春風の口調はそう呟いてから。
「苔ノ橋くん。キミは、誰かを傷付けたかもしれない」
それでも、と強い口調で言い切ってから。
「キミのおかげで、幸せになった人もいるんじゃないかな?」
「僕のおかげで……幸せになった人?」
「うん。少なくとも、翼ちゃんはその一人だと思うよ」
鳥城彩花を助けられなかった。
自分を助けるために、彼女が犠牲になってくれた。
そんな贖罪の気持ちで、今でも狂いそうになってしまう。
確かに——。
自分のせいで不幸にさせてしまった人もいる。
逆に——。
自分のおかげで救えた人もいるじゃないか。
「人様に偉そうに講釈垂れる人生を歩んだわけじゃないけどさ」
南海春風は強気な瞳のままに。
「正解を選ぶんじゃない。自分が選んだ道を正解にするんだよ」
自分自身に言い聞かせるように。
まるで、自分が行ってきたことを全て正当化するように。
「人生の答えなんて何もないんだよ、最初から。答えは探すものじゃない。自分が選んだ道が、正解だと認める勇気さえあればいいのさ」
自分も同じ過ちを何度も続け、何度も間違えてきた。
だからこそ、今の言葉が出てきた。それぐらい重みのあるものだ。
あ、そうだ。
そう呟き、南海春風は両手を叩いて。
「夢がないならさ、自衛官にでもなってみれば?」
「えっ? 僕がですか?」
「うん、衣食住は無料だし。ガンガン金は稼げるよ」
「ちょっと僕には……肉体系ではないですし」
「肉体系じゃなくても、実際に行けば鍛えられるんだけどねー」
「そうなんですか……? で、でも僕にはなぁー」
自衛官というのはテレビのニュースで聞いたことがある程度。
詳しいことは分からないが、大変そうというイメージしかない。
「まぁまぁ。でも気が向いたら言ってよ。妹に連絡してあげるから」
「妹?」
「うん。私の妹ね、現役の自衛官だからさ」
と、言われましても、行く気はない。
それに——。
(僕には関係ない話だな)
(だって、僕は——)
(復讐を全て終わらせたら)
(——罪を償うために死ぬんだから)
悩める男子高校生——苔ノ橋剛はリハビリを終え、病室へと戻っていた。
部屋に辿り着く前から、とあることに気が付いていた。
騒がしい声が聞こえていたのだ。
どこからだろうと思っていたが、それは自分の病室からであった。
一人部屋なのでうるさいはずがないのに。
それなのに人の喋り声が聞こえてくるのである。
あの忌々しく、汚い声が。
それでも自室へと戻るしかならず、苔ノ橋が足を踏み入れた瞬間——。
パンッ!! と、クラッカーが鳴った。
一回どころではなく、何回もである。
でも、嬉しさはない。むしろ、苛立ってしまう。
クラッカーの先端から煙がモクモクと出る中、取り巻き連中が鬱陶しい声を出した。
「お~い、豚くん。ただいま戻ってまいりましたぁ~」
「それじゃあ、始めましょうか。楽しい楽しい宴を」
「な、何しに来たんだよ? お、お前ら……」
苔ノ橋の嫌な予感は的中した。
病室にいたのは、廃進広大一味と西方リリカである。
苔ノ橋の復讐相手だ。今すぐにでも倒したい敵だ。
そんな奴等がわざわざここまで乗り込んできたのだ。
「何って?」
廃進広大は口元をニヤつかせて、苔ノ橋の質問に答えを出す。
「決まってんだろ、お前の留年祝賀パーティーだよ」
その言葉が放たれたあと、周りの奴等が勢いよく笑い出した。
悪魔みたいな笑い声。人様の不幸を楽しんでいるのだ。嘲笑っているのだ。
誰のせいで、こんな目に遭っていると思っているのだろうか。
誰のせいで、こんな苦しい目に遭っていると思っているのか。
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