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第5話 可愛いは正義、詐欺は敵
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昨夜は、夜通しLINEしていた。
林静が自国・台湾の観光スポットや、自分の趣味を次々と教えてくれた。
『私の趣味は、アニメ、映画、読書、キャンプ、テニス、グルメ、旅行なんです~』
どんだけリア充なんだよ。
やめてくれ。
家と職場を往復してるだけの、無趣味なおじさんには眩しすぎる。
俺は自分のことはまだ多くは語らなかった。
もちろん、相手が詐欺師だとわかっていたからだ。
──それでも。
林静の返信を楽しんでいた。
そして同時に、スマホ片手に“台湾の文化”“台湾女性のLINEの傾向”などを検索している自分がいた。
気づけば、夜が明けていた。
朝8時15分。
林静から、目玉焼きを焼いている5秒ほどの動画が届いた。
『今日の朝食を作っていますよ~』
オレは昨夜、調べていた。
台湾は外食文化が主流。
部屋を借りてもキッチンがない物件が多く、自炊をしない人も珍しくない。
──なのに、キッチンで朝食を作る“台湾美女”が、今、俺のLINEに存在している。
……本当に台湾人なのか?
まあ、どうせ俺に合わせて“いい女”を演じているだけだ。
もう騙されんぞ。
そう思って、返信した。
「わー美味しそう!モグモグ。うわっ美味しい!林静さん料理が上手ですねー!」
くそっ!
ダメだ。現実が、妄想に勝てなくなってきた。
『ありがとう~。あなたは今日もお仕事頑張りますね。ちょっと大変そうですね。今日も頑張りますか?』
可愛い……
やめてくれ。
これ以上、俺を沼らせないでくれ。
言葉にするのも恐ろしい。
でも、確実に今――
“騙されている”のではなく、“癒されている”自分がいる。
違った意味で、俺は身の危険を感じ始めていた。
詐欺被害ではない。
現実に戻れなくなる恐怖。
いや、もう戻れなくなりつつある恐怖。
俺は、自分では自制心の強い方だと思っている。
これまでも、何かにハマりそうになったときには、ちゃんとブレーキをかけてこれた。
けど、今回は違った。
悲しいくらい――心が揺れていた。
そろそろ終わらせねば。
これ以上は、危険だ。
自分でもわかっている。
だから――
震える指で、覚悟を決めて文字を打った。
「林静さんは、私を投資に誘いますか?」
送信。
……指の爪がスマホのガラス面をカタカタと鳴らしていた。
そして、すぐに返ってきた。
『なぜあなたを投資に誘ったのですか?』
……は?
何を言っているのか、わからなかった。
そして続けざまに、謎の文章が届く。
『私もこのようなDMをたくさん見てきました。で、私はマスクを選びました。Xを使うのは仕事や旅行でなければ、とっくにやめていました。
あなたとは最初に旅行で出会ったんですよね?』
……どこの世界線の話だ。
文法も論理も、まるで霧の中にいるようだった。
さらに続く。
『私が退屈な時、私はXでニュースと日本の旅行情報を見て、Xは私にいくつかのXアカウントを推薦しました。
あなたもその一人です。
そして、Xは、あなたと私が同じニュースとXユーザーをフォローしていることを私に伝えます。
好奇心からフォローしてメッセージを送りましたが、返信が来るとは思っていませんでした、ハハ』
……俺は、スマホを見つめたまま固まった。
内容がふわふわしているのに、やけに“人間味”がある。
確かに、詐欺師の返信テンプレではないように見える。
でも、“変な日本語を使えば無害感が出る”と学習された詐欺師の戦略かもしれない。
なぜだろう。
どこかで「この人、もしかして本当に寂しいのではないか」って思ってしまった。
もはやこれは、俺の心が弱っている証拠なのかもしれない。
それでも、送ってしまった一通のメッセージが、今さら引き返せない会話の続行ボタンになっていた。
林静が自国・台湾の観光スポットや、自分の趣味を次々と教えてくれた。
『私の趣味は、アニメ、映画、読書、キャンプ、テニス、グルメ、旅行なんです~』
どんだけリア充なんだよ。
やめてくれ。
家と職場を往復してるだけの、無趣味なおじさんには眩しすぎる。
俺は自分のことはまだ多くは語らなかった。
もちろん、相手が詐欺師だとわかっていたからだ。
──それでも。
林静の返信を楽しんでいた。
そして同時に、スマホ片手に“台湾の文化”“台湾女性のLINEの傾向”などを検索している自分がいた。
気づけば、夜が明けていた。
朝8時15分。
林静から、目玉焼きを焼いている5秒ほどの動画が届いた。
『今日の朝食を作っていますよ~』
オレは昨夜、調べていた。
台湾は外食文化が主流。
部屋を借りてもキッチンがない物件が多く、自炊をしない人も珍しくない。
──なのに、キッチンで朝食を作る“台湾美女”が、今、俺のLINEに存在している。
……本当に台湾人なのか?
まあ、どうせ俺に合わせて“いい女”を演じているだけだ。
もう騙されんぞ。
そう思って、返信した。
「わー美味しそう!モグモグ。うわっ美味しい!林静さん料理が上手ですねー!」
くそっ!
ダメだ。現実が、妄想に勝てなくなってきた。
『ありがとう~。あなたは今日もお仕事頑張りますね。ちょっと大変そうですね。今日も頑張りますか?』
可愛い……
やめてくれ。
これ以上、俺を沼らせないでくれ。
言葉にするのも恐ろしい。
でも、確実に今――
“騙されている”のではなく、“癒されている”自分がいる。
違った意味で、俺は身の危険を感じ始めていた。
詐欺被害ではない。
現実に戻れなくなる恐怖。
いや、もう戻れなくなりつつある恐怖。
俺は、自分では自制心の強い方だと思っている。
これまでも、何かにハマりそうになったときには、ちゃんとブレーキをかけてこれた。
けど、今回は違った。
悲しいくらい――心が揺れていた。
そろそろ終わらせねば。
これ以上は、危険だ。
自分でもわかっている。
だから――
震える指で、覚悟を決めて文字を打った。
「林静さんは、私を投資に誘いますか?」
送信。
……指の爪がスマホのガラス面をカタカタと鳴らしていた。
そして、すぐに返ってきた。
『なぜあなたを投資に誘ったのですか?』
……は?
何を言っているのか、わからなかった。
そして続けざまに、謎の文章が届く。
『私もこのようなDMをたくさん見てきました。で、私はマスクを選びました。Xを使うのは仕事や旅行でなければ、とっくにやめていました。
あなたとは最初に旅行で出会ったんですよね?』
……どこの世界線の話だ。
文法も論理も、まるで霧の中にいるようだった。
さらに続く。
『私が退屈な時、私はXでニュースと日本の旅行情報を見て、Xは私にいくつかのXアカウントを推薦しました。
あなたもその一人です。
そして、Xは、あなたと私が同じニュースとXユーザーをフォローしていることを私に伝えます。
好奇心からフォローしてメッセージを送りましたが、返信が来るとは思っていませんでした、ハハ』
……俺は、スマホを見つめたまま固まった。
内容がふわふわしているのに、やけに“人間味”がある。
確かに、詐欺師の返信テンプレではないように見える。
でも、“変な日本語を使えば無害感が出る”と学習された詐欺師の戦略かもしれない。
なぜだろう。
どこかで「この人、もしかして本当に寂しいのではないか」って思ってしまった。
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