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序 ブラック企業奴隷、異世界転生で奴隷になる
Conquesta in the Rebellion
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戦闘態勢に入ったヒナギシばぁさんは患者衣服を着る8人を2列横隊で並ばせていた。手を後ろに回し、伸びる背筋。さも軍隊の教官だった。これが休めと言われる体勢なんだな。
威風堂々なヒナギシを見る彼らは新進気鋭で、8人の軍隊も微動だにしていない。そんな彼らを、僕と小柄なハーフキャットは遠目から恐る恐る見ているだけだった。
「おいばぁさん。俺らはどうしたら____」
「何もせんでよろしいッ!!!」
「うるっさ...」
急激な変換点に戸惑いが凄いが、ばぁさんには考えがあった。
「マサヨシの身体には今新しいスキルが馴染もうと頑張ってる所じゃ。あまり乱暴に動かすな。ひとまずそこなハーフキャットと一緒におれ。」
「ハーフキャットねぇ」
能力による順応待ちなのはそれっぽいので理解出来るが、この左腕に組み付いて離れないネコミミ少女はなんとも呑気に喉を鳴らしている。
「そヤツはまだ子供なのでな。リベリオンに参加させぬ手筈だったのじゃ。スマンがお守りを頼む。」
「...はいはい。好きにしてくれ。」
「マサヨシ、スキ二、シテイイ?」
「お前に言ったんじゃねーよ。」
なんとも愛らしい。確かにこの感じなら買ってもいいかもしれないが、「人型を買う」という理念が少しだけ度し難い。
僕の葛藤を知ってか知らずか、ヒナギシばぁさんの教官ぶりに拍車がかかる。
「カズ!お前の力で獲物を出せ。」
「あいよ!」
列中の真ん中最前列にいるスキンヘッドの中年は、ヒナギシの声に返事をして手を体の前で組んだ。
「我が想像するは剣と盾、そして槍。ソードクリエイター!!」
呪文に呼応して、スキンヘッドの周りに剣と盾、槍が生えてきた。
「さぁ武器をもて兵ども、奴らに一矢報いようぞ。」
僕とハーフキャットは2人だけで部屋を出て、通路をペタペタと歩いていく。大股な足音の隙間を縫って、小刻みで軽い音がしている。
「なぁハーフキャット。」
「ナニ」
言うのか。僕が一番難しいとしている信頼を、彼女にしてみるのか。
「も、もしさ。ここを出られたらとするだろ。ハーフキャットは何がしたい?」
「...」
何を聞いているんだろうかと自分でも思う。下心とも取れる疑問を受けて黙ってしまうネコミミ少女は、少し間を空けて答えてくれた。
「マサヨシ、ツイテ、イク。」
グッと胸が締め付けられる。
「マサヨシ、タベモノ、クレタ。オンヲ、カエス。」
餌付けの印象は拭えないんだね。鳩と一緒じゃないか。
「そらあんなにいい食いっぷりならあげるさ。」
「アト、オネガイ、キイテ。」
「おお。なんだね。」
「ココヲ、デタラ、ナマエ、ホシイ」
この子は名前が無かったのかと驚かない。ヒナギシ達が名前を呼ばない時点で、薄々だがそんな気はしていた。
「チチ、ハハ、スグシンダ。ワタシニ、ナマエ、ツケルマエニ、シンダ。マサヨシ、ツケテ。」
奴隷の子供として生まれ、誰の愛情も受けずに育ったハーフキャット。不遇と悪辣さの中にいる彼女はきっと、孤独を孤独と思う事も出来なかっただろう。
俺に求めいるのは親がかけるような愛情なんだろうなと考えると、目の前の小さな生き物が愛らしく感じる。
「わかったよ。」
「ナ、ナニ?ナニシテル」
だから俺はそれに応えよう。そう思って彼女のちいさな頭を撫で付けた。最初は嫌がっていた彼女も緊張も解け、それを受け入れた。
「そうだ...お前の名前は_____」
「お前らそこで何している!!!」
声が割って入る。前方にいたのは白い防護服を着た誰かがボウガンを持ってこちらに向かっていた。プリズンシックスティーンが誇る戦闘員、通称プリズム憲兵だ。名前ダサ。
「アラームが鳴ったと思えば、最弱rankEとCじゃないか。悪いが」
憲兵はボウガンを構えて、やじりをこちらに向けている。
「めんどうくさいので死んでもらう。」
こちらの反応も見ることは無く、憲兵は矢を放った。直線コースを辿る矢は無感情にハーフキャットへと突き進む。
矢はハーフキャットの頭蓋骨を貫いて脳みそを寸断する、筈だった。
「憲兵。ウチの子に手を出したね。」
僕たちの前に、急に槍を持った美女が現れた。ハーフキャットの頭に突き刺さる筈だった矢を掴み取りして、その場に放り投げる。
頬に少しだけ鱗が残る長身のブロンド美人。彼女は俺たちと同じ治験患者として連れられた奴隷獣人ミレーヌ。転生者に仕込まれた槍術を初めとする中華拳法とベビのしなやかさを武器にしている。
「クソが、人間様を舐めるんじゃ___」
「遅いのよ猿。」
ミレーヌはしなやかにかつ素早く、憲兵の背後に回っていた。いや、通り過ぎたのだ。 時差を経て憲兵の白い防護服からは夥しい血と臓物が床に吹き出る。
「___どうせ、にげ、らんねぇ」
「私はいいのよ。他が逃げられたなら。」
「逃げられたらいいなぁ!!!」
今度は彼女前に槍を持った憲兵が列挙して現れる。こんな一方通行な場所を津波のように押し寄せてきた。
数を数える事が煩わしくなるくらいの人数。音がブーツの床を蹴る音だけで埋まる。この狭い空間は彼等の範囲では無い。ミレーヌが支配していることも知らず。
「リーチ差はなし。人数差を入れたら劣勢なのに、負ける気がしないわね。」
ミレーヌは裸足というアドバンテージを生かす。体勢を低く取り、足に力を溜めて、解放。
裸足に加えて蛇のようなしなやかさが産むスタートダッシュは、殆ど床に接地するような低さだ。
まるでトカゲのような体勢を取った彼女は、空気を切るような速さで走り出し、敵の足元をあっという間に通り抜けていった。
「速っ___」
今際の際で放つ呟きすら言い切る事は出来ない。床に散らばる人間の部品。足や腕、頭、大腸。目を覆いたくなるような赤色が白い床を染め上げる。
1分も経っていない。瞬く間の出来事すぎて、まるでゲームでも見ているようなそんな気さえする。
痛みを感じただろうか。死んだことを自覚しているのだろうか。彼らは血の池に積まれた死体の山に組み込まれ、今や話すことは無い。
「簡単だったわね。」
山の頂きには血に濡れた蛇女が立っている。照明に照らされた彼女はまるで、女神のように美しかった。だが反面赤色に濡れた手が物語るのは、どうしようもないほどに暴力的だと言うことだった。
「マサヨシくん?どうしたの?」
「あ、いや。」
綺麗だと思った。本当だ。でも怖いが勝ったのだ。どうしようもないほど暴力に慣れた彼女自身が怖かったのだ。
「___ふぅん。あんまり見惚れ過ぎるとハーフが怒るわよ?」
「はぁ?!そんなわ____」
「...」
「___ごめん。」
ハーフキャットの無言の圧力にも負けた。もしかしたらこの世界は女性優位なのかもと愚考する。
「さっ。いきましょ。先行班のヒナギシ隊が待ってるわ。」
「そういえばそうだった...でも大丈夫なのか?あのばぁさん死なないだけなんだろ?」
「大丈夫でしょ。」
あっけらかんと答えるミレーヌの言葉に、自惚れを感じない。本当に大丈夫だと思っているのだろう。
「あの人の現役時代のあだ名知ってる?」
「知らないよ。転生してからココしか知らないんだから。」
「それはそうね...あの人はね___」
僕たちは別働隊とし、先行班であり主力であるヒナギシばぁさん率いる8人の混成部隊は、モグラ獣人と転生者によって作っていた穴から攻撃開始地点まで一気がけをしていた。
だから俺たちが着く頃にはもう既に地獄が出来上がっていた。
「なんだ、これは______」
どこを見ても血、死体。元々かなり広い場所であろうここは、前の状態を想像出来ない程に変わり果てていた。
白かった壁は所々に剥げ落ちて、中身の土や骨組みが露出している。死体の山には炎が纏っていて、肉が焼ける嫌な匂いが漂っている。
死と暴力と断末魔が支配する地獄が顕現していた。
「マサヨシ、ワタシ、コワイ。」
「大丈夫だ。ほら。手を繋いで歩こう。」
「ウン。」
小さくて暖かい手を握ると、弱々しい力で握り返してきた。
「いゃー壮観ね。やっぱりコンクエスタの名は伊達じゃないわ。」
ヒナギシばぁさんは不死のスキルを使った戦法を得意としている。どれだけ銃口を向けようが、燃やそうが、死ぬことはなく、進む道足取りは止まることを知らない。そんな彼女の名前は【コンクエスタ】。征服者と言う意味だ。
「これがあのばぁさん達が...」
「そうよ。みんなここから逃げたくて仕方なかったの。だからちゃんとした下準備をしていたって訳。」
高く積み上がる死体達。全てを焼き払う業火。見違える程に破壊し尽くされた内装。進む程に死臭が噎せ返る戦場に変わった。それも全てあのヒナギシばぁさんによるお膳立てあってこそ。
人は見かけによらないんだなぁと、自分を無理やり納得させた。
「あれは____」
何かが見えたのか、ミレーヌが反応する。すると今度は汗をかきはじめた。
「マサヨシちゃん。ゴメンだけど先に行くわね。」
「お、おう!スグ追いつく!」
「よろしくね。」
ミレーヌは無理やり作った笑顔と共に、猛スピードで走り去っていった。
「よし、俺達も行くか。ほら、走るぞ。」
「ウン。ハシル。」
小さなあんよをバタつかせ。俺たち2人は後をおった。
剛腕無双とはこの事だ。。
太い腕には刃が通らなかった。やわそうな所は全て試し尽くし、刀が折れるまで振り続けた。
魔法も試した。だがコイツには何も効かない
。
人の域を超えた大きな身体と、まるで古の大木のように太い腕が振り抜けば、単なる奴隷風情ではどうにもならない。
「ヒナギシ!!!後はたの____」
小さな体のモグラ獣人はヒナギシばぁさんの前で砕け散った。
振り抜かれた剛腕に直接ぶつかったモグラ獣人は肉片に変わり、風圧で至る所に吹き飛び散らばった。
「モグラの!!______こんのクソ野郎がぁ!!!!」
転生者である男は全身を炎に変えた。燃える体はさらに勢いを上げて、辺りの闇を散らす。
「炎柱!!」
炎の柱となった転生者は名も知れぬ怪物に向かっていく。見上げるほどの巨体の彼から見れば、なんのことはない。怪物は炎を掌で受け止めて、まるで小バエでも叩くように転生者潰した。
「エンブ!おいおいどうすんだよばあちゃん!」
「こ、こんな筈じゃなかったんじゃよ...」
割れてめくれ上がった床と共に掌がゆっくり持ち上がる。張り付いて伸びる臓物と肌が、転生者の死を知らせてる。
ヒナギシを残し、先行班は全滅した。
威風堂々なヒナギシを見る彼らは新進気鋭で、8人の軍隊も微動だにしていない。そんな彼らを、僕と小柄なハーフキャットは遠目から恐る恐る見ているだけだった。
「おいばぁさん。俺らはどうしたら____」
「何もせんでよろしいッ!!!」
「うるっさ...」
急激な変換点に戸惑いが凄いが、ばぁさんには考えがあった。
「マサヨシの身体には今新しいスキルが馴染もうと頑張ってる所じゃ。あまり乱暴に動かすな。ひとまずそこなハーフキャットと一緒におれ。」
「ハーフキャットねぇ」
能力による順応待ちなのはそれっぽいので理解出来るが、この左腕に組み付いて離れないネコミミ少女はなんとも呑気に喉を鳴らしている。
「そヤツはまだ子供なのでな。リベリオンに参加させぬ手筈だったのじゃ。スマンがお守りを頼む。」
「...はいはい。好きにしてくれ。」
「マサヨシ、スキ二、シテイイ?」
「お前に言ったんじゃねーよ。」
なんとも愛らしい。確かにこの感じなら買ってもいいかもしれないが、「人型を買う」という理念が少しだけ度し難い。
僕の葛藤を知ってか知らずか、ヒナギシばぁさんの教官ぶりに拍車がかかる。
「カズ!お前の力で獲物を出せ。」
「あいよ!」
列中の真ん中最前列にいるスキンヘッドの中年は、ヒナギシの声に返事をして手を体の前で組んだ。
「我が想像するは剣と盾、そして槍。ソードクリエイター!!」
呪文に呼応して、スキンヘッドの周りに剣と盾、槍が生えてきた。
「さぁ武器をもて兵ども、奴らに一矢報いようぞ。」
僕とハーフキャットは2人だけで部屋を出て、通路をペタペタと歩いていく。大股な足音の隙間を縫って、小刻みで軽い音がしている。
「なぁハーフキャット。」
「ナニ」
言うのか。僕が一番難しいとしている信頼を、彼女にしてみるのか。
「も、もしさ。ここを出られたらとするだろ。ハーフキャットは何がしたい?」
「...」
何を聞いているんだろうかと自分でも思う。下心とも取れる疑問を受けて黙ってしまうネコミミ少女は、少し間を空けて答えてくれた。
「マサヨシ、ツイテ、イク。」
グッと胸が締め付けられる。
「マサヨシ、タベモノ、クレタ。オンヲ、カエス。」
餌付けの印象は拭えないんだね。鳩と一緒じゃないか。
「そらあんなにいい食いっぷりならあげるさ。」
「アト、オネガイ、キイテ。」
「おお。なんだね。」
「ココヲ、デタラ、ナマエ、ホシイ」
この子は名前が無かったのかと驚かない。ヒナギシ達が名前を呼ばない時点で、薄々だがそんな気はしていた。
「チチ、ハハ、スグシンダ。ワタシニ、ナマエ、ツケルマエニ、シンダ。マサヨシ、ツケテ。」
奴隷の子供として生まれ、誰の愛情も受けずに育ったハーフキャット。不遇と悪辣さの中にいる彼女はきっと、孤独を孤独と思う事も出来なかっただろう。
俺に求めいるのは親がかけるような愛情なんだろうなと考えると、目の前の小さな生き物が愛らしく感じる。
「わかったよ。」
「ナ、ナニ?ナニシテル」
だから俺はそれに応えよう。そう思って彼女のちいさな頭を撫で付けた。最初は嫌がっていた彼女も緊張も解け、それを受け入れた。
「そうだ...お前の名前は_____」
「お前らそこで何している!!!」
声が割って入る。前方にいたのは白い防護服を着た誰かがボウガンを持ってこちらに向かっていた。プリズンシックスティーンが誇る戦闘員、通称プリズム憲兵だ。名前ダサ。
「アラームが鳴ったと思えば、最弱rankEとCじゃないか。悪いが」
憲兵はボウガンを構えて、やじりをこちらに向けている。
「めんどうくさいので死んでもらう。」
こちらの反応も見ることは無く、憲兵は矢を放った。直線コースを辿る矢は無感情にハーフキャットへと突き進む。
矢はハーフキャットの頭蓋骨を貫いて脳みそを寸断する、筈だった。
「憲兵。ウチの子に手を出したね。」
僕たちの前に、急に槍を持った美女が現れた。ハーフキャットの頭に突き刺さる筈だった矢を掴み取りして、その場に放り投げる。
頬に少しだけ鱗が残る長身のブロンド美人。彼女は俺たちと同じ治験患者として連れられた奴隷獣人ミレーヌ。転生者に仕込まれた槍術を初めとする中華拳法とベビのしなやかさを武器にしている。
「クソが、人間様を舐めるんじゃ___」
「遅いのよ猿。」
ミレーヌはしなやかにかつ素早く、憲兵の背後に回っていた。いや、通り過ぎたのだ。 時差を経て憲兵の白い防護服からは夥しい血と臓物が床に吹き出る。
「___どうせ、にげ、らんねぇ」
「私はいいのよ。他が逃げられたなら。」
「逃げられたらいいなぁ!!!」
今度は彼女前に槍を持った憲兵が列挙して現れる。こんな一方通行な場所を津波のように押し寄せてきた。
数を数える事が煩わしくなるくらいの人数。音がブーツの床を蹴る音だけで埋まる。この狭い空間は彼等の範囲では無い。ミレーヌが支配していることも知らず。
「リーチ差はなし。人数差を入れたら劣勢なのに、負ける気がしないわね。」
ミレーヌは裸足というアドバンテージを生かす。体勢を低く取り、足に力を溜めて、解放。
裸足に加えて蛇のようなしなやかさが産むスタートダッシュは、殆ど床に接地するような低さだ。
まるでトカゲのような体勢を取った彼女は、空気を切るような速さで走り出し、敵の足元をあっという間に通り抜けていった。
「速っ___」
今際の際で放つ呟きすら言い切る事は出来ない。床に散らばる人間の部品。足や腕、頭、大腸。目を覆いたくなるような赤色が白い床を染め上げる。
1分も経っていない。瞬く間の出来事すぎて、まるでゲームでも見ているようなそんな気さえする。
痛みを感じただろうか。死んだことを自覚しているのだろうか。彼らは血の池に積まれた死体の山に組み込まれ、今や話すことは無い。
「簡単だったわね。」
山の頂きには血に濡れた蛇女が立っている。照明に照らされた彼女はまるで、女神のように美しかった。だが反面赤色に濡れた手が物語るのは、どうしようもないほどに暴力的だと言うことだった。
「マサヨシくん?どうしたの?」
「あ、いや。」
綺麗だと思った。本当だ。でも怖いが勝ったのだ。どうしようもないほど暴力に慣れた彼女自身が怖かったのだ。
「___ふぅん。あんまり見惚れ過ぎるとハーフが怒るわよ?」
「はぁ?!そんなわ____」
「...」
「___ごめん。」
ハーフキャットの無言の圧力にも負けた。もしかしたらこの世界は女性優位なのかもと愚考する。
「さっ。いきましょ。先行班のヒナギシ隊が待ってるわ。」
「そういえばそうだった...でも大丈夫なのか?あのばぁさん死なないだけなんだろ?」
「大丈夫でしょ。」
あっけらかんと答えるミレーヌの言葉に、自惚れを感じない。本当に大丈夫だと思っているのだろう。
「あの人の現役時代のあだ名知ってる?」
「知らないよ。転生してからココしか知らないんだから。」
「それはそうね...あの人はね___」
僕たちは別働隊とし、先行班であり主力であるヒナギシばぁさん率いる8人の混成部隊は、モグラ獣人と転生者によって作っていた穴から攻撃開始地点まで一気がけをしていた。
だから俺たちが着く頃にはもう既に地獄が出来上がっていた。
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どこを見ても血、死体。元々かなり広い場所であろうここは、前の状態を想像出来ない程に変わり果てていた。
白かった壁は所々に剥げ落ちて、中身の土や骨組みが露出している。死体の山には炎が纏っていて、肉が焼ける嫌な匂いが漂っている。
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「大丈夫だ。ほら。手を繋いで歩こう。」
「ウン。」
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ヒナギシばぁさんは不死のスキルを使った戦法を得意としている。どれだけ銃口を向けようが、燃やそうが、死ぬことはなく、進む道足取りは止まることを知らない。そんな彼女の名前は【コンクエスタ】。征服者と言う意味だ。
「これがあのばぁさん達が...」
「そうよ。みんなここから逃げたくて仕方なかったの。だからちゃんとした下準備をしていたって訳。」
高く積み上がる死体達。全てを焼き払う業火。見違える程に破壊し尽くされた内装。進む程に死臭が噎せ返る戦場に変わった。それも全てあのヒナギシばぁさんによるお膳立てあってこそ。
人は見かけによらないんだなぁと、自分を無理やり納得させた。
「あれは____」
何かが見えたのか、ミレーヌが反応する。すると今度は汗をかきはじめた。
「マサヨシちゃん。ゴメンだけど先に行くわね。」
「お、おう!スグ追いつく!」
「よろしくね。」
ミレーヌは無理やり作った笑顔と共に、猛スピードで走り去っていった。
「よし、俺達も行くか。ほら、走るぞ。」
「ウン。ハシル。」
小さなあんよをバタつかせ。俺たち2人は後をおった。
剛腕無双とはこの事だ。。
太い腕には刃が通らなかった。やわそうな所は全て試し尽くし、刀が折れるまで振り続けた。
魔法も試した。だがコイツには何も効かない
。
人の域を超えた大きな身体と、まるで古の大木のように太い腕が振り抜けば、単なる奴隷風情ではどうにもならない。
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振り抜かれた剛腕に直接ぶつかったモグラ獣人は肉片に変わり、風圧で至る所に吹き飛び散らばった。
「モグラの!!______こんのクソ野郎がぁ!!!!」
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「こ、こんな筈じゃなかったんじゃよ...」
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