ブラック企業奴隷の俺は異世界転生して奴隷を解放してみた

佐藤さん

文字の大きさ
13 / 46
1 企業勤めを目指そう!(アットホームな職場)

ブルジョワ陥落作戦 1

しおりを挟む
    夜の街を歩く。煌びやかで艶っぽい服を着飾る女達は、小汚い太デブから筋骨隆々な戦士まで色んな男の腕に組み付き、宿や酒場の中に入っては消えていく。  


    この街の名前はブルジョワ。どんな街よりも根深く、そして欲望が潰えぬ風俗街だ。







「それではお楽しみ下さぁ~い♪」

    マサヨシを案内したスーツ姿の男は薄暗くも暖色の明かりの下で、カーテンに指を掛ける。そしてそれを一気に開いた。姿を現したのは、服を着ておらず、まだ年端もいかない少年が虚ろな目で立っていた。

「マックスくんでぇ~す♪」

    肌を見ると決して健康体とは言えない弱々しさがあった。
乾燥しきった肌に潤いはなく、生傷が不完全に塞がったような痕、その上窶れ痩せ細り、骨ばった身体に痛ましさがある。こんな状態の少年に欲情するゲスがいると考えるだけで腹立たしい。
 
「ありがとう。」
「いえいえ、それではぁ~ごゆっ____」

   マサヨシはスーツの男の額を中指で触れた。その瞬間にスーツの男は姿を消した。まるで消しゴムで消されたように、跡形もなくなっている。
    無言の空間になっていても少年は虚ろなまま立っている。普通なら怯えるなり、怖がるなりするものだろうが、彼には目の前の光景すら見えていないようだった。

「クスリか。チッ______」

    この世界でも麻薬は犯罪だが、刑罰としては重くはない。見つかった所で金さえ払えばどうとでもなる。だから客層に厚みがある風俗店は、従順な肉壺を作るために平気でクスリを使うのだ。

    モノからの事前情報でクスリの常飲化しているかもとは聞いていたが、実際対面してしまったマサヨシは戸惑ったが覚悟を決める。

「よしよしよし!やるぞ!練習したし!絶対やり切るぞ!!____ ごめんなマックスくん...」

    マサヨシは右の掌を、立ったままのマックスの痩せた腹に当てる。

「____内容物は神経毒をベースにした[ヴェノム]だったっけ。...血中をイメージするんだ...血中を」

    血管の中に赤い血が流れているが、時折異物が点在しているのをイメージする。その異物が溶け混み、血が淀んで黒みを付け、それらが体中を汚染している。
体の現状を細部までイメージし、逆算し、元の状態を的確に描く。

「いける_____転移技法[毒抜き]」

    言葉の後で背後から液体が落ちる音がした。振り向くと、清潔とは言い難い木製の廊下に、湯気が立つ透明な液体が広がっていた。これは毒だけが転移に成功した事を示している。
    上手くいったのだ。悦びが喉を駆け上がって抜けていく。

「よっしゃ成功!大丈夫かマッ___」

   マックスは元気になるどころか、息を荒げていた。そしてついには膝を折って倒れてしまった。血中濃度が変わった事による中毒症状だ。毒は抜けばいいという訳では無い。順応してしまい性質の変わった血液を少しづつ元に戻さないといけない。

「おい!大丈夫か?!」
「____ あなたは?」

    か細い声だけだ。彼がまだ死んでいないことを表しているのは。他に助ける手段もなく、浅い呼吸のサイクルすら消えていきそうで、どうしようもなく助からないと言う事だけが明らかだった。
  マサヨシはマックスの軽い頭を腕で抱え、優しく撫でながら話しかけ続けた。

「ごめんな。苦しいよな。」
「...大丈夫...それより、もし...もし助けて...くれるなら...仲間達を」
「わかった。わかったからもう休め...」
「優しい人... ロイドみたい」

  こんな時に居場所を知りたいひと名前が出た。

「ロイドを知ってるのか。」 
「うん...アイツも...お兄さんみたいに優しい奴で...」
「どこにいるか、話せるか。」
「ごめんね。なんの...恩も...」

    どうやら駄目なようだった。マサヨシは死ぬ瞬間を看取ろうと、手を握って孤独感を消そうと試みる。

 「バルタに...負けないで...」 

    それが今際の際で放つ願いだった。彼は最期まで仲間を思い、この世界から解放されてしまった。苦しみあがく余裕すらなく、思い半ばで死んだのだ。

















 


    紫煙が薄暗い部屋を漂う狭い小屋の中で、ドックと呼ばれるジャンキーがタバコを吸っていた。
    彼はこの街で情報屋を営んでおり、客人や街の人間からはハーフジョブのドックと呼ばれている。理由についてはどの勢力にも属さないからだ。

「またお前かよ、八木元拓也。」
「情報が欲しい。」
「ケッ!忙しい奴だな。つい1時間半前も同じこと言いやがってたぜ。」

    ドックは毛むくじゃらで無造作に伸びたくせっ毛を掻きながら、片手間で書類を引き出す。

「んで?カナリアの店はどうしたんだ。」
「全員消した。」 

     冗談ではない。八木元拓也ことマサヨシのスキルには瞬間転移があり、他者を飛ばす事ができる。
  ドックはあっさりとした殲滅発言に吹き出した。

「アッハッハッハッハッ!!お前、アイツら消しちまったのか!!!アッハッハッハッハッ!!すげぇヤツだ!どんな手を使ったのか知りたかねぇけど!」
「いいからさっさと情報くれ。」

    煩わしい。他人の不幸話に笑う神経に苛立つマサヨシに、ドックは気にもとめない。

「いい話をきかせてもらったぜぇ[征服者]さんよぉ。んで、聞きたい情報はなんだ?お前にリークしたら面白そうだし、タダで聞かせてやるよ。」
「バルタって誰だ。」

    バルタという名前を出した途端、ドックは真剣な顔を作った。そうして少し伸びた髭をつまみながら呟く。

「とんだビッグネーム出てきたなぁ。」
「そうなのか?」
「あぁ。この街は3つの勢力のおかげで治安、利潤、それから防衛に至るまでが成立してる。その根元にバランス・ルール・ターゲットブレイカーズって犯罪者共のチームがいてな。」
「その略称がバルタか。」
「当たり当たり!オツムの機転が利くねぇ。なんでも転生者が集めたって話だが____まぁそこはおいおい話すとして、バルタの奴らは奴隷商と薬を資金源にしてるって話だ。カナリアなんて弱小勢力もきっとバルタ傘下だったんだろうな。」

    マサヨシが黙って考え事をしていると、ドックが顔に煙を吐きかけた。

「くっさ。なにしや___」
「分かってんのかオメェ。今回の件、もし犯人がバレてオメェの顔が割れたりでもしてみろ。この街がひっくり返ってテメェのケツ追いかけ回す事になる。」
「目撃者は消した。問題ないだろう。」
「わかってねぇなぁ。1回、そのお利口さんな頭を回してみな。」

    マサヨシは腕組みをして、言われた通りに考えてみる。 
よくよく考えてみればみるほど冷や汗が止まらなくなっていった。

「_____ まずいかな。」
「アッハッハッハッハッ!!当たり前だろぉ!!この街の店には必ずバルタの後ろ盾があるし、それを知らねぇ奴はここにいねぇ。だからこの街では抗争なんてでたりもしない。」
「つまり、攻撃をしてくる奴は余所者になる訳だ。」
「街の関所を通った時点で面割れしてる。そう考えてた方がいいだろうな。」

  マサヨシ的にはロイドさえ連れ帰れたらいいので特に問題はなかった。

「まぁいい。とりあえず、奴隷が居そうな場所を教えてくれ。」
「そうだなぁ_________ならまず条件がある。俺のことは話さない。それから_____」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…

アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。 そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...