ブラック企業奴隷の俺は異世界転生して奴隷を解放してみた

佐藤さん

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1 企業勤めを目指そう!(アットホームな職場)

突入しなければ!!

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    闇夜の屋上にはある男が立っていた。赤い服に金の刺繍がいやらしく施されている。彼を吹き抜けていく強風に服をはためかせ、迫っている俺に一瞥もくれない。

「お前がよもやここまで来るとは。私はあの征服者が辿り着くと踏んでいたが、そこで言えば私の目に狂いはなかったと言える。」

   背中を見せつける男はこの街を収めるバルタの長だ。

「魔力パスが届かない。征服者による上書きか。ふん。」
「...」

   物を言わない。言えない俺は寡黙に刃を向けるのみだ。

「飼い犬に噛まれるとは...私も老いたものだ。」

    彼がゆっくりとこちらへ振り向くと、白い髭を風に遊ばせた白髪の老人が笑っている。そして何より、右手には細く伸びた針のような剣を持っている。

「まぁわかってはいるんだがな。下の者達はどうしたのだ。」

    深く刻まれた顔の皺。壮麗さを魅せる風貌の中に際立って光る眼光が俺の目を射抜く。そして気圧された。だが負けたりしない。俺は左手を持ち上げる。掴まれた髪の毛にぶら下がる少女の生首を見て、長は少しだけ眉をひそめて、また表情を戻す。

「...我が娘。どうか安らかに。」

    言葉を唱えて、剣を構えた。左手を後ろの腰に回し、右手に携えた針の剣の切っ先を向けた。

「この剣は頭が腐った国王から奪った物だ。安寧と繁栄を謳歌するために試行錯誤で得たこの領地を守る為に、時の檻に逃げ込んだ。全てを捨てて全てを守る覚悟を示すのがこの剣「レイピア」だ。」
「ゾ____ゾレが___ドウジダ。」
「ほう。」

    それは言い訳だ。城下の繁栄を考えなかったこいつらは、俺たちを切り捨てたんだ。

「何も知らん肉壺如きの言い訳は聞かぬ。我が臣下、我が娘を奪った罪を、その命で払ってもらうぞ。」
「ナラ___ガエゼヨ___オレノジカンヲ」

    踏み出す足は同時だった。体が進んでは置き去りにする過去を踏みつけていく。











    あの日見た姉の笑顔を、俺はもう思い出せない。でも未だにあの声だけが頭に残っている。
    転んで擦りむいた膝を抱えて泣いていた。弱虫で泣き虫で弱っちい背中を、姉が触れてなだめる。

「だいじょーぶ。だいじょーぶだからねぇ」

    嗚咽を吐き、悲しい気持ちに沈む心を優しく抱きしめてくれる。姉の温かさを感じる。

「ロイドは強い子だから、おっきくなったらきっと泣き虫も治るんだよ。」
「うっ...うん。絶対強くなる。そしたら殴ってくる人から絶対おねーちゃんを守るんだ。」
「それじゃだめ。」

姉はなお強く抱き締めて、耳にこっそり言葉を流す。

「私だけじゃなくて、みんなを守るの。それからロイドが幸せになるんだよ。絶対。おねーちゃんはそれで幸せなんだから。」
「わがっだ...あと...苦しいよ。おねーちゃん」















    雨が降り始めていた。

「ふん...老いには勝てなかったが」

    雨粒が目に振り落ちて視界をぼやけていたが、今やっと見えてきた。
眼下に伸びた赤い服の袖。老人とは思えない力を行使して、左手一本で俺の首を掴んでいた。

「お前は俺に勝てなかった。」

そして、レイピアが胸を貫いていた。

「痛みなど感じぬカラダになったとて、身体機能は無視できまい。」

    レイピアを引き抜いて、あと水たまりに俺を投げ捨てた。弱くなった体を持ち上げる事は叶わない。心臓が止まってしまっているからだ。

「私はもう捨てるものがないのでな、この国を出て、お前の姉を見つけ出し、殺してやる。死してなお後悔に飲まれるが良い。」

    言葉が届けば脳が反応した。

「まぁその前に、征服者を殺さなくては。」

    がんばれと、向こうから呼ぶ声がした。

「きっと動力炉に近い位置にいるだろうが、我が配下によって時間稼ぎをしているだろう。」

    力が入らない手で地面から体を押し上げる。鹿のように折れた足を立て直す。
がんばれ。がんばれ。がんばれ。

「さっ向かうとするか...」

   もう見るべきものは無いと高を括り、背中を向けているこの男を止める。

「ん?」

     力はもう出せない。だがこの刀に力など要らない。斬るという信念を体に回せ。この後に待ち受ける地獄を止めろ。

「なんと____」

   振り下ろした刀の向こうで、姉が笑っていた。













   


俺の作戦はこうだ。
    まず2チームに別れて行動する。主力であるマサヨシチームによって動力炉を狙い、敵の注目を集める。それから隷属魔法を、上書きし自由を得たミイラ侍ことロイドをバルタの長に差し向ける。 





    

    動力炉の稼働はとうに止めていた。正常な時間の流れが舞い込んで、この街に残る全ての人間は、急性老衰で全滅したようだった。
    街に転がる老人達の死骸は、急転した天気雨に打たれている。

    そして俺とドック、テレサがバルタの屋上に辿り着く頃、雨が止んでいた。
 
【聞こえるかマサヨシ】
「あぁ。今全部終わったぞ。」
【それはこちらでも確認が取れた。それでロイドは...】

    雲の切れ間から顔を出す日差しが温めたのは、2つに裂けた老人の死骸と、1体のミイラが立ったまま死んでいた。

「ダメだったよ。」

    泣き叫んで死骸に縋るテレサ。眉間を摘んで涙をせき止めるドック。俺はと言えば、また救えなかった命に謝ることしかできなかった。
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