ブラック企業奴隷の俺は異世界転生して奴隷を解放してみた

佐藤さん

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2 企業設立?(雇い主に殺害容疑あり)

事実は小説より奇なり

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3ヶ月後







 ある男は剣を腰に携えて草原に立っていた。風が草を凪ぐと男の肩まである髪はカーテンのように揺れる。

「キッショ…。」

 少し後ろの方でガスマスクをつけた男が、ライフルを構えて呟いた。

「なんだ?嫉妬か?お前ガスマスク嵌めてるから髪、流せないもんな…」
「…減らず口を締めていろ。仕事じゃなければ頭骨をもぎ取って飾ってた所だぞ。」
「はいはい、ババアといいお前といい、仰々しい言い方ばっかしやがって…。」

 悪口の間に、また風が二人を包む。すると長髪の男は剣の柄を握り込んだ。

「来たか…。」

 いつの間にか二人の前に一人の少年が立っていた。少し伸びた髪が、成長をしていることを自覚させた。

「手紙を受け取った。こんな呼び出しするなんて、君たちにしては珍しいな。」

 少年の口振りは誠実さを孕みながらも威圧的とも言える。それは自分の属する組織が裏で動いていた事を知っているからだと、長髪の男は勘づいた。

「コンクエスタ。君は正式に商会ギルドで登録されている。商人にアポ無しで会うほど落ちぶれてはないさ。」
「そうか。それで要件はなんだ?後ろのガスマスクがいる所を考えると闘いに来たのかと。」

 銃を持っている人間がいる、そして多対一にも怖気づくこともない。少年は紳士的に挑発してきたのだ。それにガスマスクは答える。

「俺はそのつもりだ。」
「いつだってこい。同じ事を繰り返すだけだって教えてやる。」
「そうか?だがあの時いた斧娘がいないぞ?怖くないのか。」
「わからないのか?君程度ならそれだけで充分なんだよ。」

 二人の間に見えない火花が炎になりそうな勢いを長髪の男が止める。

「まてまてまて。ババアの依頼だぞハウンドワン。我を忘れても任務を忘れるな。」
「……。」
「すまないなコンクエスタ。」
「いやいい。こうなるとわかってた。だがわからないことが一つだけあるんだ。何故裏切ったんだドック。」
「…。」

 長髪の男、ドックは言葉を詰まらせた。

「身なりも良くなった。完全に轡替えしたのは明らかだ。」
「_____今は言えねぇ。悪い。」
「…わかった。」

 ドックの目を見ながら少年はそれを受け入れる。少しの間を持ってドックは口を開いた。

「それで本題だが…。」
「断る。」

 少年はキッパリと言い切った。

「マサヨシ…。」
「虫の良いことばかり言うなよドック。君が交渉人に立つ以上は話を聞くことは無い。一文字たりとも。今回ここに来たのは君の様子を見たかっただけだ。」

 交渉などする気がないとわかるやいなや、ガスマスクはライフルの音を立てて装填した。

「決裂だな。」
「まて!ハウンドワン、話はまだ終わって____」

 誰一人、この場所でドックの言葉を聞くものはいない。
 ガスマスクは話を遮るように、慣れた手つきで引き金を絞った。撃発音が草原に響いて、音を置き去りに銃弾が少年に向かって飛んでいく。
 すると少年の前に、レンガの壁が現れた。地表から空に向かって伸び上がり、銃弾を受け止めた。突然の出来事だが、この魔法の正体は知っている。

「てめぇ!!!黒フード!!」

 レンガの壁が霧散していくと、少年の隣に黒いフードで顔を隠した男が立っていた。転生者ケンの相棒だった魔法使いだ。

「よぉハウンドワン。あの噴水で会って以来だな。」
「くそが。コンクエスタの仲間入りしてたとはなぁ!!」
「おれはフットワークが軽いのさ____それより早く帰りな。お前らの回りに魔法の罠が特盛だぞ。」
「やるか!死んでもお前だけは___」
「…帰るぞ。」
「____了解。」

 ガスマスクは歯噛みして煙幕を炊いた。視界は煙で埋まって見えないが、人気が消えた事を少年は感じた。

「なぁコンクエスタ。いいのか。」
「いいんだ。決めたことだからな。」
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