ブラック企業奴隷の俺は異世界転生して奴隷を解放してみた

佐藤さん

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3 企業経営(マナーを持って接客を)

時空転移者編2 去るものが追う。

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 深夜の森にはとある集団がいた。その集団は木箱を囲んでいる。
 大きな木箱の左右に制服の男二人は丸腰で立ち、もう1人の制服の男が、木箱を後ろから押していた。そんな光景を見守りながら、ガスマスクは後続していた。

「くそ…こんな時に…ウマが怪我するなんて…。」

 木箱を押している男は愚痴をこぼしながら木箱を押していた。底面の四隅に4つの車輪がついているとは言え、木製のため押す手応えは相当に硬い。愚痴を垂れる気持ちをガスマスクは理解していた。していたが同情する気は起きなかった。

「いいから早く押せ。時間に間に合わなくなる。」
「了解___っておもーーー!!めちゃ重てぇーー!!」

 叫びと気合を奮い立たせるが、動くペースは変わっていない。すると両脇に立っていた男達は声をかける。
 
「おいおいおい…マイケル。言葉と動きが合ってないじゃない。」
「がんばれよ。もう少ししたら変わってやるから。」

 激励と挑発がマイケルを襲うが、彼はそれを聞いても押すのみだった。なにかそれが可哀想でガスマスクは言葉を添えた。

「…まぁなんだ。じゃんけんが弱かった自分を恨め。」
「ちくしょーーーーー______」

 悲痛な叫び声が切れる。何故ならマイケルの背中に、突然矢が刺さったからだ。

「おいマイケル!生きて…。」

 狙いは恐ろしい程に正確で、背面から矢じりが侵入し、背骨を割り、心臓を貫いている。即死だ。マイケルは木箱を押しながら死んでいたのだ。
 ガスマスクは後ろ髪を引っ張られるような気持ちだが、マイケルの亡骸を後ろから掴んで引き剥がした。

「マイケル死亡!これより分散警戒に___」

 ガスマスクの生存本能と単なる勘が働いて、左目を狙って飛んできた矢を既の所で掴み取った。狙いが正確すぎたが故に出来た。

「お前ら先に行け。後は俺がやる。」

 それだけ言って、矢が飛んできた方向にライフルを向けた。樹の葉が空を覆うこの道は、手狭で進行方向決められている。前か後ろしかないこの道は、敵側から見れば都合がいいのだろう。

「不意をついたつもりだろうが。それは奇襲が成功すればの話だッ!!!」

 ガスマスクは引き金を絞った。気配を頼りにアイアンサイトで的を絞り、連続して射出される銃弾に手応えを感じない。視界の先で散っていく木の葉の景色に、思い描く敵の血がない。

(くそ。うまく立ち回られている。このままじゃ木箱が奪われ____)

 反撃の矢が飛んでくるのを察知してその場を動くと瞬きの間に矢が二本、地面に深くささった。

「八ッ!ミスって_____うぉ!!」

 二本の矢はブラフだった。そこから脇にそれて一本が靴の甲を射抜いて、右足と地面を串刺しにしている。

「クソッ!」
「捉えた…。」

 動きがワンテンポ遅れる瞬間に、緑色のパーカーを着た男が木から降ってきた。右手に握る弓を背中の矢筒に引っ掛けて、左手で腰にかけた剣を抜いた。

「悪いが返してもらうぞ。」

 男は剣を両手に持ち直し、身動きの取れないガスマスクに振り下ろす。だが届かない。剣はいつの間にか鉄製で黒く塗装された警棒によって阻まれた。

「ロビンフッド気取りが!!」

 伸縮式の黒鉄警棒はガスマスクの標準装備だがこの世界にはない物でもある。それは殺傷力が低い故にだが、武器であることには変わりない。
 一時の鍔迫り合いを制し、刃を返したのはガスマスクだ。振り抜き脇腹を狙って蛇のようにしなる腕。
 男はそれを剣で受け止めるが、これで両腕が塞がった。だから土手っ腹に左足で蹴り入れる。これはクリーンヒットして、ロビンフッドもどきがガスマスクと距離を取った。

「手練であることは認めよう。だがこれ以上は近づくなロビンフッド。」

 そういって拳銃を取り出していたガスマスクは、銃口を男に向ける。すると男は抑揚もなく言葉を落とす。

「…建て直すとしよう。」
「逃がすと思うのかあほ。」
「チャンスは作るものだ。」

 言葉数が増えていくと同時に、男は小さな石粒を親指で弾き、ガスマスクのアイピースに当てた。
 たったこれだけのアクションで怯んだガスマスクは、颯爽と姿を眩ませる男を追いかけることができなかった。




















 モノの研究所で会合を開かれている中、1ヶ月後の部隊編成のため訓練を進めていた。





 


 迷い森の夜では、月明かりが地面に届かない。背の高い5メートルはありそうな針葉樹は地表から遥か上で葉を生やし、降り注ぐ筈の光を受け止めきっている。故にその下にある地は湿気とカビ臭さが少ししている。
 だから獣族と言えど、嗅覚だけで生物を探知する事は難しい。

「オネエちゃん。」
「コトリ、どうしたの?」

 猫族の子供は、訓練の一環として歩哨していた。
 示されるルートをなぞるべく、宿営している家宅の周辺を警戒しながら歩き、最終的には寝食に入るのだ。
 
「んーなんかね。寂しくなって、こえかけちゃった。」
「そっか。私もちょっと寂しかったから、嬉しいよ。」

 特別な武器はない。小さな短剣と蝋燭の火を閉じ込めたランタンに地図と水。たったそれだけを持って、少し湿り気のある針葉樹を練り歩いている。
心細くなるのは当然だが、それが趣旨であることも姉はわかっていた。

「でもねコトリ。もう少しで終わるんだから、頑張らないとね。」

 小さな手を握って、小さな弟を元気づける少女にコトリは小さく一回だけ頷いた。すると突然コトリの猫耳がピンと立ち上がり、辺りの観測を始めた。

「どうしたのコトリ。」
「オネエちゃん…。なにかいるかも。」
「…動物?」
「違うと思う…。なんか変だし、こっちに近づいてくる。足音だとおもう。これは…人間…。」

 少女は考えるが、迷い森に二足歩行する動物がいない事を知っている。強靭凶悪な4足生物が主な分布であることも。と言う事はこの前近くまで来たというガスマスクの男なのかと愚考した。

「まさか、てめぇら獣人種のガキに気取られるとはな。」 

 ふっと背後から湧いた言葉に後から威圧感が添えられる。震えながら二人共振り返って見る光景は、大きな巨躯に巻き付いている頑強そうな筋肉だった。



 筋肉をひけらかすように前のボタンを外した革製のベストとズボンのみの服装、長い長い木製の槍を携えた厳つい男が立っている。
 男の瞳は人間の虹彩を持ちながらも、少女達には猛獣のようにさえ見えていた。それ程に強大で凶暴さが男にはあったのだ。

「だ、誰ですか?」
「歩哨が不審者を訪ねるのは正解だ。だがな坊主。」

 男は膝を折って、コトリと同じ目線になるように屈み、その鋭い瞳を向き合わせる。

「小便垂らしながら言うのはダメだ。男としてなっちゃいねぇよ。」
「そ、そんなことしてないも____」

 コトリが見下ろすと、ズボンは股間から靴にかけて湯気を立たせていた。失禁。脳みその奥に深く突き刺さった恐怖が無意識に失禁を促していた。
 再びコトリが見上げた途端に、コトリの小さな頭を男の大きな手で鷲掴みにして持ち上げた。

「あ!ッアぁあ!!」
「コ、コトリを離して!」
「弟とは違って勇ましいな。よく聞けおねえちゃん。てめぇらコンクエスタの庇護にあるガキどもなのは知ってる。聞きてぇ事があるから逃げるなよ。まぁ逃げた所で無駄だがな。」

 コトリは頭を掴まれたまま、手に持ったランタンを振り回す事しかできずにもがき苦しんでいた。少女はそれを見ている事しかできない。動物の勘がこの男には勝てないと訴えかけている為に、身体が動かないのだ。

「コンクエスタはどこにいる。あの家か?あの倉庫か?どっちだ。」
「…。」

 少女の小さな体には余る大きな決断が口を締める。

「おい。さっさと言え。俺は協調性も、同情する心もねぇ。」
「ァアアあああ!!」

 骨が軋む音に合わせてコトリが断末魔を上げた。手に持ったランタンが地面に落ちた所で、少女は我に返った。

「…い。」
「あ?聞こえねぇぞガキ。なんて言ったんだ?」

 それを言葉にするため、如何ほど決意をしたかわからない。ワナワナと震える足腰に力を込め、手に持ったランタンの取っ手を握りしめて叫んだ。

「言わない!!!」

 男は「ほぅ。」と一言漏らして、驚いたような表情をした。想像する答えではなかったのだろう。

「いいぞ!その気概と決断に満ちた答え!気に入った!生かしておいてやる!お前の姉は自分に打ち勝ったんだ、誇りに思えよ坊主!」
「おね…ちゃん…」
「コト__」
「だが坊主はダメだ。」
「…え?」
「なん___や、やめ___痛いッ!痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いッッッッッ!ぁあああ!あ______」

 冷淡に放つ言葉の後で骨が砕け散る音が静寂に響く。糸が切れたように、力なく頭部のないコトリが地面に崩れ落ちた。

「______」

 指の隙間から血と脳漿が滴り落ちる。言葉を使う頭のないコトリは無言のままで、男の笑い声が轟くばかりだ。
 そうして少女はゆっくりと現実を噛み締めて、後味の悪い絶望感が押し寄せる。感情と地面を支えている足は折れて膝が地面についた。目の前の死を、自覚したのだ。

「ぁあ_______コトリ…。」
「俺は祖父の名を語る不届き者を狩りに来た。さぁ案内しろ、コンクエスタの元に。この…。」

 突然、男の上に大きな丸太が降ってきた。人の何倍もある大きさと重量を、男は槍を投げ捨てて、何変哲なく両椀で受け止めた。

「なんの催しだこれは。」
「お前らみたいなヤツ用の賑やかしだ。」

 両手が塞がり、好きだらけになった胴体に風が通り抜ける。事ついで綺麗なシックスパックに切り傷がつくが、どれも血はでていない。
 痛みすら感じていないのか、平然と男は喋りだした。

「蛇族の獣人…。もう居なくなったと聞いていたが。」
「もっと言えばヤモリだけどね。」

 男に立ち塞がるように現れたのは、頬に少しの鱗が張り付いた少年だった。

「ヤクト…。」
「動けるかねぇちゃん。動けなくても逃げてよ。じゃないとコトリとの約束が守れない…。」

 ヤクトは両手に握ったナイフを見て落胆した。少しの血を滲ませる刃は、刃毀れしていたのだ。

「なんて硬い筋肉なんだ。今朝研いだまま使ってないナイフがもうこんな…。」
「鍛え方が違うんでな。」
「それだけじゃない。お前スキル持ちだろ。」
「ほう…。」
「汗の匂いを感じられない。それにピット器官の反応も鈍い所を考えれば、お前のスキルなんてすぐわかる。代謝をコントロールスキルだろ。」

 ヤクトの指摘に笑って返す男。その間に腹筋で開いていた傷が埋まっていく。

「その通りだ。俺は転生者イスカンダルの孫にあたるヘルバーグ・ホ・マケドニア。」

 名乗りの途中でヤクトは踏み出した。蛇族特有の軟体が撃ち出すインパクトは人間を遥かに凌駕する。
 クラウチングスタートに欠かせないブロックの角度は力学的な要素だ。スタート時に足が力み、跳ね返るプッシュの伸びが合わさって、ダッシュ時の威力を上げる。柔らかさから力が伝わり、締めの固さがインパクトを生む。
 つまり足首の軟体さと硬さを両立させた蛇族の足は、どういった地形でも地を張い、最高スピードを到達させるにある。

 目にも止まらない速さを経て、男の体に巻き付くようにナイフを突き立てた。何度も何度も突き立てた。だがそれが筋肉の先へと到達することはなかった。

「ふん!!」

 突然身体のコントロールを奪われて、ヤクトは地面に滑り落ちた。

「グッ!!!」
「ぁああいいね。確かに早いが見きれないこともないぞ。」
「あんなに早く動いたのに掴まれた…。くそ。見切られてる。」
「なんだ。かくし芸は終わりか?ならこれ返すぞ。」

 ヘルバーグは両腕に持った身の丈以上の大きさである丸太を投げた。

「なっ_______」

 空中に浮かぶ丸太は真っ直ぐ、ヤクトと少女の元へと飛来する。

 



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