「君はいらない」と捨てられた夜、天敵の冷徹社長に「なら、俺が貰う」と拾われました。――手を出さない約束でしたが、彼の理性が限界のようです

葉山 乃愛

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第31話 【拡散の代償】バズった魔王と、最後の宣戦布告

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「……なんだ、これは」

翌朝。
いつものように現場へ向かおうとした蓮が、スマホを見て足を止めた。
私も覗き込んで、息を呑んだ。

SNSのトレンド1位に『#現場のイケメン軍師』『#一条蓮』の文字。
動画の再生数は、一晩で数百万回を超えていた。

『これ、あの一条蓮じゃね?』
『ガチだ! 元社長がニッカポッカ履いてるwww』
『でも指示が的確すぎて惚れる』
『何着ても似合うなこの人』

コメント欄は好意的なものが多かったが、問題はそこではない。
私たちの「居場所」が、世間に、そして敵にバレてしまったということだ。

「……まずいな」

蓮がサングラスを外した。
その時、私のスマホに着信が入った。
表示は『非通知』。
嫌な予感が背筋を駆け上がる。

「……はい」

『……相変わらず、お粗末な生活をしているようね』

スピーカーから響いたのは、冷え切った女の声。
百合子会長だ。
彼女は、以前よりもドスの効いた、感情のない声で告げた。

『動画、拝見したわ。……一条家の当主たる者が、ドブネズミのように這いつくばって。恥さらしもいいところよ』

「……母上」

蓮が私の手からスマホを取り上げた。

「覗き見趣味は相変わらずだな。……暇なのか?」

『減らず口を。……警告しに来てあげたのよ。その動画のおかげで、あなたの居場所は特定された。今、マスコミと――私の手の者がそちらへ向かっているわ』

「ッ……!」

『今度こそ逃がさない。美月さんともども、社会的に抹殺してあげる』

一方的に通話が切れた。
直後、アパートの外から、複数の車のエンジン音と、大勢の人々のざわめきが聞こえてきた。
窓からそっと外を覗くと、カメラを持ったマスコミの集団と、黒いスーツの男たちがアパートを取り囲み始めていた。

「囲まれた……!」

「……俺のミスだ。平和ボケしていたらしい」

蓮は舌打ちをし、しかし即座に「魔王」の顔に戻った。

「美月。荷物をまとめろ。3分で出る」

「えっ、出るってどこへ!? 外はマスコミだらけだよ!」

「正面突破だ」

蓮はニッカポッカ姿のまま、クローゼット(という名の段ボール)から、一着だけ残しておいたジャケットを取り出し、作業着の上から羽織った。
異様な組み合わせなのに、彼が着ると「最新のモード」に見えるから不思議だ。

「この騒ぎを逆手に取る」

蓮はニヤリと笑った。

「マスコミがいるということは、全国に生中継されるということだ。……最高の『宣伝』になる」

「宣伝……?」

「行くぞ。……俺の手を離すなよ」

蓮は私の手を強く握り、ボロアパートの鉄扉を蹴り開けた。

フラッシュの嵐。
怒号のような質問攻め。

「一条さん! 落ちぶれたというのは本当ですか!?」
「横領疑惑について一言!」
「今の生活は惨めですか!?」

無数のマイクが突きつけられる中、蓮は一歩も引かず、むしろ堂々と胸を張って歩き出した。
そして、一台のテレビカメラの前で立ち止まり、サングラスを外した。

その瞬間、現場が静まり返った。
作業着にジャケット。薄汚れた地下足袋。
けれど、その瞳の輝きと圧倒的なオーラは、タワマンにいた頃よりも遥かに強く、美しかったからだ。

「……惨め?」

蓮は鼻で笑い、カメラのレンズ越しに、これを見ているであろう百合子会長に向けて言い放った。

「笑わせるな。……俺は今、人生で一番充実している」

彼は私の肩を抱き寄せ、世界中に見せつけるように宣言した。

「金も、地位も、名誉もない。……だが、俺には『愛する女』と『自分の腕』がある。それだけで、俺は世界一の王様だ」

シャッター音が爆発するように響く。
蓮は不敵な笑みを深めた。

「一条百合子会長。……見ているか?」

公共の電波を使った、親子の、そして新旧経営者の全面戦争の布告。

「来週の株主総会。……首を洗って待っていろ。俺たちが、その椅子を奪いに行く」

私たちは呆気にとられるマスコミの波を割り、走り出した。
もはや隠れる必要はない。
バズった動画も、マスコミの襲撃も、すべてを味方につけて。
いざ、最後の戦場――「一条ホールディングス株主総会」へ。
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